◇Two nights carnival その3◇
よろしくお願いします。
俺と親父は、早速減速術式とやらに取りかかっていた。
といっても、俺は魔粒子というのを提供するだけなので、
ただ座っているだけだ。
親父は俺の肩に手を置き、時たまブツブツと独り言を呟いている。
そんなに単純な作業ではない様子だ。
まぁ、頑張ってくれ。
やる事のない俺は二人の様子を伺っていた。
カトリーナの『貴方はどうするの?』と言う問いに
ロタはどう回答えるのだろうか。
「・・先に、私の質問に応えろ。」
しばしの沈黙の後、ロタが呟く。鬼気迫る雰囲気だ。
それを物ともせずにカトリーナが応じる。
「上からねぇ。まぁ、いいでしょう。」
「・・なぜ殺さなかった?」
「貴方達『魂刈取班』と違って、私はそもそも給仕志望なの。
たまたまスキルが偵察向きだったから偵察班に配属されただけ。
一通りの戦闘訓練も受けさせられたけど、
野蛮な殺し合いなんてしたくないの。」
いや、俺にはさっき『協力しないと生かしておけない』
とか言ってませんでしたっけ?
まぁいまさらいいけど。
ってか、この二人、本当は仲がいいんじゃないのか?
「・・殺せ。」
怖い。
そうでもないみたいだ。
「嫌です。敗者の言う事に従う義務はないですから。」
「チッ!・・では聞くが、勝者は敗者に何を望む?」
「そうですね、、差し当たって、、肩でも揉んでもらいましょうか。
貴方と違い、少々こりやすいもので。」
一瞬にして場の緊張が高まる。
女同士って怖え。
健全な男子としては当然『女性』は好きだが、
『女性達』とは関わりたくないとしみじみ思った。
しぶしぶ肩を揉み始めるロタ。律儀だ。
「では、ロタ。本心を聞かせてもらえますか?」
「・・・。」
「戦争を知る世代である貴方が、
ラグナレクを起こすことに、
心から賛同してるとは思えません。」
「・・確かに賛同してはいない。」
「では、なぜ?」
「一つにはスクルド様の存在だ。
あの方がこのような計画に加担されている理由が知りたかった。
二つ目は、野放しにするよりは、
内部から進行を調べる方が危険が少ない。
そして、3つ目には、計画を知ったからには
賛同するふりでもしなければ、消されていた。」
消されてたとか。やはり相当物騒な話だな。
大丈夫か俺?
「つまり、ラグナレク阻止に関しては利害が一致しているという事でいいのね?」
「あぁ。」
「ありがとう。肩はもういいわ。これからよろしくね。」
そういうと手を差し出すカトリーナ。握手をかわす。
「早速だけど、意見をもらえる?」
「私としては、スクルド様と接触を取りたい。」
「理由は?」
「あの方も本心はこちら側だ。」
「言い切るからには何か確証があるの?」
「お前の追手に戦闘しか脳のない私を差し向けたからだ。」
「どういうこと?」
「子飼いである私をあの場から逃がしてくれたんだと思う。そして、、、」
そこまで言うと一度言葉をつまらせる。
「そして、お前を殺しさえすれば、ラグナレクは阻止出来る。
スクルド様からすれば一石二鳥というヤツだ。」
「よくわからない。
何故私が死んだくらいでラグナレクが止められるの?」
カトリーナの質問はもっともだ。
いっちゃなんだが、コイツ一人の命で、
革命クラスの話が、ひっくりかえるほどの人物には見えない。
「計画の肝は、人間界から、
少しでも扱い易く、かつ強力な人材を集める事にある。
その選定作業は重要かつ最大の難問と言える。
なにせ10万だ。
常時加速世界でそんな人数の選定を一人一人やっていたら、
一体どれだけの時間がかかると思う?
どう考えても人手が足りない。本来ならな。
だが、一つだけ打開策がある。」
「神眼による広域感知!!」
カトリーナがみるみる青ざめる。
ロタの話には説得力があった。
そもそも偵察班に所属している自分が、
刈取班であるシグルド付の小性を命じられた事自体、
少々不自然だとは思っていたのだ。
そこに予定よりも早い帰宅。
細心なスクルドが、確認もせず機密を大声で話した事。
何より、あのスクルドから、自分ごときが逃げおおせた事だ。
あの場で捕らえられていれば、殺されはしなかっただろう。
なにせ、神眼持ちは北界で私一人なのだ。
つまり、、計画的に私を殺そうとしていたのは間違いなさそうだ。
「分かったか?お前が死ぬのが一番早くて確実なんだよ。」
「ちょっと待てよ!」
言葉を失ってるカトリーナの変わりに俺は声を荒げた。
「な、なんだ?」
「大勢を助ける為に一人を殺す。
それが合理的なのは俺にも分かる。
だけど、そんなの黙って見過ごせるかよ!」
「そ、そうだな。」
えっ?反論こないんだ。意外。
『小僧!!甘いわぁ!!』とか怒鳴られるかと思ったのだが、
睨むどころか目を逸らされた。
一体なんだと言うんだ。
「象太郎ぉ。いい事いう様になったなぁ。
父さん嬉しいぞぉ。」
親父が俺の頭をガシガシしてくる。
「やめろよ!」
言うほど嫌じゃない。ちょっと恥ずかしいが。
「けどなぁ。正論とか理想論ってのは、言うだけなら一番楽なんだ。
なにせ反論でにくいし、支持も得易いからなぁ。
だから、言うだけじゃだめだぞぉ。」
「じゃあどうしろってんだよ。」
「お前がこのパーティーのマスターやれ。」
「ちょっと待て!なんでそうなる?
普通に考えて親父がやるべきだろ!」
「お前がやるべきだよ。
だって、父さん、今は人間だし、
そっちの二人は半神半人。お前、神じゃん。」
お前、神じゃんって、さっき知ったばかりで何の自覚もねぇよ!
「確かに。私もリーダーには象太郎が適任かと思う。」
おいロタ!お前まで何言い出す!!
お前は俺の事なんも知らねぇだろが!
カトリーナ!もうお前だけが頼りだ!
何か言ってやってくれ!
って、何か考え込んでて心ここに有らずだ。
「言葉に責任持てよ。男だろ?」
ずるい言い方しやがる。
「・・・分かったよ。」
「良し!お〜い。カトリーナぁ。」
「はい。」
「北界に乗り込むのはいいとして、
正面からケンカしようってんじゃないんだろ?」
「そこまで無謀ではありません。
何か阻止する手段がないかを模索するつもりでした。
しかし、もう解答は分かったので、、」
「それはダメだぞぉ。」
「なぜです!ラグナレクを防ぐには私が死ぬのが一番、、」
「ダメだ。」
「理由を聞かせて下さい。」
「象太郎が反対だから。」
「そんなの理由に、、。」
「なるぞぉ。このパーティーのマスターは象太郎だから。」
「・・・。」
「若い時の苦労は買ってでもしろって言葉が人間界にはあるんだ。
楽な選択するにはまだ早いぞ。カトリーナ。」
「でも、、」
「象太郎は逃げなかったぞ。
お前も逃げるな。悲劇的な運命なんてのは叩き壊してナンボだぞぉ。」
「破壊神らしい意見ですね。」
「もう人間だけどなぁ。」
「分かりました。やってみます。
象太郎さん。
よろしくお願いします。」
「おっおう。」
「で。差し当たってどうしますか?」
どうしますかと言われても、情報が少な過ぎる。
北界とやらの知識も全くないのだ。となれば、、
「取りあえず、そのスクルドって人にコンタクトを取ってみようと思う。
目的が一緒なら共闘出来るかもしれないし、
最悪でも互いの動きを邪魔しない協定を結びたい。」
「分かりました。」
「じゃあ旅支度をするから、茶でものみながら待っていてくれ。」
俺と親父はお出掛け準備を始めた。
北界という位だからそれなりに寒いのは簡単に予想出来た。
何事も備えあれば憂いなし。
俺はこう見えて中々に堅実なのだ。
ついでに言うとカトリーナにはTシャツを貸してやった。
さすがに目のやり場に困るからな。
世界堂で痛恨の衝動買いをしたイタTを、
心底喜びお礼を言うカトリーナに少しの罪悪感を覚えたが、
ソレを羨ましそうに見てるロタの視線は華麗にスルーした。
さすがに、アレ系を2着は持ってない。
そして、悩んだ挙げ句、スマホは置いていく事にした。
どうせ電波はないのだし、壊れたら大損害である。
親父は、やたら大きなバックに、
さきイカやら、ジャーキーやらを山ほど詰めていた。
非常食と言えば聞こえはいいが、親父の事なので、
町内会の慰安旅行気分なのだろう。
ともあれ、出発の準備は整ったのだった。
「異世界転移門ひらくぞぉ。」
言いながら、親父が俺の肩に手を置く。
目の前の空間に中心にいくほど暗さを増す
ブラックホールみたいのが出現した。
「それじゃあ、行こうか。」
カッコつけて言ったが、最初に入るのは何か怖い。
躊躇してる俺の背中を親父が押す。
「早くしないと閉まっちゃうぞぉ。」
「うわぁ!!!」
なんか落ちて行く様な感覚。
遊園地のフリーフォールに乗った時のアレだ。
一瞬気が遠くなったが、何とか気絶する前に飛び出した。
放り出される感じで。
そのまま地面に顔から着地し、
2、3回転してやっと止まる。
思ったより痛くない事に逆に驚いた。
取りあえず、立ち上がる。
目の前に広がっていたのはまさに絶景というヤツだった。
遥か遠くに霞む雪深い山々、
その裾野から一面に広がる森。
その広大な景色は神々しくすらあり、
なんか、人が軽々しく踏み入ってはいけない世界の様な気がした。
もっとも、俺は神らしいんだけどね。
「これが北界、、」
そう一言呟くと再び、景色に吸い込まれそうになる。
そこで、はっ!と思い出した。親父たちは?
振り返ると、そこに親父達は立ち尽くしていた。
ピクリとも動かない。
「おい。親父?」
反応がない。一体何が?
まさか!なんらかの攻撃を受けたのか!
周囲を見渡す。
素人の俺には気配など分かる訳もないのだが、
警戒しないよりはマシというものだ。
魔法というヤツか?だとしたら、
射程距離はどれくらいなんだ?
クソ。もっと細かく聞いておけば良かった。
もし、ここを上手く切り抜けられたとして、
右も左も分からない世界でどうやって親父たちを助ける?
いや、ダメだ。集中しろ。
ここで俺がやられたら終わりなんだ。
まずは生き残る。
その為には、早く敵の位置を特定しないと、、
「どこからだ?どこにいやがる?」
感覚を限界まで研ぎすます。
「何やってんですか!!」
「うわぁあああ!!!」
「ぎゃぁあああ!!!」
カトリーナのいきなりの声に思わず叫ぶ俺。
俺の叫びに驚き悲鳴をあげるカトリーナ。
しかし『ぎゃあ』ではなく『きゃあ』と言えんのかコイツ。
「びっくりしたぁ、、」
「こっちのセリフですよ!」
「いや、だって、みんなピクリとも動かないから、
てっきり、魔法かなんかでやられたのかと思って、、。」
「みんなが動かないんじゃないです。
象太郎さんだけ加速状態なんですよ。
魔粒子観測で見つかっちゃうから早く減速して下さい!」
「えっ?どうやって?」
「術式、、知らないんですか?」
「術式という言葉自体、ついさっき聞いたばかりだから、、」
苦笑いするしかない。
どうやら、俺の状況を把握したカトリーナが、
加速状態に入り、注意をしに来たらしい。
というのも、親父とロタは、相変わらずピクリともしない。
「シヴァ様呼んで来るんで、ちょっと待ってて下さい。」
「すいません。」
こうして、俺の異世界第一歩はダメダメなスタートを切った。
今後を思うと不安しかないはずなんだが、
不思議と落ち着いていた。
壮大な景色を見ていると色んな事が小さく思えてくるから不思議だ。
俺は元々大したヤツじゃない。
出来る事はきっと限られてるだろう。
あれこれ考えるほど選択肢はないハズだ。
だったら、頑張るだけでいい。
この世界の事は何も知らない。
知らない事に怯えるより、
知らない事にワクワクしたい。
そんな中二な感性こそ、
異世界生活の王道ではないだろうか?
そんな風に浸っていた俺の肩を親父が叩く。
「これで良し。」
「サンキュー親父。」
「取りあえず、飯にしないかぁ。」
「賛成!」
考えたら昨夜から何も食べてない。
腹が減っては戦はできないのだ。
この世界の事も聞きたい。
歩き出す俺たち。
その様子を観察する視線に気づきもせずに。
やっと異世界きました!
次回更新は23日夜を予定してます。
よろしくお願いします。





