第19話 玄鳥去る ─宣戦布告─
交流会を終えた夜、アオは緊張から解き放たれて湯船に顔の下半分を沈めた。ぶくぶくと泡を吐き出しながら膝を抱える。
貴妃の言い回しはとても気になるところだった。
──御与えいたしましょう
何がとは聞けなかった。けれどいいものではないだろうということは分かる。
アオは湯の調子を見に来たユイを振り返った。
「貴妃さまはどういう方なんですか?」
ユイは眉を曲げて変な顔をする。
「さっきまでお話してたよね?」
「それは……そうですけど。あの人曰く、わたしは次の巫になる人間として、ふさわしくないそうです」
アオが先ほどまで交わしていた会話の内容を簡潔に伝えると、ユイは目じりを吊り上げて低い声で「は?」と凄んだ。アオは何かやらかしてしまったようで、先にごめんなさいと口について出る。
「何かあったら僕を呼べって、言ったよね」
「で、でも、もしそうしたら、わたしはもっと侮られていたかもしれないし」
「……」
「それに、ユイのことを言っていたから……」
アオは精一杯弁明をした。言い訳にしか聞こえないだろうが、アオにはアオなりの考えがあったのだ。
ユイは終わったことだと、大きくため息をついた。
「まあ、何事もなくてよかった。でも、今度からはちゃんとその場で報告すること」
「は、はい。気をつけます」
「僕も、女性同士の水入らずな会話だと思ったから割り込むのを躊躇ったけど……今更か」
ユイはアオの浸かる湯船に腕を差し込み、温度を確かめる。アオも特に湯加減について言及しなかったので、ユイは浴場を去ろうとした。
しかしユイは足を止めて振り返る。
「聞き逃すところだった。つまり貴妃はアオに喧嘩を売ってきたってことだよね?」
「た……たぶん?」
「他に何か聞いた?」
「えっと、次の巫になりたそうでした。あとは……宰相さま? のことを見つめてらっしゃって」
ユイは温かな浴場内にもかかわらず、みるみる青ざめる。
「そこまで言ってきたってこと?」
「はい。わたしが『与えられた場所で与えられたことをするだけだ』と言ったら、『では御与えしましょう』って」
いいものではないだろうことは分かっているが、それが何かはわからなかった。毒か刃物であるなら、宣戦布告すれば不利になる。
「わたしに何をするつもりなのか……」
ユイは考え込むアオの頭を掴むと、目を合わせるようにされた。アオは首を捩ったような格好で、神妙な顔を見上げることになる。
「風呂をあがったらミコト様のところに行くよ」
アオは有無を言わさぬその空気に、目を丸くしながら頷いた。




