第50話:フィリア王女の心の成長
他国の王女と会ったことでクラウドはラナベルが出会った頃から変わらないことに気付いた。
が、
〝まあ、4年だからな、子供だった僕の4年は大きな変化があっても不思議じゃないけど、ラナベルのようにある程度大人になっていたなら4年なんて微々たるものなんだろう。〟
と、それ以上深く考えずにスルーすることにしたのだった。そうしてアテリア伯爵と合流して伯爵邸へと馬車で戻って行った。
ここにジャポスカがいたらきっとキチンと正してくれただろうが、今は遠く離れていない。
夕方フィリア王女は落ち着いたひと時を趣味の刺繍を刺して過ごしていた。そしてフィリア王女はふと手を止めて昼間に会ったクラウドとの時間を思い出していた。
〝あんなに話が出来た男性は彼だけだわ。私って、緊張しすぎて他の男性とはまともに話も出来ないんだもの。〟
そんなフィリア王女に専属侍女がお茶を出して
「王女様ったら、いつもよりも楽しそうで、ようございました。」
と、ほほ笑んだ。
侍女たちにまで言われるくらいフィリアはクラウドとの時間を楽しんだようだ。
「ふふ、そうね。お母様には御礼を申し上げないと…。」
そう思っていたら母のキャロル即妃がフィリア王女の元にやって来たようだ。
「王女様、側妃様がお見えになりました。」
「あら、ちょうどよかったわ。参ります。」
フィリア王女の部屋は王女が個人的に過ごす部屋と来客が来た時に過ごす部屋が扉で区切った造りとなっている。
側妃はフィリアの母親なので個人の部屋に通せばよいのだが、側妃の方が〝娘のプライベート区分〟には娘の許可なしに入室する気がないからだ。敢えて来客用の部屋から入室するのだ。
フィリアも母に直接来ても大丈夫だと何度か言ったが、母には母の思惑があるようでひかなかった。
フィリアがこちらの部屋に来る前に既に専属侍女たちが母の側妃にお茶を出していたようで、母はお茶を口にしていた。フィリアは声を掛ける。
「お母様、お待たせ致しました。」
「まあ、フィリア。あなたと会えるならどれだけだって待てるわよ。ふふっ。それで?今日は素敵なお客様をおもてなししたそうね。どうだったの?」
「お母様、流石お耳が早いですね。」
「ふふふ…。」
「お母様のお陰で何もかも順調です。ありがとうございます。」
カチャ…。ティーカップを置く。
「さて、本題に入りましょう。どうやら第一王子が何故かあなたが今日、隣国のポルモアの者と会っていたと言っていたらしいわ。国王より問われたので、計画通り、私の実家で取引を持ち出したことに対するお礼の為におもてなしをしたのだと言っておいたわ。国王はそれで納得して下さったから、誰かが今後指摘してきてもそれ以上問うことは出来ないわね。」
「そうですか。ポルモアからの申し出にはこの事を予測しての事だったと、今日の使者は言っておりました。そのようにしてよかったです。彼らは私たちの王位争いのことを存じておりました。その上で民のために協力をしてくれたようです。」
「そうなのね。あちらは本当に王族だけでなく、幅広く医療が充実していると、今回の件でわかったわね、せっかくの協力を無駄にしないように、フィリア、あなたがしっかりと責任を持って対応なさい!」
「はい、お母様。」
側妃キャロルは強く頷いた。
二人は同じ目標に向かって再び志を一つにした瞬間だった。
側妃キャロルは娘が内気な性格だから王には向いていないだろうと思っていた。しかし、今の娘は「民のために医療を充実させる」という目標を持って自信に満ち溢れているのだ。結果がどうなろうとも、その目標だけは自分もしっかりと支えて成し遂げられるようにしてあげたいと思ったのだった。
「それで?どのような方だったの?お相手の使節団長は。」
「ふふっ、それがお母様、とっても素敵な方でしたのよ。」
キャロルは驚いた。〝男性〟のことを聞いて娘が笑ったことなどなかったからだ。常に平常心で特別感情を表に出す事すらない上に、フィリア自身を見ない相手達にウンザリしているのを知っていたからだ。
「まあ、珍しいわね。あなたがそんな風にお相手に関心を持つなんて…。」
「そ…、そうかしら?と、とにかく、お話の仕方もとても自然で、私が困らないように細やかな気配りさえ感じたわ。まだ14歳なのに…。」
「えっつ!?14歳???」
「そうでしてよ。」
「そんなに若くて大丈夫なの?!使節団長でしょ?14歳だなんて、まだ成人にもなっていない子供じゃないの!そんな人を寄越すなんて随分なめられたものね‼」
キャロルは怒りを露わにした。ハンダルでも成人と認められるのは18歳だ。それはポルモアと同じなのだ。そして、ハンダルの14歳の男性は皆、まだまだ子供で頼りないのだ。王族でさえ、16歳であってもまだまだ未熟で頼りないのだ。もうとっくに成人を迎えた今でさえもガサツな性格の王子もいるくらいだ。だから余計に心配になったのだろう。
「お母様、彼に会ってもいないのに、ただ年齢だけで全てを判断してはいけませんわ。私も年齢を聞いた時はびっくりしましたが、本当に落ち着いていて、14歳だと言われなければ見た目が若い成人したての男性だと思ってしまう程ですもの。」
フィリアがそう説明するとキャロルは落ち着きを取り戻した。
「お前がそこまで言うなんて…。私も一度会ってみたいよ、その者に。」
「わかりました。彼の都合の良い日に来てもらいましょう。しかし、まだしばらくは体制が落ち着くまでは難しそうね。」
「よい、それくらいは待てる。私はそなたが王に選ばれることを望んでいるのだが、そなたはそれを辞退するのだろうな。」
キャロルはフィリアをジッと見つめて言った。
元々気の弱い娘なのに、このように人との争いの中に閉じ込めてしまった自分を嘆いているのだ。
「お母様、その時になってから考えます。ですが、今、私はこの医療の充実に全てを注ぎ込んでいきたいと思っているのです。それは私が王族である今しか出来ないことだと思っています。だから私は今回の事を感謝しているのです。今回の王位争いがなければ、私はこのシャンデリアが輝くお部屋、自由に浴びることの出来る湯あみ、侍女たちがお世話してくれる環境に困ることのない食べものと医療、溢れるような本たち…。本当に恵まれていたということに気付けなかったのですもの。」
「フィリア…。強くなりましたね。私はあなたを誇りに思います。あなたの全てを応援しているわ。いつでも頼りなさい。」
「はい、お母様。ありがとうございます。」
そう言って二人はギュッと抱きしめあった。
ご覧下さりありがとうございました。
今回はフィリア王女と母の側妃キャロルを中心に話を書きました。内気で人見知りのする娘を心配しつつ、王宮以外の世界を知って衝撃を受けて目標を持ったフィリアはどんどん強くなっていくのを傍で見てきっと嬉しいでしょうね。
次回もお楽しみに!




