第45話 再戦
アップは10分か。
10点式か。面白いこと考えるよな。頭、胴、足、腕のポイントを足すと10点だから10点式か。
勝てるかな。
「凪人くん、どう? 準備は?」
すももちゃんが、準備運動をしている俺の顔をのぞいてきた。
「あ、もう時間か」
俺は急いで、荷物を持ち上げようとした。
「もうちょっとだけ時間あるよ」
「せっかくだから、コツを教えてあげようと思って。真くんは何回もやってるから不公平でしょ」
すももちゃんは、刀を握っていた。
「コツ?」
「コツっていうか定石かな? 凪人くん、このルールはカウンターが強いって言われているよ」
「だから、真くんは多分、攻め2割、守り8割ぐらいで来ると思うの。凪人くん、そこを突いてもいいし、凪人くんも防御に徹してもいい。後、結構腕を狙う人もいるかな。今回みたいな15点マッチだったら、ラッキーで胴体入ればいいし、確実に一点を取っていく人も多いね。腕を固くするのって難しいからさ」
「そうなんだ。俺勝てるかな?」
「どうだろ。勝てるチャンスはあるよ。だって前の大会でも引き分けだったもん。凪人くんその時より強くなったでしょ」
「ほら、行こ!」
「それもそうだね。やってみるよ」
そうやって、すももちゃんに付いていき、訓練場の近くの試合場へと向かった。
その道中。
「あ、葛城さん。こんにちは」
葛城九童さん。白いひげを長くはやしたおじいさん。この人は協会上層部の一人だ。佳紬由さん曰く、案外改革派に近いらしい。
「おお、こんにちは。木場もいるのか。なんで学校に?」
「はは、ちょっと用があって」
「今から、凪人くんと真くんが10点式行うの。葛城さんも見に来る?」
「ちょっと、すもも」
「はっは。わしは仕事があるから、見たいのも山々だが遠慮しておくよ。頑張ってな」
「はい、ありがとうございます。」
***
少年少女が二人駆けて行った。
「元気でいいのう」
葛城九童の中にある記憶が思い浮かぶ。
『なあ、俺と闘えよ。なんで、闘わない。決めようぜ、なあ今日どっちが正しいか』
『もう、そんな歳じゃないだろ俺達。もう学生じゃないんだ。気に食わないなら殺しに来いよ。俺は殺されても、おかしくない人間だから』
「おい、葛城何してる。会議に行くぞ」
吾妻の一言で現実に引き戻された。
「ああ、すまないな。あの二人を見ていたら随分と遠い昔のことを思い出してな」
「ああ、佳紬由のところの二人か。珍しいな」
***
「あ、凪人くん準備はいい? 早速始めようか」
俺と真は試合場の真ん中に立っていた。
「じゃあ、できる限りこのリングから出ないようにね」
「出たらどうなるの?」
「んまあ、10秒も出てたらマイナス2ポイントにしようかな。自分から出た場合ね。これは防戦にならないようにのルールだから、あまり気にしないで」
「よしじゃあ、始めるよ」
すももちゃんが、審判の体制をとる。
ふう、真はこの試合場に来てからずっと落ち着いてる。
波導のよどみもなく、落ち着いている。
流れもきれいだ。きれいすぎる。
「はじめっ!!」
「じゃあ遠慮なしにね」
真の身体が開始と同時に目の前から消えた。
あの武道大会の時と同じように。
真の右腕が俺の顔面に向かってくる。
右腕と左腕を交差して防御する。
「くっ」
ドカッ!
「真くん、2点!」
え、なんで。
「2点? なんで」
「凪人くん、右腕と左腕から血出てるよ」
本当だ。
右手を上にして防御したのに、左手まで傷が。
波導が間に合わなかった。
「凪人くん、防御甘いよ。前は防いでなかったっけ?」
「さあ、どうだったけな」
まだ2点。あと13点あるんだ。
てか、真のやつめっちゃ突っ込んできてるな。
それでも攻め手を忘れるな。
俺は真より弱いんだ。
徐々に右腕と左腕が再生していく。
確実に前より綺麗に早く治っていく。
次は俺から行くぞ。
思いっきり足に波導を溜めて、真の元へ駆け、突っ込む。
地面が弾ける。
右腕に、波導を込める。
真のことだ、波導を見てわかってるだろ。
防御が大切なこのルール。
真の目の前でもう一度足に波導を溜め、踏み切る。
身体が浮いた。
ジャンプするとは思わないだろう。
これなら。
ドカンッ!
食らった。
「バレバレだよ。凪人くん」
まじかよ。真、研ぎ澄まされてる。
真の右腕に波導が込められた。
次の瞬間俺の視界は歪み、天井を見上げていた。
「真くん、3点」
まじか、鼻血まで出てきたよ。
なんで、ここまで差がついたのか?
いや元から差はあった。
あの時は少しノっていただけ、それだけ。
ドサ
すぐに立ち上がった。
すると目の前には誰もいなかった。
どこに行ったんだよ。
「沈みゆく鉄拳」
上から波導が近づいてきている。
なんだ、この波導の量は。なんなんだ。
屋根が突き破られた。
真が右腕に波導を溜めながら、落ちてきた。
バゴンッ!
ダメだ、防御が間に合わない。
ドゴオオオオオン!!!
「真くん、8点追加。今、13点」
「この技は武道大会の凪人くんから発想した技だよ、落ちる力を加える。あの時、僕の右腕を千切った一撃を、僕の技として吸収した。まだまだ、弱点はいっぱいだけどね」
くそ、真は俺をぼこぼこにしたいからこの戦いに誘ったんじゃない。
真の期待に応えろ。
このまま終われるかよ。
構えろ、息を整えろ。
ドゴーンッ!!
は? 痛い。なんだ。
上から? 気弾が。
「凪人くん、僕の勝ちだ」
「3点。16点で真くんの勝ち」
負けた……。なんで、一点も取れなかった。
「凪人くん、お疲れ。大丈夫? 真くんはやっぱり強かったね」
すももちゃんが、タオルを渡しながら、慰めてくれる。いや慰めてるわけじゃないか。
「勝ちたかったな。もっとやれると思ってた」
「凪人くん、ありがとう戦ってくれて」
「いや、俺のほうこそありがとうな。それに手加減なしでありがとな」
「誘ったんだからハンパはできないよ」
「そうだよな。やっぱあんときはたまたまだったのかな」
「まあ、波導は魂の源。上振れも下振れもあるよ。今日たまたま、凪人くんが不調で僕が好調だっただけだよ」
「そっか。良かったよ、真とまだまだ差があって。今度は強くなるから、またやろうな」
「うん、今度も僕が勝つよ」
「じゃあ、すももちゃん帰るとき連絡して。おれあっちでふらついてくるよ」
しばらく一人で歩いた。途方もなく、波導協会の周りを。
ウッ……。
クソッ、なんだよ涙があふれてきた。なんで、悔しいのか。ただの模擬戦なのに。
俺が初めて本気になれたものだからか。
俺に役割をくれたのが波導だ。
それでも俺は負けた。本気でやったのに。
でも、俺はなんで戦っているんだ?
もう静香に会えたんだ。
もう戦う必要ないじゃないか。
もう普通の生活に戻れる……だろ。
『凪人くん、波導はこう使うんだよ』
すももちゃんのさわやかな横顔。
『これは、あんたが勝った証や。正真正銘、あんたの勝利。……だから、謝んな』
ベッドに横たわっている杞憂。
『当たり前だ! 導魔は人間を殺すんだぞ。』
武道会場の上で叫んでいる真。
『今日から、ここがあなたの家よ』
『痛みのない修行と、痛みのある修行じゃ、成長スピードが段違いなのよ』
『私からしたら、手のかかる大きな息子が一人増えたみたいで、ドタバタな4か月だったわよ』
そして、この数か月。
俺の一番の理解者であった、佳紬由さん。
『じゃあ、妹にあったら。ごめんねって言っておいて』
『なんで、お姉ちゃんを助けてくれなかったの?』
『我が主人様よ、最後のチャンスじゃ。お前様も人を食え。一度食えば、何も抵抗がなくなる』
『お前様がわしを選んだことをわしは後悔させてやる。所詮人間と導魔の隔たりじゃぞ』
そうか、もう戻れないよな。
この4ヶ月俺の人生は変わったんだよ。
シオンのためにも戦わないといけないんだ。
俺はもう、戻れない……か。
今日も空はきれいだな。
「凪人くーん! 佳紬由さん来たよ。帰るよー!」
そこには、佳紬由さんとすももちゃんが手を振りながら立っていた。
「うん! ちょっと待って! じゃあ帰ろうか!」




