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002.ぼっちでダンジョン攻略

「さて、これからどうするか」


 思えば、ずっとパーティを組んでいたのでソロは久しぶりだ。

 地元の村から街に来て一年。これまでは中級クラスのダンジョンでも魔法なしでなんとかなってきた。

 しかしこれから上級を目指そうというパーティなら確かに魔法なしでは厳しいのかもしれない。

 

一人で歩く街の喧騒が、やけに騒がしく感じる。これまでもクエスト後の帰り道は、いつも一人だったのに。この街の大通りは、こんなに広かっただろうか。そういえば初めてこの街に来たときも同じことを思ったものだ。


 悲しい限りだ。前衛の仕事は全うできていたと自己分析していたのだが。昨日今日思いついた話ではないだろうから、おそらく中級に上がる頃から代わりの前衛を探していたのだろう。


 まあ、終わったことをあまり気にしても仕方がない。やはり多少は心配だが、あのパーティにはジャスミンがいる。よほど無茶をしない限り大丈夫だろう。


 それよりも、せっかく一人になったことだし自分がどこまでやれるか挑戦してみたい。

 不思議なもので俺一人なら魔法が使える。しかもこれが中々強力だ。

 挑戦の果てでゆくゆくは魔王も俺が一人で倒して、勇者になってやる……なんて。流石にいきなりは厳しいか。それよりも、まずは魔法が使えない原因を突き止めることが先か。

 焦る必要もないが、決まったら善は急げだ。


 最低限の装備を整え、暗い気分を振り払うように街からほど近いダンジョン攻略に向かった。


 グランドケイブ。


 魔獣の数が少なく、最奥までの距離は短いが、そのかわりに一体一体の魔獣が大きく、手ごわい。

 ジョー達は魔法で一網打尽にするのが好きだ。ここなら鉢合わせということもないだろう。

 そもそもあいつは支度も遅いしな。

 見上げるほど大きく口を開いた洞窟に、俺は足を踏み入れた。



 ソロは久しぶりなので、パーティにいた頃に攻略していた中級レベル帯のダンジョンを選んだ。

 薄暗い洞窟だったがぼんやりと壁全体が光っており、明かりがなくとも視力の補助に大きく魔力を割く必要もない。足元も魔獣に踏み慣らされているのかしっかりしている。


 少しずつ下っていく洞窟で俺は何度か魔獣と遭遇したが、これを斬り捨てた。魔獣を十体ほど倒したところで俺の中に疑問が湧く。サイズこそ大きいが、どうも相手の魔獣が弱すぎる。危なくなればすぐに引き返そうと思ったが、これなら魔法に頼るまでもない。中型、大型のオークやガーゴイルが多いが剣の一振りでほぼ瀕死、あるいは消滅してしまう。


 今までは魔法で一網打尽にするというパーティ方針だったからタンク役の俺は適度に加減していた。

 今回は加減をしなくていいにしても弱すぎる。知らないうちにダンジョンの適正レベルが下がったのか?これは選ぶダンジョンを間違えたかもしれない。

 当たり前だがソロだと魔力は俺一人分しかない。貴重だしボスまで取っておくつもりだった。

 だが、このままだと撃たずに終わってしまいそうだ。

 そろそろ試してみようか。そう思っていた矢先のことだった。


「きゃあっ!」


 奥から悲鳴のような、かすかな声が聞こえた気がした。



 急いで奥へ向かうと広い洞窟のさらに広いスペースへ出た。

 そんなに長い道のりではなかったが、ボス部屋だろうか?

 見回すと、部屋の脇にワイバーンが3体集まっている。

 おそらくさっきの声はあそこからだ。


「く、来るなっ!」


 魔獣も少女も、どうやらまだこちらに気づいてはいないようだ。

 ワイバーンの爪が彼女に迫る。間に合うか?


 ザンッ!


 大木の幹ほどあろうかというワイバーンの腕が胴体から離れ、地に落ちる。ずしんとした衝撃とワイバーンの叫び声が広い洞窟に響いた。


「危なかったな。大丈夫か?」


 こうして、ワイバーンに襲われていた少女を助けたのだった。


「しまったな。つい癖で斬りこんでしまった」


 魔法を試す絶好の機会だったかもしれない。

 しかし、俺の魔法発動率は99%。

 1%でもし不発だったらこの少女を危険にさらしていたことを思えば、悪くない判断だったか。

 不安要素のある魔法よりも己の肉体と剣術の方が信頼に足る。


「あ、ありがとう……あなたは?」

「正義の味方さ。話はあとにしよう。じっとしてな」


 怒りのままに仕掛けてくるワイバーンを一閃。残り二体のワイバーンも一太刀で終わった。

 やはりおかしい。弱すぎる。ボス級のワイバーンが三体いてもこんなもんか?


「あのワイバーンを一瞬で……あなた、何者?」

「通りすがりの冒険者、アレク・サンドーラだ」


 俺は名乗りながら、改めて声の主を見やる。

 ショートの黒髪、まだ怯えの色が残るが大きく赤い瞳が宝石のように輝いている。顔立ちははっきりしていて美人タイプだが、体つきは華奢で幼い印象がある。年齢的には少し年下だろうか。一番目を引くのは、やはり猫耳。猫魔族だ。


 魔族が人族と違う点は、見た目には動物的な身体特徴をあわせ持っていること。そして得意な魔法が種族ごとで統一されている。代わりに人族より強力な場合が多い。猫魔族は確か、身体強化が得意だったはず。


「そう、アレク。強いんだね……でも、早く逃げた方がいい」

「あいつか?」


 振り返ると、マッドサイエンティストという言葉の似合いそうな何者か。男か女かすらもわからない。


「ああ、あなたが捕まえてくれたんですね」


 こもった低い声に応えてみるとしよう。話し方に抑揚はあるがどうも感情がこもっておらず、表情はマスクで読めない。


「捕まえた、というのはこの少女のことをですか?」

「もちろん」

「貴方は?ここで何を?」

「ただのしがない研究者ですよ。このダンジョンの隠し部屋に私のラボがあるんです」

「彼女は?」

「ん?少し研究に協力してもらっているだけですよ。さ、こちらへ渡してください」

「わかりました。少しお待ちください」


 俺は振り返って猫魔族の少女に近づいた。


「ひぃっ……!」


 先ほどの問答で怯えさせてしまったか。

 これ以上警戒されても困るので剣は鞘に納めておこう。

 そして更に近づく。壁際なのでこの子に逃げ場はない。

 俺は腰を落とし、おびえる少女に目線を合わせて声をかける。


「君はどうしたい?」


 俺なりにできるだけ優しく、尋ねてみた。


「うっ、うう……も、もう戻りたくない……でも、そんなこと……」

「ここに正義の味方がいることを忘れたかい?」

「あなた、殺される……それなら……逆らわない方が……」

「心配してくれるのか?優しいんだな。大丈夫、俺は強い。それにな、困ってるなら人を頼ってもいいんだ」


「……助けて、アレク!」


 泣きながら絞り出した本音。


「よく言った。頑張ったな」


 頭をなでてやる。彼女の思いに俺も応えよう。


「そういうわけだ、彼女は俺が引き取るよ」


 振り返るとマスク野郎は何かを口にしているようだ。薬のようだ。


「そういうと思ってました。こちらも君を殺す準備はできています」


 みるみる体つきが変わり、魔力も増大している。何を研究すればああなるのだろうか。ほうれん草か?


「ふははは。肉体強度は三倍、魔力は五倍というところか!」


 薬にはハイになる効果もあるらしい。


「研究の成果を試してやる!簡単に死ぬなよ?」

「奇遇だな。こちらも魔法を試してみたかったんだ」

「ははは、遅いわ!」


 言うが早いか、マスク野郎が拳を振り上げて突っ込んできた。


「アレク!」


 背後から少女の叫びが聞こえる。

 直後、一瞬の閃光ののち、凄まじい轟音が響いて煙が巻き起こった。



 しばらくたって爆風が治まると、先ほどまでマスク野郎がいた場所には焦げ臭さとともに真っ黒になった塊が残っていた。


 雷魔法【極大】雷撃。


 発動した瞬間に相手を撃ち抜く雷、これが俺の魔法だ。一般的な炎魔法や風魔法だったら発動が間に合わずぶん殴られていたところだ。


「すごい……一撃で……」

「思ったより威力が高いな……道中使わなくて良かった」


 自分の魔法について少しだけ内省したところで、あっけに取られた少女に声をかける。


「大丈夫かい、お嬢さん」

「はい……あ、ありがとうございました!」

「いいってこと。動けるか?えーと……」

「はい、あの、あたしルビーです」

「そうか、ルビー。よろしくな」

「よろしくお願いします」


 それにしても、と続けるルビー。


「最初の剣、すごかったです!突然現れてあのワイバーンの腕を切り落としたのはびっくりですよ!」

「大げさだな。あれくらいは誰でもできるだろう」

「あのワイバーンはレベルもそうですが薬で強化されていたんですよ?並の冒険者なら傷をつけることすら難しいはずです!それを一撃でズバッと!」


 名前通りルビーのように瞳を輝かせ、切るマネをしてみせる。意外と年相応のはしゃぎ方だ。


「それにあの魔法!あんな土壇場で、あんな強力な魔法が撃てるなんて!あの、失礼ですが発動率はどのくらいなのですか?」

「条件付きだが99%だ。」

「きゅ……99%!?発動率が高いと魔法の威力は低くなりがちなのに、99%ですか?それであの威力……もしかして伝説の勇者様?」

「そんな大層なものじゃない。俺の魔法はパーティを組むと発動しないんだ。だからある意味発動率0%、笑えないだろ?」

「そうでしたか……でも魔法以外のスキルは別でしょう?」

「まあ、そうだな」


 スキルと魔法の違いのわかる人と会えるとは。人族と魔族の常識は少し違うということか。

 簡単に言えば魔法はスキルの一つでしかないが、多くの人族は一つの魔法しか使えないがためにそのことを忘れている。


「それで、あいつはここで何の研究をしてたんだ?」

「肉体と魔力の強化ですが、もともとは発動率に依存しない戦闘力強化が目的だったみたいですね」

「何だって?本当か?」

「ええ。私、不本意ながら助手をしてましたので間違いないです」

「じゃあ、ちょっと家探ししていくか」


 それから研究室を調べたが、どうやら猫魔族の身体強化を参考に薬で再現できないか研究していたようだ。

 残念ながら俺の欲しかったパーティで魔法が使えるようになる、という内容は見当たらなかった。

 ただ、一つだけ気になったのは。


「成功確率の起源について?」

「あ、それは魔族の間に流れる都市伝説みたいなものです」

「都市伝説?」

「はい。魔法の成功率は、かつての魔王が邪神復活のために施した呪いだ、という噂ですね」

「どういうことだ?」

「つまり、魔法が失敗するときに消費した魔力を集めて、その魔力を使って邪神を復活させようとしているのでは?ということです」

「なるほど。面白い話だな」

「あくまで都市伝説、噂ですけどね」

「眉唾っぽい話の方が人の興味を引くもんだ。さてと、他にめぼしいものもなかったし、もう出ようか」

「はい!」


 俺はルビーを連れて、いったんギルドへ報告に戻ることにした。

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