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任務の最中で

一本の道があった。天井付近の壁には明るい光源が等間隔に設置され、通路内を明るく照らしている。しかし途中途中で光源が切れており、一部分は暗闇が生まれる。壁も至る所が崩れ去り、奥にある部屋が見えている場所もある。


そんな場所を一人の男が周囲を警戒しながら速すぎず遅すぎない速度で進んでいく。時折崩れた壁の向こうの部屋を覗き、中の様子を探る。そのうち一つの崩れた扉の前で止まり、中に入り込む。


中に入ると同時にソラは天井付近に明かりを産み出し、そのまま停滞させる。明るくなった部屋の中には散乱した書類や何らかの液体が床に飛び散っているのが見える。さらに部屋の奥には何らかの肉片が落ちており、その周囲には大きく血痕のようなものが広がっていた。壁の至る所にも肉片の様なものや血の跡が飛び散っており、状況からだと何かが爆発したようにしか見えない。


男はそんな光景に眉だけを動かしながら地面に散乱している書類の一部を拾い上げると、その内容を読み進める。


そこにはここで行われていた実験の経過報告が書かれており、どういう刺激を与えたら対象の実験体がどのような反応を示したなどが記載されていた。さらに他の書類に目を通すと、ここで行われていた実験の内容が見えてくる。


「複製実験。同一の存在を作り出す実験か」


マスクによって少し籠ったような声がその場で漏れる。少し若い声だとは予想できるが、どのような声なのかははっきりとはわからない。隠れていない蒼い瞳は冷静にその資料を読み進めるために忙しなく動いている。


この男──ソラ=アマハレは依頼によってこの場所に訪れていた。依頼者は素性を明かさずに内容だけを伝えてきており、普通なら断るところだった。ソラは長年傭兵業のようなものを続けており、中でもそういう素性の明かさない怪しい存在は信用できない場合が多い。自身の命を狙う存在の可能性もある。そんな場合もあったのだ。そんな経験が何度もあるため、ソラは怪しい素性の輩の依頼は受けないようにしていたが今回は違った。


前金の量が異常だったのだ。


通常の相場であれば5万円ほどの依頼だったであろう。しかし今回はなんと前金で20万も用意されたのだ。成功報酬で成功した暁には80万も寄越すとのことだった。ソラは一瞬で手を差し出し、その怪しいやからと握手をしていた。


そして現在の状況に至る。依頼内容は調査依頼で少し前に消息不明となった研究所を調べてほしいとのことだった。どうやらどこかの機関に所属しているらしく、確認の部隊を送ったがその部隊との連絡も取れなくなってしまったとのことであった。そのため死んでも痛手にならない傭兵であるソラに依頼が舞い込んできたのだ。


ソラは研究内容の書類を一度近くの机の上に置き、自分の腕に付けている時計を二回タッチする。すると空中に画面が現れる。ソラはそのまま腕時計の前に一枚ずつ書類を持っていくと、時計から光が放たれ、書類をなぞり始める。なぞった書類の内容は画面の中に一言一句たがわずに反映されていき、グラフすらも反映される。


映写魔術と呼ばれるもので光で照らしたものを読み取り、別のものに映し出す魔術である。そしてその魔術は情報魔術によって統制されているデジタルネットワークという空間に保存される。電脳空間と呼ばれる場所でどうやら疑似的に一つの世界を創り出し、その世界は情報というものだけで構成されているとのことだ。詳しいことはわからないがそこに接続できる道具を使うことで、そのネットワーク内にある情報を閲覧もできるし、反映させることもできるのだ。


ソラはプロテクトのかかっている自身のネットワークストレージの中に今コピーしている情報を保存していき、ある程度情報を映写し保存し終えると、ソラは部屋の中を照らす魔術を消し、また通路へと戻る。そしてそのまま奥へと進んでいき、同じようにふらりと部屋の中に入っては書類や部屋の写真を保存していく。


さらに奥に進むと少し大きな広場の様な所に出る。そこはまだいくつか明かりが残っているが、少し暗い場所が多くなっていた。ソラはいくつか明かりとなる球体を自身の周囲に生み出し、それらを広場に至る所に浮かばせ始める。


明るくなった広場にはいくつものまだ新しい死体が散乱していた。ソラは近くにあった壁にもたれかかるようにして死んでいる男性に近付き、死因を調べ始める。まぁ遠目に見ても明らかで体の中心に大きな穴が開いていたのだ。


ソラはその断面を見、それが魔術によるものではないと判断する。魔術によって生じた傷ではその傷を作り出すことが難しいためである。なんらかの鋭利なもので貫かれたような跡だったのだ。土属性の魔術であれば大地を変質させて使用する魔術のため物理的な穴を作ることはできる。しかしその場合壁にも傷をつけるはずである。


しかし壁にはそんな傷はなく、少し上のところに血痕が大きく広がっており、そのまま地面に落下したような跡が残っていた。そこから推測するに、何らかの鋭利なものが刺さったと振り回され、その鋭利なものからこの死体が抜けて壁に激突したのだと推測できる。


ソラはそう判断するとともに立ち上がり、注意深く周囲を確認し始める。


死因を推測したことでこの場所に何らかの敵性存在がいたのだと判断できる。そしてその存在はこの場所でこの男の部隊と戦い、どこへ行ったのか?答えはすぐにわかることとなる。


突如ソラの足元の影が大きくなる。ソラはそれにすぐ気が付くと同時にその場から前転し受け身をとる。それと同時に何かが落下してくることで衝撃とともに先ほどまでソラがいた場所に土煙が舞う。


ソラが煙を注視していると煙を突き破って一体の狼が牙を大きく開けて襲い掛かってくる。ソラは迎撃のために拳を握り締めて構える。そのまま素早く正拳突きを放ち、狼を殴りつける。しかし狼は一瞬でその場から消える。蒼い粒子を残し消えたその狼は気が付けばソラの真後ろに移動していた。


三メートルほどの巨体がソラを食い破ろうとするが、ソラは振り向きざまに蹴りを放ち、狼の鼻先を横から蹴りつける。それによって噛み付きの軌道がずれて地面と激突する。犬の様な悲鳴を上げて地面でのたうち回る狼を見て油断なく構えるソラ。


その狼の名前は”フラッシュウルフ”と呼ばれる魔物で自身に速度強化のバフをかけることで高速移動が可能な狼型の魔物である。凄まじい速さで移動でき、移動する前の場所に自身の魔力の軌跡が残り、その軌跡を見たものは命がないと言われている凶悪な魔物である。


ソラは立ち上がって敵意剥き出しにうねり声をあげるフラッシュウルフと睨み合い、そしてぶつかり合う。































10分後、広場には一体のフラッシュウルフの死体が出来上がっており、その体からは煙が上がっており広場には焼け焦げた臭いが充満していた。ソラは額の汗を拭うと広場を調査し、広場内にある死体を数える。死体の数と元々ここに送り込まれた部隊の人数が一致したことで、全員このフラッシュウルフにやられたのだとわかった。


しかしなぜこんな場所にこんな危険な魔物がいるのかがわからないソラ。だが直前に見ていた研究内容の書類を思い出し、どこかで入手したフラッシュウルフの素材を基に複製体を産み出したのだろうと判断した。


「すでに複製体を産み出せる技術はあるってことか・・・恐ろしい話だな」


複製体を産み出せる技術があるのであれば、無限に軍隊を作ることが可能ということである。今回のフラッシュウルフのように素材さえあれば新しい複製体を作り出し、その複製体を基にすれば永遠に造り続けることが理論上可能だと拾った書類には記載されていた。ソラはそれを肌で感じながらも誰もいない広場を一通り索敵魔術で確認すると、奥へ続く通路へと進む。


そのまま進んでいくこと5分。辿り着いた場所は頑丈な扉。しかも扉は爪痕がびっしりとつけられており、この場所までフラッシュウルフがやってきていたのだと判断が付く。どうやらこの研究所はフラッシュウルフによって壊滅したのだと悟ったソラは、頑丈な扉をどうにか破壊しようとする。


手で扉に触れ、材質を確かめていく。そして少し表面を叩き音の反響具合で大体の厚さを掴んだソラはそのまま拳を握り締め、体内の魔力を循環させる。高速で循環した魔力は右拳に集約し、それが解き放たれる。


「無天流【撃天(げきてん)】」


放たれた一撃は扉中央に直撃し、一気に扉をくの字にひしゃげさせる。奥のほうから何やら物音が聞こえたが気にすることなく二撃、三撃と拳を叩き込み、四度目の拳撃でようやく扉が部屋の奥へと吹き飛ぶ。右腕に装着しているガントレットから白煙が吹き上がるがそれを無視したソラは部屋の中に入り、明かりを灯す。


するとその部屋には数多くの大きなガラス管が用意されており、そのガラス管の中には何らかの液体で満たされている。しかしその液体の中には様々な魔物の姿が浮かんでいた。中には先ほど倒したフラッシュウルフの頭すらも浮かんでいた。それらのガラス管の中にはすでに息絶えた状態の魔物たちが未だに浮かび上がっている異様な光景であった。


ソラはそんなガラス管の集団の中を進んでいき、部屋の奥へと進む。


部屋の奥には未だに動き続けるひと際大きな機械の様なものとそれに繋がれている水槽があった。その中には何らかの魔物の素材が浮かんでいた。なんらかの翼の様なものの一部であることはわかるが、その全容はわからない。しかし一部だけでも2mはありそうな代物であり、どのような魔物なのかは想像がつかない。


「これは・・・」


「ふむ?君はもしや救援部隊の人間か?」


ソラは部屋の中に入った時点で索敵魔術を使っており、その魔術の範囲内に生存者がいることは把握していた。声のしたほうへゆっくり振り返ると、そこには傷だらけの白衣の男が震えながら立っていた。


「いや救援部隊じゃねぇな。俺は救援部隊の消息を確認するためにここにやってきたんだ」


「なるほど。つまり全滅したのか救援部隊は。ある意味で成功だがある意味で失敗だな」


「お前ら・・・ここで一体何をしていたんだ」


そうだな、と白衣の男がこの研究施設でやろうとしていたことを説明し始める。


元々この施設はとある組織の出身で発足した研究チームの一部の施設である。研究目的は複製体と呼ばれるものの作成。複製体──まぁクローン技術と呼ばれるものだがそれを確立することによって臓器の複製や失われた部位の再生、更には今後医療への発展のための実験体の作成など様々な用途が生まれ、そして科学技術が進歩する!これは遥か昔に栄えていた世界を再現することに他ならない。過去の世界では今とは違い科学技術が発展していたとされている。それは過去の遺跡を調べればわかることで、魔力なども存在しない世界だったのだ。そんな科学技術が今よりも何世代も進んでいる技術を再現したいと思うのは研究者としては当然のことだろう!そして我らは研究し、もうすでに5年ほどが経過した。そしてようやく複製体の作成に成功したのだが・・・なんと本能までそのままで作成したため研究所は崩壊。壊滅してしまったのが現状だ。


「自業自得か」


「くくく、そうとも言うな。だが成功はした。次は人を試さねばならないのだが・・・なかなか難しいのが現状だろうね」


「よくわかってるな。そういうのは教会が許さないだろうしな。それにこの研究所は終わりだ。やり直すにしても時間はかかるだろう」


「確かにそうだ。だからこそまずは帰らねばならない。すまないが護衛を頼めるかな?」


そう言って研究者が近寄ってくる。ソラはふらふらと歩く研究者に近付き腕を前に出す。前に出すといってもまるで突きのように放たれたその腕は研究者の胸を正しく貫いた。鮮血が周囲に舞い、研究者は驚愕の顔でソラを見る。


「悪いな。嘘をついてた。俺の目的は生き残りの排除だ」


「ば、か・・・な・・・」


そう言い残し、研究者の瞳からは光が消える。実は消息を絶ったのはソラに依頼をしてきていた組織の人間ではあるが、その消息不明の組織の人間は潜入スパイだったのだ。そのため敵対組織の研究施設であるこの場所を発見し、どうにかしようとしたのだろう。しかし結果的にはフラッシュウルフにより施設は壊滅。敵対組織の救援部隊もそれによって壊滅したのだ。ソラは生き残りの確認と研究者の排除、そして研究資料の確保が命じられていたのだ。


ソラはそのまま部屋の奥へと進んでいき、部屋に設置されている端末に依頼者からもらった何らかのチップを端末の差込口に刺す。するとチップが光だし、それに合わせて端末の画面も忙しなく動き出し始める。どうやら中身のデータを抜き取り始めているのだろう。


忙しなく動いていた画面が止まり、チップの先端が青く輝くのを確認し抜き取ると、それを懐に直し込む。


ソラはそのまま端末を操作し施設の見取り図を探そうとするが、端末の中にそれらしいものが出てこない。ソラは仕方なく端末から離れ、部屋の中を探り始める。ソラはこの部屋の中の者だけが研究成果だとは思っておらず、必ず他にも何かがあると踏んでいた。


そしてその考えの正しさを証明するように、一部の壁からなんらかの魔力反応を感じ取る。ソラはその壁に手を添えて弱い雷撃の波を放つ。すると壁の向こうには通路が広がっているのがわかる。ソラは添えていた手をそのまま拳に握り、力を籠める。


それだけで壁は粉砕し、奥の通路が姿を現す。ソラはそのまま通路の奥へと進んでいき、一つの部屋に辿り着く。そこには一つだけ巨大なカプセル容器が中央に用意されており、その中では一体の魔物が浮かんでいた。ソラはそれに近付き、まじまじと眺める。


「なんだこいつ?」


『へぇ?今の人間はすごいね。まさかここまでのものを再現できるなんて』


ソラ以外の声が聞こえる。声の主はソラの隣に現れた金髪褐色の幼女。どこから現れたのかはわからないが、体全体が少し透けて見えている。


「わかるのか?」


『これはワイバーンの複製体をどうにか弄って竜に近づけようとしている途中ってところだね』


「竜種を作り出そうとしてるってことか。可能なのか?」


『可能か不可能で言えば可能だよ?でもそれは人造竜種って扱いになるから通常の竜種とは完全に別の存在になっちゃうかな。肉体の再現はできても中身は無理って感じ』


「魂の問題ってことか。だが肉体だけでも再現できればそれは脅威だな。しかもワイバーンから改造して造れたら凄いことになるな」


ソラは一応この部屋の写真を映写機に収めると、近くの机にあった端末を操作する。しかしうんともすんともいわないためデータの削除が行われているのだろうと判断した。


ソラは他に資料がないかを探すが、先ほどの部屋とは違ってさらに重要だったためか些細なデータも残されてはいなかった。ソラは仕方ないと判断し、容器を叩き壊すことで中にいた竜擬きを外へと排出すると、そのまま指を鳴らす。


その瞬間竜擬きの身体に斬撃が幾つも叩き込まれ、ばらばらに分断されてしまう。血が地面に散乱するのを確認し、ソラは元きた道を戻り始める。半透明の存在も同じように隣を浮きながらついてくる。


『にしてもすごいね人間は。まさかこんなものをまた作り出せるなんてね』


「複製体の話か。医療系にのみ特化した技術なら良いことになるんだろうが、俺が想像する複製体技術は無限の兵士だからな」


たった一人の優秀な存在がいたとしよう。そんな存在を複製体技術で無限に増殖できた場合、最強の軍隊が本当に誕生してしまうこととなる。


『遥か昔にそんな技術が生まれ、そして同じようなことは起きたんだよ?』


「時代を繰り返してるじゃないか。だがまぁ振り返るべき歴史がわからないとそういうこともわからないもんさ。じゃあ帰るか。任務完了だ」


半透明の存在は笑みを浮かべた後にそのまま霧散して消える。ソラはそれを確認すると研究所の外へ向けて歩き出すのだった。





















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