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マリオンの推理 4


 マリオンの推理により、立場が逆転した瞬間だった。エリクは言葉を失い、まるで餌を求める金魚のように、ただただ口を開閉させた。辺りはしんと静まり返った。


 それを見計らったように、マリオンが自身の推理をまとめ始めた。


「では、憶測混じりの今夜のギルバート君及び犯人の行動を話すわ。今から数時間前……六時半を過ぎた頃ね。エリク君を手紙で呼び出したギルバート君は、ホールを抜け出してこの生徒会室にやって来た。何の話なのかはわからないけれど、わざわざパーティー中にエリク君と話さなければならないことがあったのね。時間通り、二人はこの部屋で会い、話をした」


「だから! ギルバートは来なかったと言っている!」


「エリク君。今は私の話を聞いて頂戴」


 マリオンは口元で指を立ててエリクを遮ると、話を進めた。


「そこで口論でもあったのか、エリク君はこの部屋にあったトロフィーでギルバート君を殴り、気絶させた。あとは私が語ったトリックを実行しただけ。トロフィーを窓から外に捨てると、隣の部屋から麻縄を持ってきて、ギルバート君の首に括りつけてから腕以外の鎧を着せる。抵抗できないよう、両手を後ろで縛ってね。次に椅子を部屋の中央に持ってくると、麻縄と同じく隣の部屋の冷蔵庫から取り出した氷を座面に乗せる。最後にギルバート君の首に括りつけた麻縄を、この天井の梁に通して、彼の体を吊り上げながら金庫へ固定する。これで処刑台の完成ね」


 処刑台という言葉をあっさりと口にするマリオンに、ディルやウィンター、そしてアンジェリーナの三人が、こわごわとした様子で彼女を見つめた。


「行動の順番には差異があるでしょうけれど、だいたいこんなところね。後は暖炉に火を起こして図鑑を燃やし、部屋を出て施錠をすれば密室の完成。足元の氷が徐々に溶けてくれるからアリバイは確保できるし、部屋を暖めておけば溶け残った氷も水にしてくれる。ギルバート君はギリギリまで抵抗したでしょうね。倒れた椅子は、彼の足が宙に浮くと同時に蹴られたのよ。残忍な殺し方だわ。でも、エリク君は首席だもの。こんなトリック、即座に思いついてもおかしくないわ」


「え、エリク様ぁ……」


 語り終えたマリオンと、容疑者から外れた者達の視線が、エリクに向けられる。中でも、アンジェリーナは今にも泣きそうな顔で、エリクを見つめていたが……


「ふ……ふふ……ふふふっ。あははは!」


 突如、哄笑し始めたエリクに、彼女は怯えるように肩を震わせた。


 対して、マリオンは平然とした様子でエリクに尋ねた。


「あら。どこかおかしくて?」


 すると、エリクはその顔を凄まじくさせると、今にも掴みがかりそうな勢いで、マリオンに詰め寄った。


「おかしいところだらけだ! 黙って聞いていれば、ペラペラと……! よくもまあ、そんな妄想に頭を働かせられるものだな! だいたい、私が殺したのなら、自分が使用する椅子を犯行になど使わないわ!」


 仮にも元婚約者相手に怒号を飛ばすエリク。開いた口から飛んだ唾が、マリオンの顔にかかるも、彼女は微動だにせず、どころか嘲笑気味に口角を持ち上げた。


「あなたが自分の椅子を使ったのは、高さ的にも重さ的にもちょうどよかったからでしょう? それに、愛しい婚約者のものを使うわけにもいかないものね?」


 そんなマリオンの態度がエリクの感情をさらに逆撫でたのか、ミステリーではお約束のある台詞が、彼の口から発せられる。


「そこまで言うのなら、証拠を出せ! 私が犯人であるという証拠をな!」


「あるわよ。証拠なら」


「…………は?」


 さらりと返ってきた言葉に、エリクの目が点になった。そしてそれは周りにいる彼らも同様だった。


 マリオンはやれやれと、腰に手を当てた。


「なければ完璧だったのに、残念ね。あなた、頭はいいのに、普段から身の周りのことすべてを他人ひと任せにしていたから、隠滅の仕方が杜撰なのよ」


「な、な……何、を……」


「ところで、このトリックを実行するにあたって、犯人は体のどこを酷使するか、わかるかしら?」


 急にぎこちなく動くエリクを置いて、マリオンは他の彼らに向かって、クイズのように問いかけた。


「どこを酷使するかって……」


「手……とか?」


「ピンポン。大正解」


 両手を翳すディルに、マリオンはにこやかに手を叩いた。続けざまに、その手を開いた状態で、顔の横に上げてみせる。


「では、全員。両手を見せてくれるかしら?」


 そうして言われるがまま、全員が両手を持ち上げ、手のひらを周りへ見せるように開いた。各々が自分以外の手のひら、ひいてはエリクの両手を確認するが、


「特におかしなところは、ないような……?」


 と、首を傾げた。マリオンは知っているとばかりに頷いた。


「でしょうね。人ひとりを麻縄で吊るし上げるのだもの。素手でやる馬鹿はいないわ。だから、普通はあるものを使う」


「そうか! 手袋ですね!」


 声を張り上げたウィンターに、マリオンは頷いた。


「オーウェン君がやっていたように、手袋を使えば両手は汚れずに済むし、また指紋といった証拠を残さずに済む。ましてや麻縄……擦れた跡くらいはつくでしょう」


「馬鹿め! よく見ろ! 私の両手を! 何も汚れていないだろう!」


 両手を広げたエリクはそもそも手袋をつけていた。改めて全員が凝視するが、これといった跡や汚れは見当たらない。


「綺麗……ですね。とても犯行に使われたようには見えない……」


「当たり前だ! 私はそのような浅ましい行為に使っていないのだからな」


「では、予備は?」


「は?」


 予想外のことを言われ、ポカンと口を開けるエリクの胸元に向かって、マリオンは指をさした。


「私はこのパーティーのために、今朝、あなたの代わりに予備の手袋を用意して持たせわ。手つかずなら、あるはずよ。その上着の内側のポケットにね」


 エリクはチッと舌打ちをしながら、言われた場所へ手を差し込んだ。


「ふん。それなら、触れてすら……ん?」


 途端、エリクの手がピタリと止まった。


「ないのよね?」


「いや……そんな、はず……」


 エリクの表情がみるみる変わっていく。急いで上着を脱ぎ、内側のポケットを探るも、それらしきものの感触が感じられない。




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