表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/35

捜査開始 6


「最後は私のアリバイですね」


 マリオンが切り出すよりも前に、オーウェンは自身のアリバイについて語った。


「パーティー開始からマリオン先輩の監視につくまで、私はウィンター先輩の指示で動いていました。ほぼ雑用で動いていたので、証人らしい人はいません。その後、あなたの監視になってからは……まあ、語らずともあなたが証明してくれますね」


「ええ。そうね」


 オーウェンに頷きながら、マリオンは上手いなと、心の中で思った。なぜなら、オーウェンは意図的に、ある行動を言わなかったからだ。


(アンジェリーナが手洗い場に向かった後、彼もまた席を外しているのよね)


 そう。エリクの命令に絶対忠実のオーウェンだが、実は一度だけ手洗い場に行くと言って席を外していた。時間にして、約十分。その間は一人になったが、あまりに短い時間のため、マリオンはあえて口にしなかった。


(普通に考えれば、十分間で何ができるのかという話だけれど、周りが私を疑っている以上、迂闊に口にできない。今は言わない方が得策ね)


 しかし、気掛かりなことがあった。女性とは違い、男性の手洗い場は別棟に行かずとも事が足りる。十分という短い時間は、用を済ませるにはやや長い。急に体調を崩してその場から離れられなかったのならいざ知らず、オーウェンの様子は普段と変わらない。マリオンは、オーウェンがただ手洗い場に行っただけではないのだろうと、内心疑っていた。


(でも、私と同じで、この十分間でいったい何ができるのかって話なのよね……)


 口元に右手の指を添え黙考していると、急に反対側の手が温かく感じられた。何だ? と視線をそちらへ動かすと、大きな手がマリオンの手を掴んでいた。


「えっ?」


「大丈夫ですか?」


 オーウェンだった。急に黙ってしまったマリオンを心配してなのか、彼女の顔を覗き込むように見下ろしている。サラリと流れる前髪から、あの月夜のように美しい相貌が覗いて、マリオンは鼓動が早くなるのを感じた。


「ご、ごめんなさい。考え事に夢中になってしまって……」


「それならよかった。急に体調が悪くなっても、仕方のない状況ですから」


 オーウェンは落ち着いた口調でそう言うと、マリオンから手を離し、両手の拘束を解いて仰向けに寝かせた死体に顔を向けた。殺された人間をまじまじと見る機会など、そうそうない。だが、吊るされた状態から横たわらせたことにより、いくばくか細見しやすくなったと、気を引き締めたマリオンは胸の前で手を合わせ、黙祷した。


(その体、調べさせてもらうわね。ギルバート君)


 静かに瞼を開くとオーウェンが、「それは前世での作法ですか?」と尋ねたので、マリオンは「ええ」と頷いた。そして、両腕を自身の前で組むと、


「では、鎧を外してもらえるかしら? 触れられる範囲で構わないわ」


 と、オーウェンに悠然と指示を出した。


「わかりました。百年前の戦争のレプリカなら、着脱方法が容易くなっているはずなので、さほど時間をかけずに外せるかと思います」


 そう言って、オーウェンは死体の足元からするすると鎧を外し始めた。鎧に詳しくないマリオンは、その様子を見つめながら尋ねた。


「鎧にも詳しいの? それも書物で仕入れた知識なのかしら?」


「親戚に鎧コレクターがいるので、その伝手で」


「妙な親戚がいるのね」


 しかしそのお陰で助かったと、内心安堵する。なぜなら、ウィンターとディルも感心した様子でオーウェンの作業を眺めているからだ。エリクはいまだアンジェリーナに夢中のためわからないが、おそらくこの中で鎧の着脱方法を知っている人間はオーウェンしかいないのだろう。


「しかし、助かりました」


 と、オーウェンが鉄靴を外しながら語り始めた。


「遺体の身元を確かめる術のためなのか、両腕周りに鎧を着けていないので。その分、煩わしい作業が短縮されます」


 へえ、とマリオンは死体がつけている鎧のパーツを確認した。兜、胸当、腰当、腿当、臑当、鉄靴。他にも細かいパーツがあるように見えるが、素人がわかるのはこのくらいのものだ。


 では、死体がつけていない他のパーツはどこにあるのかといえば、元々、鎧が置いてあった場所に乱雑に置かれている。それらがおそらく、肩から腕にかけてのパーツなのだろう。これを人に着せようなど、いったいどれほどの時間がかかるのか、マリオンには想像もつかない。


「やっぱり、鎧って着脱が難しいの?」


 尋ねると、オーウェンは手元を止めずにマリオンに答えた。


「いえ、割りと簡単ですよ。数百年前のものは、一人で着脱ができなかったと言いますが、ギルバート先輩がつけているこれは、一人でも着脱が可能なように軽量化されていて、細かいパーツも少ないんです。その分、防御力は下がってしまうのですが、可動域は増えて戦いやすいものとなっています。扱う人間によりますが、動かない人間に着せるとなると、十五分もあればできるでしょう」


「そうなの」


「でも、犯人はもっと早くに済ませたかもしれませんね。着せ方が少々乱雑です」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ