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パパは破壊神(デストロイヤー)  作者: 空風林
第一章 北方争乱篇(上)
8/21

◇Two nights carnival その5◇

遅くなりましたが投稿させて頂きます。

よろしくお願いします。

「どぉりぁぁ!!」


気合いと共に豪快な横薙ぎを放つロタ。


当たれば間違いなく、

命共々胴体を両断したであろうその一撃は、

空を斬った。


「チッ!素早い!」


斜め後方に飛び上がって逃げた翼の生えた猿の様な魔物は、

してやったりの表情だ。

どうやら、低いながらも知能はあるらしい。


だから、笑いながら死ねたのは彼にとって幸いだったのかも知れない。


神眼で動きを読んでいたカトリーナの突きは、

背後から急所を寸分たがわずに貫いていた。


苦痛の声を上げる間もなく、

血の糸を引きながら地に墜落する魔物。


また一匹、群れの仲間をやられた魔物達は、

キーキーとコウモリの様な奇声を上げ、

ジリジリと包囲するように迫ってくる。


「雑魚は任せて!ロタは奥の大きいのをお願い!」

「数が多い!大丈夫か!」

「こっちはなんとかする!でも、アレは私じゃどうにも出来ない!」

「了解!任せろ!」


群れの包囲を両断する様に、

中央突破を強行するロタ。


ロタの背後から襲おうとする二匹を、

カトリーナが風の精霊魔法で斬り刻む。


「貴方たちの相手は私よ。間違わないでね。お猿さん。」


どちらを相手にするか迷っている魔物を

各個撃破していくカトリーナ。いい連携だ。


「退屈だったろう。相手してやる。かかって来な。猿!」


肩越しに、鎧刺プウトラックを背負ったロタが、

左のてのひらを上に向け、

二本の指でクイクイと挑発する。


『ヴォォォォォ』


咆哮を上げながら舞い上がり、

巨大なこん棒をロタの頭上に振り下ろすボス。

躱さず、敢えて受け止めたロタは弾き返す。


「そんなものか?」


どうやら趨勢すうせいは決した様だ。


森に入って、今日で3日目。

戦闘はこれで、何度目だろうか?

20回までは数えていたのだが、

昨日の段階で、それはもう諦めた。


数なぞ数えている暇があるのならば、

俺には『やらなければならない事』があったからだ。


少しでも鮮明に、二人の姿を眼に焼き付けなければならない。

スマホを置いてきたのが、今となっては多いに悔やまれる。


断っておくが、パンチラとかブラチラとか

あわよくばチクビチラとかそういう事では断じてない。


見取り稽古というそうだ。


俺は戦闘に関して全くの素人なので、

まず『戦いとはどうゆうモノなのか』という事を

理解する必要に迫られていた。


『加速スキルはダメです!アレは狭い所で使うと、

 周囲の破壊がただ事じゃなくなります!!

 それに、基本的な連携も知らない50倍筋肉ゴリラに、

 高速で戦場を右往左往されたら、かえってやりずらいんですよ。』


とは、カトリーナの言である。


こうして、唯一の取り柄を封印された俺は、

クラースさんの解説の元、

3日間に渡り、パンチラ、いや、戦闘を凝視しているという訳だ。


そうこうしている内に、

一際身体が大きく、頭に角の生えた指揮官機、いやボス猿を、

ロタが袈裟切りで仕留めた。


カトリーナが相手をしていた雑魚たちは、

ボスがやられた途端、

クモの子を散らすかの如く逃げ去っていった。


「お疲れさま!」


二人に声をかけ、水筒を渡す。


「いやぁ。軍の野戦訓練よりキツいわぁ。」

「いいじゃねぇか!私は楽しいぞ!」


倒木に腰掛け、水分補給しながら、話す二人。


共闘することで打ち解けたのか、

随分と気さくに話す様になってきたのが微笑ましい。


ロタは良く笑う様になった。

これが素なのだろう。

カトリーナは言葉使いの節々が汚くなった。

これが素だな。


「お嬢様方、朗報でございます。

 先ほど、偵察に出していた我が眷属から報告があり、

 この近くに小さな洞窟があるそうです。

 奥には水質の良い泉が湧いているらしいので、

 今宵は水浴みずあみ出来るかと。」

「本当!!」

「ソイツはありがたいな!」

「お喜び頂き恐縮です。では、

 お疲れとは思いますが、

 日の落ちる前に出立という事でよろしいですか?」

「よろしく!クラースさん!」

「ご案内いたしましょう。」


洞窟に着くと、女性陣は一目散に最奥にあるという泉に駆けて行った。

あれだけの戦闘をこなした後だというのに大したものである。


クラースさんは夕食の準備を始めた。

食材は、度重なる戦闘で豊富にあった。


こちらにきて、一番便利に感じたのは亜空間保管トランクという魔術だ。


初めて見た戦闘の時、

カトリーナが光の粒子を集めて剣を作った様に俺には見えたのだが、

『アレはクリエィティブではないですよ!亜空間から転送しただけです。』

との事だった。


クリエイティブウェポンというのは相当高度な魔術らしく、

そんなものは、半神には到底使えない代物しろものだそうだ。


ともあれ、その亜空間保管トランクは、

もっか食料と水の運搬に大活躍中なのだ。


大活躍と言えばこの人。クラースさんだ。

とにかく何をやってもソツがない。


進路の偵察、水の確保、野営地の選定。

ここまで全て丸投げである。


中でも料理の腕前はただ事ではなかった。

週に5日は吉野家で食事をしていた俺からしたら、

サバイバル中の今の方が栄養バランスが良いくらいだ。

味に関しては、言うまでもなく絶品。


この危険で困難な道のりを、皆、笑顔で進んで行けるのは、

こういった縁の下の力持ちのおかげだと心から感謝している。


もちろん、戦闘を受け持っている二人には、全く頭があがらない。


つまり、ここまで、一番役に立っていないのが、俺たち親子である。

何せ、俺にやれる事といったら、

こうして拠点周辺の見廻りをするくらいなのだ。


そして親父。

とにかく親父は寝てばかりだ。と、感じる。

なぜそんな言い方になるかと言えば、

別に親父は長時間寝ている訳ではない。

多分、一日5時間程度。むしろ短い。


しかし、俺を含め、他のメンバーは、

基本、睡眠がなくても大丈夫らしい。


俺は習慣で寝ているけど、

精々一日2時間弱といったところだ。

カトリーナの話だと、充分な魔粒子補給が出来ているから、

魔術核が機能しているんだそうだ。


こんなことで実感が湧くと言うのもなんなんだが、

どうやら、俺が神というのは本当だったみたいだ。


俺の人生経験上、賽銭さいせんを投げたところで、

神様が何かをしてくれたと感じた事などただの一度もないので、

特に役立たずでもいいのだろうか?


いや、良くねぇな。


神としては許されても、人としては許されない。

なんでもいい。出来る事をやらねば!


人間界あっちにいた時には一度も入った事のないやる気スイッチが

俺にも有ったんだと知り、ちょっと苦笑いした。


とにかく、今の俺はなんかやる気なのだ。

考えて見れば、おかしいじゃないか。


男3人に女性2人という構成パーティーなら、

前衛が男で、魔術による遠距離攻撃や回復を女性がやる。

これが、普通の布陣な気がする。


しかし、現状、戦闘は女性陣に丸投げ。

俺は見学。クラースさんは解説。

親父はビーフジャーキーかじりながら、見物ときている。


えっ。コレって端から見たら、結構恥ずかしい感じになってね?


なんか、急に羞恥心を刺激された俺は、

とりあえず手近なトコに落ちていた小枝を拾い、素振りとかしてみる。

ぎこちないのが自分でもわかる。


喧嘩とかとは無縁の平穏な暮らしをしてきた俺にとって、

棒切れを振り回した経験など、

体育の授業で申し訳程度にやった剣道くらいのもんだ。


記憶をたぐり、少し振ってみたのだが、、、

なんか違う気がした。


カトリーナ達の姿を思い出してみる。

回想の合間に様々な絶景チラチラが混ざったのはご愛嬌。

動きを真似してみた。


『ブン』


おっ!風切り音とか出るじゃん!


これにはテンションが上がった。

夢中で棒切れを降り出す俺。


振り方によって、風切り音が出るものと出ないものがある。

どうやら、俺は斬り上げ系の振り方が得意なようだ。


初めての事をやる時には、

まず長所を伸ばすのが良いとどっかで聞いたことがあった。

俺は、下段からの斬り上げを何度も繰り返した。


徐々に『ブン』が出る確率が上がってきた気がする。

ときたま『ヴゥン』が出たりすると、

それはもう、かなりアゲアゲな気分になる。


いいじゃん!俺、実はセンスあるかも!


ビギナー特有の勘違いも伴って、まさにノリノリ状態だ。

俺は一心不乱に素振りを続けた。


一方、泉についた女性陣もまたノリノリであった。


「うわぁ!素敵!」

「あぁ。いい感じだな。」


洞窟の奥は比較的広い空間になっていた。


高い天井からは、大小様々な鍾乳石のツララが並び、

それを発光性のこけが、薄明かりで照らし出している。


その光景が、澄んだ泉の水に映しだされている様は、

幻想的ですらあり、二人の乙女心を多いに刺激した。


「早速準備しますか♪」

「そうだな♪」


言うと、カトリーナは精霊魔法で小さな竜巻を起こし、

泉の中心付近にそれを叩き込んだ。

すると泉に大きな渦が出来る。


ロタは鎧刺プウトラックに炎属性のオーラを纏わせ、

その激流に刃を突き立てる。


『ジュウッッ』という音と共に大量の蒸気が吹き上がり、

みるみる内に空間を満たす。


あっと言う間に、冷水は温泉へと早変わりしていた。


カトリーナは、素早く衣服を脱ぎ、温泉に飛び込んだ。

水飛沫ならぬ、お湯飛沫がロタにはねる。


「おい。カトリーナ!もう少し静かに入れよ!」

「いいじゃん!ロタも早くおいでよ!気持ちいいよ♪」

「全く。」


ため息をつきながら、カトリーナの脱いだ衣服をたたんでやるロタ。

しかし、気分はまんざらでもない。


戦場から戦場を渡り歩く事が多かったロタは、

友人と温泉なんてシチュエーションは経験が無かった。


まぁ、今も作戦中と言えば作戦中なのだが、

普段とは空気が全く違った。


マイペース過ぎるほどマイペースなシヴァ。

教室であるかの如く淡々と講義をしているクラース。

いちいち大騒ぎするカトリーナ。


そして、普段は全く頼りないのだが、

時折みせる決断力には、見るべきモノがある象太郎しょうたろう


パーティーメンバーを『どの程度戦力として計算が立つのか』

という視点でしか見た事がないロタにとって、

人間性で安心感を得るというのは不思議な感覚だった。


そんな事を考えていたロタの顔に再びお湯がはねる。

見ると泳いでいるカトリーナ。


「なにやってんだ!」

「こっちのセリフですぅ♪ロタも一緒に泳ごうよぉ!」

「ガキが。」


笑いながら言うロタ。勝利の後の高笑いは散々してきたが、

この種類の笑いは今まで知らなかった。


「ロタ早く〜」

「今、行く。」


装備をとり、衣服を折り畳むと、温泉に入るロタ。

同性とは言え、裸を見られるのは少し恥ずかしいと感じてしまう。


「うわぁ!」

「な、なんだ。」

「ロタってホントは色白なんだね!」

「えっ?」

「日焼け後がセクシーだよ♡」

「う、うるさい!」


逃げる様に口までお湯につかる。


「ロタってさぁ。意外に乙女だよね♡」


『ブッ!!』思わず息を吐き出すロタ。

お湯がカトリーナの顔に飛び散る。


「うわっ!なにすんのよ!」

「オッオマエが訳の分からない事を言うからだ!」

「だってさぁ、さっきだって服とかちゃんとたたんじゃって、ウププッ。」

「節度ある行動は軍人の嗜みだ!おかしくないだろう!」

「まっじめぇ〜。」

「馬鹿にするな。」


赤くなり横を向くロタ。

興味津々のカトリーナが追撃をかける。


「ロタってさぁ。彼氏とかいるのぉ?」

「いっいる訳ないだろ!」

「え〜!そんな綺麗なのに!信じられなぁい!」

「わっ私は、研修時には戦闘系の科目しか取らなかったし、

 配属先は刈取班だったから、、給仕研修とか行った事のあるお前と違って

 男とはほとんど接点がなかったんだ。」

「えっ!じゃあ、男の人と話すのって、もしかして今回が初めて?」

「馬鹿にするな!私だって、男と話した事くらいある!」

「どんな話?」

「・・ナメるなとか、、やるじぇねぇか、、とか。」

「それって戦闘相手だよね?」

「悪いか。」

「悪くはないけど、、じゃあ、好きな人とかいないの?」

「!!」


カトリーナの変則攻撃ガールズトークがロタにクリティカルヒットする。


なにせ耐性が全くない。

顔が真っ赤になってしまう。

不意に浮かんだのは象太郎しょうたろうの顔だった。


「あっ!いるんだ!聞きたい♡ねっねっどんな人?」

「いねぇよ!何言い出すんだ!」

「あやしい〜。」

「ホ、ホントにいねぇってば!」

「だって、ロタってばさぁ。」

「な、なんだよ。」

「真っ赤だよ♡顔♡」

「ノ、ノボセただけだ!もう出る!」

「えぇ〜つまんなぁい。」


逃亡をはかるロタ。

その先、湯気の向こうから、

何かが近づいてくる。


「何かいる!」

「えっ!覗き?」

「いや、人間じゃなさそうだ。」


慌てて湯から上がるカトリーナ。

徐々に輪郭がハッキリしてくる。





俺は、小さな達成感と共に水筒の水を飲み干していた。


「いやぁ。いい汗かいた♪」


素振りのコツも大分掴めたし、

俺、ちょっと強くなったんじゃね?

うん。かなりいい気分だ。

そんな思いに一人頷いているその時、事件は起こった。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


闇を切り裂く乙女の悲鳴!

ここだ!今こそ俺が役に立つ所を見せてやる!!


棒切れを握りしめ、猛ダッシュする俺。

無意識に加速を使った様だ。

一瞬で泉に到着する。


そこで、俺は予想外の事態に出くわす事になる。


「何コレ可愛い!!」


そこには、大きな青黒いビーバー的な生き物がいた。


二足立ちしているので、

カトリーナの倍近い背丈なのだが、

キョトンとした表情は非常に愛らしく、

つぶらな瞳には全く邪気が感じられない。

そんな小動物的な大型獣(仮に『びばモン』とでも名付けようか。佇まいが似てるし)に、

カトリーナは全裸で抱きつきモフモフ感を満喫している。


俺は、緊張感が切れて脱力した。


「脅かすなよ。」


思わず呟く俺。


「ぎゃぁぁぁ!!覗き!!!」

「いや、違う!俺は悲鳴が聞こえたからだなぁ!」

「そんな言い訳が通じると、、」


手で胸と股間を隠しながら、

俺の方を振り返り激怒するカトリーナ。


その背後から、カトリーナのクビを目掛け、

巨大ビーバーの爪が迫る。


「危ない!!!」


とっさに加速し、カトリーナを突き飛ばす。


なんとかカトリーナは逃がせたが、

俺は躱しきる余裕がなかった。

加速状態にも関わらずだ。


それほどに魔獣びばモンの攻撃は鋭く、そして、重かった。


一撃をモロにくらった俺は、ピンポン球の様に弾き飛ばされた。

15Mほど水平に飛ばされた後、壁に衝突し、

そのまま崩れた岩の下敷きになる。


通常なら即死なのだろうが、

俺は気絶すらしていなかった。

岩で身動きは取れないけどね。

・・やっぱ人間じゃないな。


象太郎しょうたろう!!貴様ぁ!!」


ロタが剣を取り出し、襲い掛かる。

魔獣はその斬撃を片方の前脚で受け、

反対の前脚をロタの腹部に捩じ込む。


吐血し、その場に崩れ落ちるロタ。


あのロタが一撃だと!?


「ロタ!しっかりしろ!!」


言いながら、手近な石を投げつける。

ダメージはないだろう。だが注意は引けた。


岩の下で身動きが取れない俺に向かい、魔獣が近づいてくる。

充分な成果だ。


「カトリーナ!!ロタの治療を!!」


事態に着いて行けず、呆然としていたカトリーナは、

その声で正気を取り戻す。


「でも、象太郎しょうたろうさんが!」

「いいから早くしろ!!」

「はい!!」


ロタの腹部の肉は抉れ、多量の血が流れ出ている。

あの量はマズい。急がないと手遅れになる。


ロタに駆け寄り、必死に回復魔法をかけるカトリーナ。

俺は岩をどかそうともがくが、身体に力が入らない。


興奮状態のせいか、痛みはさほど感じないが、

先ほどの一撃はそれなりにダメージがあったみたいだ。


目の前に魔獣が迫る。


「シヴァ様!!クラースさん!!助けて!!!」


カトリーナが絶叫する。

しかし、、、もう間に合わないだろう。


既に魔獣の大きな口は、

補食対象おれの眼前に迫っていた。


終わった。俺は覚悟を決め。静かに眼をつむった。


あのサイズだ。俺の頭部くらいは一口でいけるだろう。

頭を食いちぎられては、いくら神でも死ぬよなぁ。


折角、初めてやる気になったのに、その日の内に人生終了とか、

なんか、俺らしいとすら思ってしまう。


「あぁ、せめて、一度、ちゅうというヤツをしてみたかった。」


そんな情けない辞世の句を残し、

俺の人生は幕を閉じるハズだった。


しかし、その時はいつまで経っても来なかった。


アレ?まだ?


恐る恐る眼を開けてみると、

例の魔獣、いや、もはやビーバー?が空中でジタバタしている。


どうやら首の後ろ辺りを掴まれ、持ち上げられているようだ。

『ブン!!』もの凄い風切り音と共に残像を残し壁に叩きつけられるビーバー。

壁にブチ当たり、岩の下敷きになる。


『ぐわぁ!』と岩を撥ね除け二足立ちしたのもつかの間。

ヨロヨロと倒れ、昏倒する。


「婦女子の沐浴中もくよくちゅうに襲撃とは無粋にもほどがありますな。」

「クラースさん!!」

象太郎しょうたろう様。ご無事で?」

「あぁ!おかげさまで!」


念力の様なもので、岩をどかしてくれるクラースさん。


「さて、あの下等獣アーヴァンクはいかがいたしましょう?」

「それよりロタは!」

「私は大丈夫だ。」


上体を起こそうとするロタ。


「ロタ!まだダメ!動かないで!!」


必死にカトリーナがヒールを掛ける。

ホッと一息つく俺。

不意に全身が痛み、顔が歪む。


「痛っ。」


その様子を見たクラースの瞳に怒りの炎がともる。


「下等な魔獣風情が。

 我が主より任されし御方おんかたに痛みを与えおったな。

 この私に恥をかかせた報い。

 その身の消滅を以てあがなうがいい。」


視覚的に分かるほどの膨大なオーラがクラースを包んだ。

右手を突き出すと、宙に紫色に光る複雑な魔法陣がいくつも浮かび上がる。


「生命をむさぼり尽くす瘴気しょうき紫炎しえんよ。

 嵐となりて我が敵を滅ぼせ。

 『魂貪尽死嵐ストームオブデスデヴァワー』!!」


突き出されたてのひらから、

紫と黒がまだらに混ざりあった色合いをした炎の竜巻が、

昏倒しているビーバーに向かい唸りをあげて一直線に伸びる。


竜巻で空中に巻き上げられたビーバーは、

紫炎に包まれ、激痛に奇声をあげながら落下して行く。


しかし、彼が地面に激突することはなかった。


紫炎の中で、ミイラ化した肉がボロボロと表面から崩れ落ち、

見る間に骨と化し、最後はその骨さえも砂となり、風に消えた。


ナニそのエゲツナイ魔法。R指定入るレベルだよ。

結構な衝撃映像だった。


象太郎しょうたろう様。

 私がついていながら申し訳ございません。

 この償いはなんなりと。」


片膝をつき、恭しく頭を下げるクラース。


「いや、大した事ないから!それより、早く戻ろう!」

「ハッ!」


魔獣の襲撃と、さっきのとんでも魔法でうやむやになっているが、

入浴中だった二人は当然全裸である。

正気に戻る前に退散が吉だ。

俺はそそくさとその場を後にした。




「どうしたぁ?

 なんかみんな元気ないなぁ?

 疲れたかぁ?」


夕食中に親父が言い出した。

空気読めや。

こっちはなんか色々気まずいんだよ。


「申し訳ございません。

 女性の入浴中に監視は無粋かと思い、

 眷属による警戒を怠りました。

 そのせいで、象太郎しょうたろう様を危険な目に。」

「おっ俺は全然大丈夫だよ!」


そう。不思議と大丈夫だった。

泉から洞窟入り口付近まで歩く数十秒で、

身体は完全回復していたのだ。

先ほどの戦闘が現実だったのか疑うほどである。


「俺の事より、ロタは平気なのか?

 かなり血が出ていたみたいだけど。」

「わっ私は平気だ。カトリーナの処置が良かった。

 朝までには完全に治る。」

「ロタの体力が凄いだけよ!私の回復魔法なんて大した事ないから。」


落ち込んでいる様子のカトリーナ。

俺からすれば、ロタを救ったのは大殊勲なのだが、

本人的には力不足を感じているのだろう。


気まずい。話題を転換せねば。


「そ、それにしても、クラースさんの魔法?アレ凄かったな!」

「あの術は、セラフィーナ様より授かったものです。

 私の魔術核はそこまで容量がないので、

 全てを術式として書き込めず、一部呪文併用ですが。

 象太郎しょうたろう様ならば、

 完全術式化できるでしょう。」

「マジで!」


でも、あの術は後味悪そうだからちょっと使いたくないな。


「はい。我が主は希代の天才魔導士ですから。」


クラースさんが誇らしげに話す。

本当にセラフィーナを敬愛しているのが良く分かる。


「でも、不思議ね。」

「ん?何がだ?」

「クラースさんほどの実力者が、

 私達の倍程度の魔術核容量しかないって事がよ。」


コイツ。なんで、クラースさんの魔術核容量知ってんだよ。

神眼使いやがったな。覗き魔はどっちだ。


「元は転移者だからだろぉ?」

「えぇ!!」


親父の言葉に一同が声を上げる。


「さすがはシヴァ様。お気づきでしたか。」


さらりと肯定するクラース。


「えっ!って事はクラースさんも元は人間って事?」

「おっしゃる通りです。

 私は40歳までは人間界で軍人をしておりました。

 そして、とある作戦に参加中、ひずみに巻き込まれ、

 転移してきた次第です。」

「北界に転移したんですか?」


カトリーナが食いつく。


「いえ。転移したのは西界です。

 そこで2000年ほど石にされていまして。」

「石に!!」

「はい。転移したばかりの頃は私も気がたっていて、

 そこかしこで暴れていたところ、化け物にやられました。」


笑い出すクラースさん。いや、2000年石とか笑えねぇよ。


「石化された私は、異界人の石像という事で、

 珍品として、それなりに高価で取引きされていたんですよ。」


えっ?なぜドヤ顔?それ、自慢なの?


「そこをセラフィーナ様に買い取って頂き、解呪して頂いたと言う訳です。

 そればかりか、かたは、私を眷属に加えて下さり、

 この世界の事を一から教えて頂きました。

 それから、1750年ほどになりますか。」


懐かしそうに語るクラースさん。

凄まじい経歴だ。ちょっと想像がつかない。


「恐らく、象太郎しょうたろう様に私をつけたのは、

 私が人間界出身だったからと愚行致します。」


なるほど。彼女なりの配慮というヤツを感じた。

そこからしばらくは大質問大会が開催された。

気まずかった空気も上手い具合にうやむやに出来たのは

大きな収穫だった。


会話の中からいくつかの知識を得た。

ヴァンパイアは100年に1歳程度しか歳を取らないらしい。


従って、クラースさんは人間界こっちの年齢に換算すると

57〜8歳くらいだそうだ。

こんな貫禄ある57歳見た事ないが、

そこは過ごしてきた時間と環境の違いなのだろう。


ちなみに真祖のセラフィーナには、

そもそも加齢という概念がないそうだ。

なんたる規格外。

いくらなんでも反則すぎる。


そして、何より術式というヤツをやっと理解した。


術式というのは、要はアクションゲームで言う所のコンボだ。


ワンプッシュで、複数の複雑な行程を自動処理してくれるという

大変便利なものだと理解わかった。


例えば、加速術『タイムアクセラレーション』と言うのが正式名称らしい。

これは、実は複合魔術だと言うのだ。


『いいですか。加速状態に入ったとして、

 視覚や聴覚など、感覚が通常のままでは、

 景色は霞んで見えないし、

 音は超音波状態で聞き取れません。

 だから感覚の反応加速が必須です。


 次に、目が見え、音が聞こえたとして、

 その膨大な情報量をオンタイム処理する為には、

 思考の加速処理が必要となります。


 更には、空気摩擦による発火を防ぐ風流操作や、

 巨大な慣性を制御する重力操作、

 衝撃に耐えられる身体強化など、

 実に様々な魔術を同時並行的に使用し、

 且つ、効率良く運用、管理しなければ、

 魔粒子はすぐに空になってしまいます。


 そんな事をマニュアルでやっていたら、

 戦闘どころではないんですよ。

 だから、個人の魔粒子の波長や、総量をかんがみて、

 最適化した術式を専門家に構築してもらい、

 魔術核に刻んでおくんです。』


とは、カトリーナの説明である。

魔術核というのは容量があり、

その容量に応じて書き込める術式の数も決まってくる。


なので、術式の組み方一つで、

戦闘力や戦闘持続力が全く別物になるとの事。


それはF1のチューニングばりの、

かなりデリケートな作業らしい。


『まぁ腕が良いのに越した事はないのですが、

 それよりも信頼できるかのが重要ですね。』


全く同感だ。何せ、書き込み一つで

『特定の条件を満たすと自爆するギミック』

を埋め込むなんて事もできるのだそうだ。


つまり、術式の書き込みを任すという事は、

そのまま命を預けるに等しい行為なのだ。


迂闊に返事をせずに良かった。


悪いヤツではないと思うのだが、

あの眼は、マッドサイエンティスト感に満ちていた。

返答はじっくり考えてからにしよう。


そんなこんなで夜も更け、

そろそろお開きにしようという流れになって来た最中、

俺たちは予期せぬ訪問者と対峙することになる。


いや、予期してなかった訳ではない。

あまりにバタバタした毎日に、

うかつにも忘れていたのだ。


ここがヴィージの森だという事を。


そう。訪問者は、

北界最強の一角、ヴィーザルだった。

話の進みが遅くてすいません。

週末はちょっとスケジュールがつまり気味なので、

次回投稿は、28日月曜日の夜になってしまうかもです。

申し訳ありません。

よろしくお願いします。

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