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黄金猿本部襲撃

その日は良く晴れた日だった。


黄金猿(こがねざる)”という組織で本拠地である場所の正門を守っている門番は今日の天気を眺めつつ、いつも暇で代り映えのない毎日を門の前で不動のまま謳歌していた。


しかしその日はいつもとは違うかった。


一人の男が見えたのだ。その男は仮面で顔を隠しており、黒いコートの下にはいくつかの武器がちらついて見える。その歩みも一直線にこちらに向かってきており、明らかにここに用があるのだと判断できる。


門番の男は気を引き締め直して剣に手をかけつつ、その男に声をかける。


「とまれ。これ以上先は私有地になる。観光目的なら回って後ろに進めば観光地だ」


「そうか。だが生憎と今回の目的は観光じゃないんだ」


まるで何かによって書き換えられた声を響かせ男が喋ると、その腕に黒い腕甲が装備される。【換装(ヴェクセルン)】によって装備されたであろうそれを視界に入れると同時に門番も剣を抜き放ち、迷うことなく目の前の男の首を落とそうと剣を振るう。


甲高い音が響くとともに門番の男が振るった剣は、目の前の男――ソラの腕甲によって叩きおられる。もう一人の門番が同じように剣を振り下ろすのが見えるが、その剣が振り下ろされるよりも早くソラの蹴りがもう一人の門番に突き刺さり、そのまま吹き飛ばす。


門番の男は魔術を使おうと魔力を高めるが、ソラは一瞬で門番の男に近付き胸ぐらをつかみ持ち上げると、そのまま勢いよく正門に投げつけて門を開くのだった。















「よし、それじゃやるか」


騒ぎを聞きつけた護衛の人間が集まってくると、ソラは軽く体を動かしてから足を勢いよく地面に振り下ろす。その一撃には【撃天(げきてん)】の技が使われており、正門前の地面はひび割れ、それに伝導して大きな揺れが起こることとなる。


隙だらけになって目の前で踊っている護衛たちを次々に屠っていくソラ。ようやく揺れになれたのか何人かがソラの攻撃に対応し、その動きを止めることに成功する。


動きが止まったことで他の者が攻撃を仕掛けようとするが、それよりも早く自身の動きを止めている護衛の男三人を伴って空中に飛び上がり、そのまま三人の腹に【雷杭(プファール)】が突き刺さる。


雷属性でできた杭は三人の身体を蝕み、雷撃がその身の自由を奪い取る。


空中に躍り出たソラはそのまま上空から一瞬で自身の周囲にいる人間の数を把握し、まだまだ囮にならないといけないと考える。


懐から筒の様なものを三つ取り出し空中に投げるソラ。投げられた筒は”魔力筒(マジックシリンダー)”と呼ばれるもので、魔力を中に封入した筒である。これを使用することで魔力が極端に少ない人間でも高魔力が必要な魔術を発動させることができるのだ。


それを三つ空中に投げだしたソラは、それらに封入されていた魔力を媒介にして巨大な魔法陣を上空に浮かび上がらせる。


「悪いが全員の命、貰い受けるぞ」


天嵐雷鳴フルゴーレ・テンペスタ】と小さくつぶやくソラ。その瞬間上空の魔法陣からいくつもの雷が降り注ぎはじめ、眼下に構える護衛たちに襲い掛かる。


降り注ぐ雷の雨に撃たれたものはそのまま全身に雷撃が奔り、痺れて動けなくなりその場に倒れてしまう。そして身動きの取れないところにさらなる追い打ちの雷が降り注ぐことで許容量を超える雷撃が体内で暴れまわり絶命する。


なんとか魔力障壁を展開して守るものがいるが、雷撃は未だ降り注ぐことをやめない。限界が来た障壁は砕け散るとともに内側にて閉じこもっていた者に無慈悲な雷撃が降り注ぐ。


一分もしないうちに正門前には立っているものはソラだけという状況となり、地面は焼け爛れ陥没している個所が多く存在していた。


元々は綺麗な枯山水や庭園が広がっていたが、今では見る影もなかった。ソラはそのまま本邸にむけて歩みを進め始めようとする。


だがその行く手を阻むようにさらなる護衛の人間たちが現れ、各々の武器を構える。ソラはまだまだ頑張らなければならないと考え、自身のコートを羽ばたかせ、内に隠していた”魔力筒(マジックシリンダー)”をあえて見えるように露呈する。


「さぁどんどんいこうか」


嵐はまだ訪れたばかりである。




























「始まったねぇ」


クロエは遠くのほうで聞こえる音を聞きながら自分の仕事を進めていく。すでに潜伏させている部下に案内されながら”黄金猿(こがねざる)”の屋敷の中に侵入する。


床は木のため足を踏めば軋む音が響き渡る。そのためクロエの部下たちの隠密衆は屋敷の屋根裏に侵入し、そのまま屋敷内を進んでいく。


この屋敷内の人間は全員が外へと意識を向けているため、暗殺は容易に行うことができた。すでに若頭の一人が命を落とし、もう一人の若頭のほうもすでに隠密衆が向かっている。


大頭は屋敷の奥で座して座っており、隠密衆が五人がかりで向かっている。


クロエはあらかじめ屋敷の見取り図を部下から預かっており、それを元に屋敷内で地下へつながる入り口の場所へと向かう。


隠密衆は地下への階段は見つけているが、その先へは行けていなかった。なぜならその先は一本道であり、警備の人間も多かったからである。


だがクロエにとってはそんな警備も一本道も関係はない。クロエは自身の影を入り口にして自らが創り出した闇の海へと沈みこむ。


クロエが編み出した複合魔術【冥海(めいかい)】。水属性の魔術【激震の大海マーレ・トレメンドゥム】という魔力の込める量に応じて海を呼び出す魔術である。基本的に海を産み出すことで水属性魔術の効果を引き上げたり、閉鎖空間で丸ごと溺死させるくらいにしか使えない。


それをクロエは空間魔術の【空間感知ディメンショナル・パーセプション】と【次元空間(ディメンショナル)】を使って広大な空間を作り出し、そこに【激震の大海マーレ・トレメンドゥム】を発動させて海を作り出す。


産み出した空間は現実世界とリンクしており、その空間の中を泳げば現実世界でも同じように移動できるというものである。入り口を影と同期させることであらゆる場所が出入りできる場所となるのがこの魔術の利点である。


これによって一気に地下へと移動したクロエだったが、ある程度進むとそれ以上先に進めないことに気が付く。原因を探るために一度影から出ると、目の前には巨大な結界が形成されていた。


「なにこれ。めんどいなぁ・・・ねぇ見えてるこれ?」


『──はいはーい。みえてるよーん。それで?なんの用な訳?』


「目の前の見えてるでしょ。この結界を解析してほしいんだけど」


そう言ってクロエは目の前の結界を見つめる。耳に付けている通信端末がいくらか光り出す。


『はいはーい・・・うっわこれかー。ちょっと解析に時間かかるかもー』


「早くしてよリンファ。こっちも忙しくなるかも」


クロエはその言葉とともに背後から迫ってきていた敵の首を刎ねる。そのまま別の敵が襲い掛かってくるが、短剣が踊りまずはその腕を斬り飛ばし無力化する。


敵が入ってきた入り口を睨みつけると、そこから次々に人が入ってくる。クロエは溜息を溢しながら、短剣を手の中で振り回し構える。


「誰かここに入るための鍵持ってる?」


「侵入者に渡すものなどない」


一人の男──若頭の一人が大鉈を手にそう告げる。クロエは一気に目の前に躍り出るとともに周りの護衛の首全てを刎ねて若頭の首に短剣の刃を当てる。


若頭は冷や汗を流し、身動き取れない状態のまま目だけをクロエに合わせる。


「あのさ、あんまり時間ないんだよねこっちも。やる気ないなら消えてくんない?」


「ま、まt──」


一瞬で刃を振るい、若頭の身体と首を別れさせた。クロエはそのまま結界のほうへと向き直り、今なお結界を解析中のリンファに声をかける。


「終わった?」


『終わるわけなくない?この結界めっちゃ難解なんだよー?”時の祭壇”の構築する結界なんて難解に決まってんじゃーん』


「やっぱこれがそうなんだ。ソラとも言ってたけどなんでこんなものがここにあるんだろうね」


『流通経路でしょー?こっちも調べてるんだけどなかなかプロテクト硬くてねー。情報管理がしっかりできてるよねー、ほんとやになっちゃうよ』


「それよりも早くこれ解除してよ。あたしが先に進めなかったらソラが死んじゃうよ」


クロエはまたこちらに向かってきている足音を感知し、また短剣をくるくると回して迎撃の準備を始める。


『ソラ君のこと?そんな簡単に死なないと思うけどなー』


「簡単には死なないよ?でも今回の護衛依頼を引き受けてる傭兵が面倒そうなんだよね。さっさとイレニアの身柄を確保しないと流石に危ないと思うし」


『あーあの二人組が参戦してるんだったね。あの子らには私らも苦戦したしね』


リンファは当時の記憶を思い出し、苦い顔をしながら解析を進める速度を上げていく。


クロエはまたもや雪崩れ込んできた護衛の兵士たちにその刃を走らせていく。






 



















剣が上空から四本襲い掛かってくる。ソラは地面を転がるようにしてその一撃を回避する。地面に突き刺さった剣は魔力を帯び始め、四つの属性の魔術が剣を媒介にして発動される。


炎の球体がソラに襲い掛かり右腕を横に振るって打ち消す。水の槍が幾つも頭上より降り注ぐが、それを地面を思いっきり蹴ることで回避する。回避先に四つの壁が出現し、逃げ場を塞ぐ。唯一の出口である上には吹き荒れる風の球体がこちらに落ちてきている途中だった。


大きな爆発が巻き起こり、その場所を中心に凄まじい爆風が吹き荒れる。


爆風の外で先ほど地面に突き刺さった四つの剣を回収して自身の周囲に同じような剣を7本浮かばせた女性が優雅にその場で佇んでいた。


爆風で生じた煙の中を突き破ってソラが凄まじい速度で女性に迫る。だがそれを阻むように女性の周りで浮かんでいた剣がひとりでに動き出し、ソラの命を奪おうと殺到する。


七つの刃が襲い掛かるが、ソラはそれら全てを回避し時には拳で軌道をずらすことで女性に進んでいく速度を落とすことなく近付く。


近付くと同時に拳を振り上げてそのまま振り下ろす。拳が辿り着くよりも早く雷光を纏う剣が女性の手に戻り、それによってソラの一撃は防がれてしまう。


蹴りを放ってその剣を打ち上げ、隙ができたところに空いていた左腕を振るう。だがそれを阻むように残り六本の剣がその拳を防いでしまう。


そのままゆっくりと拳を剣から引きはがし、少し後退する。剣もすべてが浮かび上がり女性のもとへと戻っていくと、また周囲で浮かんだまま回り始める。


「ロト。お前がまさかこの依頼を受けているとはな」


(わたくし)も本当は受けたくありませんでしたわ。好き好んで貴方と戦うような酔狂な人間になった覚えはありませんもの」


精霊剣(せいれいけん)≫のロト。エルフ族の女剣士だが、使う剣は七本もある。自身の周囲に浮かばせた各属性が宿る剣を手に取り、または動かすことで変幻自在な戦闘を行う剣士だ。


放たれた剣は魔術の媒介としても使え、剣を起点に魔術を使うことができるのだ。


厄介極まりない敵を前にソラはどうやって突破するかを考える。そんな中騒ぎを聞きつけた騎士団がやってきて、ロトとソラを囲うように陣取る。


「速いなぁ動きが。防衛大臣を取り返したくて必死か」


「それは必死になるでしょう。それにしても・・・どうして(わたくし)も殺気を向けられているのかしら?」


ロトは不思議そうに顔似て終わてて疑問を口にする。ソラは腕と脚に装着している装備を確認して、自分を囲う騎士団に目を向ける。


そしてここに来る前の作戦でこちらに向かってきている近衛騎士団とは別物だと判断し、懐から”魔力筒(マジックシリンダー)”を三本取り出して魔術を起動する。


「【天嵐雷鳴フルゴーレ・テンペスタ】」


降り注ぐ雷の雨は最初の時と同じように騎士団を襲う。しかし騎士団は一斉に防御魔術を展開して一糸乱れぬ動きでそれを防ぐ。それに合わせてロトも動きだし、一気にソラに向けて駆け出す。


七本の剣が一斉にソラに切っ先を向けて一気に殺到する。ソラもロトへ向き直り、魔術を維持しながら襲ってくる剣に対処する。七本すべてを拳と脚で叩き落し、接近してくるロトへ拳を叩きつける。


その拳にロトは手の裏を合わせていなし、むしろそのまま懐へ入り込む。両手に一気に魔力を集中させ両手の手のひらをソラの腹に叩きつける。


「【双覇衝(そうはしょう)】!!」


衝撃がソラの身体を突き抜け内臓を揺らし、吐血を誘う。口から血を吐きながらも膝蹴りをロトに叩き込み体を浮かせる。そのまま背中目掛けて両拳を握って振り下ろす。


だが背中に雷光を纏った剣が颯爽と現れてその一撃を防ぎきる。そして今の一撃で魔術の維持ができなくなって霧散したことにより、周囲の騎士団がソラへ襲い掛かる。


ソラは目の前の剣を手に握って逆にその剣に集約されていた魔力を使用して周囲に向けて雷でできた斬撃を解き放つ。放たれた斬撃は騎士団に命中せず、構えた盾によって防がれる。防いだ騎士たちは全身が痺れてその場に崩れ落ちるが、後ろに控えていた騎士たちがソラに向けて駆け出す。


ソラはロトを掴み、そのまま突進してくる騎士の一団の一部に投げつける。ロトは投げられながらも自分の剣を呼び戻し、そのまま受け身をとりながら騎士を巻き込んで着地すると、剣を周囲に浮かばせて全方位に警戒心を露わにする。


襲ってくる騎士たちにソラは体内で魔力を循環させて身体能力の底上げを行い、まず一人の顔に拳を撃ち付ける。その一撃で顔が陥没し、命を散らす。その騎士の亡骸を掴み反対方向に勢いよく投げ飛ばし、向かってくる騎士を牽制する。


仲間を受け止めた騎士はそのまま高速で接近してきたソラによって首の骨を折られ、手に握った剣を強奪されると周囲の騎士に剣を振りぬいていく。


騎士たちはソラに対応しようとする。だがソラは剣を逆に手放し、その場から大きく後退する。


なぜそんなことをしたのか考えることなく、頭上より巨大な火の球が降り注ぐこととなる。それを回避したソラはそのまま反転し、ロトへと向き直ると地面を強く蹴って肉薄する。


ロトは目の前に立つ騎士を斬り裂き、両手に握った二本の剣の魔力を解き放つ。闇と光属性の魔力が渦を巻き、一つの技へと昇華させる。


「【黒明一閃(こくめいいっせん)】」


「【斬天(ざんてん)】」


光と闇の斬撃と手刀がぶつかり合い、衝撃波をあたりに巻き散らす。互いの技は拮抗し合うが、徐々にロトが押され始める。まさか押されると思っていなかったロトは魔力を使いで込めていくが、一度押され始めた拮抗を戻すことはできず、そのまま弾き飛ばされてしまう。


ソラは追撃を行おうとするが、四本の剣が襲い掛かりソラの追撃を止めてしまう。ソラは一本を受け止め叩き折ろうとするが、凄まじい魔力の衝撃が発生し、むしろ吹き飛ばされてしまう。


吹き飛んだところへ生き残っていた騎士が接近するが、ソラはすぐに起き上がって両手の指先に魔力を集中させ、指による【斬天(ざんてん)】を放つ。


極細の斬撃は襲ってきていた騎士を寸断し、地面に亡骸倒れさせる。ソラは上がった息を整えつつ起き上がり、ロトのほうへ視線を向ける。


ロトも同じように立ち上がってはいるが、先ほどの攻撃で肩から胸辺りまで斬り裂かれ、血が流れ出ていた。


「本当にやりますわね。騎士は(わたくし)を襲ってきますし連携もありませんわ」


「情報の共有ができていないな。同士討ちなんざ見てられねぇさ」


「全くですわ。それにしても貴方一人でここに来ていますの?他の方は・・・まさか」


「ま、そうなるな。今頃本邸には人が入っているころだろう」


ロトはすぐに護衛すべき対象のほうへと向かおうとするが、突如として進行方向に巨大な砲撃が着弾し、爆発を巻き起こす。


ロトは撃ってきたほうへと視線を向けると、遥か後方でなんらかの魔導具の上で浮かんでいる遠距離手段を構えた部隊が佇んでいるのが確認できた。


ロトは舌打ちを溢し、自身の失策を恥じる。


「まさか貴方が囮ですの?豪勢なことですわね」


「そのほうが大きい得物が釣れるのさ。お前みたいな、な」


「おっしゃる通りですわね。ですが、こちらの準備ももういいでしょう」


ロトは剣を構えるのをやめ、笑みを浮かべる。ソラはなぜそんなことをするのかと疑問に思うが、すぐに顔を上空へ向ける。


「もっと考えるべきでしたね。(わたくし)がここにいる意味。なぜあなたと戦っていたのか」


ソラの視線の先には燃え盛る巨大な岩がこちら目掛けて落ちてきている最中だったのだ。


「本当に嫌になりますわ。貴方たちのような人と戦うのは。【五重結界】」


剣を媒介にしてソラと上空の岩を囲うようにして結界が張られる。結界の中でソラはしまったという顔をし、そして迫りくる暴威を前になにかをしようとする。


そして巨大な岩は着弾し、この街を大きく揺らすのだった。






























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