異世界転生したら、固有スキルが《適当》でした
目を覚ますと、知らない天井だった。
いや。
正確には――
天井がなかった。
「……外やん」
見渡す限りの草原。
雲ひとつない青空。
少し離れたところには森が広がり、そのさらに向こうには、どう見ても地球では見たことのない巨大な山が浮いている。
そう。
浮いている。
「……まあ、なんとかなるやろ」
41年も生きていれば、色々ある。
仕事もした。
遊びもした。
失敗もした。
人に迷惑をかけたこともあれば、逆に助けられたこともある。
だが――
山が浮いていたことは一度もない。
さすがにこれは、なんともならんかもしれない。
「目覚めたか、勇者よ」
突然、後ろから声がした。
振り返ると、白いローブを着た爺さんが立っていた。
長い白髪。
長い白髭。
手には杖。
なるほど。
分かりやすい。
「……誰?」
「神じゃ」
「ほう」
「驚かんのか?」
「まあ、山浮いてるし」
「そこ基準なのか?」
どうやら本当に神らしい。
少なくとも本人はそう言っている。
俺は起き上がり、服についた草を払った。
「それで神様が俺に何の用?」
「うむ。話が早くて助かる」
神は満足そうに頷くと、杖を空へ掲げた。
すると何もなかった空中に、巨大な大陸のようなものが映し出された。
「ここは剣と魔法の世界――アルディア」
「おお」
剣。
魔法。
その単語には少しテンションが上がった。
「そして今、この世界は魔王率いる魔族によって滅亡の危機に瀕しておる」
「ほう」
「そこで異世界より転生せし勇者――つまり、そなたの力が必要なのじゃ!」
神がビシッと俺を指差した。
「勇者よ! この世界を救ってくれ!」
「嫌です」
「早いな!?」
神が食い気味に返してきた。
「いや、知らん世界やし」
「そこをなんとか!」
「そもそも、なんで俺なん?」
「それは――」
神が一瞬黙った。
「適性があった」
「今ちょっと間があったよな?」
「気のせいじゃ」
怪しい。
非常に怪しい。
それより、一つ気になることがある。
「そういや俺、なんで死んだん?」
「…………」
神が目を逸らした。
「おい」
「…………」
「なんで目逸らした?」
「今は世界を救う話をしておる!」
「絶対なんか知ってるやん」
「細かいことは気にするでない!」
俺の死因を「細かいこと」で片付けるな。
まあいい。
生きて――いや、死んでしまったものは仕方ない。
そのうち聞けばいいだろう。
「で、ちなみに報酬は?」
「切り替えが早いな!?」
神は一度咳払いをすると、再び威厳のある表情を作った。
「世界を救った暁には、莫大な富と名誉が約束されるであろう!」
「女は?」
「…………」
また神が止まった。
転生して、おそらく十分も経っていない。
この世界で初めて他人をフリーズさせた瞬間だった。
「……望めば、まあ、その……良き出会いもあるじゃろう」
「ハーレムは?」
「世界を救う話をしておるんじゃぞ!?」
「大事なところやん」
「そなた本当に勇者か!?」
知らん。
そっちが勝手に勇者と言い出しただけである。
「まあよい! 旅を続ければ様々な者との出会いもある! 美しき女騎士やエルフ、獣人族なども――」
「やります」
「決断が軽い!!」
こうして俺は、勇者になった。
使命感などない。
正義感も、今のところない。
魔王に恨みなんて当然ない。
ただ、せっかく異世界に転生したのだ。
どうせなら楽しく生きたい。
魔法も使ってみたい。
冒険もしてみたい。
そしてできることなら――
ハーレムを作りたい。
「では勇者よ。まずは、そなたに与えられた力を確認するがよい」
「力?」
「そうじゃ。異世界より転生した者には、この世界の者にはない特殊な力が宿ることがある」
来た。
これ知ってる。
異世界転生でよくあるやつだ。
チート能力。
これで俺TUEEEするやつだ。
「どうやって見るん?」
「心の中で『ステータス』と念じればよい」
なるほど。
俺は言われた通り念じた。
――ステータス。
すると目の前に半透明の板が現れた。
「おお! 出た!」
名前。
年齢。
職業。
体力。
魔力。
様々な項目が並んでいる。
だが、特別強そうな数字は見当たらない。
剣術――なし。
魔法適性――普通。
特別な加護――なし。
「……普通やん」
「…………」
神が目を逸らした。
「おい」
「まだ下があるじゃろ」
言われて画面を下へ送る。
そして、一番下。
そこに一つだけ、他とは違う文字が表示されていた。
【固有スキル】
《適当》
「…………」
俺はしばらく、その二文字を眺めた。
そして神を見た。
「これ、ハズレやろ?」
「…………」
「おい神」
「まあ――」
神は遠くを見つめながら、静かに言った。
「なんとかなるじゃろ」
「それ俺のセリフや」
――こうして。
固有スキル《適当》を持つ、41歳のおっさん勇者の冒険が始まった。
この時の俺は、まだ知らなかった。
この意味不明なスキルが、やがて人間と魔族――
そして、この世界そのものを巻き込むことになるなんて。
まあ。
なんとかなるやろ。
なんとなく思いついたので書いてみました!
まさか自分が異世界ものを書くとは思ってませんでした。
続くかどうかは分かりませんが、反応があったら続きを書くかもしれません。
まあ、なんとかなるやろ。




