〜第3話〜大戦直前のそれぞれ
「お父様、どういうことですか!!」
ホーハムの姫、クリヤは王のマヒルにつめよった。
「……わかってくれ、クリヤよ。わが国ホーハムはこうしなければ生き残れないのだ」
マヒルはバツの悪そうな顔で言う。
「わかりません。ゾゾリマはレオン様がいる国で、仲良くしようとしていたはずです。だからお父様は私をレオン様の元へ送り込んだはずじゃないですか」
クリヤはドンとテーブルを叩く。クリヤの怪力によりテーブルは真っ二つにへし折れた。
「グルスの軍師のダックワースという男が先日来た。奴の言うことは実にシンプルだった。『グルスの味方をしてゾゾリマを攻めろ。そうしなければまずホーハムから滅ぼす』とな」
ホーハムはグルスの隣国であり、非常に攻めやすい。
「…………わかりません。理解できません。全くもってわかんないです!!もう知りません。お父様なんかレオン様に滅されればいいんだわ」
クリヤは駄々をこねながら、自らの部屋に帰っていった。
マヒルはうつむいた。
しかし娘よ。魔王レオンがどれほど魅力的で強いかは知っているつもりだが、あのダックワースという男はそれよりも凄まじく恐ろしいのだ。取り入らなければ、ホーハムの未来はない……。
そう、誰に伝えるわけでもなく頭の中で呟いた。
◇◇◇
ゾゾリマの城の作戦連合本部に、幹部たちが集結していた。
彼らは徐々にこちらに迫りくる五カ国連合軍にパニックになり、もはや軍議とはとても言えないような罵声や悲鳴をあげていた。
その中心に顔面蒼白で座っているのがアグバだった。
どうすれば良いのだ……。
ゾゾリマ一国と他の五カ国では、どう考えても戦力に恐ろしい差がある。
普通に考えて勝てるわけがない。ゾゾリマは滅亡である。
こういう緊急時に何かいい考えを出してくれそうな若僧、オーティズは相変わらず帰ってこない。
そういえばあの男、「私がいない間にゾゾリマを滅したら承知せんからな」みたいなことを言っていたが、もう知ったことではない。
こうなれば、一刻も早く逃げる方法を考えねば。
アグバがそう思った瞬間だった。
作戦連合本部のドアがゆっくりと開いた。
強烈な邪気と、恐ろしい表情。
魔王レオンが現れた瞬間に部屋の空気は一変した。
「「レ、レオン様っ!!」」
幹部たちは皆平伏した。三ヶ月ぶりに戻ってきた主君は以前にも増してその邪気を増幅させ、誰ひとりまともに顔を見ることができなかった。
「いやあ、ごめんなさい。僕がいない間に大変なことになってしまって」
そのレオンのセリフは、誰の耳にも、自らの不在の間に窮地を呼び寄せたことを咎める皮肉にしか聞こえず、皆ブルブルと震えていた。
「アグバさん」
「……ひゃい!?」
突然自分の名前を呼ばれ、アグバの声が裏返った。
「アグバさん、確かアグバさんは外交がお得意でしたよね」
「…………あ、その……はい…………」
「その外交力でどうにかなりませんか?」
「え?」
「他国と交渉して、攻めるのをやめるように止められないでしょうか」
「あ、いや、それは」
「私たちには、他の国と戦う意思などなく、平和にやっていきたいのです」
「……あ、そのお…………」
アグバは顔が真っ青になった。目の前のレオンの邪気は凄まじい。もし、いいえと言えば、即座に首が飛ぶだろう。
「レオン様、この私が何とかして参ります!!」
アグバは大げさに言ってみせた。
「ありがとうございます。頼みますよアグバさん」
レオンは目をキラキラさせてアグバの両肩を持ったが、周囲からは「失敗したらひねり潰す」という脅しにしか見えなかった。
◇◇◇
アグバがそそくさとゾゾリマの城を出て行ったあと、レオンは中庭の花園に向かった。
そこで、レオンはある人の顔を見つけると、笑顔で駆け寄った。
「ラミアさん」
「っ、レオン」
普段はむっつりと無表情なラミアの表情が笑顔に変わった。
「いやあお久しぶりです。元気でしたか?うわぁ相変わらず素敵な花園です。やっぱりラミアさんのセンスは素晴らしいですね」
「そ、そんなことないよ……」
レオンに両手を握られ、かつ褒められて、嬉しすぎて顔が真っ赤になり沸騰しそうになっていた。
「ラミアさん、そういえば大切なお話があるのです」
「……」
ラミアの顔が真顔に戻る。
「ゾゾリマに他の魔の五カ国の軍が迫っています。みんなで何とか争いを避けたいと思っていますが、最悪の事態になるかもしれません」
レオンは深刻そうに言う。
「そこで、ラミアさんには一度人間の大陸に避難していただきたいと考えています」
「嫌。私も戦う」
ラミアは即答した。
「……ラミアさん。これは魔族同士の争いです」
「任せて。私は元々、魔族を倒すために生まれてきた」
「……違います。ラミアさんのお仕事は、お花を可愛くすることです」
「……」
「多分明日、オチョア先生たちも人間の大陸に渡ります。一緒に行ってください」
レオンの言葉に、ラミアは唇をきゅっと閉じたまま、静かにうなずいた。




