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02 魔導士、誤解される

「さあ武器を捨てて投降してください! さもなくば正義の鉄槌を下すことになります!」


 そう言い放ったジャスティなんだかという金髪の女剣士は、岩場の上から野盗達を挑発するように剣の切っ先を向ける。

 当然のように野盗達は激昂する。


「何が正義の味方だ、ざけんじゃねぇ! おい、やっちまえ!」

「「「おお!」」」


 女剣士は鎧を纏っているとは思えないほどの身軽さで地面に着地すると、電光石火のごとき速度で駆け出し、真正面から彼らに向かって突撃した。


「どうやら実力で矯正(ただ)すしかないようですね! はああああっ!」

「! は、速ぇ! うごっ!?」

「クソがっ、ぎゃあっ!」


 連中の技量では剣筋を見極めるのすら難しいのか、女剣士は敵の懐深く潜ると1人、また1人と野盗達をのしていく。

 ただの色モノかと思いきや、複数の相手を軽々と圧倒しているあたり手練であるのは間違いないようだ。剣捌きや体の運びを見ても、それこそ冒険者でいえばSランクに匹敵するものを感じる。

 しかも正義だなんだと面倒くさいことを言ってるだけあって、殺しまではせずしっかりと戦闘不能にも追い込んでいっている。

 だが――


「腕がぁっ! オレの腕があああ!」

「肩の骨が粉々にぃぃっ!」

「脚の関節が増えちまったぁ! 痛ぇよおおおおっ!」


 彼女と交戦した野盗はあっという間に地べたをのたうち回る羽目になり、人体の一部を破壊されていた。

 気絶させるとか、もっと綺麗に収められないのだろうか。

 

「なめやがって……こいつを喰らえ!」

「――甘いっ!」


 背後から急襲した矢もあっさりと剣で弾き飛ばす。

 しかし反らした方向にまで注意がいってなかったのか、飛んでいった鏃の先には私の少し離れたところに立つ乗客の老婆がいた。


「……《アイスバレット》」


 こんな馬鹿らしいことで怪我をされても寝覚めが悪いため、仕方なく私は魔法を放って矢を打ち払う。

 乗客を守るために戦ってるなら、ちゃんと周りに気を配れというものだ。


「ありがとうねぇ、助かったよ」


 ふと助けた白髪頭の老婆が、近寄ってきてわざわざ頭を下げてくる。


「……危ないからもっと後ろにいたほうがいいわよ」


 老婆はにこりと笑ってからもう1度頭を下げると、おぼつかない足取りで退いていった。

 そうしている間にも女剣士と野盗との戦いは終盤に差し掛かっていた。


「畜生っ! 何モンだてめぇは!」

「言ったでしょう! わたしはジャスティ! 愛と平和と正義の味方です!」

「さっきより増えてねえか!? ぐうう、女とは思えねえ力だ……!」

「世界の安寧を願う気持ちこそが我がパワー! というわけで成敗!」

「ぐへっ!?」


 最後に残った賊の腹部に剣を叩き込んで弾き飛ばす女剣士ジャスティ。

 賊は地面の上を数回に渡ってバウンドしてから岩に激突し、白目を剥いて動かなくなった。


「すごいね、あのジャスティって人。でも剣で攻撃してるのにどうして斬れないの?」

「両刃に見えるけど、片側の刃が潰れてるみたいね。じゃなかったらあの速度で肉が裂けないはずないわ」


 どっちにしても鉄の固まりで殴りつけてるようなものだから、運が悪ければあの世行きには違いない。一応加減はしてやっているのだろう。

 剣には独特の形状の他にも、奇抜な宝飾が施され微量ながら魔力の波動も感じられた。それなりにレアな武器(アーティファクト)なのかもしれない。

 そうしているうちに戦闘を終えたジャスティと名乗る女がこちらへやってくる。

 見れば鎧も特注品らしい、まるで貴族が着るような派手な薄碧色の色をしていた。


「助かったよぉ、お嬢ちゃん」

「そんなに可愛いのに、つよいんだねぇ」


 老人達が次々に称賛を口にする中、どういうわけか女剣士の表情は険しいままだ。

 やがて一言。


「いえ、まだ終わっていません」

「へ? どういうことですかいのう?」

「残念ながら、まだこの場に凶悪犯が残っています」


 そうなの?

 野盗達はどう見ても制圧されている。

 一応周囲に風を応用した感知魔法を巡らせて伏兵の警戒はしているけど、他に仲間の気配は無いし、遠くにいたとしてもとっくに逃げ出しているだろう。


「ならずもんは、おねえちゃんが全部倒してしまったんじゃあ?」

「彼らではありません。その人物は別の凶悪犯罪に関わっています」

「べ、別の犯罪?」

「ええ。今も何食わぬ顔で乗客に紛れてこの場をやり過ごそうとしています。ですが、わたしの目に止まったのが、犯罪者の運の尽き」

「は、犯罪者……?」

「いったい誰が?」

「それは……アナタです!」


 女剣士はこちらに顔を向けると人差し指を突きつけてきた。

 どうやら私の後ろに犯罪者がいるらしい。

 だけど振り返ってもそこには岩地が広がっているだけ。

 どこよ、どこにいるの。


「……もしかしてローザのことを言ってるんじゃない?」

「…………はぁっ!?」


 レキの指摘に私は思わず声を張り上げる。

 確かにあの女の指先にあるのは、私の眉間以外に存在していなかった。


「いやいや!? 私は何もしてないわよ!?」

「とぼけないでください。……連れの子を見れば一目瞭然です」


 は? レキがなんだっていうの。

 もしかしてこいつ――追手?


「貴女と一緒にいるそちらのゆるふわヘアの女の子、ずいぶん愛らしい顔をしていますね。目鼻立ちが整っていてまるで天使みたいです。その心もさぞや碧空のごとく澄み渡っているのでしょう」

「……え? えへへ、それほどでも」


 なに照れてるの。

 私よ、私がセットしてあげたのよ。


「それに比べて貴女の顔からは、ねじ曲がった根性が染み出しています! 邪悪とまではいかなくても性格が悪いのは事理明白! その心、腐ったミカンがごとし!」

「は、はぁっ!?」


 なんなのこいつ! 初対面の人間をよくそこまで罵倒できるわね!

 人を見かけで判断するなんてどこが正義の味方よ!


「くふっ……腐った……うふふっ」


 そしてレキ、なに笑ってるの!

 この子のどこが天使よ、こう見えて意外とは中身はアレなのよ。


「お2人が姉妹とは思えませんし、どう見ても相容れそうにない貴女達が一緒にいるなんて理由は1つしか有り得ません! そう“誘拐”です! 大方下流の町からかどわかして来ましたね!?」

「そんなわけないでしょう! あなたねえ、いくら何でも偏見が――」

「問答無用! はあああっ!」


 嘘でしょう、本当に斬りかかってきた!

 正義の味方じゃなくてただの過激派じゃないの!


「くっ!」


 女剣士から振り下ろされた刃を、私は魔杖で受け止めた。

 衝撃が杖を伝って全身に軽い痺れをもたらす。

 体つきも私とほとんど変わらないのに、恐ろしく重い一撃だった。


「むっ。止められるとは予想外でした。そしてその杖、魔導士ですか。やはり邪悪な力を隠していたようですね」


 外れてしまった布の下から【アルスノヴァ】が姿を現す。

 こういう話の通じないタイプは実力行使で黙らせるしかない。

 ああもう、面倒くさい……! 



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