フリーダム
『わー! かわいー!』
クルもそれに気付いたようだ。
「ん?」
みんなの視線に気づいたしーちゃんが自分の胸元を見た。 彼女の胸元から顔を出したのは、4~5頭身ぐらいのややデフォルメされた幼女で、しーちゃんそっくりの顔をしている。 身長は15cm程だろうか?
「あわわ、くっ付いて来ちゃったですぅ?」
しーちゃんがそれを手の平に乗せてテーブルに降ろす。
〈ひょっとしなくても、それが「分体ちゃん」ってやつか?〉
「はいですぅ」
〈でもって、俺担当なんだな?〉
「は……はいですぅ」
キリンが「ギ・ギ・ギ」って音がしそうな動きでこっちを見る。 視線がもの凄く痛いですが、俺全く関知してませんからね?
〈以前、分体ちゃんは【降臨】出来ないみたいな事言ってなかったっけ?〉
「たぶん、管理レベルが上がったから出来るようになったと思うですぅ」
〈こないだちらっと言ってた「手続き」って資格の更新手続きみたいなもんか〉
「そうなんですぅ」
〈で、大方予想は付くんだけど、俺担当はいつもソコなのか?〉
「 」
真っ赤になって消え入りそうな声で返事をするしーちゃん。
――はぁ……
〈あ~、敢えて俺からは何も言わないでおく〉
「 」
――おいこら!
〈ところで、その子こっちに来ちゃっても問題ないのか?〉
「あ、その辺はボクの権能も強化されてるので、大丈夫ですぅ。 告知機能を維持したまま、部屋から移動出来るようにもなったですぅ」
〈おー! しーちゃんがひきこもり生活から卒業してる!〉
「ひきこもりじゃねーですぅ!」
――ってあれ? ちっこいの何処いった?
『ねーねー! おとーさん、おとーさん!』
〈どうし……た、ク……ル?〉
クルの方を見れば、自分の胸元を指さして何故か得意気に胸を張っている。 その谷間には分体ちゃんが――謎のやり切ったぜ感を出しながら――ちょこんと腰かけていた。
――座れちゃうのかぁ……
『このこがじぶんでのぼってきたのー。 やん、あんまりうごくとくすぐったいのー』
しーちゃんとキリンが2人して「ギン!」って効果音が付きそうな勢いでこっちを振り向く。
――ひいっ! 目、目がコワい!
〈い、いや、アレって俺の意思関係ないだろ? 俺担当ってだけでフィードバックもないんだしさ……〉
「むぅ、確かにいーくんを担当してるだけで、あくまでボクの分体ですぅ」
〈だろ? 俺の意思は介在してないんだってば!」
「おにーちゃんが力説してるのが余計にアヤシイんだけど……」
――正直ちょっとうらやま……な、 。
「あ、条件付きだけど、フィードバック出来るですぅ。 コッチくるですぅ」
分体ちゃんがクルの胸からぴょんと飛び降りて、しーちゃんの方へててーっと駆けていく。
――むむ、カワイイじゃねーか。 というか、呼べるなら最初から手元に置いとけよ!
『あん、いっちゃったのー』
〈ぷーちゃん、クルと遊んでやってくれ〉
しゅぴ!
「いーくん、この子に触ってみるですぅ」
〈触るだけでいいのか?〉
「触れば分かるですぅ」
――え~、何かヤだな~。
分体ちゃんは俺の前まで来てこっちを見上げ――にこっと笑顔になった。
――むむ、しーちゃんのくせにカワイイじゃねーか、おーよしよし……あ!
気付いた時には俺は分体ちゃんを撫でていた。
――ん?
頭の奥で、何ていうかアイコンが点滅してるようなイメージが……
―〈「神域にアクセスしますか?――ハイ/イイエ」〉―
脳裏に響くのと同じ声が、目の前の分体ちゃんから発せられる。
しーちゃんの方を見ると頷いている。
――〈ハイ〉
頭の中のアイコンが展開して、何ていうか子画面がカットインしたような状態になる。 そちらに意識を向けると、ぐっと低くなった目線で俺を見上げているのが分かる。
―〈「熟練度が規定値に到達――スキル【並列意識】を取得しました」〉―
―〈「熟練度が規定値に到達――神域へのアクセス権限Ⅳを申請…………却下」〉―
「ちょっと~? 本当にポンポンとスキル生やしてくれるわね~」
「あっさりと条件満たすどころか、アクセス権限で上を狙える処まで……せ、せっかく追い着いたのに、また離されたですぅ……」
〈あ~、なんかゴメン。 で、その申請が却下されたんだが、理由って分かる?〉
「単純な事ですぅ。 能動的に動けない人にはこれ以上の許可は下りないですぅ」
――確かに、今の俺は強烈に地縛ってる状態だしなぁ……
【並列意識】……意識を分割し、視覚や聴覚等の外部刺激の処理、記憶や会話を複数同時に進行出来るようになるスキル。
こいつは使えそうなスキルだ。 こうやってスキルの検証をしつつも、意識を分けた分体ちゃんが今何をしてるのかが、把握出来る。
分体ちゃんは今、ぷーちゃんCと遊んでいるようだ。 ぽよぽよと跳ねるぷーちゃんCの上に跨って器用に乗りこなしている。
飽きたのか、分体ちゃんがぷーちゃんCから飛び降りると、今度はぷーちゃんCがぐねぐねと変形して……真っ白な分体ちゃん――こっちは真っ裸で、キュ○ピーちゃんみたい――が現れた。
今度は2体で鏡ごっこみたいな遊びをしているようだ。
――えーっと、何だったっけ? あ、そうだ!
危うくぷーちゃんCを作った目的を忘れるところだった。
〈おーい、しーちゃん?〉
「ふぁい? なんれふぅ?」
ケーキを頬張ったしーちゃんがこっちを向いた。
――うん、覚えてる訳がないよね。




