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四十畳ダンジョン物語  作者: @さう
四十畳ダンジョン物語 第一章 王都ダンジョン
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11 宝箱構想

 11 宝箱構想


 このままではまずい。

 今のところ、冒険者皆殺し状態だ。

 このままでは、強力な冒険者が現れて突破されるか、立ち入り禁止になってしまう。

 ほどよく搾り取って、また来る様にしなければならない。中毒者を作り出さなくてはならない。


 普通に、下にいくほど強敵がいるという形にすれば、自分のレベルで行けるところまで行って、帰って、また来る、と、なるだろう。

 レベルアップのために通い詰める人もいるかもしれない。

 多分、それが正しいダンジョンの形だろう。

 だが俺には先立つものが無い。

 今まで冒険者を殺してきたのは、奇策、とんちだ。

 こんなもの、生かして帰してしまったら、対策を取られてアウトだ。初見殺しを繰り返しているからまだなんとかなっているだけだ。

 だが、生かして帰さないと、次はどんな奇策も通じない様なバケモノが入ってくるかもしれない。


 普通のダンジョンというやつもそうだが、結局のところ、奇策なんかよりも、単純に強い、という事が重要なのだ。

 そして、俺にはそんな強いモンスターを生産するDPが無く……。

 くそ。堂々巡りだ。


 もう、なんか魔法を使って楽しむタイプのアスレチックダンジョンにしようかと思ったりもした。

 一応頭の隅に入れて置く程度には良い思いつきだと思う。魔法を使わないと進めないというタイプのダンジョン。あの魔法使い2人のDPはかなり美味しかった。

 魔力だけ搾り取って、なんとかしたい。

 だが、所持金を奪うためにたまには殺さなければいけない。


 ふと、マスタールームの隅に視線をうつす。

 そこには、今まで殺した冒険者達の装備が積まれていた。

 売れるかと思って置いて置いたが、いかんせん行方不明者の持っていたものだ。こんなもの質に持って行けば逮捕拷問まっしぐらだろう。

 最初のA級冒険者達の持っていた装備はかなり上等なものだったらしく。革のベルト部分や金具の類は破損していたが、鎧そのものは無傷だった。良く見るとわずかなへこみもあるが、あのゴブリンの猛攻の中で、ちゃんと形を残している。

 C級、D級冒険者達の装備は、同じ鉄の鎧に見えても、それぞれ強度が違うらしく、まだぎりぎり形が残っているもの、一部だけ残っているもの、鉄塊になってしまっているもの。色々だ。

 革鎧などもある。これは先日俺が着て行ったものだ。柔軟性があるからか、ひっかき傷がかなり残っているものの、鉄鎧より状態は良かった。

 ただし、色々染みてすげぇくさい。

 魔法使いのローブも無事だった。一体何の素材なのか分からないが、だいぶ頑丈にできている様だ。防弾コートみたいなもんなんだろうか。

 これをボロボロローブの代わりに外に着て行こうかと思ったが、見る人が見れば高価なのが分かるかもしれないので、却下。

 バレたら今度は俺がマイカの様に蹴りまわされるかもしれない。


 全ての武器防具に共通している事だが、すげぇくさい。

 だって、人間の肉やら内臓やらがびっちり付着していたんだもの。

 暇つぶしと運動のために洗って拭く程度の事はしたが、ニオイまではとれなかった。

 というか、汚れもそんなに綺麗にはとれなかった。ミスリル装備の方は簡単に汚れが落ちたが。フッ素加工でもされているんだろうか。

 やはり、草をちぎって作った草束でごしごしやりながら水で流す程度では限界があったか。

 だが、これを外に捨てるわけにもいかない。アシが付くのが怖い。

「いや。これ普通に宝箱に詰めて出せばいいんじゃないか?」

 その手があった。捨てられないからと置いてあっても使い道も無い。

 とりあえずナイフとか斧とか、使えそうなものは失敬するつもりだが、剣が何本もあるし、鎧も俺は一人しか居ないのに、こんなにあっても意味が無い。

 すげぇくさいし。

 今のところ、保管場所として、部屋の端の方に2m四方の草原を作り、草を1mほどに伸ばしてある。これもDP食った。その茂みの中に放りこんで、視界に映らない様にしていた。においは、フィレに頼んで空気の流れで遮断してある。これもDP食ってる。ランニングコストが地味に怖い。

「フィレ、宝箱とか出せるか? 出せるとして幾らだ?」

『可能です。鎧が1領入る程度の大きさで、およそ100DPとなります』

「高いな」

 ゴブリンより高い。つか、うちのダンジョンの一階層分なんだが。

「別にDPで作る必要も無いか」


 俺はダンジョンを閉めたまま、スラムに向かった。


「木箱ですか?」

「はい。だいたいこれぐらいの。賃金は支払います。どこかで作ってもらえないでしょうか」

「そうですねぇ……幾つほど必要なんでしょうか?」

「さて。あればあるほどいいですが、とりあえず10個ほど欲しいです」

 と、背後から声がかかってびっくりした。

「おや。来客だったか。邪魔したかね」

 あのおじいさんだった。

「あら。セバスさん。いらっしゃい」

 おじいさんの隣にはマイカもいた。遊んでもらっていたのか。

「あ、リブロースさん! こんにちは!」

 今日も元気だな。待ってろよ10歳児! 筋トレで俺はお前を超えていく!

 それにしても、セバスか。

「もしかしてセバスさんて、執事だったんじゃないですか? 前務めていたっていう貴族様の御屋敷の」

「あら? リブロースさんご存知だったんですか?」

「儂、そんな話したかのう? いかん。ボケてきたようじゃ」

 セバスといえば、いや、セバスチャンといえばそうだよな。

「いえ。勘ですよ。なんとなくです」


 セバスさんとマイカも合流し、4人で話し合った。

「木箱のう。手が空いているのは女ばかりじゃが、まぁ木箱ぐらい作れるじゃろう」

「お屋敷の元メイドさん達ですか?」

「ははは。まぁそうじゃ。皆まとめてこのスラムに住んでおるわ」

「おねえちゃんたちが作るなら私も手伝うよー」

「男は仕事があるからの。この王都では毎日建物を作ったり壊したり。そういえば、最近出現したダンジョンの周りの家を潰して、冒険者向けの建物を建設する予定だそうだ。しばらく仕事にはこまらんじゃろう」

 ちょっとドキっとした。

「そのダンジョンというのは、空家にできたという?」

「そうじゃ。リブロース殿も知っておったか。まぁ、今王都はダンジョンの噂で持ち切りだしの。まさか王都の中にダンジョンが出現するとは。しかも、かなりの冒険者が犠牲となっている様じゃ」

 何人殺したんだっけか。20人ぐらいは殺しているはずだが、そういえばちゃんと数えてなかったな。

 いつもひやひやしながら見ているだけだった。

「このままじゃと、辺境でモンスター討伐に当たっているA級、S級冒険者達を呼び戻すかもしれないという噂じゃ」

 やばいやばいやばいやばい。本格的にやばい。

 早く、ダンジョンを上手く使って、そんなに凄いダンジョンじゃないんですよアピールをしないと、命に関わる。

「王都のA級冒険者が2人も食われてしまったし、補充要員も必要だしの」


 ともかく、やはりアイテムは必須だろう。

 楽しいダンジョン愉快なダンジョン中毒者続出ダンジョンには、やはり見返りが無ければ。10絞って6返す。

 もう一つ、

「セバスさん、このスラムに鍛冶屋とかありますか?」

「ある。何か入用なのかね」

「入用というか、材料持ち込みで釘とか、斧とかの道具を作ってもらいたいんですが」

「そうか。鍛冶屋はここの通りを……」

 道を聞いてから、いったんダンジョンに戻った。

 サエさんとマイカの家から教会エレベーターまでは15分程度だが、隠し通路に降りてからが長い。フィレが気を利かせて平坦な道にしてくれて良かった。坂道だったらやばかった。

 マスタールームに帰り、原型を留めていなかったり、目立った特徴の無い方の防具を、借りて来た袋の中に入れる。洒落にならんぐらい重い。10kg超えてるわこれ。

 これをかついて470m、かなりキツかった。

 息も絶え絶えになりながら、教えてもらった鍛冶屋に運ぶ。

 いったんサエさんとマイカのところに寄ろうかと思ったが、寄ったら多分一緒に荷物を持ってくれるかもしれない。それで鍛冶屋まで付いてきたら、俺と一緒の所を見られる事になる。何があるかわからない。できるだけそういった事は避けたかった。

 おかげで疲労困憊だが。

「なんだ? お前。その荷物は。うちに何の用だ?」

 鍛冶屋の主はドワーフだった。うっひょー! 異世界!

 と、心の中ではしゃぐ。もちろん顔には出さない。疲労で出せない。

 だが、低身長とうわさのドワーフも、身長163cmの俺からすると、そんなに小さくも見えないし、むしろ太い腕、太い足、分厚い体に嫉妬すら覚える。

 スラムにドワーフか。エルフもいるかな?

「こいつを材料にして、色々作ってもらいたい」

「材料持ち込みか。どれ、見せてみろ」

 と言われても、もうこんな荷物持ちたくないよ。袋の口を開いて、ドワーフの親方に見る様にお願いした。

 ドワーフ親方はがちゃがちゃと中身を確認している。

「こりゃぁ……小手か? なんでまたこんなにぐしゃぐしゃになってんだ? こっちは形は残ってるが、だいぶ傷だらけだな」

 持ってきたのは、主に小手や脛当てだった。鎧や盾の方が鉄量は大きいが、その分、俺では分からない特徴の様なものがあったらまずい。そんなわけで、今日は小手や脛当てを持ってきた。それでも重かったが。

「何だってこんなもん集めてきたんだ?」

 俺は懐から金貨を1枚取り出し、親方に握らせた。

「ほぅ……訳ありって事か。まぁ、ここは訳あり者ばかりだけどな。がははは」

 がははは、とか笑う人初めてみたわ。やっぱドワーフだわ。

「で、何を作ればいいんだ?」

「釘100本、小振りの斧10本、小振りの金槌10本、鋸10本に、鑢。できますか?」

「う~む……。それだとこの材料では足りねぇな」

「これの倍以上あるんですが、重くて持ってこれなかったんです。足りない分はまた持って来ます」

「なら大丈夫だ。まかせろ」

「あと、その前に台車を作りたいのですが」

「台車ならあそこの道具屋に頼め」

 道具屋もいるのか。そりぁやいるか。

「あと、車輪の制作をお願いしたいんですが」

「鉄の車輪でも作るのか?」

「いえ、こういう感じの……」

 俺は、地面にベアリング入りの車輪の絵を描いた。

 台車はこのスラムでも見かけたが、いわゆる木造100パーセントのもので、車軸が熱を持ちそうだし、摩擦も凄そうだった。

「こいつはおもしれぇな。今はこんな車輪が流行ってるのか?」

「いえ。多分まだこっちには無いんじゃないですかね」

「ほう……。ますますおもしれぇ」

「これを先に作ってもらえますか? とにかく台車が無いと運べないので」

「おう。いいぜ」

「秘密厳守でお願いしますよ」

 もう1枚金貨を握らせた。

「おう……。なんだか怖くなってきたぜ」

 金の力は偉大だ。所詮この世は金と暴力なのだ。


 それから、サエさんとマイカの家にお邪魔した。


 

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