〜第5話〜淫魔姫、魔王、消失
オーティズが応接室を後にして、廊下を歩いていると隅っこで頭を抱えてかがんでいるラミアがいた。
「何をやっているのだ?」
シュッと立つラミア。そういえば彼女の腰には珍しく鞘だけがぶら下がっておりレイピアがない。
「……なんでもない」
多少赤かったラミアの顔であったが、オーティズの顔を見て、いつものすました顔に戻った。そして、思い出したように聞いた。
「そういえばさっき花園に見知らぬ変な女がやってきたのだが」
「ああ、ホーハムの姫だ」
「……ホーハムの?では、淫魔か」
身構えるラミア。
「ああ、私も心配していたが、あの姫は淫魔としては頭が弱すぎる。何も問題はないだろう」
オーティズがそう言ったので、ラミアも肩の力を抜いた。が、オーティズはこう続ける。
「確かに、それ自体には問題はない……、だがレオン様の台頭により、魔族も人間もレオン様を意識して妙な動きをするようになっている……。少なくとも魔の六国はここ数年で最も空気が騒めいている」
「……」
深妙な顔になるラミア。
「気がかりなことはそれだけではない……以前レオン様にケガをさせた土使いのことだ」
オーティズの言葉にラミアは眉をぴくりと動かす。
「あいつの手がかりを全力をつくして探しているが、正体の一片すらつかめていない」
「……わかることは、奴が私の能力のことを知っていたということだ」
ラミアが答える。レオンを貫いた槍には、ラミアの魔力無効化を防ぐような仕掛けが施してあった。
「つまり、あいつを呼び寄せたのは私だ……」
ラミアはうつむく。ラミアがここにいる限り、また奴は現れるかもしれない。
「……今すぐ出てけと言われても文句は言えぬな」
ため息をつくラミアにオーティズは言う。
「何度も同じことを言わせるな。お前を花園の庭師として召しかかえたのはレオン様だ。レオン様がそう決めたのならば、私がお前を追い出すことなどあるわけがない」
ラミアはそれを聞き、オーティズの横顔を正視する。そして、窓の外を見て言う。
「ともかく……事態は予断を許さぬというわけか……」
そのときだった。
「きゃあああああ!!!!!!!!」
応接室から悲鳴が聞こえた。
オーティズとラミアはハッとする。そして、一目散に駆け出した。
「レオン様!!」
オーティズが応接室のドアを蹴破る。
応接室の中は驚くほど静かだった。
「……レオン様?」
さっきまでレオンとクリヤがいたはずの応接室、そこには誰もいなかった。
閉ざされた窓。出入り口はオーティズが蹴破ったドアのみ。
「……?」
ラミアが何かに気づいて、身をかがめ、床を指でなぞる。ぬるりとしたものが彼女の指につく。
それは血。
血の跡だけがその部屋には残っていた。




