〜第9話〜獣人の魔王の力
土煙からレオンの姿が現れた。
それを見てオレステスは笑う。
「さすがに一回では死なぬか」
オレステスは体を震わせる。先ほどレオンに振り下ろされた巨大な黄金の拳が今度は両手に現れた。
「ふたつ……」
客席から見ていたオーティズが冷や汗を流した。
「済まさんよ。その程度では」
さらに体を震わせるオレステス。次々と巨大な黄金の拳が現れる。その数合計8本。
「死ね」
オレステスの声とともに8本の巨大な拳が代わる代わる振り下ろされる。
何度も何度も。
大喝采するインボイの獣人たち。レオンが死んだとひっそりと喜ぶアグバ。
「強い……強すぎる……」
オーティズは膝をついた。
オレステスが息をつく。拳は姿を消す。
彼自身もこれで終わったと思っていた。
「……いやあ、面白いです」
そう声が返ってきた。
「闘気を固めて拳のようにしているんですね。なるほどです」
オレステスはレオンの、まのびした声に後ずさる。彼がさらに驚くのは次の瞬間だった。
「つまり、こういうことですね」
レオンが力をこめると巨大な黒い拳が現れた。
唖然とするインボイの獣人たち。次々と現れる拳。その数10本。
「オレステスさん。行きますよー」
10本の拳がオレステスに振り下ろされる。オレステスは必死で身を翻すが、一本がオレステスにヒットする。
「ぐはっ!!」
転がるオレステス。
「すみません。痛かったですか?寸止めしようとしたんですがはじめてやったので勝手がわからなくて」
駆け寄るレオンを睨みながら飛びのくオレステス。
ここでオレステスの脳裏を嫌な記憶が駆け巡った。
レオンの父、レロンとの戦いで負けたことはない。が、完勝したことは一度もない。
いつも有利な状況で、最後にこちらが痛い目にあい、トドメを刺すことはできなかった。
この息子もいわばレロンの往生際の悪い最後の反撃といったところだろう。
「望むところだレロン。そんな貴様の息の根を止めるために、俺はこの技をつくったんだよ」
そう言うとオレステスは全身に力をこめた。