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断罪ゲーム 3


 普段の愛くるしい容姿からは想像がつかないほど、冷徹な表情をその顔に浮かべるアンジェリーナは、「ふぅん」と顎に左手を添えながら冷静に言った。


「驚いたな。まさか、本当に魔法を使う人間がいるなんて。しかも心の内を読む能力……使用条件はこうして、相手の体に触れることか?」


「さすがは、この事件のシナリオを組んだだけのことはありますね。おおむね当たっています」


 オーウェンは口角を持ち上げながら、頷いた。


「元孤児というのは嘘か。他国の王族か公爵クラスなら魔法が使えるとウィンターが言っていた。それが本当なら、他国の公爵家の者か」


「はい。昨年継承しました。オーウェン=ルドンと申します」


 そう言って、オーウェンは長い前髪を掻き上げながら、正体を明かした。麗しい相貌が、アンジェリーナの眼前にはっきりと現れた。


 見る者が見ればわかるのだろう。公爵ともなれば、貴族の中でも最高位の爵位だ。他国とはいえ、顔を晒していては正体が発覚する恐れがある。わざわざ身分を偽ってまで学園に潜入したオーウェンは、前髪を伸ばし目元を隠すことで、周りに悟られぬようにしていた。


 しかし、オーウェンの正体を知ったにも関わらず、アンジェリーナは豪胆な態度を崩さなかった。


「では、こちらからも尋ねようか。ルドン公爵。なぜ、あの場でギルバートから兜を外してこの指輪をマリオン達に見せなかった? 検死の際に気がついていたのだろう?」


 そう。オーウェンが死体から鎧を外していた際、兜だけは「何かがつっかえているようで外せない」と言っていたが、あれは自演だった。ではなぜ、そんなことをしたのか。


 オーウェンはにっこりと笑った。


「あの場で開示してしまえば、あなたの思う壺だと思いましたので」


「なんだ。せっかく引っ掻き回してやろうと思ったのに」


 さして残念でもなさそうに、アンジェリーナは言った。


 元々、オーウェンはマリオンに指輪のことを明かすつもりだった。しかし、アンジェリーナがオーウェンの体に抱きついたことで、彼女の真意を悟り、それを取りやめたのだ。


「で、どうする? 真犯人はこの女だと、警吏に突き出すか?」


「まさか。あなたを真犯人とするなら、証拠不十分で私の首が飛ぶかもしれません」


 アンジェリーナが感心した口ぶりで、「ただのミステリーオタクではないようだな」と言いながら、庭園の方へ視線を向ける。


「マリオンも、もう少し物事を俯瞰して見ることができれば、あのトリックが実現不可能だと気づけただろうに。ましてや、あのエリクにできるわけがない」


「しかしそう仕向けることができたのは、あなたの入念な演技のせいでしょう。この事件だけを切り取り、垣間見ることのできる神のような存在からすれば、現場にいた全員を平等に怪しむことができますが、マリオン先輩は数か月も前からあなたという女性を見てきた。成績は常に下位で、方向音痴で、何をするにも我が儘で怠惰という人物像が、彼女の中でできあがってしまっている状態で、物事を俯瞰して見ろというのは酷な話です」


 オーウェンが言うことはもっともだった。いくら物事を冷静に見極めようとしても、刷り込まれた先入観というのはそれほど恐ろしかった。たとえ前世の記憶があるとはいえ、マリオンは十七歳の少女だ。熟練の探偵でもない限り、達観した捜査などできやしない。


「その上、マリオン先輩は何としても自身の容疑を晴らさなければならなかった。追い込まれている状況で、あなたが蒔いた餌に食いつくのは、必然ともいえた」


「では、誰がどうやってギルバートを殺したのか。その口振りなら、もうわかっているか」


 オーウェンは一呼吸置いてから、頷いた。


「ギルバート先輩は、自殺したのですね」


「正解だ」


 アンジェリーナは満足そうに告げた。


「動機はやはり、エミリア先輩の?」


「ああ。入学当初から、エミリアを慕っていたらしい」


 確信を得たオーウェンは事件当時、ギルバートの取った行動について、自身の推測を話し始めた。


「事件発覚から三時間ほど前、ギルバート先輩は生徒会室に手紙を用いてエリクを呼び出し、自身は合鍵を使って生徒会室の隣の部屋に身を隠した。もちろん、エリクに用などない。ただあの場所に来たという事実を作るためだけに呼び出した。後に待ち人が姿を現さないことに憤慨したエリクが、部屋を出たことを確認すると、ギルバート先輩は部屋の内側から鍵をかけ、あの密室を作った。そしてマリオン先輩が導き出した例のトリックを裏付けるための工作を始める。トロフィーを窓から投げ捨て施錠し、部屋の中央にエリクの椅子を立てる。鎧に赤い絵の具でメッセージを書き、それを纏うと、あなたが来るのを待った」


 ギルバートが両腕に鎧を纏っていなかったのは、発見者による死体の身元確認のためではなく、ただ鎧の着脱を一人で円滑に行うためだった。


「後に手洗い場へ行くと言って一人になったあなたは、エリクからこっそり盗んだ本鍵で生徒会室へと入り、ギルバート先輩の自殺幇助をした。あなたが行ったのは、ギルバート先輩の首に麻縄を括りつけたことや、両手の拘束、その麻縄を余らせないよう金庫に縛りつけて固定ことでしょうか。それも、ギルバート先輩が、図鑑を乗せた椅子の上に立った後でね」


 アンジェリーナは愉快そうに微笑んだ。


「それも正解だ」


 踏み台にするには高さの足りない椅子。そこに足されたのは、暖炉で燃やされた図鑑だった。アンジェリーナはマリオン達に、実際に使ったトリックをすでに口にしていたのだ。


「まさか、あの場で犯人自らトリックを口にするとは誰も思いません」


「一度否定した相手の意見は、後のヒントにすれこそ、なかなか受け入れがたいものだ。普段から見下している相手の発言ともなれば、尚更な」


 マリオンがアンジェリーナのことをどう見ているのか。アンジェリーナはそれを逆手に取り、マリオンの推理を誘導していった。


「最後にギルバート先輩が踏み台から足を外せば、鎧を着た首吊り死体が完成する。その後はあなたが、踏み台の足しにした図鑑を暖炉へ放り込んだり、ギルバート先輩の足元に水を撒いたり、合鍵を誰もが見つけられる場所に捨てたりして、部屋を施錠し出ていく……そんなところでしょうか。本鍵とともに盗んでおいた手袋は、この時はまだ燃やしていなかったのでしょう?」


「実際に使用した、大事な証拠品だからな」



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