第44話 罪を超えて
まだ夏の暑さが残る昼。
テリテリと太陽が俺を照らしている。
今日は初めて、見舞い人として協会の病室を訪れた。
右手に、一つ手提げ袋を持っていた。
「あっちいなあ」
「あ、凪人くんじゃあ私こっち行くから、またあとでね」
今日はすももちゃんと二人で来た。
すももちゃんも波導学校に用があってきたらしい。
「そういえば、佳紬由さんも協会で仕事らしいから、一緒に帰れるかもね」
「そうなんだ、じゃあまたあとでね!」
「うん、飛澤さん、元気だったらいいね」
「ああ、そうだな」
そうして、俺は協会の医療棟の扉に手をかけた。
扉の取っ手が真っ黒だからか、すごく熱くやけどしそうだ。
コンコン
「飛澤、俺だ。入るぞ」
ガララッ
病室はいつもよりヒンヤリ冷たい気がした。
中に入ると飛澤は、こちらを見るなり、目をそらしうつむいた。
「よ、飛澤」
ベッドの隣の椅子に腰を掛けようとする。
グスッ グスッ
「飛澤?」
「ごめん……なさい」
「いいよ、もう。生憎俺は不死身なんだ。ほらこれ食べなよ」
俺はさっきの手提げ袋から、一つアイスを取り出して飛澤に渡した。
「いらない、もらえない」
「木場くん、なんでそんなに優しくするの? 不死身だからって痛かったでしょ。心臓を突き刺したでしょ。お姉ちゃんを殺したわけじゃないんでしょ。私を恨んでよ」
「痛かったよ。だからって恨む理由にもならないさ。俺だって、お姉ちゃんのこと話さなかっただろ」
そうなんだ、俺はお前が悲しまないように真実を話そうとしなかった。別に俺の心が広いから優しくするわけじゃない。
「明美さんは、飛澤に謝ってたよ。ごめんねって」
「そう……」
飛澤はまた、号泣した。
俺はしばらく窓の外の景色を見ながら、泣き止むのを待っていた。
「木場くん、私一生償うから。ごめんなさい」
「いいよ、償いなんて。俺とこれからも友達になっていてくれよ」
「それで、いいよな?」
「こちらこそ本当にありがとう……」
「じゃあ、飛澤行くよ。また学校でな」
***
すももちゃんはどこにいるんだろう?
波導学校の方って言ってたけど勝手に入っていいのかな?
前は円城寺さんがいたから入ったけどいいのかな。
正直、協会のことはあまりわかってないしなー。
佳紬由さんもいるらしいけど、仕事中かな?
どうしよう、あと4時間ぐらい暇だなー。
俺は協会内のベンチに腰掛けて、上を向いて考えた。
「凪人くっ、来てたんか」
後ろから声がした。
「佐々波さん、こんにちは」
「なんか、雰囲気変わった? 1ヶ月前とは別人だよ」
「そうですか? まあ色々ありまして」
「佳紬由さんなら、まだ仕事中」
「あ、いや佳紬由さんはまだいい大丈夫です」
「そうなんか? 誰か待ってるわけじゃ無いのか」
「学校の方って入っていいんですかね? すももちゃんの方行こうと思ってるんですけど」
「士証持ってるんだったらいいと思うよ。今日は円城寺さんはいないかなー」
「そうなんですか、でも授業中だったり?」
「授業中でも、昼は大体修行してるから大丈夫じゃない?」
「そうなんですか! じゃあ行ってみますね」
「うんじゃあ行ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございました」
俺はそう言って、学校の方へと歩いて行った。
学校に行くには協会本部を少し出ないといけない。
一旦、訓練場に行ってみようかな。
本部を出て、木が生えた道をまっすぐ歩く。
すると、水飲み場があるから、そこを左に曲がると大きな門があり、その奥に建物がある。
そこが波導学校の本校舎。
門を入ってすぐ右に行くと、訓練場が見えてくる。
まあ、ほとんど学校の運動場だな。広さは倍以上だけど。
訓練場を覗くと、そこにはすももちゃんともう一人、藤原真が二人で組み手をしている。
「あ! 凪人くんー!」
すももちゃんがすぐ俺に気づく。
手を振って手招きしてくれた。
俺はすぐに駆け寄る。
「もう、お見舞い終わったの?」
「うん、終わったよ。飛澤とは話せたよ。許されたかどうかは分かんないけどね」
「そうなんだ、また行ったらいいよ。今度は私も一緒に行っていい?」
「え、あ、すももちゃんがいいなら」
「もちろん、私も行かせて」
「なんの話? 僕もついていかしてよ」
今の真は、穏やかな方の人格だ。
てか、この前の宮島から1ヶ月で身長10cmぐらい伸びてないか?
俺と15cmぐらい身長違うんじゃ無いか?
「ごめん、ごめん。こっちの話だから」
「なんだよ、二人して。そういえば凪人くん、また強くなったんでしょ?」
「うん、まあ強くなったって言うかなんて言うか」
「一回試合しない?」
「え、嫌だよ。お前の兄ちゃん俺殺そうとしてくんじゃん」
「凪人くん、僕もあれから頑張ったんだよ。今は兄貴なしでも戦えるようになったんだよ」
「だから、一回だけ戦おうよ」
「んじゃあ、すももちゃんいい?」
「いいんじゃない? じゃあそうだ、10点式でやってみる?」
「何10点式って?」
「波導を使ってだったら死んじゃうかもでしょ? だから、10点式っていう審判とか立ち合い人が点数つけて戦うやり方だよ」
「得点基準は?」
「私がつけるから、協会が作った付け方でやるよ」
「頭が3点、腕と足が1点。胴が5点。大体これわかってたら大丈夫かな。波導で完璧に防御できていたり、かすっただけだったり、そういうのは入らないからね。有効打しか入らないよ。点数が入るか入らないかも、載ってるから、でもそこは結構主観入るから文句あったら言ってね」
「じゃあ、15点マッチで行こうか」
「いいよ、じゃあ凪人くんそれで行こうか」
「危なかったら、そこで私が止めるからね」
「うん、じゃあやってみようか」
そうして俺は今から突発的に戦いが始まった。




