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第53話 悪役アビロス、ララにしてやられる

 1週間がすぎて、野外演習の当日がやってきた。

 寮の玄関で小さなメイドにしばしの別れを告げる俺たち。


「じゃあな、行ってくるぞララ」

「ララちゃん、1週間後にね」


「ハイです! ご主人さま、ステラさま! これ持っていくです!」


 ララがでっかいバケットを手渡してきた。

 そういえば、初めて魔物の森に行った時もこのバケットを持っていたっけか。


「まあ、大きなバケットですね。ありがとう、ララちゃん」


「2人とも、お気を付けてくださいです~~」


「フフ、大丈夫ですよ。アビロスが守ってくれますから。ですよね?」

「ああ、もちろんだ。ステラ」


 野外演習、ブレアカに入学してから最初の大型イベント。

 ゲーム原作上の設定としては、野営や食料調達、そして軽めの魔物討伐などを目的とした実習だ。


 だが、実際はそんなぬるいイベントでは終わらない。


 俺は5年間、ずっと鍛え続けてきた。

 大型イベントだろうが、改変イベントだろうが関係ない。


 今回も必ず乗り切ってやる。


 しかし、ララが若干ニヤついてたのはなんだろうか?




 ◇◇◇




 俺たちは馬車にて目的地へと向かっている。

 馬車と言っても貴族が乗るようなものではなく、乗合馬車のようなものだ。


 各チームごとに乗り込み、隊列を組んで進む学園の馬車。


「うっわ~~、みてみてアビロっち~~」

「あれはアダマイト鉱脈だな」


 俺たちはちょうど、谷底の一本道に差し掛かったところである。

 両脇にはアダマンタイトを多く含んだ岩盤の壁がそそり立つ。アダマンタイトとはこの世界における硬度の高い鉱石のことだ。


「しかし、絶景だなウルネラ」

「すごいよね~~こんなの王都じゃ見れないっしょ」


 上半身を馬車から乗り出して制服を揺らすウルネラ。


 ちなみにこの野外演習だが、全員制服着用である。野外活動用の服とかじゃない。


 いや、なんで? という話だが、ゲーム設定が生きているのかとにかく制服である。

 みんなもそこに対して疑問はない様子だ。


「アビロスさま、たしかに凄いですけど……ちょっと怖いです」


 ウルネラの横から黄金色の髪を揺らして、エリスが俯いた。

 まあ、両脇から巨大な岩の壁に挟まれるような道だ。誰しも威圧感を受けるのは間違いないだろう。



 俺はエリスに短期間の訓練を施した。


 想像以上にエリスのスペックは高かった。

 遠距離魔法に加えて、探知魔法が得意だ。


 とくに探知魔法は1週間という短期間でその精度をかなり上げた。

 そんなエリスだが、顔色はあまり良いとは言えなかった。


 仕方ないか……エリスは引き籠り状態だったのだ。そのほとんどを王城で生活していた彼女は、見知らぬ土地やこれからはじまる野外演習に不安を抱いているのだろう。



「エリス、君は1週間でずいぶん成長したんだ。自信を持て」

「え……あ……はい! アビロスさま!」


 彼女は小さな手をギュッと握って頷いた。

 少し元気が出たようだ。良かった。そして……もう1人訓練したのが。


「アビロス君~~岩ゴツゴツ地帯だね~~」


 相変わらず能天気だな、この主人公は。


 ブレイルにはこの1週間、1つだけを繰り返し教えた。


【ライトスラッシュ】という主人公の基礎技だ。【栄光の斬撃(シャインフラッシュ)】のような覚醒後の特殊効果無効といったチート技ではないが、光属性の魔力を剣にのせて放つという物理攻撃面で強力な攻撃力を発揮する技である。


 覚醒の力を使いこなすのは時期尚早だ。というかゲーム原作でもまだブレイルはそこまで強くない。

 しかも【ライトスラッシュ】は、ブレイルが強くなればそれに比例して威力が上がっていく。


 今のブレイルにはこれが一番いいだろう。



「よし、各自昼食を取れ。まだ目的地は先だ、しっかり食べておけ!」


 ラビア先生から指示が出る。野営スポットはまだ先なので馬車内でのお昼となった。

 俺はララからもらった大きなバケットをみんなの中央に置いた。


「ララがみんなの分も作ってくれたんだ。良かったら食べてくれ」



「わあ~お姉さま、美味しそうですよ。ララさんのお弁当!」

「おお、ララの手作りか!」


 ララの手作りサンドイッチに興奮する二人の王女。ハハッ、ララのサンドは最高に美味いからな。


 みんな各々好きなサンドイッチを頬張った。

 いや、美味いな。マジで。最高だララ。


「ストローもありますよ~~」


 ナリサがバケットの中をのぞく。


「そっか~~うちは女の子多いからね~ララっち気が利く~~」

「そうだねウルネラ。ララさんは凄いメイドさんだね」


 ドリンク容器ごとグビグビ飲めばいいのだが、見た目を気にする人の為に入れておいてくれたんだろう。

 ララの配慮にウルネラが感心している。


 ハハッ、たりめーだ。ララは世界一のメイドだからな。


 ナリサがバケットに入っていたストローをみんなに配りはじめる。


「あれ……?」

「どうした? ナリサ?」

「なんか包紙があって……「ご主人さま・ステラさま用」って書いてあります」


 なんだそれ? ララは何も言ってなかったけどな。


「へぇ〜なんだろね、開けていい?アビロっち?」

「ああ、いいぞウルネラ」

「へぇ~へぇ~」


 なんだ? どうせストローなんだろ?

 なにニヤけてんだ。ウルネラのやつ。


「ウルがさして上げるよ〜」


 そう言って、刺されたストローは……


「ウソでしょ……ララちゃん」


 ステラが絶句した。


 途中までは2本、間にハートの交差点、最後は一本。



 ―――ラブストローじゃねぇか!!



 やってくれるじゃないか、ララのやつ……これが今朝ニヤけてた理由か。



 その後、ウルネラに「飲め飲め~~」といじられ。

 ナリサとエリスにはなぜか「2回もズルい」と拗ねられた。


 そして、当のステラは……



「し、し、し、仕方ないですね……さ、さあ! アビロス! こ、これはやむを得ないから、やむを得ないんです!」



 前のショッピングみたいに、良く分からないセリフを口走っていた……



 そんな、良く分からない罰ゲームのような時間がすぎようとしていた頃、馬車がガクンと止まる。


「キャッ!」

「大丈夫か、ステラ?」

「ええ、ありがとうアビロス。でも何が……?」



 こんななにかが起こりそうなところで、何も起きないわけがない。


 ゲーム原作どおりだ。



 さて―――イベントタイムのはじまりだな。


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