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そしてナニかが失われた

遅くなってすみません。


〈クル~! ちょっとお願いがあるんだけど〉

『なーに? おとーさん』

〈今の俺が、本体からどれくらい離れられるのかを確かめたいんだよ〉

『どーすればいーの?』

〈お風呂の時みたいに、俺がクルの(なか)に入った状態で――〉

『えいっ』


 ――うわっ! ちょ、まだ話が終わってな――――


(これでいーの?)

〈いいんだけどね? おとーさんの話を最後までちゃんと聞いてからにして欲しかったな〉

(……ごめんなさーい)

〈次から気を付けてくれたらいいよ〉


     ̄l ̄(__∞__)


〈こっちはいいぞ! クル!〉

(はーい!〈りゅーか〉!)


 ――!


 クルの【龍化】を(なか)から体験する――【龍化】後に【知覚共有】出来るかどうかが怪しかった為――ことになったのだが、こう、身体が延ばされて、丸められて、捏ねられているような、なんとも言えない奇妙な感覚を味わっている。


 迷宮の守りはぷーちゃんに任せた。 物理無効で魔力に関するあらゆる攻撃を吸収した上に、お返しまで出来ちゃう最強の「おるすばん」(クル談)だ。

 いつものように、しゅぴ! と見送ってくれたが、戻ったら何かいいものを上げよう。


(おとーさん! おわったよー!)

〈おう! んじゃ視覚だけ共有すっかな〉


 …………あれ?


〈クル? 眼を瞑ったりしてないよな?〉

(パッチリあいてるよー? どうしてー?)

〈い、いやね、何も見えないんだよ〉

(え~~~~っ!)


 ――うん、真っ暗なままだ。

 仕方ない、一旦抜けるか。


 …………あれ?

 いつもはスポンと抜ける感じなのに、抜けることが出来ない。


(あれ? おとーさん? あたしのなかにいないの?)


 ――なんだって!?

 俺は視点を「マップ画面」に切り替えて縮小してみる。 迷宮入口のすぐ外、クルの頭が間近に見えた。


 ――ってことはクルの頭の中に居たんだよな?

 視点を戻すと、再びクルの頭の中へ――入らなかった。 その手前、角に絡んでる布の方だ!


〈クル、おとーさんリボン(・・・)の方に巻き込まれたみたいだ〉


 ――それは分かったんだけど、何故出られないんだろう?


(あーっ! そっち(・・・)かー!)

〈何か心当たりがあるのかい?〉

(え~っと……あたしのからだいがいぜんぶ(・・・・・・)をまとめて、りゅーけーたいのほーにくっつけられるよーにがんばってたから、そのせいかも……)

〈そっか、元はと言えば俺が服ごと変身して欲しいってお願いしたからだし、景色は無理でも「マップ画面」で状況は把握出来るからこのまま行こう〉


 ――クルに何回も変身させるのもかわいそうだしな。


(はーい! じゃ、とぶねー?)

〈おっけー! クルの住んでた大陸の方へ飛んでくれ〉

(うん!)


   ̄l ̄(__∞__)

       ̄l ̄(__∞__)


 ――うわ! はええええ!!

「マップ画面」を展開し、クルの頭付近で前方を見てるんだが、眼下の大海原――の更に下、海底の地形がぐんぐん迫っては後方へ消えていく。


 ――しかし、魚なんかも近寄らないんだな……

 マップには生き物を示す光点が映るのだが、クルを示す青い光点以外周辺に見えない。

 そのまま30分程飛行してると、海底の地形に変化が出てくる。


 ――大陸棚なのか?

 海が急に浅くなり、同時にそれまで視られなかった魚と思しき黄色い光点が無数に光を放ちだす。

 そして――。


〈クル! 止まってくれ!〉

(はーい!)


 後方へ流れていた地形がピタッと停止する。 本当に一瞬で止まった。 慣性とかまでキャンセルしちゃってるんだろうか?

 眼下には大陸の東端、海に突き出た岬の先端が視える。 前方――西――に目を向けると、かなりの距離があるだろうに、聳え立つ山塊が視えた。 あれが「魔の山」だろうか?


(おとーさん、どーすんのー?)

〈下に見える崖の上に降りてくれ〉

(りょーかーい!)


 滑るように高度を下げ、指示通り岬の崖の上に着陸したクル。 俺は念のため、再度「マップ画面」で確認する――海中に無数の黄色い光点が見えるが、陸上には光点は――クルの青い光点を除き――無い。

 崖から、大陸中央を望むが、“眼”で確認出来るのは一面の荒野だけだ。


 そして、「マップ画面」は現在地から約200メートル程先で途切れていて、先が見えない。


 ――今の俺は、マップ画面を超えて移動出来るのか――?


〈クル、西の方へゆっくり進んでくれ〉

(はーい!)


 俺を乗せたクルの頭が移動する。 その大きさを考えさせない、驚くほど揺れの小さい移動だ。 長い首を巧みに使い、視点の揺れを最小限に抑えられるのだろう。

 俺たちは「マップ画面」の境界線を越え、そして――俺の視界は暗転し、俺は意識を失った――。


   ̄l ̄(__∞__)

       ̄l ̄(__∞__)


『――さん! ――とーさん!!』


 ――ん?


『おとーさん!! わ~~~~~ん!』


 声は聞こえるが、眼は見えない。 「マップ画面」に切り替えると、泣きはらしたクルの顔を下から見上げるような形になっていた。


〈クル? 俺は……?〉

『よかったー! おとーさんのけはいがきえちゃったから、あたし……あたし……』

〈ごめん。 心配掛けちゃったな。 ココはあの崖の上か?〉

『うん……』

〈【龍化】解いたんだな。 でもどうして俺は動けないんだ?〉

『おとーさん、まだぬけて(・・・)ないから……』

〈そっか、俺はまだリボン(・・・)のな……か……?〉


 見上げるクルの髪は、元通り2つに結ばれ、ちゃんとリボン(・・・)で留められている。

 ――あれ?


 俺は【知覚共有】を解除する。

 抜け出した勢いで本体の方へ戻ろうとするのをその場に止めながら、俺は自分が抜け出したモノを確認した。


 ――終わった……

 地面にペタンと座ったクルの太腿の上にソイツ(・・・)は鎮座していた。






 …………それはクルのパンツだった。


良い子のみんなはきっと「知ってた」だろうな……

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