〜第7話〜鏡の世界の淫魔姫
「……ここは?」
クリヤは目を覚ました。
ここはどこ?私は一体どうしたのか?頭を押さえながら思い出してみる。
まず、魔王レオンに会い、常に犯されそうな視線に耐えながら必死に誘惑をしていた。
めちゃくちゃ頑張った。
が、限界が起きた。
元々、父親以外の男の人とふたりきりになったこともなければ、身体が触れあったこともない。
鼻に液体がついていることに気づき、「あ、鼻水が出てしまった」と焦ってハンカチを取り出してぬぐった。
白いハンカチは真っピンクに染まっていた。
「きゃあああああ!!!!!!!!」
大声を出すクリヤ。
「大丈夫ですかクリヤさん」
気づかうレオンを尻目に焦るクリヤ。
緊張と興奮のあまり鼻血がどばどば出ていることに気づく。
パニックになりながら、部屋の隅に掛かっている鏡の前へ走る。
その際にも床にぽたぽたと鼻血が滴る。
恥ずかしさのあまり赤面しながら、鏡を見る。
顔の下半分は血で真ピンクになっていた。
どうしようとハンカチで拭うが、次の鼻血がどんどん出てくる。
後ろから聞こえる「ティッシュ持ってきましょうか?」の声がさらに恥ずかしさを後押しする。
どうしよう……と思って、もう一度鏡を見た。
男が映っていた。
それも魔王レオンではない赤髪の男。
「だ……誰…………?」
鏡の中の赤髪の男は笑う。そして世界がぐにゃっと曲がった。
◇◇◇
「……それで、どうしたんだっけ?」
改めてまわりを見てみる。
そこはゾゾリマの城の応接間。自分が鼻血を出した場所だ。
「大丈夫ですか、クリヤさん」
不意に聞こえた男の声に、「ひぃ」と身をよじらせるクリヤ。
恐々と見ると、心配そうにこちらを見つめる魔王レオンの姿があった。
めちゃくちゃ恐ろしい顔のはずなのに、クリヤはとても安心した。
「よかった。やっと目を覚ましてくれました。鼻血はどうですか?」
レオンが聞く。
「はなぢ……?」
「倒れた後も流れ続けていたので、服を汚さないように応急処置はして起きましたが」
クリヤは、鼻を触る。両方の鼻の穴に丸めたティッシュが詰められていた。
「っ!!!!!!!!!」
顔を真っ赤にして身をよじるクリヤ。
「どうでしょうか?」
「な、何てことをしてくれるんですかっ!!」
クリヤは怒る。
「え、あの……いけませんでしたか?」
「女子の穴の中に勝手にモノを突っ込むなんて……その……大胆過ぎますっ!!」
「え?」
「今度こそ、赤ちゃんができちゃってるかもしれないですっ!!」
「あ……その……ごめんなさい……。どうしよう……」
あたふたするレオン。
うつむき、涙目になるクリヤ。
元々、そのために来ていたはずなのに、いざ男の人にコトをされてしまったことに、ひどくショックを受けていた。
「……ごめんなさい。僕……その……、もし赤ちゃんが出来ていたらちゃんと責任とって、クリヤさんと結婚しますから」
「……え?」
顔をあげるクリヤ。
「今の……本当ですか?」
「はい。結婚します」
「ほ、本当ですか!?」
急に顔が華やかになるクリヤ。
「はい。それは」
「本当ですか」
「あ、そんな何度も聞かなくても……。それはちゃんとします」
クリヤは嬉しくてたまらなかった。
やはりプロポーズをされるのは、女の子の夢であり、大きな喜びだ。
「よろしくお願いします。レオン様ぁ」
そう言って自分からレオンの手を握ってしまう。
レオンの「……あの……赤ちゃんが出来ていた場合ですからね……」という声は聞こえていないようだ。
◇◇◇
「……それはそうと、ここはどこなのでしょう?」
少し落ち着いたクリヤが聞いた。
それは、その場所のおかしさに気がついたからだ。
見た目はゾゾリマの城の応接室であるのに、ゾゾリマの城の応接室ではない。
床に自分が垂らしたはずの鼻血の跡もないし、静かすぎる。
「僕にもわかりません」
「え?」
「クリヤさんが鏡に近づいたとき、クリヤさんが鏡に吸い込まれました。それを助けようとしたら、僕まで吸い込まれてしまって……」
頭を掻くレオン。
ここで、クリヤは鏡に映っていた赤髪の男のことが思い浮かび、嫌な予感が背中を伝う。
そして次の瞬間だった。
部屋の鏡が煌めいた。
そして、そこから現れた。
2メートル以上の体躯を持ち、灰色の皮膚を持った半裸の男が。
ずしんと床に降り立つ男。
その眼がクリヤとレオンを捉える。
「ごおおおぉおおおう!!!!」
その男は吠えた。
クリヤは、すがるようにレオンの方を見る。
レオンの身構えた様子を見ると、残念ながら彼の知り合いではなさそうだった。




