第四話:チェスラス子爵家 Ⅲ
【大陸暦八七年三月六日(逃亡から六七日)・依頼二日目】
※・※・※
エルヴィアは護玉製造を始めたが、ここで一つ問題が浮上した。
魔法を二つ同時に行使できないため、結界を張ることができない。エルヴィアは、朝になってからそのことに気付き、フローラにそれを一任した。
アレンは行商人としての知識を詰め込み、必要なことを子爵に教わっている。
ラウルは細工の図案を子爵家に出入りする商人や技術者から教わり、頭を抱えている最中。
手が空いているのはフローラだけで、さらに言えば、細かい制御が苦手なのでそれを練習する意味合いも兼ねていた。
風の結界魔法は、制御が難しいが広範囲をカバーできる。使えて損はない。
「ちょっと、休憩」
慣れていないと魔力消費が早いので、体力が切れる。
先に音を挙げたのは、フローラだった。
結界が砕け、ヴァルテルが苦笑する。
ヴァルテル自身はまだ余裕があった。
一度も精霊術に成功していないことが要因なのだろう。エルヴィアの見立てでは生来の魔力量が平均的な獣人の倍はあるらしいが。
「お茶にしましょうか」
「あ、ありがとう…」
うずくまるフローラの手を取って、テラスに足を向けるヴァルテルは、楽しそうに笑っている。
ヴァルテルの指示を受けて、距離を取って控えていた侍女が厨房に向かう。
十二・三歳ほどにしか見えないヴァルテルは、フローラよりも頭一つ分低い。
だが、体力や腕力は並の大人より強いようだ。
使用人の仕事を手伝って、穀物袋を両肩に四つずつ(合計八つ)をかついでいるのを見た時、フローラ達は固まってしまった。
獣人の膂力は人間の数倍とされ、混血の人間はそういった部分も引き継ぐらしい。ヴァルテルは先祖返りだが。
「フローラさんは、制御が苦手なんですね?」
「…ぅっ」
「あぁ、バカにしたわけではないんですよ。私なんて一度も成功してませんし」
「分かってるわ。大丈夫。ヴァルテル様は良いのよ。だって、全く未知の物なんだから。すぐにできなくても不思議じゃないわ。でも、あたしは、ねぇ」
一年近く、最高峰の師の下で修業しているというのに。
うなだれて額をテーブルにつけるフローラに、ヴァルテルはかける言葉がない。
魔法(精霊術)初心者の自分には何も言えない、と思ったからだ。
「アレンさんとラウルさんは、属性は何なんですか? どういった魔法を使われるんでしょう?」
「? アレンは炎と雷で、広範囲攻撃系ね。ラウルは水と地で、結界や治癒とかの補佐系ね」
「では、フローラさんは?」
「あたしは、風は苦手だから雷の攻撃系。ただ、広範囲に作用する魔法は苦手ね」
「では、制御ができないというわけではないんですね」
「へ?」
良かった、と笑うヴァルテルに、フローラは意味が分からないと言いたげに首を傾げる。
「多分、苦手なのを自覚しているから、それに引きずられているんじゃないですか? 自信を持って、出来る、と思えば大丈夫だと思いますよ?」
「いまいち、良く分からないんだけど…」
「一つ、やってみましょう」
「はい?」
言われるがまま、手を引かれて庭の中央に歩き、フローラは困惑したようにヴァルテルを見下ろす。
ほんの少し休憩しただけだが、フローラの体力はほぼ回復していた。持久力がある上、回復も早いことは戦闘においては最大の利点になる。フローラ的には無自覚なようだが。
「なんでもいいので、やってみましょう。練習しないと、ずっと苦手なままですよ」
もっともなことを言われ、フローラは何も言えない。
「大丈夫です。フローラさんはできますよ。出来る、と思いながらやってください」
本来、これはヴァルテルの為の時間なのだが、有無を言わせないヴァルテルの空気にフローラはそのことに気付かなかった。
促されて、詠唱を始める。
『 顕現せよ。我が求めるは万有を巡る一対の翼。天空に舞う高貴なる自由に願う。先を見据える心に応えたまえ 空泳 』
言われたとおり、強く成功を信じながら詠唱した。
使ったのは上級下位の浮遊魔法。
ふわ、とフローラとヴァルテルの体が浮き上がり、高度を徐々に上げていく。
「え、ぇ? ちょっ、なんで、ヴァルテル様もっ」
「近くにいたからですかね?」
もしくは、手を握ったままだったからか。
言われて、まだ手をつないでいたことに気付いたフローラの頬が、一瞬で赤く染まる。
慌てて振り払おうとするが、ヴァルテルが握る力を強める。
「ここで離されると、ちょっと怖いですね」
本当にそう思っているのか疑わしいほどに穏やかな声だが、半ば混乱しているフローラは、指摘に気付いた。
手をつないでいることで魔法の効果を得ているのだとすれば、離せば落下する。
すでに高度は二十メートルを超えている。いくら頑丈な肉体とはいえ、さすがに大けがを負うだろう。
現在の状況と危険性に気付いて、フローラの顔から血の気が引いて行く。
瞬間、混乱していた意識とわずかに浮かんだ恐怖のため、魔法の制御が乱れたのだろう。
二人の姿勢が揺らぎ、一瞬停止してふっと浮き上がる感覚を覚えた後、そのまま落下した。
その頃には三十メートルを超えていたため、地面がかなり遠い。だが、落下速度は上がる一方で地面はどんどん近付いて行く。
混乱したフローラに、もう一度魔法を使う余裕はなく、無意識にヴァルテルの腕にしがみつく。
ヴァルテルは、一度フローラを見て何かを決心するように唇をかむ。
フローラを縦に抱きあげるように抱え、ポケットから一粒の種を取り出す。
それを地面に向けて放り、詠唱を始める。
『 大地根ざす者、我が声に応えよ。我は汝らと誓いを結ぶ者。我が願いを具現せよ 』
精霊術に明確な魔法の名称はない。
ただ、願いを言葉に乗せて、魔力に乗せて、命じるだけで良い。
まだ一度も成功していない精霊術。構築できていない魔法陣。
だが、今、ヴァルテルが放った種を中心に、光り輝く魔法陣が現れた。
大樹を中心とした六芒星と理解不能な文字。
それは、龍玉を手にする際にエルヴィアが顕現させた魔法陣だったが、フローラにそこまで考える余裕はなかった。
魔法陣の出現と同時、種が割れる。
そこからは一瞬だった。
種から芽が出て、一気に苗木に育ち、若木になり、地面に根を張って大樹となった。
軽く樹齢数百年ほどの大樹に育ち、生い茂る青々とした葉や枝の中に突っ込む形になったヴァルテルは、手近な木をつかんで落下を止める。
十二・三歳ほどの体で人一人を抱え、片腕で落下を止めるのはかなりの負担だったが、ヴァルテルは顔を少し歪めただけで、ふぅと息をつく。
「何事だ?!」
大樹の下から聞こえたサムエルの声に、ヴァルテルは苦笑する。
木の枝の中に突入した後、硬く目を閉じていたフローラは、恐る恐る目をあける。
「大丈夫ですか?」
「あ、はぃっ!?」
抱き抱えられている現状を理解して真っ赤になったフローラに、ヴァルテルは何故か嬉しそうな笑みを浮かべる。
「飛び降りますから、動かないで下さいね」
返事はなかった。固まってしまっていたため、まともに聞こえていないようだ。
それを気にせず、ヴァルテルはあっさりと手を離す。
残り三メートルほどだったが、軽々と着地する。
騎士の息子だけあって、鍛錬はしていたらしい。膝を曲げて衝撃を上手く逃がしていた。
突然現れた大樹に驚いて、サムエルやエルヴィア達、子爵家の使用人が集まっていた。
それらに決まり悪げに笑いながら、フローラを下ろす。
フローラは、色々と驚くことがありすぎて、へなへなと崩れ落ちた。
状況から、精霊術に成功したのは分かるが、二人が木の上から降りてきたことには疑問がある。
唯一、状況を見て何となくわかったエルヴィアは、良い笑顔を浮かべて二人に近づいた。
顔を上げたフローラが頬を引きつらせ、ヴァルテルは背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。
この後、フローラとヴァルテルはエルヴィアからの説教(非常に珍しい)を、庭に正座して受ける羽目になった。
※※※
フローラが浮遊魔法を行使したのは、単純に使ってみたかったからだ。
それがうまく行くとも、あれほど高い位置まで浮遊できるとは思っていなかったらでもあった。
ヴァルテルとしては、わずかな思惑と純粋な推測から出た助言だった。
それがあんなことになるとは、そして、それが精霊術の成功につながるとも思わなかった。
予想外の出来事だったとしても、サポートできるメンバーを呼んでおくべきだった。
何があるか分からないのだから。
それを含めた説教を一時間強受けて、フローラとヴァルテルはそれぞれの部屋に引き揚げた。
今日の練習は禁止を言い渡されたのだ。
「お前らしくないな。ヴァルテル」
「申し訳ありません、父上」
「一本木が増えただけだ。そのことは構わん」
だけというには大きすぎるが、別に実害があるわけではないので、サムエルの言うとおり問題はない。
「いつもなら、準備を整えてやるだろう」
「少し、調子に乗りました」
「なるほど」
ニヤニヤと笑うサムエル。
「せいぜい、頑張ることだな」
「はい、頑張りますよ」
「なかなかに大変そうだがな」
「そうですねぇ。でも、少し、手応えは感じました」
「ほぅ。それが勘違いで終わらないといいがな」
「父上、あまりそう言うことは言わないでほしいのですが…」
「わしの言うことに振り回されていてはどうにもならんぞ! 精進しろ」
豪快に笑い飛ばすサムエル。それをちょっと恨めしそうにみやるヴァルテル。
親が子をからかう、というどこでも見られることは、この親子では珍しい。
子爵家のリビングで見られた珍しくも和やかな光景を、使用人達は微笑ましげに見ていた。
【大陸暦八七年三月八日(逃亡から六九日)・依頼四日目】
※・※・※
一昨日と昨日、エルヴィアが作った護玉は、色石とガラス玉が二十個ずつ。
合計四十個の護玉。
これらを細工するのに必要な材料は、基本的に真鍮を使用する。
元々魔工師一族の直系であるラウルは、細工物に関する才能はあったようで、少し教えられただけで簡単な図案は物にした。
ブレスレットやペンダントにする方向で、細工の方は作っている。
護玉を大量に作っても細工が間に合わなければ意味がないので、エルヴィアはしばしの休憩に入り、フローラとヴァルテルの練習に参加した。
それが昼前。
だが、庭に出れば、参加するのは邪魔か、と思われる光景があった。
ヴァルテルの精霊術は、一度成功すればコツをつかんだのか、順調に進んでいる。
その為、最近はフローラの魔法練習(風属性)にヴァルテルがつきあっていた。
一度、一緒に失敗(ある意味成功)したからか、急激に仲良くなった二人は叫んだり笑ったりしながら楽しそうにしている。
(ヴァルテルは、分かりやすいなぁ)
はたから見て、ヴァルテルが抱えている思いは分かりやすい。
だが、その思いが向かう本人は分かっていない。
(いや、分かってないわけじゃないなぁ)
多分、そういう感情を抱くのも抱かれるのも慣れていないから、かなり鈍いだけだ。
自分が出した結論に納得するように頷いて、エルヴィアは踵を返す。
向かうのは、サムエルの執務室だ。
「親父殿の墓に?」
「そう。参りたいと思って」
「ありがたいが、少々面倒だぞ?」
「どこにあるの?」
「山の頂上に」
「…何故」
思わず脱力したが、自然の中で眠りたい、という遺言だったと聞いてエルヴィアはなるほどとうなずいた。
昔から、ギラルダインは野営が好きだったと思いだす。
「頂上のどこらへん?」
「ここから真っ直ぐだ」
「わかりやすいわね」
「だが、山には獣が多い。定期的に猟師が入っているが、やられる者も多い」
「じゃぁ、ついでに適当に狩っておきましょう。犠牲者が出ないのが一番だもの」
「良いのか? 依頼したのは」
「細かく言わないわ。守銭奴じゃないんだから。どうせ行き帰りでいくらかの獣は狩ることになるんだろうし」
「なら、厚意に甘えよう」
「お土産は獣肉ね」
「大量なら、燻製にして領民にも配ろう」
「あ、良いわね。じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「うむ。気をつけて」
にこやかに足取り軽く出て言ったエルヴィアを見送り、仕事を再開したサムエルを、ずっと沈黙していた領宰が振り返る。
「あんなに軽くおっしゃって、よろしいのですか? 獣は大型の肉食です」
「心配はいらん。エルを害することができる存在など、この世にいるかどうか怪しいものだ」
領宰はエルヴィアの真実を知らない。だから、サムエルの言葉に疑問を浮かべるが何も言わなかった。
二人は幼馴染だ。立場を考えて言葉遣いは変わったが、互いに向ける信頼は変わらない。
だから、相手が信頼を向ける存在を、疑うことはなかった。
※※※
まさに着のみ着のままの状態で山に足を踏み入れたエルヴィアは、足場が悪い原生林の中をすいすいと進んでいく。まるで平地を歩いているように。
ガァァァッ!!
ザシュッ。
獣の声と何かをたたき切る音。
それがワンセットに連続して響く。
「言ってた通り、多いなぁ」
のんびりと言いながら、剣についた血のりを一振りして払う。
エルヴィアは、髪飾りの法具を剣に変化させただけで、衣類に変化はない。つまり、一滴も返り血を浴びていない。
しかも、息一つ乱さず、まっすぐに進んでいる。
その道すがら、点々と獣の血痕が残っている。死体は、下山する時に持って行くので、他の獣に食われないように高い木の上にくくりつけておく。もちろん、魔法を利用して。
山脈とはいえ、城の真裏の山はそんなに標高は高くない。ちょうど低くなっている部分だった。
二時間とかからず、エルヴィアは頂上に至る。いくら標高が低いといっても普通の人では、半日かかるが。
「こんなところに、立派なの作ったねぇ」
苦笑して見る先には、黒御影のみで造られた墓。
廟というほどではないが、それに準じるように門や壁が作られ、小屋程度の広さがある。
壁に囲われた中に、名が刻まれた墓石があり、その周囲は木と花で埋め尽くされていた。
「愛されてたんだね、ギル」
ギラルダイン=チェザレの墓石の後ろには、縦長の石が置かれている。そこには、大戦期、ギラルダインと同じ部隊で戦った者達の名前が刻まれている。
そっと墓石に触れて、瞳を細める。
獣に荒らされた形跡のない墓。壁の外側は、爪の痕があるのに、内側は綺麗だった。
「マーリャ、かな」
ギラルダインと同じ部隊だった女性の混血。戦後、他の仲間と一緒にドレクセルに移住した。
マーリャは、魔力を持ち、獣よけの精霊術が使えた。
術というほどの物ではなかったが、野営の時には特に役立った。逆に獣を引きよせる術も使えたため、食糧不足になった時は彼女はほとんど英雄的扱いを受けた。冗談交じりに、だが。
その頃を思い出して、エルヴィアは苦笑を浮かべる。
獣よけの術を生来持っている獣人の種族は、草食系の力が弱い者達だ。マーリャは、おそらくそうだったのだろう。
そのせいか、熊だったギラルダインを嫌っていた。
だが、本気で嫌っていたわけではないのは、近しい者なら誰でも理解できた。もちろん、エルヴィアも。
マーリャは脱走奴隷。それを助けたのがギラルダインだ。
恩を感じていたが、種族的な拒絶反応をぬぐえなかったのだろう。だからこそ、行動で、戦闘で恩返しをし続けた。
基本的に、天の邪鬼な性格だったかも、とエルヴィアは今思う。
身分を引き上げ対等に扱った『イヴ』に対してでさえ、マーリャは常につんけんしていたから。
「ごめんね。何もできなくて」
開墾して自分の土地を持つのは良いだろうと思って、十分な広さと肥沃な大地を与えた。それは『イヴ』がしたことでも、その死後は違う。
きっと、歪められただろう。多くの土地で疎まれていた彼らを、『イヴ』の死後、国を牛耳った輩がまともに扱うはずがない。
ここから、出られないようにされていたのだろう。
「貴方達は、戦ってくれたのにね。私の為に」
エルヴィアは知らない。ギラルダインが、その仲間達が、後悔し続けていたことを。
だから、謝罪を口にする。
「貴方が、与えてくれた思いに、結局、私は応えられないままだね」
あんたなら、とかけられた言葉と笑みを思い出して、視界が歪む。
いつかまた、と思い続けて次代へとつないだギラルダインの思いを、エルヴィアは知らない。
「私は、何もできなかった」
嫌々ながらに皇帝になって、全ての力を手に入れて。
けれど、『イヴ』ができたことは、戦争を終わらせることだけで、その後は何も残せなかった。
それが、今、集約されて民を圧迫している。
国に、官吏に、君主に絶望していたギラルダイン達は、何もできなかった『イヴ』をどう思ったのだろう。
何も知らないから、エルヴィアは不安と悲しみを覚える。
誓った。それを受け取ってもらった。
その時の情景が、鮮明に思い浮かぶ。
共に血にまみれながら戦った。生きていることを喜びあった。
その時の笑顔が、一人一人の名前とともに浮かぶ。
膝をついて、エルヴィアは泣き崩れた。
脳裏に繰り返し浮かぶ情景が、懐かしくて。
それらを守れなかった自分が情けなくて。
誰もいないから、エルヴィアは声をあげて泣く。
今の仲間の前で、かつての仲間の子孫の前で、泣けなかった。
悔いがあって、悲しみが確かにあったのに。
耐えて耐えて、そしてここに来て、全てが崩れてしまった。
もう耐える必要がなくなったから。
全てを背負うと決めて、唯一人を置き去りにしてまで歩んだのに。
かつての自分の無力さを感じて、エルヴィアは日が暮れるまで泣き続けた。
花に顔を埋めていたから、エルヴィアは気付かない。
自分の頭を、不器用なしぐさでなでた大きな手があったことを。そよいだ風だと思ってしまった。
手の先には、仕方ない、と言いたげな笑みを浮かべた大男がいたことを。
すきとおるその姿が、最後に小さな呟きを残して消えたことを。
ただ、その呟きだけは耳に届いて…。
「ギル?」
懐かしい声が告げてくれたように聞こえて、エルヴィアは顔を上げる。
真っ赤に充血した瞳と目元、幾筋も残った涙の痕。
少々見苦しくなった顔をぬぐいながら、墓石に寄り添い、頬を寄せる。
口元に、小さな笑みを浮かべて。
「頑張るよ。ちゃんと、貴方達との誓いを守るから…」
それは、もう一つの誓い。
かつての誓いに重ねた、次につなげる誓い。
そっと墓石に口づけて、エルヴィアは立ち上がって背を向ける。
山を下っていく背を、不可視の笑みが、複数の優しい眼差しが、いつまでも見送っていた。
誓いはまだ続いてる。ずっとあんたを待っていた。
幻のような、夢のような優しい言葉は、確かにエルヴィアに届いて。
それを大切に抱いて、エルヴィアは次へと歩を進める。
かつてとは違う、幼く未熟な仲間とともに。
これからを作る命と心とともに。




