嵐の前の静けさ
ついに動き始めた生徒会長、神霜三船。だが、主人公八倉志乃にはほとんど興味がないようだった。
いくつかの疑念を残しながら主人公が思い浮かぶ様々な疑念
すべては嵐の前の静けさ...
完璧に予想外なのだろう。真柴の顔からそのことが伺える。そして俺に感情が聞こえてこないことから俺は眼中になく、真柴に話しかけていることが分かった。
神霜三船、2-R特選クラスで生徒会長だ。生徒会長、といっても普通の高校だったらあまり実権を持つことは無いが西条高校ではそうではない。風紀委員を動かし生徒を取り締まる。生徒への提案無しでの校則の改定。(これには校長の承認が必要だが)生徒会費を事実上一人で動かす。その他役員の任免など、様々な権限を行使することができる。もちろんこれらを行使するにあたり様々な責任が伴うが権限に比べたら些細なものだ。
そんな生徒のトップが一年の一生徒に個人的に会いに来るなんて珍しいなんてレベルじゃない。目の前にある光景はただただ異常。それ以外に言いようがない。
「君が真柴薫君だよね。あと、君は...八倉志乃君、だっけ?」【一応確認しておこう】
今のところ神霜会長の真意はつかめないがわざわざ話を聞きに来たってことは何か意図があるはずだ。
「間違っていませんよ会長。そいつが真柴です。」
俺たちが口を開く前に鋭い声が神霜会長の後ろから飛んでくる。俺は見覚えにない顔だったが真柴は違ったようだ。
「さ、サトウ!お前生徒会役員だったのか?」
「まぁまぁ真柴君、君が驚くのは無理ないけど筋違いでもあるんじゃないか?」
否定しないことに若干の違和感を覚える。生徒会役員は生徒総会で任免されるため俺たちが役員を知らないはずがない。だが、目の前のサトウのことは知らなかった。
「ですが...」
真柴が言い終わらない間に会長は俺に話しかける。
「あと君、八倉君は真柴君と何を話していたのかな?」【場合によっては...】
俺を見る神霜会長の目は人を威圧するような見下したよう目だ。 会長が何を考えているかはわからないが今は本当のことを言うべきではない。そう思って事実を話さずに取り繕うことが最善だろう。本能的にそう感じた。
「いえ、僕と真柴君は中学からの知り合いなんです。ちょうど昨日一緒に帰ってきたところなので少し実家のことについて話していたんです。お互いに久しぶりに帰ったわけですからまだその余韻が抜けてないのかもしれません。」
一応、学校に二人とも連絡しているためこれが嘘だとは会長は見抜くことができない。神霜会長は俺の目をじっと見つめた後に落ち着いて言った。
「そうか。威圧するような目で見て悪かった。だが、僕は真柴君と話したいのでね、少しでもいいから席をはずしてはくれないか?」【ん~...今日はいいかな】
「八倉。せっかくのところ悪いんだがそういうことだ。一回外してくれ。俺からまた連絡する。」
【生徒会長直々に見えるのは驚いた。だがどんな人物か見極めるチャンスだ。邪魔すんな】
「わかりました。今日のところはここで失礼します。真柴も後でね。」
神霜生徒会長の意思は測りかねるがこれ以上は踏み込むべきではない。それが最善。探りたい気持ちもあるがそれは抑えるべきだ。 そして真柴。あいつの口調が落ち着いた時の一人称、僕から、俺に代わっている。真柴の一人称が変わるときは基本的に感情が高ぶっている時だ。それには興奮、憎悪、恍惚などいろいろな場合があるが、共通するのは真柴の本来の性格になるときと決まっていた。人の前ではそんな風には決してならない。
カフェテリアを出て、俺は取り合えず、真柴との会話を聞いていてもらうために繋いでおいた携帯に話しかける。
「今どこにいる?教室なら今から行くけど。」
「まだ教室だ。部活は五時からなんだよ、今日もな。」
「わかった。今から行くよ」
そう伝えて電話を切る電話の相手は政希。軽音の活動は場所の関係でいつも五時ごろからなのだ。だからと言って長くは話せない。現在時刻は四時半。できるだけ簡潔に考えをまとめておきたい。
教室に着くとそこには実咲と稔もいた。
「実咲!呼んでないのにありがと!」
「ちょっと、何よ。私だけまた置いてけぼりになるところだったじゃない。」【昼のことは後で】
「あ、あのさ、部活は大丈夫なの?」
当然、実咲も放課後は部活だ。しかもバスケ部。こんな平日に休みなわけがない。
「大丈夫よ。ここは保健室だから。そんなこと言って、自分も同じでしょ?」【抜けてきたの】
俺はバレー部。俺も当然部活はある。だが、帰郷していろいろなことがあったことを伝えると顧問は今日限り休んでよしとしてくれた。コトがこんなに大きくなった日に放課後集まれるなんて奇跡だ。
「いや~にしても会長のお出ましか。さすがに驚いたな。」【しかもサトウも】
「そうだね。俺も驚いたよ。あ、時間無いから短く話そうか。」
「ああ、俺も部活があるしな。そうしてくれ。」
【チューニングもしないとだから後二十分ってとこか】
「わかった。聞いてた通り会長が登場した。会長といえばこの学校のトップ。俺のことは眼中にもなかったっぽいけど真柴はどうだろうね。」
「さすがに終ったんじゃないか?会長に目を付けられたらこの学校では死んだも同じだ。正直まだ真柴の真価は決めかねるけど、学校っていう社会にいる以上圧倒的に不利だ。」
【真柴の評価が変われば話は別だがな】
そう分析するのはやっぱり政希。確かにこの学校で生徒会長に背く=立場を失う、という図式は完璧に成り立っている。だが、
「そうだけど、真柴と最後に話したときはさ、会長を見極めるって言ってたんだ。」
「嘘だろ…真柴は会長の権限を知っててそんなこと言えるのかよ。」
【さすがにハッタリじゃねーのか?】
会長は絶対。そんな図式は生徒全員が知っていること。当然真柴も例外ではない。が、俺の知っている真柴薫の人物像はそれを超越することをやすやすとやってのけるイメージが強い。すなわち権力の壁。中学であれだけのスピードでのし上がった真柴なら高校でもそうしようと考えるのが自然だろう。
「いや、フツーの人ならそう考えるのが普通だと思う。だけど俺の知ってる真柴はそんなことじゃ折れたりしないんだ。それに感情だったからそれなりに信じられると思う。」
「感情ではなんて言ってたんだ?」【それにもよるな】
「会長がどんな人物か見極めるって感情があった。」
「え~やる気満々じゃん。私だったらできないよ。」【さすがに会長はね~】
「まぁ、あいつは普通じゃないからね。何を話してるのかほんとは聞きたいところだったけど会長にはずせって言われたらしょうがないか。どうせ真柴の教えてはくれなさそうだし。」
「あ~わり、もうそろそろ時間だわ。ここの教室も使うから早めに出てくれ。」
【この話はRクラスに聞かれたらまずいだろ?】
政希に言われて時計を見ると四時五十分。確かにそろそろまずいだろう。
「あれ、政希のバンドにRの子いたっけ?」
「いや、楽器を運ぶのは一年の仕事なんだ。その中にRの奴がいるからな。」
「なるほどー。じゃあ私もそろそろ戻るね。」【また連絡するから】
「二人ともありがと。忙しいのにごめん。」
「いやいや」「気にしないで」
「お、おい志乃。俺は?」【いやいいんだけどよ】
「あはは。稔、一緒に帰ろ?」
「お、おう。」【なんかかわいいな】
「はぁ?なんで今のがかわいく見えんだよ」
「いや、何でもねぇ」
本当にこの三人には感謝しないとな。そう思いながらバックを持ち上げる。
下駄箱から出ると空が暗い赤紫色に染まっている。
三人に話したのは真柴のことだけ。神霜会長の違和感については全く話していなかった。
なぜ会長は突然真柴に接触したのだろう。そもそも突然だったのだろうか。それに俺の話をまったく聞いていなかったあの目。人に話をさせておきながら神霜会長は俺の目しか見ていなかった。そのくせ後には俺の言い訳に納得を示した。が、その時に聞こえてきた声、【今は...いいか】。
そしてサトウ。学校のHPを確認し、生徒会のページに飛ぶ。役員一覧にある名前はどれも先の生徒総会で見たことあったものだ。だが、どこにもサトウという生徒の名前は見当たらない。そもそもサトウは生徒会役員ではないのか?それにしては神霜会長との会話は慣れていたものだった。
会長が真柴に言っていた「筋違いじゃないか?」という言葉がサトウのことを考えると連想される。筋違い、どういう意味でその言葉を真柴にぶつけたのか。
考えれば考えるほど話が分からなくなってくる。これ以上は足を突っ込まないほうがいいのだろうか。
遠くで雷鳴が聞こえる。黒い雲はこちらに近づきやがて雨を降らせるだろう。嵐の前の静けさか。いやな予感がしてならない。せめて、これ以上自体がややこしく、深刻にならないようにと祈りながら帰路に着いた。
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