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マリオンの推理 2


 全員がギルバートの首元に注目する。しかし死体に慣れていないせいか、わざわざ近づいてまで確かめようとする者はいなかった。


「なら、ギルバートは犯人によって大人しく吊るされたとでも言うのですか?」


「ええ、そうよ。そうされるしかなかったの。もっとも、彼は抵抗したくてもできなかっただろうけど」


「どういうことだ?」


 ディルが尋ねると、マリオンは外された鎧を指差した。


「彼、どういうわけか体に鎧を着けていたわね。これは犯人が、これから説明するトリックを隠したかったからよ」


 そう言って、マリオンの指が鎧からギルバートの頭に向かう。


「まず、兜。これはギルバート君の頭を殴り、気絶させたという事実を隠すためよ」


「気絶?」


「ええ。意識がある状態では、被害者を好き勝手にできないもの。ましてや、吊るすなんてね。だからまず、ギルバート君の頭を殴るという方法で彼の意識を失くしたのよ」


「なるほど。だから、抵抗したくてもできなかったのか」


 ディルがうんうんと頭を振る一方で、エリクが口を開いた。


「待て。なぜ気絶なんだ? 殴ったのなら、そのまま殺されたという可能性もあるだろう? それに、ギルバートから兜は外せず、頭部は確認できなかったそうじゃないか」


 それに対し、マリオンは「そうね」と肯定してから、エリクに返した。


「その可能性がないとは言えない。でも、殺されるまで殴られたのなら、ある程度の出血はあるはずよ。ギルバート君を見て。彼の首元、それから肩や背中にも、血は付着していない。鎧にもね。だから殴り殺されたという線は低いわ」


 言い終えると、エリクはフンと鼻を鳴らした。


「しかし……」


 と、ここでそれまで黙っていたオーウェンが発言する。


「人の意識を失くすだけなら、他に方法があるのでは? 例えば、ウィンター先輩の電撃なら、道具を使わずとも可能ですよね?」


「オーウェン!?」


 まさかといった様子で、ウィンターが彼を見た。続けて、


「えっ? ウィンター先輩がギルバート先輩を殺しちゃったんですかっ?」


 と、隣室から出てきてコソコソと何かをしているアンジェリーナが驚き、ウィンターを見上げた。


 これにはウィンターも慌てふためきながら否定した。


「ち、違いますよっ! 私がそんな恐ろしいことをするわけがない! そうですよね、殿下っ」


 すぐさま、ウィンターは助けを求めるようにエリクに手を伸ばしたが、


「確かに電撃なら、目立つ外傷を負わすことなく相手の意識を奪うだろうな」


 当のエリクはあっさりとオーウェンの肩を持った。ウィンターは「そんな……」と、崩れ落ちるように床に膝をつき、愕然とした様子で周囲を見渡した。


「違っ……違う、違います! 私はそんなこと、やっていない! だいたいっ……」


 ウィンターは拳を握りしめ、意を決したように言った。


「私にはそんな力っ……ないんですからっ」


「お、おい。ウィンター……」


 ウィンターの告白に、今度はディルが慌て始めた。だが、ウィンターは開き直ったように、


「もういいですよ。あらぬ罪を着せられるくらいならね!」


 と、これまで偽っていた理由を話し始めた。


「確かに祖父や先祖は魔法を使うことができたようですが、私にも父にも、そんな力はありません。他国の王族か公爵クラスなら扱える人間もいるでしょうが、もうこの国に魔法を扱える人間はいないと思います。けれど、私はこの学校で権力を得たかった。そうでなければ、知力も体力もない私なぞ、すぐに埋もれて祖父の顔に泥を塗ってしまう。それだけは避けたかった。だから嘘を吐いたんです」


 聞けばどうということのない、ありきたりな話だった。彼は先祖の威光を笠に着て、王族エリクの側近というポジションを獲得し、今の地位で胡座をかいていたのだ。


 とばっちりを受けたのはディルだが、すでに「普通の人」だということはわかっていたので、そこに驚きはない。マリオンはウィンターに、形だけの礼を口にする。


「正直に話してくれてありがとう。ウィンター君。でも、あなたは犯人ではないわ」


「え?」


「だってあなたにはアリバイがあるもの。たとえ巧妙なトリックを使ったとしても、ダンスホールから一歩たりとも出ていないのだから、生徒会室でギルバート君を殺すことはできないわ」


「信じてくださるんですか……?」


「調べてすぐに嘘だとわかるようなアリバイ、口にするわけないわ。犯行は不可能よ」


 いくら魔法が使えたとしても、ギルバートと二人きりにすらなれなかった人間だ。マリオンは鼻から疑っていなかった。頭から大量の汗を噴き出していたウィンターだが、ほっと安堵の息を吐いた。


 さて、とマリオンは胸の前でパンと手を叩いた。


「オーウェン君のおかげでこの中に、魔法を扱う人間がいないことがはっきりしたわね。なら、尚更この事件の犯人は、原始的なやり方でギルバート君の意識を奪ったと考えられるわ」


「だとしたら……」


 ディルが頭を傾けながら、周囲を見渡した。


「犯人はいったい何を使って、ギルバートを殴ったんだ? それらしい鈍器も見当たらねえし……」


「犯人が捨てたのではないですか?」


 オーウェンが言うと、マリオンが部屋にあるただ一つの窓へと歩き出し、外に向かって指差した。


「そうよ。犯人が捨てたの。ほら、この窓の外を見て」


 言われて、全員がぞろぞろと窓へ集まり、目を凝らして外を見る。そして、他の部屋の明かりに照らされ、キラリと光るある物を目にした各々が、「あ」と口を開いた。


「あれは、この部屋にあったトロフィーか?」


 エリクが言うと、マリオンは「そうよ」と答えた。


「犯人はトロフィーを使ってギルバート君を殴り、気絶させたの」


「マジかよ……」


 淡々と話すマリオンに、ディルが自身の口元を覆った。彼女の推理が徐々に信憑性を増していくことに恐ろしさを感じているのだろう。


「や、でも、でもですよ……」


 と、ここでウィンターが、先ほどまでとは打って変わって、遠慮がちに発言する。


「あんなもので殴られたのなら、やはりそれが原因で死んだとしても、おかしくないのではないでしょうか。出血の有無で死因を特定してしまうのは、その、些か……」


 自身が無実であることを断言された手前、否定がしづらくなったのだろう。口ごもってしまうウィンターに、マリオンは首を横に振った。


「いいえ。ギルバート君は生きていたはずだわ。そうじゃないと、吊るされていた彼の足元にあった椅子が倒れていないはずがないもの」


「椅子? しかしあれは、踏み台ではないのでしょう? だってギルバートは殺されたんだから……」


 自殺でもない限り、使う必要はない。そう続けようとしただろう相手の言葉を、マリオンは遮った。


「必要は大いにあるわ。むしろ、あの椅子こそが、ギルバート君を殺すための装置だったんだもの」



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