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第20話 玄鳥去る ─護衛付き─

 太極たいきょくきゅうにやって来ると、門の両端にかまえた女性二人の司衛しえいがアオをいぶかしげに見た。

 ユイが急ぎの用であることを伝えると、扉の近くに取り付けられた潜戸くぐりどを通るように言われる。身をかがめてくぐると先に中に入った司衛が案内してくれるようだった。そちらは緊急会議に使用した会議場とは反対の方向で、小さな部屋が沢山連なる作りになっていた。


 通された部屋で待っていると、しばらくして気の抜けた格好のミコトが入って来る。

 アオは布で覆われていない顔を見て、すぐに叩頭こうとうした。


「ユイの教育がきちんと身に沁みついているようだ」


 ミコトはくすくすと笑う。アオは少しだけつられて表情を緩めた。

 しかし、ユイの「開口失礼します」という声で笑みは抜けていく。


「どうした、このような時分に」

「……護衛を増やしていただきたく思います」

「護衛を?」


 ユイの主張にミコトは首を傾げた。化粧をしていないミコトの顔は少しだけ幼く見える。ムラのそこらにいる人々とは風格が違うが、年の頃は妥当に思える。そして今のような仕草も若さに拍車をかけた。


「ユイでは事足りぬか。不必要に増やせば悪人が潜り込みやすくなると思ったのだがな」


 アオは思わず顔を跳ね上げた。

 アオにユイ一人しか付けなかったのは策の内だった。少数精鋭でアオを守らせるつもりだったのだ。


 しかしユイは頭を下げる。


「アオには味方が必要です」

「味方、か。ふむ……」


 ミコトはしばらく逡巡しゅんじゅんした後に、視線を部屋の外へとやった。


「サキ」


 護衛の少女の名を呼ぶ。すると一も数えぬうちに名前の主が顔を見せひざまずいた。どこに潜んでいたのか知らないが、彼女は颯爽さっそうと現れ、ミコトの指示で立ち上がる。


「どうかいたしましたか」

「サキ。しばらくアオの護衛につけ」

「はい、ミコト様。


……って、え?」


 サキは目を丸くして聞き返した。


「アオを守れと言っているのだ。わらわには多くの司衛をつけることができるが、アオはそうはいかぬ」

「で、ですがミコト様」

「やることは同じだ。それにサキ、そなたはわらわがいなくなったあとはアオの護衛をすることになるのだ。仲良くしておけ」


 サキは心底断りたそうな表情をした。おそらくだが、サキはミコトの護衛になることをはたから見てもわかるほどに望んでいて、アオが後宮にやってきたこの度その願いが叶ったのだろう。

 サキは困り眉のアオを見ると、嫌悪感むき出しの表情で見下ろしてくれる。だからと言ってここまで嫌わなくてもいいのに。

 しかしこちらだって命がかかってるのかもしれない。アオはできるだけ低姿勢で「お願いします」と言った。


 アオまでもが話を進めてしまったら、サキは後戻りできないのだろう。サキは顔のいたるところにしわを作り、そして脱力した。

 申し訳ないことをしてしまった。


「わかりました。不肖ふしょうサキ、天子さまを精一杯守らせていただきます」

「ああ、頼んだ」


 サキの受け答えに満足したミコトが腕を組んで大仰に頷いた。


 そうしてアオは新たに味方を手に入れたのだった。






 天子宮に次々と運ばれていく道具は、主人であるアオよりも随分ずいぶん多かった。しかしふたを開けて見ればそれは、衣服が汚れた時のための替えだったり、剣の手入れ道具だったりした。内には化粧道具などもあったが、蒐集しゅうしゅうぶつのように揃えているわけでもなかった。

 サキは空いている部屋に自分で荷物を運んだにもかかわらず、収納を終えたころにはすっかり魂が抜けたようだった。


「移動までしてくれて、ありがとうございます」

「護衛なんだから当たり前でしょ。ユイ一人で守り切れないなんて一体どういうことなのよ」


 サキはユイのいない場所でここぞと悪態をついた。

 しかし新たに護衛となったサキには説明しておかなくてはならない。疲れているところ悪いが、アオはサキを別の部屋へ案内した。

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