第二章 バインとルマイン
「んで?今回は一体何処に居るんだ?」
どのくらいの月日が過ぎたのであろうか?あの時俺の右目に宿った石。名前はルマイン。と言うらしい。らしいってのが、イマイチ俺には要領を得ないのだが、こいつはあの研究所で、『時空移動』の管理をしている石であることだけは分かった。自らの発する光が時空移動に大いに役立つのだと言う事くらいしか判らない。だって只の泥棒に、それ以上の専門的事柄を言われたとしてもチンプンカンプン。大まかなことが判っていればそれで良い。
そして、何百回目かに渡る時空越えをして今回は此処に来ていた。俺たちは、滞在期間を一つの時空越えに対して大体三日間を目安に移動している。
「で、此処は何処だよ?」
何度も言わせるなよな……川辺に座り込んで、自らの顔を洗っている俺は、水面に映っている眼帯で隠していた右目の今むき出しになっているルマインに向かって問いただした。
左目の、明るい緑色した瞳の色とは正反対の色の赤い瞳が語る。
「齢暦千三年のアイハダ村だ。時空越えをしているお前はある意味バンパイアーのように年をとらないから、時間を気にすることはない」
機械が話しているみたいだな。いつも思うことだが、俺はこの頭に響いてくるような声が、気に入らない。けど、こいつに問いただしても、人に宿ったらこのルマインが死ぬまで俺の目眼に宿ると言う。だから余計に厄介だ。俺の夢は、こんなことじゃ無い。
「ははは、訊くだけバカでした」
「楽しいであろう?こうやって、時空を超えての旅は?」
「アホみたいに楽しいね……お前の言ってた力が、時空超えで、しかも翻訳まで兼ねてるなんて知らなかったわ」
うんざりな表情で呟く。年をとらないってのはある意味いいことでは有るが、まるで、時差ぼけにでもかかった気分だ。
「しかも今では、俺はばっちりお尋ね者の身分でだな、時空管理鉱物取り締まり研究所の方で撮られた写真が出回ってるなんて、考えても頭が変になりそうだぜ……」
思わず皮肉を込めた笑いしか出来ない。
「愛おしいマイホームにも戻れずに、こんな放浪の旅をしなくちゃならないなんて、素敵過ぎて笑いが止まらないってもんだ!」
全てお前のせいだぞ。と言わんばかりに水面に映っている自分の顔に向かって石を投げる。綺麗な波紋が広がった。
「ははは、そうカリカリするな。大いなる力を手に入れたのだぞ?」
「欲しくないってんだ!俺の夢は大金持ちになって、洒落た屋敷に女はべらせて、ウハウハってのが理想だったんだぞ!」
その理想が頭をよぎる。虚しい……
「それは無理だな。お前は未来永劫時空を彷徨う運命だ。お前の右目がくり抜かれるか穴があかない限り死は訪れない!」
その言葉に苛立った俺は、
「暫く眠ってやがれ!」
と、手首のリングから黒い眼帯を取り出し左目を覆うように巻きつけられる。ルマインは、眼帯をして視界を遮っている間は俺と直には話すことは出来ないからだ。
俺は川辺に座り込んで今度は特殊リングの黄色いボタンを押す。すると、長く鋭い針が数本セットになって飛び出した。いつもは鍵を開ける為に使用している物では有るが、今となっては、生活用品と化している。
上流の水際の岩場に、水しぶきが上がった。魚が跳ねる。俺は思わず針をすばやく解き放った。するとどうだろう?プカプカと今朝の食事が流れてきた。俺って器用?なんてね?
「さて、飯にするか……あれ?それにしても、バインはどこに行ったんだ?」
バイン。それは、ルマインが、俺の目に融合した時流れた落ちた血から象られた、ルマインの半身。毛むくじゃらでその背には鳥のような翼を持った、得体の知れない生き物。だけど、ルマインの半身とは思えないほど心根の良い生き物である。今では俺の良き相棒。
「クルッピー!」
「何処行ってたんだよ?」
魚を焼く用意をしていたそんな中、背後から羽根をばたつかせ、その、バインが飛んでやってきたのである。
「おっ!グミの実じゃん!サンキューな!」
どうやらバインは、朝飯用にグミの実を何処かしらから調達してきたらしい。
「お前も食えよ!」
俺は、自分に渡されたその実の一つを口に放り込んでやる。バインは嬉しそうに、
「クルッピー」
と喉を鳴らしていた。




