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11 魔導士、悪漢を追い払う

「いつまでも目障りなババアめ。今日こそは観念してもらうからな」


 歳は30代半ばほど。中肉中背の金髪で上等な身のこなしをしているものの、腰の曲がったクラウディアを相手に敵意剥き出しで詰め寄る姿は、それだけで程度の低さを物語っていた。


「……落ち着いてディオス。あのね、実は」


 男数人に囲まれているにも関わらず、怯えよりも悲しげな表情をしながら口を開くクラウディア。しかし男は言葉を遮って口汚く彼女に迫る。


「説教はもう聞き飽きたんだよ。お前のせいでオレはいつまで経っても領主になれない。こうなったら腕づくでも立ち退かせてやる」

「そんなことしなくても、もうすぐ、もうすぐだから……」

「そう言ってもう1年が過ぎてるじゃねえか! いつくたばるんだ、この死に損ない!」

「お願いだから聞いておくれ。あたしは……」


 懸命に対話を試みようとしているクラウディアに対して、男は聞く耳持たずとばかりに暴言を投げかける。

 取り付く島もないといった様相だ。


(でも、領主ってどういうこと?)


 コーエンは王家の直轄領だから、王国が誰かに爵位を授与しない限り領有権は王国にある。この地を治めているのは領主ではなく王都から派遣された総督のはず。

 クラウディアが領主だというなら当然そのことは周知されているはずだし、百歩譲って彼女が王族だったとしたら、あんなチンピラの不敬が許されるはずがない。


「やめろ! ばあちゃんをいじめるな!」


 その時、奥から2人の間に割って入ってきた小柄な影。

 アレンだった。

 遠くにはフィーナとレキもいる。


「ここは、ばあちゃんのご先祖さまの土地だ! 力づくでうばったら捕まるのはおまえ達だぞ!」


 大のおとなを前にしているのに少しも物怖じせず両手を広げてクラウディアをかばおうとするアレン。

 男はひるんだ様子を見せたものの、すぐにそちらへ敵意を向ける。


「ぐっ……アレン! それが親に対する態度か!」

「うるさい! おまえだってばあちゃんに酷いことを言ってるじゃないか!」

「この女を親と思ったことは1度もない!」

「じゃあ、おれもおまえを親だなんて思わない!」

「なんだと!?」

「おばあちゃんの悪口はやめて!」

「フィーナ! お前まで取り込まれやがってクソガキ……!」


 小さい体で、フィーナまでもがクラウディアを守るように男の前へ立ち塞がる。

 事情はわからないが、どうやらあの男がアレン達の父親らしい。


「ディオスさん、もうやっちまいましょうぜ」

「年寄りとガキの言うことなんざどうとでも言いくるめられる。適当に痛めつけりゃ大人しくなるんじゃないですかい」


 物騒なことを口にし始める男の取り巻きにしてゴロツキども。不穏な空気が流れ、アレン達の頬を汗が伝っていた。


「あ……ローザ!」


 ふと、こちらに気付いたレキが声を放つ。

 注目は彼らの背後にいた私に集まった。


「……誰だ、この女」

「あっちへ行け。じゃねえとテメェもタダじゃおかねえぞ」


 案の定、底の浅い恫喝を口にする男達。


「ローザさん……」


 逆にすがるような顔を向けるアレンとフィーナ。


 ……ああもう。

 結局こうなるのね。


 ――ゲロ甘ローザ。この偽善――うるさい。


 ()()()()


 懐には魔導書が入っている。聞き込みついでにわざわざ市場で買った初心者用のものだ。

 これが無駄になったらどうしてくれる。

 それにもともと、ああいう連中は大嫌いだ。


「それとも何かぁ? オレらと一緒に愉しみたいってか。そっちの男のガキならくれてやるぜ?」


 ほら、害虫が向こうから処分してくれって鳴いている。

 いちいち忠告するのも面倒なため、一気に決めようと片手に魔力を集中させたその時。


「そこまでです!」


 突如、凛とした声が場に響く。


「!? 誰だ!」


 辺りを振り返ると、小麦畑の中をガサガサと蛇行しながら近付いてくる正体不明の生き物の姿が目に移る。


「か弱いお婆さんと少年少女に危害を加えんとする悪行、たとえ天地が許しても正義の使者たるわたしが許しません!」


 言い放ち、麦の穂を撒き散らしながらソレは天高く飛翔した。

 空中でくるくると回転しながら男達の近くに着地すると、既視感のある剣を構えて対峙する。

 というか、やっぱりアイツだった。


「ジャスティ・レスティ見参! さあ、穂先を食い散らかすアブラムシもとい悪党の皆さん! 悔い改めるか正義の裁きを受けるか、取捨選択の時が到・来っ!」


 あの時と違ってウェイトレス服のままだったが、そんなことはどうでもいい。

 風に金髪をなびかせアホみたいなポーズを取っているのは、間違いなくあの女剣士だった。


「えっ、誰あの人!?」

「どうして畑から生えてきたの?」


 レキ達もめちゃくちゃ困惑している。

 私だって同じ気持ちだ。もしかしてつけられていたのか。キモい。


「何が正義の裁きだ! やっちまえ!」

「「「おおっ!」」」


 ダガーやショートソードを手に襲い掛かるゴロツキ共。

 それはまさに自ら首を差し出すに等しい行為だった。


「|正義的教育指導《ジャスティスクラム!」



 ごきっ、ぐしゃっ、ばぁん、めりめりっ



「うぎゃあ! 関節が逆に曲がった!」

「前歯がなふなっひまっはぁ!?」

「おぅ……っ! 俺のタマがっ! タマがぁっ……!」 

「鼻の骨が粉塵になっちまったよォ!?」


 体の一部を無惨に砕かれた上で叩き伏せられるゴロツキ達。

 生半可な腕では太刀打ちできないことは、あいつと戦った私がよくわかっていることだ。

 再起不能にしておいて何が指導だ。


「なっ……ババア! てめぇ、用心棒を雇っていやがったなぁっ!」


 仲間をやられたディオスという名の男が激昂し、クラウディアの首をつかむ。


「ううっ……!」

「ふざけやがって、殺してやる! 殺して……!」


 殺意をあらわにクラウディアを締め付けようとしたその腕を、私は無理矢理つかんで持ち上げる。

 ろくに鍛えてもいないのか、あっさりと引き剥がせた。


「痛ぇっ! 何しやがる!」

「知らないわよ。珍しいわね、こういう言動全部が情けないタイプ」

「クソがっ。こんな真似して無事でいられると思うなよ。オレはなぁ、総督代行なんだ!」


 は?

 総督、代行?


「このままで済むと思うなよ。オレに逆らうのは王国に逆らったも同じこと。お前ら全員死刑だ、死刑!」

「…………」


 よくわからないが、このままだと私は捕らえられ、ギロチン台の露と消えるらしい。


「じゃあ仕方ないわね」

「! 育ちの悪そうなお前でもようやくわかったか。そうだ、さっさとオレを解放して――」

「ええ。口封じしないと私の身が危ないわ。《ゴルトヒート》」

「……!? う、げえええ!?」


 私は男の体を灼き切るべく雷撃を全身に伝わせるべく魔力を込める。

 総督代行だか何だか知らないが、体ごと炭にしてしまえば証拠も残らない。

 何よりこいつは不快だ。消えてもらおう。


「あああああ熱いっ! やべてぐれえっ!」


 いくらのたうち回ろうが、無駄だ。

 雷撃の熱はいうれお前を骨まで溶かす。


 死ね。

 死んで私を不快にした罪を償え。


「ぎゃあああっ! いやだ! 何でオレがこんな目にぃぃっ!」


 ああ、これだ。

 見苦しく藻掻いている弱者を貶める時だけが、私に生きている感触を与えてくれる。


 死ね、死ね、死ね――


「ローザちゃん、やめて!」


 その時。

 不意に聞こえた一言。


 私の腕にすがりついていたのは、クラウディアだった。

 たった今まで自分を襲っていた男のことを、身を挺してかばっている。


「ひ、ひいい!」


 力の入らなくなった私から解放された男は、地べたを這いつくばりながら一目散に小麦畑の向こうへ逃げ出す。

 それを見た仲間の男達も体を引きずるように私達の前から姿を消した。


 ――どうして。


 途方に暮れる私に、クラウディアがしわがれた声で。


「ごめんね……」


 なんで謝られるの。

 私にはわからない。


 喧騒の無くなった世界を、風が駆け抜ける。

 空しい沈黙だけがどこまでも広がっていた。


 やがて口を開いたのは、クラウディアだった。


「少しだけ……お話ししましょうか」


 女剣士を含めた私達は、彼女に言われるがまま、館ではなく一番近い山麓のほうへと歩みを進めた。



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