表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/37

第22話 雷乃ち声を収む ─夜の後宮を抜け出して─

雷乃収声かみなりすなわちこえをおさむ

 ──鳴り響いていた雷が聞こえなくなるころ。






 サキは燈籠とうろうの火が消えた後宮を歩く。後宮の出口にやってくると身を隠す外套がいとうを握り締め、いつもの通りにひっそりと漬けていた梅酒で満たされた瓶をその人に差し出した。

 門番の男性はサキの姿を見るなり、少しだけびっくりしたような表情を見せる。


「久しぶりじゃないか」

「まあ、しばらく調子が良かったの」


 最近までミコトの側で働けていたので、サキはなにも文句はなかった。せっかく漬けていた梅酒も飲み干してしまおうかと思っていたところに入用になるとは。

 門番は苦笑すると、瓶を開けて舐めた。気に入ったようで、彼は背を向けると手をひらひらとやった。通ってよいということだ。

 サキは小さく会釈えしゃくすると、夜の鳥籠とりかごを抜け出した。




 サキが何をしているのか。知る者はいない。おそらく門番すらもよくわかっていない。

 見慣れた通りまでやってくると、サキは足を止めた。都は夜になるとひどく静まり返る。ただ一軒光のれている飲み屋を見つけて、サキはその軒先のきさきにしゃがみこんだ。匂いだけでよかった。またいつとも知れずミコトの元に戻ることになるかもしれない。彼女は酒を嫌っていたしきっとアオも得意ではないだろう。それに何せあのやけにいい鼻でユイにかぎ分けられてしまっては、数年ぶりに拳が飛ぶかもしれない。


 梅酒をめていた門番を思い返して、サキは少しだけ眉根を寄せた。取引とは時に不利に働くものだ。

 思わずため息がこぼれた。


「お兄さん、入らないの?」


 いつの間に戸口が開いていたのか、飲み屋の娘らしい少女が顔を出す。ちょうどアオと同じ頃に見える。

 サキは外套がいとうえりを見下ろして、彼女の勘違いを受け入れることにした。そもそもその勘違いを引き起こせたら幸運だとこの格好を選んでいたのだ。


「主人があまり、酒を好まないから」

「なら、果物を切ってあげるわ」


 サキはしばらく逡巡しゅんじゅんして、それから立ち上がった。少女はアオと比べて年相応の背丈だが、サキにとってはどちらも小柄であった。

 意外だと周りの女官たちは言うが、サキはこの長身を気に入っている。しかしユイの背丈だけはあまり越したくはなかった。彼は母親の身長からあまり伸びないだろうと言われていたので仕方がない話だが。


「背が高いのね。素敵」

「ありがとう」


 サキは人のいない飲み屋に身を沈めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ