森の異変と、厚木の夜
4話が抜けていたので5月19日に割り込みで投稿しました。
今回のは、二章のプロローグとなります。
まだ、ストックは十分ではないですが、少しづつ公開していければ、と
そこは深い森の奥。
帰らずの森と呼ばれるダンジョンの最深部。
人気は一切無く、遠くから狼の遠吠えが聞こえる。
日はすでに落ち、パチパチと燃えるたき火のみが唯一の光源だ。
そこに、一人の男が座っている。
40歳くらいだろうか青白い肌に、白髪が混じり始めた長い髪。
猛禽類を連想させる鋭い視線が神経質そうにキョロキョロと周囲を探っている。
せわしなく周囲を探っていた目が、一定の方向に固定される。
「だ、誰だ?」
僅かにうわずった声が暗闇に向けて発せられる。
「ほほー、私の気配を察することが出来るとは、さすが転生者ですなぁ」
暗闇から声がする。
それは、どこかからかいの色を含んだ老人の声だ。
音もなく暗闇から現れたのは、浴衣姿の一人の老人。
枯れ木のような手足に腰には一本の刀を下げている。
刀がなければどこにでもいそうな老人。
ダラスから見ても隙だらけに見えるのに、本気で襲いかかったとしても、勝てる気がしない。
そんな不思議な雰囲気をこの男は纏っている。
「それにしてもダラス殿。まだ起きておられるとは、こんな森の中、やることもないでしょうに」
「ふん、最初はそうしようと思ったさ。だが、こんな不衛生な場所で私が寝れるわけないだろう?」
テントの中には、どこから入ったのか、虫が這っており、ぶんぶんと飛ぶ虫の羽音がやけに耳につく。
とても、ダラスによっては寝れるような環境ではなかった。
「なるほどなるほど、しかし、なれて貰わなくては困りますな。まだ、この森の仕掛けはまだ完成していないですからな」
「ふん、そんなことは解っている。だからこそ・・・・・・」
そう話していると、突然、森の奥から悲鳴が響きわたる。
「おや、侵入者ですかな?」
悲鳴が響いても、まるで世間話をする風に喋る男。
そうしているとドタドタと足音を立てて一人の男が老人に駆け寄ってくる。
「た、隊長!あ、浅倉があの化け物に!!」
「おや、それは大変だ」
口ではそういうがまるで緊張感のない声でいう老人。立ち上がろうともせずに木の枝をたき火の中に放り込んでいる。
「た、隊長。あ、浅倉を助けていただけないのですか?」
「もう、手遅れであろうよ。まぁ、落ち着きなさい。ほれ、暖かいものでも飲みなさい」
「ふん、不用意に私の作品に近づいたからそうなったのだ。それとそこの男、あれは化け物ではない。あれは作品だ。私の作った作品だ。そこを間違えるな」
しかし、と男の口からこぼれそうになるが、言い出せない。
何といおうとあの化け物を何とかできる二人が動くとはない。
それが二人の態度から読みとることができたからだ。
「宮部か。あの男、不審な行動が目立ったあれか。案外、神奈川の密偵かもな」
「しかし、皇帝からいただいた兵を無駄にするとは頭痛い」
「そんなの厚木の町を滅ぼせば、なにも言われまい」
三人は、振り返る。
男は、恐ろしげに。
隊長と呼ばれた男は、おもしろげに
ダラス誇らしげに
三者全く違った視線の先にあるのは、森の中に蠢く球体の影。
腐臭とともに響くのは、ガリ、ボキ、と何かを食べる音
ゆっくりと、しかし確実に、厚木に驚異が近づきつつあった。
◇◆◇◆
一方、厚木の街。
この街にも一つの異変が起きていた。
そこは、とある一室。
そこにいるのは数人の男達、しかしまともな状況とはとてもいえない状況だった。
死屍累々。
そうとしか言いようも無い光景だった。
男達は、倒れ、ただ意味のないうめき声を上げるのみ。
「おい、しっかりしろ。リーダーっ!」
数少ない意識のある朽野は、このチームの中心である男の頬を叩く。
「く、ちるの、か。すまない、俺はどれだけ意識を失っていた?」
「5分程だ。大丈夫、まだ巻き返すことは出来る」
そう、朽野は答えるが、言う程余裕があるわけではない。
たかが五分。しかし、されど五分だ。
状況は常に動いている。長年の経験から、この五分が致命傷になることを肌で感じていた。
その日は予想以上の激戦だった。
苦しい戦いになることも予想出来ていた。
というのも、今まで楽な戦いなど、一度たりとも存在しなかった。
幾千もの戦場を駆け抜け、ただ一度の勝利もない。
それでも、朽野達は、その先にある理想郷を夢見て戦い続けてきた。
「おい、朽野、リーダーは!リーダーは大丈夫か?」
「ああ、だが、この戦いでの復帰は難しそうだ」
朽野の言葉に、仲間達の間に動揺が走る。
「お、おい、どうするんだ?今回の作戦、お前が要なんだぞ。ここで諦めるなんて」
仲間達の言葉も理解出来る。
しかし、朽野は、小さく首を振る。
「お前も解るだろう?リーダーの体はこれ以上は耐えられない」
死人のように真っ白な顔。すでに目は虚ろ。
誰が見てもまともな状況には見えない。
リーダーが潰れたことで戦線は崩壊しつつあった。
彼は、今回の作戦で中心的人物だった。
その理由は、彼が今回の敵が顔見知りであったことが大きい。
油断を誘うはずの作戦は、糸も容易く見破られ、逆に刃となって彼らを追いつめる。
リーダーがやられたことで、一度後方に下がったがいつまでもこうしている訳にはいかない。
どうすれば、と朽野は考える。
しかし、いくら考えようともその思考は纏まらない。
「やはり、撤退か」
朽野がぽつり、と呟いた言葉が彼らの肩に重くのし掛かる。
「やはり、それしかないか」
仲間の一人が、絞り出すように言葉を吐く。
仲間の悔しさは理解出来る。
千載一遇のチャンス。次回、このような好機が訪れるとは限らない。
だが、今回が駄目でも次がある。
このようなチャンスが訪れなくても、一度でも、たった一度でも勝てばいい。
これはそういった類の戦いだ。
悔しさを胸に押し込めながら、朽野は撤退を決定しようと口をしようとした時、
「待、て」
リーダーが、朽野の言葉を遮る。
「撤退は、許可、出来ない」
ごふ、と、リーダーはその言葉と共に何かを吐き出す。
「しかし、リーダー。リーダーも、そして俺達も、もう限界だ。次がある。次さえ勝てばすべてを巻き返せる」
そう、リーダーを説得しようとして、はっとする。
青白い顔、生気というのが抜け落ちたその顔。
しかし、その瞳は、まだ死んでいない。
「そうやって、逃げて、逃げて。どうなった?俺達はただ追いつめられていっただけだ」
彼の言葉に反論が出来ない。
そう、彼らは逃げ続けてきた。
負けそうになれば逃げ、それを繰り返すことで彼らは本当の意味で負けることはなかった。
だが、そうすることで勝利から遠ざかって行くのを肌で感じていた。
「逃げるな。負け犬は、もうごめんだ」
指一本動かすのもきついだろう。しかし、リーダーは、ふらつきながらも起きあがる。
「リーダー」
「ついてきて、くれるか?」
朽野にのばされた手、ふらふらとした今にも倒れそうなその姿を見て、朽野の体が震える。
(ああ、そうだ。こいつはこういう奴だから、俺はついて行こうって決めたんだ)
朽野は、彼の手を握りしめる。
「ああ、行こう。俺達の戦場へ」
そういって、彼らはトイレを出る。
こうして、彼らは彼らの戦場(合コン)へと向かうのだった。




