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『その身体は、誰の魂で生きているのか』  作者: 紅玉道


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16/17

幕間:if ― 二人の巫女(先代)

森の奥深く。エルフですら立ち入ることのない場所。

魂が一つ、そこにあった。ただの魂ではない。巫女のそれだった。

その前に、巨大な蛇が、静かに身を横たえる。

「……あんた、何やってんの?」

不躾な声。だが、その響きには、懐かしさが混じっている。


蛇の目が、ほんの少し細くなる。わずかな戸惑いが滲む。

「……ベレン、か」


「久しぶりだね、いつ以来?相変わらず、“私は知らない”って顔、してるわね」

軽い口調で話しかけてくる魂。

「うるさい」

蛇は、短く切り捨てる。だがその声は、どこか穏やかだった。


魂――ベレンは、笑うように揺れた。

「でさ、あんた、アーリンに会ったんでしょ?」

蛇――ナハールの瞳が、わずかに動く。わがままな、幼い巫女が脳裏に浮かぶ。

「……ああ」


「やっぱりね!どうだった?」

まるで身を乗り出すように、矢継ぎ早に言葉を重ねてくる。……変わらない。

「ちゃんと巫女やってた?素質は……まぁ、私が見たから大丈夫だろうけど」

「でもさ……あの子、……ちゃんと、選べてた?」


ナハールは、すぐには答えない。

「……ああ」

ただ一言。だがその言葉には、嘘がなかった。


ベレンは、嬉しそうに弾む。

「よかった……。もうさー、心配でさ。成仏できやしないのよ」

軽口。だが、その奥にあるものは重い。ナハールは、目を閉じる。

(……変わらんな。昔から……最後まで)

「……お前は、まだ、そこにいるつもりか」

低く、問う。


ベレンは、あっさりと笑う。

「当たり前でしょ?だって――終わってないもの」

「……あの時のまま、止まってるんだからさ」


「……あんただって、やれたでしょ?」

静かに、だが逃がさない一言。ナハールの瞳が、わずかに揺れる。それ以上は動かない。

「……続けたところで、何も戻りはしない」

淡々とした否定。だが、その奥にあるものを消しきれてはいない。


ベレンは少しだけ目を細める。何かを言いかけて――言葉を飲み込む。

「……そっか」

それ以上、踏み込まない。


「……長居はするな。ここは、お前の居場所じゃない」

ナハールが言う。淡々と。だが、少しだけ声が柔らかかった。


ベレンは、少し黙る。そして。

「わかってるよ。でもさ。ちょっとくらい、見ててもいいでしょ」

小さく、笑う。

「最後まで」

ナハールは、答えない。


――何かが起ころうとしている。

二人のエルフと一人の人間、そして魂。静かな森には似つかわしくないほどの来訪者があった。


人間を、エルフを、世界を見限り。それでもなぜ、自分はまだここにいるのか。

目の前の魂はすでにこの世にはいない。それでもなぜ、世界に執着しているのか。


ナハールは、それでも。ただ静かに――その魂を見ていた。

脳裏に浮かぶ、もう一人の“うるさかった”エルフの姿とともに。

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