断罪ゲーム 5
知れば知るほど不思議な少女だと、オーウェンは思った。前世の記憶が蘇っているとはいえ、アンジェリーナは話し方や考え方が、同年代の同性と比べてあまりにも達観していた。
「エミリアの死を知った時は驚いたが、その程度だ。彼女を姉として慕っていた頃のアンジェリーナはもういない」
薄情にも聞こえるその発言からは、不思議と悪意を感じない。それはアンジェリーナの相貌が、どこか憂いを帯びているように見えるからなのか。それとも、アメジストの瞳が、どこまでも透き通るように美しく見えるからなのか。
アンジェリーナは続けて打ち明けた。
「今回はマリオンが探偵役にでもなればいいと仕向けたわけだが、彼女は実にこちらの思惑通りに動いてくれた。それまでは恋愛小説を嗜んでいた女性が、前世の記憶が蘇ってからというもの、ミステリー小説ばかりを好むようになっていた。マリオンもまた、前世の人格が今の人格を食らいつつあるのだろう。これから聖女として崇められる彼女の持つ知識が、この国を脅かさないといいが……ともあれ、苦労をするだろうな」
同情気味な台詞とは裏腹に、アンジェリーナは無邪気に笑った。周りからは無垢な天使のようだと囁かれていた少女から一転、今の彼女は蠱惑的な夢魔のように、オーウェンの目には艶かしく映った。
「あなたはいったい……何者ですか?」
つられて笑みを浮かべてしまうオーウェンが尋ねると、アンジェリーナは「別に」と短く挟んだ後で、
「特段誇らしい肩書きや経歴があるわけじゃない。今に至っては、身寄りも金も社会的地位もない、一時的に聖女と持て囃されただけの少女だよ。ずっと好き勝手やって生きている。それは前世でも、そう変わらない……ただの死刑囚だよ」
と、何でもないことのように答えた。
オーウェンは一瞬だけ目を見開いたものの、すぐに相槌を打ちながら、
「これはこれは……大鎌が似合いそうですね」
と、冗談めかして言うと、
「死神と呼ばれたこともあったかな」
と、アンジェリーナは目線を高くして、懐かしむように返した。
「残りの二人も、あなたが?」
オーウェンはディルとウィンターの死についても尋ねたが、アンジェリーナは「さてな」とほくそ笑むだけだった。
「それで? 君はこれからどうするんだ? エミリアの死の真相も突き止めたのだから、仕事は終わりだろう?」
今度はこちらの番だと言わんばかりに、アンジェリーナは目を細めつつオーウェンに尋ねた。
「その口振りだと、気づいているようですね。私がこの学園に来た目的を」
と、驚くでもなく、嬉しそうに返すオーウェンに、
「コルト伯爵からの依頼だろう? 彼は実の娘の死の真相を暴きたかった。違うか?」
アンジェリーナは自身の推測を突きつける。オーウェンは、
「ご明察です」
と、さらに嬉しそうに言った。
エミリアはコルト伯爵に気に入られ、養女になったと表向きはされているが、実際は愛した妾が産んだ我が子を、本妻に悟られぬように迎え入れただけの話だ。本妻との間に子ができなかったコルト伯爵は、娘のエミリアを溺愛していた。そんなエミリアが突如自殺を図り、失意の底に落ちていたところを、旧知の仲である先代ルドン公爵が気にかけ、真相を探るようオーウェンに依頼したのだ。
「とすると、私がギルバートと落ち合うためにダンスホールを出た後、君が後をつけてきたように感じられたのだが……やはり調査の一環だったか」
「すぐに巻かれてしまいましたがね」
「方向音痴という設定は、何かと役に立つんだよ」
言ってから、アンジェリーナは溜め息を吐き、握られたままの右手に視線を落とした。
「それで、いい加減放してくれないか。それとも、気が変わって私を警吏に……いや、いっそ国王の前にでも引きずり出してみせるか?」
「そんなことしませんよ。私の仕事はもう済みましたし、明日付けで退学予定です。それに、国王はむしろ、あなたに感謝することでしょう。手に負えなかった子どもを廃嫡するには、十分な理由ですから」
「ではなぜ、放さない?」
「惚れたからです」
「………………は?」
それは随分と間の長い反応だった。予想外の理由に、思考が追いつかなかったのか、アンジェリーナは目を丸くさせ、ポカンと口を開いた。
そんな彼女をオーウェンはまっすぐに見つめ直すと、再度愛の告白を口にする。
「あなたに惚れました。一目惚れというのでしょうか。とにかく私は今回の件で、あなたに夢中になってしまいました。好いた相手に触れたいと思うのは、自然の摂理でしょう。いや、男の性ですね。自分でも驚いています。このような熱い感情があったことに」
「待て待て待て。待ってくれ。一応聞いておこうか。私の正体に引きこそすれ、いったいどこに惚れる要素があったというんだ」
互いに正体を明かしてから、始終冷静だったアンジェリーナが、初めて動揺を見せた。
だが、オーウェンの告白は止まらない。
「愛らしい姿とは対称的に残忍で怜悧冷徹な内面を持っているところに、何故だかとてつもなく惹かれています」
アンジェリーナの質問に淀みなく答えると、一方の彼女は理解ができないでいるのか、再び溜め息を吐いた。
「変な奴だな。君も」
「自覚はあります」
ーーーー…
「何かしら、これ」
胸元のポケットに、何かが入っていることに気づいたマリオン。指を差し込み引き出すと、それは身に覚えのない小さなメモ用紙だった。
マリオンは折り畳まれたそれを開いた。
『また遊びましょうね。マリオン先輩』
END.
最期まで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたのなら、幸いです。
2026/05/09
誤字脱字等、ちょこちょこ修正中です。




