第4章1 唇に秘めた覚悟
私は朝の仕事を終え、着替えをしていた。
今日は二枚買った服のうち、少しきれいな青銀のワンピースだ。化粧ポーチからコンパクトを取り出し、鏡をのぞき込む。目元に淡い影をのせ、眉を整える。最後に赤のリップをキリリと引いた。
一瞬、派手すぎないかと迷ったけれども、首を振る。
「よし!」
髪を整えもう一度全身をチェックしてから、とまり木亭を出た。
きれいに清掃された道を歩き、目的の建物の前で足を止める。石造りで歴史を感じさせる、商業ギルドだ。
高鳴る鼓動を落ち着かせようと、ひとつ息を吸って重厚なドアを押し開けた。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ。あら、かおり様。またお越しいただきありがとうございます」
受付の女性が顔を上げ、声を掛けてきた。もう覚えてくれたのか、名指しで呼ばれた。
「クロードさまとのお約束で参りました」
「少々お待ちください」
手元の資料で確認し、頷く。
「どうぞこちらへ」
彼女は先に立って歩き出した。
先日も通された部屋の前で立ち止まる。今日は他の客は見当たらない。
「失礼します。かおりさまをお連れしました」
「入りなさい」
覚えのある落ち着いた声が、ドアの向こうから聞こえてくる。
部屋の中には、柔らかな笑みを浮かべた紳士が立っていた。
「お久し振りです、かおりさま。お時間を取っていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ。本日はよろしくお願いいたします」
お辞儀をし、顔を上げた先で視線が合った。
瞼の煙るような淡い陰影。
優しげに整えられた眉のライン。
キリリと締まる赤い唇。
クロードのまなざしが、眉、目、唇と、順に向けられる。
――彼女の持っているものは、あのリップだけではない。
そう言いたげに、彼の瞳がわずかに見開かれた。
「……おや、今日は一段とお美しい」
「まぁ。お言葉嬉しいですわ。ありがとうございます」
貴族特有の、女性への挨拶の言葉が掛けられる。どうやら化粧の違いに気づいたようだ。
「どうぞお掛けください」
優雅な仕草で椅子を勧められた。
「本日は、どのようなお話でしょうか」
私はゆっくりと静かに言う。
「前回のお取引について、その後をお伺いしたくて。それと――少し、ご相談があります」
クロードは小さく頷き、微笑んだ。
「ええ。ぜひ聞かせてください」
その視線は、まるで長年の友人に向けるもののようだった。
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