第11話 レアルカルナシフォン その3
「そうだ。陛下は、王宮にあるのを持って来られたんじゃねえ。その三つ目を新しく見つけて、それを持って来られたんだよ。エラクツォーネ様の結婚指輪にするためにな」
ガドリクは、堂々とそう言い切った。すると、三人は目を丸くして、
「嘘!? 自分で!?」
「新しく!?」
「見つけられたんですか!?」
ソティシャ、レイセイン、イージャンと立て続けに声を上げる。
「おうよ」
誇らしげに頷き、それから当時の記憶を思い浮かべた。
「あん時はなあ……。流石は俺たちの陛下だと、皆が皆、感服したもんだった」
そう言うと、懐かしくなり自然と目が細まった。
「あれは、陛下とエラクツォーネ様の婚約が決まって、すぐの事でな。王都じゃあ、結婚指輪は一体どんな宝石になるのかって、その話題で持ちきりだったんだぜ? そしたら、あの光る女王の御髪を、自分で探し出して持って帰って来ちまったんだからな。有り得ねえよ」
『…………』
いや、ホント有り得ないよと、ソティシャたちは唖然としたまま思った。それから、不意にガドリクの顔が、もの寂しそうに変わる。
「当時は、あの大戦が終わって、まだ間もない頃でもあってな……。陛下に言わせりゃあ、そんな時に大金使って、指輪を拵えるってのが嫌だったんだとよ。そんな金があったら、復興に回せってな。だから、自分で探したんだそうだ」
言い終えると、ガドリクは目を落とした。
(あれは、本当に酷い戦だったぜ……。『イラスミエルの悲劇』、『南都』、そしてこの王都も――。
戦死者も尋常じゃねえ。前国王のヴィヴァスヴァルド陛下。リリファルナ王女。俺たちを救ってくれたヤスキーハ王子。他にも大勢――。皆皆、この国を守って死んじまった)
南都とは、この王国の南にある都。イラスミエルもその周辺にあった街の名だ。それから、ガドリクは、気持ちを切り替えるように、顔を上げ鼻で笑う。
「ふっ。まあ、復興に使えってのは、本気の発言だったんだろうし、実際そのために金は使われたみてえだが――。俺たちは笑ってたぜ」
口許をにやりと曲げる。
「そんな事を言ったのは、自分で探し出すための口実だってな。照れ隠しだよ。大金をいくら積んでも手に入らないような、レアルカルナシフォンっていうとんでもない宝石。それを、エラクツォーネ様の結婚指輪にするためのな。はっはっはっはっ!」
(まあ、笑ってたのは、俺たちの照れ隠しでもある。辛い時期だった。けど、そんな時に、陛下が結婚のために、あんなすげえ宝石見つけて、そうした理由が金を使うのが嫌だったってんだからな。
皆、呆気にとられたが――、それから可笑しさが込み上げてきたんだよ。嬉しいのと一緒にな。それで、そう言って笑い合ったんだ。流石は俺たちの陛下だってな)
「…………」
ガドリクは笑い終えると、真面目な表情へと変わる。
(ホント参るぜ……。自分だって、身近な人間が死んで相当辛いだろうに、それなのによ。それなのに、平然と俺たちに心を砕こうとしてくれる。あの結婚指輪には、そういう信念に似た思いも含まれている。皆、そうだと分かっちまった。けどよ。おかげで、力が入ったぜ。そして、この国は持ち直した)
「降参だ。ぐうの音も出ねえ。ホントにとんでもねえ方だよ、ジャムシルド陛下はな」
何度か首を振った。
『…………』
イージャン達三人は、いつの間にか、ガドリクの話を静かに聞き入っていた。その様子から、何か深い思いを感じ取れたからだ。それは、声の見えるレイセインだけではなかった。それから、しばらくしてソティシャが上の空といった様子で口を開いた。
「陛下って、全然ずるくない……。すっごい……。すっごいカッコいい……」
「だろ?」
「う、うん」
自分が、無自覚で喋っていたと気付く。そして、遠慮気味に何度かこくこくと、首を縦に振った。
「確かに、ソティシャ。お前の言う通り、結婚指輪ってのは大抵苦労する。大金を貯めなきゃいけねえからな。その大金を掛けてこそってのが結婚指輪だ。それは、男がそんな大金を使ってでも、その女を嫁にするって――、まあ、見栄だな見栄。その見栄を張るためなんだが――」
(そ、そうなのか……)
全然知らなかったと、イージャンが冷や汗を掻く。
「陛下ともなると、その苦労して貯めた大金ってもんがねえ。もちろん、金を復興に回したかったのもあっただろうけどよ。でも、これじゃあ、見栄を張れねえってんで、あの宝石を探すかって考えられたのかもしれねえな」
「ふうーん……」
「でもよー。それまで二つしかなかった宝石だぜ? なのに、それを成し遂げちまうってのがまたな……」
「ははは……。そうだね」
ガドリクの呆れたような苦い笑いに、ソティシャも同じようにして返す。しかし、その様子を見る事もなくレイセインは一人考え込んでいた。
(確かに陛下は凄い。でも、これはちょっとまずいわ……)
隣に顔を向ける。イージャンの横顔が、何かを思い付いたよう表情になっていた。その顔を伏せ黙りこくっている。そんな様子を見つめ、彼女は嫌な気配を感じていた。
「ああ、それとな」
ガドリクが、思い出して言う。
「指輪本体に使った素材も、金は掛かってねえ。これも、陛下ご自身で見つけられていて、事前に親父へ渡していたらしくてな。それで作ったんだとよ」
「そ、そっちもなんだ……」
ソティシャが、呆れ気味に呟く。
(ホントにお金掛けないようにしてる……。王様なのに……)
「だからよ。陛下が取りに行った時の経費が、どんだけ掛かったか分からねえから、それは別として――」
「あ、そうなるのか」
「ああ。で、それを差し引いてにはなるが――。掛かった金ってのは、指輪自体を作る費用。つまり、親父の手間賃だけって事になる」
「へえー。そこは払ってんるんだ。でも、その分は仕方がないよね」
「まあな」
「それって、いくらだったの、父さん? 知ってる?」
「ん? 大体でいいなら言えるぜ。ええっとな……」
尋ねられて、少し考え込む。
「多分――。小金貨百枚。そんなもんだったろうな」
「ふうん」
(百枚……。それって高いのかな?)
手間賃は、基本その素材の加工の難しさで金額が左右する。だが、その素材を知らないソティシャは、実感が湧かなかった。
「ま――。実は、これも現物支給だったんだがな」
「――へ?」
金額の事を考えていたので、意表を突かれる。気の抜けた声が出てしまった。
「げ、現物?」
「そうだ。小金貨、百枚相当のな」
「…………」
(ええぇ……)
「その現物は、一つじゃねえぞ? 結構、多種多様で細々としてて――、そん中にゃあ、食い物やら鉱石やら色々あったぜ。ま、だから、大体にしか分からねえんだけどよ」
「そ、そうなんだ……」
「で、これも、陛下自ら取ってきていた物だったらしい」
「…………」
(えええぇ……)
本当に徹底している。しかし、そこまでやるかと、ソティシャは呆れて言葉を失い、ぽかんと口が開いた。
(王様なのに……。一番偉い人なのに……)
ちなみに、この国の王族は、何かあると自ら現地まで赴いて、その問題に対処する。確かに時と場合も考慮はするが、その傾向が強く各地を回る事が多い。
よって、色々な産物を、その土地から持ち帰る事も自然と多くなり、この様に自分が取ってきた物で現物支給ができた。
「ただ、これは陛下から、そうしろって言われた訳じゃねえからな? 親父の方から頼んで、何にするかも選ばせてもらったらしい」
「ふ、ふうん……」
そう答えるその顔は、若干引き攣っていた。
(うーん。そこは、もう別にどうでも良いと言うか、何と言うか……。お金が掛かってないのは変わらないし。でも、なんか話を聞いてて思ったけど……。もしかすると、陛下って――)
「…………」
(結構、面白い人なのかも?)
彼女は、今までジャムシルドに抱いていた印象が変わってしまっていた。遠い離れた場所にいる、全然知らない人。漠然と凄い人――。
まだまだ子供であり、国王の事なんて深く考えた事もなかったのもあって、そんな存在だった。しかし今は、ちょっと身近に感じられている。
「はあ……。教えてくれてありがと。――あ。ちなみに、その手間賃の金額って、相場と同じくらいなの?」
素材が何なのか、それも気になったが先にこっち。気を取り直して、さっき思った疑問を聞いてみる。
「いや、これは親父の値段だ」
「あ、そうなんだ。じゃあ、相場とは違うの? もっと安くできたりとか?」
「そりゃあ、出来ただろうが――。それも、小金貨数枚ってとこだな」
「数枚かあ……。あんまり変わらないんだ」
「手間暇が掛かり過ぎんだよ。それに見合った金額ってなると、どうしてもそこら辺になる」
「へえ……」
って事は――。指輪には、そういう素材を使ったのか。と、ソティシャは当たりを付けた。
「ただまあ……。そもそも、相場はあってないようなもんでな。むしろ、価格は逆だろうぜ。吊り上げようと思えば、まだまだ吊り上げられたはずだ」
「逆? え? 何で?」
「相応の腕がいるんだよ。その腕を持っている奴は、かなり限られてくるからな」
ガドリクにこう言われて気付けた。
「そっか。その仕事は他に出来る人がいないから、どんな言い値でも通りやすくなるんだね」
「そういう事だ」
「なーるほどー」
ソティシャが、納得して何度か頷く。宝石の事は、さっぱりでも、慣れ親しんだ鍛冶関連にはこうやってすぐ思い付ける。素材もそう。聡いのは流石である。
それから、ここまで黙っていたイージャンが、伏せていた顔をすっと上げた。
「すみません。親父さん」
口を開いたその表情には、何処か意を決したような雰囲気があった。それが分かったレイセインは、渋そうに口を曲げる。
「ん? どうした?」
「あの――。指輪の事ではなく、レアルカルナシフォンについて、なんですが……」
「ああ」
「それを何処で手に入れたか、聞いてませんか?」
彼は、レイセインの予想通りの事を尋ねた。
(はあ……。やっぱりそれを聞くわよね……)
「あ! そうだね! それは気になる!」
一体どうやって手に入れたんだろう? ソティシャも興味があった。しかし、ガドリクは首を振る。
「いや。悪いが、聞いてねえな」
「そうですか……」
「うーん。残念……」
イージャンとソティシャは、がっかりしたように声を落とす。
「大体、話をしてたのは親父の方で、俺はその話を傍で聞いていただけでな。そん中に、何処で見つけたとかって話は、出てこなかったぜ」
「そっかあ」
「…………」
ソティシャが答えると、イージャンは口を噤んで再び顔を伏せる。
(親父さんは知らないか……。だが、方法はあるんじゃないか? だから、レアルカルナシフォンを手に入れることが出来た。そのはずだ。なら、それを陛下にお聞きすれば、もしかすると俺だって――!)
彼の瞳に希望が宿る。
「待ちなさい、イージャン」
その瞳を見たレイセインが、真剣な顔をして彼の肩を持った。
「レ、レイ……?」
気まずそうに自分を見るその様子で、彼女は間違いないと溜息を一つ吐いて言う。
「いい……? まず……、まず必ず先に……。シビアナに謝るの……。これを守りなさい……」
「うっ……!」
「陛下に聞くなら、その後……。これ以上、拗れたら……。元も子もなくなるわよ……?」
やはり見透かされている。彼は、心の隙を突かれたような気がして、少し怯んだ。しかし、危惧した事は尤もだった。希望が見えたからと言って、シビアナに謝ることなく尋ねれば、どうなるか分からない。本当に破談にもなりかねないだろう。その可能性はある。
「…………」
しかし、即答が出来ない。イージャンは押し黙った。すると、ガドリクとソティシャが訝しげに二人の様子を交互に見る。
「ん? 何言ってんだ、お前ら?」
「どーしたの?」
(そうか……。親父さん達には伝えてなかったわね……)
レイセインが、その事実に気付く。自分たちが宝石について詳しくないのもあるが、シビアナは結婚指輪がレアルカルナシフォンだと聞いて泣いたという、この部分。ここを端折ったため、伝えきれていない。
「勘違いされた宝石は……。出回っている……、女王の御髪の方じゃなくて……。王家の秘宝……。レアルカルナシフォンの方なのよ……」
先程と同じく、泣いた部分は必要ないだろうと、言わないまま答えた。
「マっ!? マジかよ!?」
「ええ!? そうなの!?」
「ん……」
ぎょっとしたガドリクとソティシャに頷く。すると、ガドリクは焦りながらイージャンに目を移した。
(しまった! だから、レアルカルナシフォンの事を知ってやがったのか!?)
結婚指輪には、女王の御髪を嵌めたものにしたい。だが、それは不可能。シビアナに謝って別の指輪にする――。これで話が纏まって終わった。
レアルカルナシフォンの事も知ってはいたが、思いっきり驚いていたのだ。殆ど何も知らない。そうも言っていた。だから、関係ないと気に留めれなかった。
何より、この宝石は王家の秘宝なのだ。それが欲しいだなんて、そんな大それたことを、自分の良く知っているイージャンが考えているとは思えない。こういう理由があったからこそ、先程のビレイクが王妃の指輪を拵えた話をする事に、何ら抵抗は無かった。むしろ、知っておいた方が良いと思ったのだ。
だが、今は違う。欲しかったのはレアルカルナシフォンの方。ならば、決して話す事はしなかった。これは、もしかすれば女王の御髪より、入手できる可能性がある。そんな希望を、イージャンにだけは絶対に抱かせては駄目だと、その経験より分かっているからだった。それはつまり、その入手方法に関係がある。
「…………」
ガドリクは、彼を黙ってじっと見つめた。辛そうに目を伏せた面持ち。酷く真剣で思いつめている。そう感じた。だが、
(こいつ……。間違いねえ。陛下に聞いて、それがいくら危険でも自分に可能性がありゃあ、何が何でも絶対に採りに行く。そういう覚悟がある面してんぜ……)
そうなった時を知っているのだ。見たことがあった。忘れられないその顔を。
(とは言え、近衛騎士なんだから、そんな手前勝手は――。いや……。いやいや、やべえぜ、こりゃあ。あん時とマジで雰囲気が似てやがる)
「おい、イージャン」
「はい?」
(――え?)
伏せていたその目を向けると、ガドリクの雰囲気が違う。神妙な面持ちをしていた。
「いいか? 入手方法を俺は知らねえ。だがな。聞いたところで、レアルカルナシフォンも、手に入る様な代物じゃねえよ。間違いなくな」
「親父さん……?」
知らないと言いつつも、断言した事を疑問に思った。
「三つ目が見つかって、もう十五年くらいだ。それなのに、四つ目はって話はどこにもねえ。これは、陛下が手に入れた方法を、秘匿しているからなんだろうが――。どうにも俺は、それだけじゃねえ気がするんだよ」
「それだけじゃない――、ですか?」
「そうだ。考えてもみろ。あの陛下が、他の誰にも教えないで自分だけだなんて、そんな狭量なわけがねえだろ? 何かあるんだよ、絶対にな」
確かに。そう言われればその通りだ。イージャンたちはそう納得して、「じゃあ、それは何だろう?」と思いながらガドリクに視線を向けた。
「さっき言いそびれちまったが、指輪本体の素材。それはよ、白日金と銀だったんだが――。この銀ってのが、王都で手に入る様な普通の代物じゃなくてな」
(ん?)
ソティシャが首を傾げる。
(何で、いきなりその話に戻ったのかな? まあ、知りたかったから良いけど――って)
「ふ、普通じゃないの?」
先に素材が何だったのか聞いていれば、当然こんな疑問は出ない。王都にだって、様々な素材が国中から集まってくる。安価でも高価でも当然の如く、加工の簡単な物から難しい物まで揃っている。
だから、指輪のために取って来られた素材は、ガドリクが言う所のそういう普通の物の中で、一番高価で扱いが難しいものくらいにしか思っていなかった。これがあって、そう尋ねたのだが、
「当然だろ?」
と、当たり前のことを聞くなと、素気無く返されてしまう。
「げー……」
レアルカルナシフォンで、もうお腹一杯。それなのにと、げんなりと顔を苦めた。とは言え、気にはなる。
「はあー……。どんなのだったの、それ……?」
どうせまた、とんでもない物なんだろうなあと思いながら、ソティシャが尋ねる。そして、イージャンとレイセイン二人の視線も向けられると、ガドリクが答えた。
「『銀嶺』だ」
三人の耳にその言葉が届く。すると、
『ふーー…………』
(ぎ、銀嶺……)
イージャンとレイセインは俯きながら、疲れ切った長い溜息を吐く。職業柄、二人はこの銀嶺を知っていた。その入手方法が、とんでもない事も。これはソティシャもだ。
「ぎ、ぎんれいって……。あの幻の? でーっかい重樹のおでこにあるっていう奴?」
「そうだ」
「がくっ……」
もうホント勘弁してと、勢いよく頭を垂らす。
銀嶺は、この国で最上の銀とされ、『真銀』とも呼ばれている。只の銀色ではなく、薄らとした月白色の輝きも持つ。
また、銀とは違い固く、年月が経つにつれどんどん黒ずむ事もない。おかげで、別の金属を混ぜ、割り金にする必要もなく、装飾品に用いることが出来る。ただ、良い事ばかりではない。銀嶺は、扱いが非常に難儀な職人泣かせの代物でもあった。
採れるのは、ソティシャの言う通り、重樹の額あたり。ここ以外では、未だ発見されたことはなかった。しかも、限られた重樹でしか取れず、また必ずしも取れるわけでもない。いや、殆ど取れる事がない。そう言っていい程の希少な鉱石だ。
直近でも取れたのは、二年前で一つ。それ以前は、七年前で二つだった。そして、一度に取れる大きさは、大方、両手で抱える程になる。このくらいの間隔で、その程度しか取れない。これは、白日金が十年間で産出される量より、圧倒的に少なかった。
「指輪一つ分くらいだと――、鷲金貨千枚だな」
ガドリクが、その希少性に対する価値を簡潔に言う。銀嶺は、単価と言うべきか、その基本となる値段がある。ただ、その値段を出すためには、前準備が必要だ。
まず、取れた塊は、カトゼ大神宮か王家に預けられる。これは、豆粒大に砕いてもらうためだ。溶解はさせない。そして、それを受け取ると秤に掛けて、専用の分銅を使い決められた重さを正確に量る。だが、それでも大体五粒から六粒程度。そのくらいで綺麗に収まった。
これが、基準の値段となる。鷲金貨で言えば、五百枚だ。つまり、指輪一つ分は、その基準より倍の量でないと作れない。
「千枚……」
ソティシャが呟く。
(へえ、それぐらいで作れるんだ)
単価とその量がどれくらいになるか知っていため、素直に受け止めることが出来た。
「そ……」
(指輪だと千枚ぐらいになるのね)
レイセインも、同じくすんなりと受け止める事が出来た。しかし、単価やその量は知らない。知っているのは、銀嶺などで打たれた刀剣類などの値段だ。
そのため、指輪の様にそれ一つの、純粋な金額らしい金額は初めて聞いた。これはイージャンにも言える事。
「…………」
(またか。また負けるのか、俺の家は……)
言える事なのだが、反応は違った。彼は、自分の新築が指輪一つ分にも満たないというこの事実により、諦観の境地へ達しようとしていた。
三者三様。いや、二様であろうか。ただ、三人とも似たような心境ではある。
「はは……。とんでもない金額のはずなのに、そんな気が全然しないよ……」
「ふふっ。そうね……」
「あ、ああ……」
ソティシャに顔を向けながら、その意見に二人とも同意。そう、いまいち驚けない。レアルカルナシフォンのせいで、金銭感覚が完璧に狂い麻痺しているのだ。そんな中で、レイセインに一つ推察が浮かぶ。
「…………」
(銀嶺は――、固いというその性質ため、加工するのも一苦労。削りにくいし、打っても形が変わりにくい。当然、生半可な工具は、すぐに駄目になるわ。
何より問題なのが、熱し方ね。下手を打てば、その美しい月白色の輝きが消え、赤黒く変色するのよ。二度と元に戻ることはなく、その価値は失われてしまう。でも、この熱し方が相当難しい。それなのに、希少で高価だから、失敗は許されない)
彼女の思った通り。これが銀嶺の難儀な点だった。そのため、小分けにする時も、溶解という手段を用いることが出来ない。
(ホント、職人泣かせな代物だわ。失敗できないから、練習もできない。でも、陛下がこれらを踏まえた上で、ビレイクお爺ちゃんに銀嶺を渡してたのなら。やっぱり、あの腕を相当信用してたって事かしらね……)
「でな――」
三人の様子を眺めていたガドリクが、徐に口を開く。
「銀嶺があった重樹ってのが、また凄くてよ……」
そう言われて、皆の表情に興味が帯びる。だが、その凄いというのが何なのか。それを考える暇はなかった。言葉はすぐに続けられる。
「その重樹は――。『絶巓級、磐蹄犀馬』だったらしい」
『ぜ、絶巓級!?』
瞠目するイージャンとレイセイン。その二人が、揃って声を上げた。




