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第三章 アイハダ村

 俺たちは、一日後アイハダ村の中心街に来ていた。昨日の朝口にした物以外何もお腹に入れていない為、かなり空腹である。街は、屋台など出て大賑わい。何かの祭りでもある様子だ。だけど、俺は此処で食料を調達など出来はしない。通貨が俺の居た世界とは違う為、使用することは出来ないし、それに……

「にしても、此処でも俺は指名手配人か〜有名人はつらいなぁ〜」

 木下駄の橋に設置されている指名手配人の立て札は、家の軒下にも貼り付けられていたりして、五百万グランの賞金の文字が配列している。つまり、盗んだ宝石の出所が判ると俺の居所がバレてしまうと言う仕組みだ。

「今回は、似顔絵か……この時代には写真なんて物は無いのかもな?でも、この二枚目の顔をここ迄醜男にしてくれちゃって、許せるものじゃ無いな〜」

 俺は、もっと男前に絵を描き直した。

「そうそう、こんな所かな?」

 満足して筆を締まったところに、バタバタとした音がこちらに近づいてきたのを感じ取った。

「何だ?」

 何が起こっているのかを確かめるために、俺はその方角を見ようと片目を凝らした。

 すると、おぼつかない足取りで人込みを掻き分けるように、俺と同じ年頃の女の子が乱れた振袖を揺らしながら走ってきた。

「待てー!」

 どうやら、追いかけられている様子である。と、気がついた俺は、娘の容姿に惹かれるかのように、娘の手を引き寄せ、自ら被っている黒マントの中に隠した。

「黙ってて……」

 負い掛けて来る男共が通り過ぎる迄、俺は、彼女を隠した。そして、路地から抜けるように静かな飲み屋の路地裏に回った。

 既に彼女を見失ったのだろう、男共の声は遠のいていた。俺は、マントから娘を解放すると、

「どうしたんだい?追いかけるなんて?」

 とにかく、事情を聞こうと思った。理由がどうであれ?助けないわけはなかったが。

 しかし、娘は、

「ユンは?」

 どうやら、俺のことよりも誰かを案じている様である。

「ユン?」

 おれは誰のことを言っているのか判らなかった為、問い返したが、その娘は俺から離れるように、手探りで道をフラフラと歩き始めていた。

「もしかして、君?目が……」

 問いかけようと、危なっかしい足取りの彼女の後を付いていこうとすると、

「リンネン!」

 一人の青年が路地裏に駆けつけたのである。

「ユン!私はここよ!」

 俺は、二人がお互いを気遣いながら抱きしめている様子を見て、きっと不服な顔をしていたに違いない。

「もしかして、貴方がリンネンを助けて下さったのですか?」

 暫くして、二人の世界が終わった頃に、ユンという人物が俺に気付き問いかけてきた。

「そう言う事になるのかな?」

 素直にそうですとは言い切ることが出来ないところは、ヒーローにはなれない俺の短所かもしれない。いや、まあ、泥棒なんだけどね。

「ありがとうございました!」

 ユンは丁寧に頭を下げた。そして、ソバカス顔をクシャクシャにして笑って来たのであった。


 俺は、ユンという青年に導かれて、ユンの住んでいる家に訪れた。簡素な瓦葺の木の家。少し小高い丘の上にあるこの家は、周りは田畑で覆われている。多分、ユンという青年は、この世界で言う農民であろう。

「リンネンを助けて頂き、ありがとうございました!お礼はこのくらいしか出来ませんが……」

 この位というものでも、俺とバインには有難いものであった。背中とお腹がくっ付きそうな位の空腹感。それを満たしてくれるだけの、質素ではあるがご馳走を頂いたのである。

悪党も、時には善い事をするものだ!しみじみ感じ入る。

「で、追い掛けられた理由ってのはなんだい?」

夕食を済ませ、一息入れた俺はユンに問いかけた。ユンとリンネンは寄り添って少し顔を見合わせるような形で、俺に向き直った。

「リンネンは、この村の地主、タンペイに見初められたのです、そして強引に明日結婚しなければならなくなったのです」

 お決まりなシナリオみたいだ。悪党の地主と、それにひれ伏すか弱き労働者。

「今日の祭りの様子をご覧になりましたか?」

「祭りって……あの軒を連ねるような屋台?」

 確かに目にはしている。この村にしてみれば、豪勢な祭りにも思えたし印象がある。

「そうです。タンペイは、前夜祭のごとく仕切って、祭を催したのです。リンネンは囚われの身で、今日まで監禁されていたのを、この僕が助けに入った。今ではタンペイの指揮下、村を上げて捜していることでしょう……」

「ユン……」

 リンネンは黒目がちな瞳を潤ませてユンの話している顔を見ている。目が見えなくとも、声で判断しているのだろう。

「リンネンと僕は幼馴染なんです。彼女の為に、この身を呈して守りたかった。あのような強欲の塊のようなタンペイの所には行かせたくなかった!……確かに、リンネンの目を治せるだけのお金を持っているタンペイかも知れない。でも、だからと言って僕はやすやすと……」

 と、ユンは側に居るリンネンの肩を抱き寄せていた。俺は思わず見せ付けられているかのようで、苦笑いする。ご馳走様……

「一飯の礼って言葉は有るよな〜?」

 俺は、ボソリと声に出して言った。お金さえあれば治るリンネンの視力。ならば……

「へ?」

「あのさ訊きたいんだけど?タンペイの屋敷って何処?」

 既に気付いているのか?バインは、嬉しそうに、

「キュルル〜クッピー!」

 と、脇で鳴いている。ユンはどう言うつもりで訊いてきたのか?不思議そうだったが応えてくれた。そして、

「ところで……どちらかでお会いしたことございませんか?それにお名前は?」

 ユンは、訝しげに見詰めていたが、

「気のせいでしょ!全くの、初対面です!」

 俺は深々とマントで顔を隠した。まさか、あの不細工な手配書に効力があるなんて……と俺は再び苦笑いするしかなかった。

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