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悪意の極意  作者: メイズ
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Revealing Personal Anecdote7〈永遠の愛を探してみようか〉

 俺はいつものセリフを、女の名前んとこだけ変えて言えば良かった。


『このワンルームマンションは僕の采配で密かに先行予約出来る物件なんです。こんな素晴らしいチャンスは二度と巡って来ないと思うんですよね。リカさん。若いうちから資産形成しといた方がいいですよ。家賃払うなんて(かね)ドブです』


『でも‥‥ただの小さな会社の事務員の私が、2千万ものローンを組めるのかしら?』


『その辺は大丈夫です。我が社と昔から取引のある信用のおける融資先紹介しますから。僕からの紹介ならイケます。ご心配なく』


『でも‥‥‥』


 ためらう彼女に俺はダメ押しする。


『それに、‥‥‥()()()ですが、僕と結婚して不要になった時は、誰かに貸せば、不労所得になります、よね』


 俺は照れたように上を向く。


『‥‥えっ、それって‥‥プロポーズ?』


『あ、僕、うっかり妄想が出た! アハハ、今のは()()()()()()


『えっと‥‥そうね‥‥私、購入は前向きに考えたいです』



 この人、俺にガチ恋してるからね。今回もチョロかったな?



 ───はい、めでたくワンルームマンション契約1件取り!



 あ、俺さっき『例えば』ってつけたから。『忘れて下さい』って言ったから。



 俺は恋愛感情をビジネスに使って金を稼ぐ。もちろん、購入手続き完了後はシカト一択だ。契約済めば、俺にはもはや無関係。



 世の中、孤独を感じてる人は多い。誰かと寄り添っていたいと願ってる。心の隙なんて大小、誰にでもあるからね。そこに入り込む。


 こんなのに引っかかるなんてって思うかも知れないけど、数打ちゃ当たるってのが実際だ。詐欺の基本だぜ?


 いや、これは詐欺じゃない。資産形成のお手伝いだ。快速止まんない駅から徒歩30分の、転売も困難な、不人気売れ残り物件だけど。



 ***



 俺ももう30過ぎたし、そろそろ結婚したくなって来た。 もう、随分稼いだし、あと数件こなしたら転職したい。したら、俺の後をしつこく追う女たちとも完全切れるし。



 そんな風に思っていた矢先に彼女に出逢った。


 初夏の日差しが眩しく、その人は白い日傘をさしていた。


 マンションのモデルルームの前を通りかかったところに、アンケートに声をかけた。カモにしようと近づいたのだけど、俺はこの女性のことを本当に気に入ってしまった。



 その時、彼女はアンケート用紙に個人情報は記入はしてくれなかったけれど、興味があるから物件について説明して欲しい、と言われて案内した。彼女は、他に良い新築情報があったら個人的に教えて頂けませんか、と最後に頼んで来たので、俺は承諾し、メッセージ交換をすることになった。



 彼女の名前は、優香さん。23才と言った。とても美しく、優しくて、聡明な人だ。


 2回目に会った時点で、俺はわりと本気になって3回目にはマジになった。彼女との会話から推し量るに、俺と同じくごく一般的な家庭の娘さんのようだ。ならば両家の相性も悪くはないはず。


 彼女は俺と付き合っている感覚で会っている? 向こうも好意的だとは感じてるけど、この関係は微妙だ。はっきりコクっといた方がいいだろう。



「優香さん、結婚を前提として、僕とお付き合いして貰えませんか?」


「‥‥ありがとうございます。でも‥‥お返事は少しだけ待って頂けますか? 出会って間もないのに、突然の結婚という言葉に戸惑ってしまって。もちろん、寺崎さんはとても素敵な方ですけど」


 彼女は恥ずかしげに俯いた。たぶん、照れてしまってすぐには返事をしたく無かったのだろう。俺はイケメンだし。



 次のデートの時、彼女は言った。


「あの‥‥本当に私のことを? でしたら証拠が欲しいです。寺崎さんは素敵な方ですし、モテるんでしょう? 私、遊ばれてるのかもって不安がいつもあって。私、男性とお付き合いするのは初めてなんです」


 なんだ、それではっきり返事してくれなかったのか‥‥


「どうしたら僕を信じてくれますか? その通りにしてみせる。優香が好きだから」


 やっべ、ついに呼び捨てにしちゃった。


「‥‥‥本当に? ならば‥‥。指輪はまだ荷が重いですよね? お揃いの腕時計なんて、どうでしょうか? それで寺崎さんの本気度を知ることができると思うの。私のことをどれくらい思ってくれているのか。私、本心を言ってもいいですか?‥‥‥寺崎さんに優香って呼んでもらえて‥‥嬉しい」


 いい雰囲気になって、優香にキスしようと思ったら押し返された。


 よし、俺はあの有名なスイス製の高級腕時計を彼女に贈ろう。500もあればペアで購入出来る。今まで女たちにマンション買わせて稼いだ金がある。




 夜景の美しいホテルレストランで乾杯の後、優香にプレゼントした。


 彼女は涙を浮かべて感激してくれた。俺はここで部屋も予約済み。今夜こそは心体共に承諾してくれるはず。


 さり気なくここに部屋を取ってあることを告げると、頬を赤らめながら頷いた。ついに俺の気持ちを信じてくれた。散財したしな。



 優香がパウダールームに行っている間に食事の会計は済ませた。戻って来た彼女は、神妙な面持ちをしている。彼女はうぶそうだし、緊張してるのか? それとも急にアレ、とか。


「あの‥‥寺崎さん、ごめんなさい。私、すぐに帰らなくてはいけなくなって‥‥」



 は? 待てよ。これからがメインなのに。


「‥‥どうしたの?」


「実家でボヤ騒ぎを起してしまったようなんです。すぐに消し止められたみたいですけど、煙で祖母と祖父が病院に。現場検証もあるみたいで、私、手伝いに帰らなくては」



 俺が実家まで車で送ろうとしたけど、優香は言った。


「私たちはワイン一本空けてます。酔ってはいないけど飲酒運転になってしまうわ。それに実家が取り込んでいる最中に私が男性を連れ帰ったら家族が余計に混乱してしまいます。もう宿泊キャンセルは無理だし、今夜は寺崎さんだけでもここでくつろいでください。私、後ほどご連絡しますから」


 ‥‥だな。面倒そう。せっかく豪華ホテルだし、誰か他の女を呼び出すか。誰にしよう?



 俺は了承し、万札を2枚渡したら、優香は慌ててタクシーで帰って行った。



 呼び出した女がシャワーを浴びてる隙に、俺は優香にメッセージを送るが、既読にならない。取り込んでいるんだろう。


 女が寝入ってから、真夜中にもう一度チェックする。まだ未読だ。優香からもDMは来てない。連絡するっていったのに。


 気になって彼女のアカを見ようとしたら。


 ‥‥‥あれ? 優香のアカウント、投稿が無いって出る? 非表示になってる。これって‥‥ブロックされた? なんで? ‥‥‥俺が他の女を呼んだことがバレて? まさか────


 慌てて廊下を覗いてしまったが、もちろん誰もいない。


 どうなってんだ?




 ───それ以来彼女とは全く連絡が取れなくなった。


 俺は、彼女の確かなことは何も知らなかったことに、今更気づいた。


 彼女が俺に話した家族のことや、プライベートなことは、信憑性は謎だし、本当のことだったのかも最早確かめる術もない。どこをどう探せば? 共通の知人もいない。


 俺は彼女を闇雲に探した。ネット上で、リアルで。優香と行った場所を何回も回ったが、彼女の痕跡はどこにも見つからなくて。



 俺はこの時になってやっとうっすら気がついた。


 ───俺、騙されてた? 


 数百万の高級時計を貰ったら、俺は用無しかよ? あんな清純そうな顔をして。



 俺がこれまで手玉に取って来た女たちの顔なんて、顔も名前もろくろく覚えてない。ならば、優香も俺のことなんて‥‥‥


 悔しいのと憎いのと。それなのに、憎み切れないから苦しい。俺は本気だったのに。


 優香‥‥せめてこれは本当の名前だと信じたいけれど。




 ***



 秋も深まった頃、俺は会社を辞めて無職になった。失恋で無気力。初めて結婚を意識した女。優香を失って、いかに彼女の存在が俺にとって大きかったか知った。


 日々、カフェの外向きのカウンター席から、街ゆく人をぼーっと眺めて過ごしてる。優香を求めて。


 店内を振り返って見渡せばもうすぐランチタイムだ。混んで来た。外に再び目線を戻した刹那だった。



 ───あ‥‥‥あの人‥‥!



 俺は慌てて立ち上がって、スツールを倒してしまったが構わず、自動扉が開くまでの間も惜しいほど急いで通りに走り出た。高鳴る鼓動が響いてる。


 見覚えのあるシルエットが人波に流れてく。どこだどこだ! 焦燥感がヤバいけど、俺の視線の集中力は半端ない。ここで見逃したら、一生悔やむって。



 ───あ! 見つけた。俺の優香。



 待ってくれ! なんで俺の前から消えたんだ。理由を聞かせてくれ! そうさ、俺が騙されたなんて思ったのは、誤解していただけかも知れない。きっとそうだ。戻って来て。俺もあれからは浮気なんてしてないんだ!



 俺は焦るあまり脚がもつれてアスファルトに無様にすっ転んでしまった。


 どこからかクスクス笑いが聞こえる。


 黙って立ち上がり、擦り切れたブランドスーツの膝を払う。前方にいたはずの優香の姿は、人波に紛れて見失った。



 ───ここで諦める俺じゃない。探せ!



 構わず先に進んで彼女を探す。まだ近くにいるはずだから。美しい優香は遠くからでも目立つ。



 ───ほら、見つけた!



 声をかけようと思ったら。



 見知らぬ中年男が手を上げながら彼女に向かって歩み寄って来た。その男の笑顔は恋を物語っている。優香は親しげに、彼の左腕に腕を巻きつけた。


 俺の胸にナイフが突き立てられる。心臓が握りつぶされそうだ。


 誰だよ? そのダサい中年。趣味悪いな。俺の方が何万倍も良くね?



 俺のことなんて、とっくにすっかり───?



 自分がストーカーまがいのことをするなんて思わなかった。だが、俺は本能の欲求に従うまでだ。


 俺は、くだらない他人のファミリーフィルムを見せられてるかのような気分で、彼女の本日の成り行きを見届ける。

 

 水族館デートの後、レストランで食事してから男と分かれた優香。夜8時過ぎてる。これで帰宅だろう。



 俺には探偵の素質があったらしい。


 ストーキングを続け、遂に彼女の家を突き止めた。ワンルームマンションで一人暮らし。ポストの中の郵便物。宮守優? これが優香の本当なんだ?




 ***




 ───さて、俺の次の選択は?



 大きな花束を持って待ち伏せしようか。それとも優香に似合う素敵なジュエリーがいい? いっそのこと指輪を捧げてプロポーズしようか。


 驚くキミの顔がみたい。その後、かわいらしいあの笑顔を見せてくれるよね?


 ワイングラスを挟んでロマンティックな夜景を見ながら、キミへの想いを語ろう。 最高の、忘れられない夜をプレゼントしてあげる。



 それでも優香が俺の下に戻らないと言うのならば、俺はいっそのことすべてを消してしまいたい。



 彼女も俺も、もろとも。



 さすれば、永遠に一つになれる。俺たち────




 ***




『お陰で荷物も大体片付いた。今日は朝から引っ越し手伝いサンキューだったな』


『ああ。でもさぁ、本当に大丈夫かよ? 夜になったら一人怖ない? 事故物件なんて。お前がいいならいいんだろうけど‥‥』


『俺は気にしてないから全然OK。だって、この部屋、相場の半額だぜ?』


『その点はありがたいんだろうけど。ここで男二人の無理心中だか、殺人事件だっけ? どういう関係だったんだろ? 1人は入院して精神鑑定中だっけ?』


『らしいな。死んだ方は女装男子。すっげー美人だったって噂。だから幽霊出ても、カモーンだって』


『ハァ‥‥ったく。夜中に怖くなっても俺に通話してくんなよ! じゃあまたな。バイ』






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