12 窓からの眺めは墓場
12 窓からの眺めは墓場
マイカに頼んでセバスさんを呼んできてもらった。
サエさんはポーションで病気は治ったみたいだが、体力はまだ完全ではないらしく、ベッドに座っている事が多い。
この間食料買い出しお願いしたが、あれもかなりキツかったはずだ。申し訳ない。
マイカさんとセバスさんが来るまで、ぽろぽろと話をした。割とどうでもいい事だ。
「リブロース殿。話とは?」
「教会をもう少し住みやすくしたいんですよ」
「あの教会を……ですか」
やはり墓地には忌避感がある様だ。さもありなん。この衛生環境では病気の原因になる場所だ。この世界では火葬は認められていないんだろうか。
「リブロースさん変わってるねー」
よく言われる。
「まず掃除と、屋根を付けたいんですが。人を集められませんかね?」
「木箱の件はどうなったんじゃ?」
「あれは後回しです」
ダンジョン運営が優先ではあるのだが、木箱、つまり宝箱の事でもこれから先も色々と仕事があるかもしれない。先に窓口を作っておいた方が、後々やりやすいのではないかと思った。
「掃除はすぐにでもお願いしたいのですが」
「わかった。集めておこう。明日でもいいかの?」
「はい。お願いします」
そして翌日。
教会の前にはサエさん、マイカ、セバスさんを含め、妙齢の女性3人が集結していた。
「こちらの方々は元貴族様の……」
「そうですじゃ」
貴族の館というと、もっと人がいそうなイメージがあるのだが、3人か。皆サエさんと同じ年頃で、美人だった。
マイカが生まれた頃に没落したわけだから、10年前はまだ20代になるかならないかというところだったのだろう。
「男は街で仕事をしておる。女衆も元は10人ほどいたんじゃが。故郷が近い者は皆でなんとか旅費を出して帰してやったのじゃ。後は病気でな……」
思ったよりヘビーだったよ。
仕えていた貴族家没落時、使用人の財産までほとんど没収されてしまったという。どうやら金銭トラブルだったらしい。一族はみな処刑された。
だが、それも別の貴族にハメられたせいだったと判明し、そっちの貴族もお家取り潰し。全員処刑。
まだお腹の中にいたマイカの存在を知られ、サエさんごと処刑される寸前でこの事実が発覚したという。
一番得をしたのは、全ての財産と領地を没収した王家のみ。
ただ、サエさんとマイカが力を付けた場合は、貴族の称号を与えるというのは約束してくれたらしい。
スラムに住んでいるのを知っていながらである。
多少の後ろめたさを無理難題で忘れてしまおうという魂胆だろうか。
そんならさっさと貴族の称号を与えて欲しいものだが。成人してからとかさ。
でも、マイカを上手く出世させられれば、俺の隠れ蓑にできる。
これは本当にありがたい出会いだったな。
「皆さん集まってくださってどうもありがとうございます」
一つ頭を下げて、掃除は開始された。
まずは地下室だ。
エレベーターの扉は、どこからどう見てもただの壁だった。生体認証で俺しか開けられないので大丈夫だ。
「なるほど、この地下室に住まわれていたのですね」
と、サエさんも納得してくれたし。
なんだかよく分からない箱がどんどん外に運び出されていく。
中身は全部空だった。
これはそのままドロップアイテムの箱に使えるかと思ったが、どこで足が付くか分からない。バラしてから使おう。
地下室のものが運び出され、埃を払い、もって来てもらった樽の中に魔道具コップから水を入れる。だいぶ時間かかった。魔道具桶とかDP使って出してもらおう。多分あった方がいい。
この水で水拭きをしてもらい、最後にから拭き。
「リブロースさんは魔法が仕えたのですか!」
と、だいぶびっくりされたのだが、
「いえ、魔道具がありまして……」
と、変な誤解を解こうとしたのだが、
「魔道具をお持ちだなんて……」
とまた変な勘違いをされた。これは放置コースで。
地下室はだいぶ綺麗になった。いい感じだ。
そのまま倉庫としても使えそうだ。
次は地上の掃除だ。
ボロボロの長椅子を全部外の庭に出した。ついでに教卓も出した。
現在、石造りの壁、石造りの床。なんともすっきりした中に、地下室への床扉がぽつんとある。
地下室は地面を掘って作られていたが、壁や天井は補強されていた。柱も一応あったし。そんな地下室よりも地上の方がずっと殺風景だな。
吹き抜けの天井、というか天井が無いわけだが。
全部埋める必要はないかと思う。地下室の入り口側が陰ればいいか。雨が凌げればいい。
長椅子の残骸が再利用できないかと思ったが、無理だった。割と本当にボロボロだった。だからこれは盗られていなかったのか。しかし、元々は綺麗なものだったはずだが、という質問をセバスさんにしてみると、この教会内で魔法が使われ、中の人間は皆死んだらしい。原因は教会の内部抗争だとかなんとか。
なるほど、このボロボロの長椅子の残骸は、元々ボロボロな上に血まみれ肉まみれだったわけか。誰も盗らんわな。
木造の屋根もその時破壊されたらしい。そっちは破片とか再利用されて、スラムのどこかの家になっているだろう。
忌避感があるのは、墓地の隣だからというのもあるが、そういう大量殺人現場だったからでもあったのか。
「この教会立て直すとしたらどれぐらいかかりそうですかね」
「さて。賃金はともかくとして、材料が要るからのぅ。石材やレンガの調達は難しいぞ」
この教会は、だいたいうちのダンジョンの倍ぐらいの広さがある。80畳ぐらいの長方形で、地下室の扉がある端から、入り口までが長い形だ。
ダンジョンを横に並べたよりも長い。幅はダンジョンよりも少し狭いぐらいだ。5m×20mといったところだろうか。
壁の高さもそんなに高くはない。4mか5mぐらい。ただ、壁の上の方はところどころ崩れている。元々三角の屋根があったのだろう。入り口側と地下室側はその名残があるのだが、ほとんど崩れてしまっている。
左右に窓が並んではいるのだが、今のところただの穴だ。元は木戸など付けられていたのだろうが、どこかで再利用されているだろう。この窓もかなり崩れており、ここから壁が崩壊してきそうな感じもする。
全部崩して新しく立ててしまった方が安全だろう。
こんなにこじんまりとした教会内で大量殺人とか、いったいどんな内部抗争だったんだろうか。
貨幣価値がいまいちわからない。一番確実なのは、公務員の平均給与の比較だが、この世界の公職の平均給与なんて知らないし。
マイカが銅貨5枚を貯めてたので、それぐらい渡しておけばいいだろうか。
サエさんとマイカは当然拒否してきたのだが、握らせておいた。
残り3人とセバスさんもびっくりしていた。報酬として破格らしい。
俺は知らなかったのだが、銅貨よりも下の単位があった。鉄貨と呼ばれるもので、長さが様々な鉄の棒切れだった。重さで価値を測るらしい。多くの人間はこれを使っているという。一種の物々交換か。
革袋にも入ってはいたのだが、鍛冶屋に材料として出していたのだ。お金だったのか。装備の補修用の道具か何かと思っていた。
自分で稼いだ実感も無いので、あまり執着も無かった。
というか、これでこんなに驚かれるとは。あのドワーフとんだ食わせ物だったな。金貨でにやりと笑っただけだった。
あるいは、鉄量がそのまま価値になるぐらいだから、鍛冶屋は大金を見慣れているのかもしれないが。
次の日の午前に、サエさんとマイカを訪ねたのだが、
「リブロースさん。朝お邪魔したのですが、地下室にも居なかったので心配しましたよ」
「リブロースさんどこ行ってたのー? 女のとこ?」
擦れた10歳児だな。
ともかく、焦った。朝来てたのか。うっかり鉢合わせの可能性もあったのか。
今日の朝は、次のダンジョン改装を考えて、フィレと相談していた。
さて、鍛冶屋に行ってみよう。




