めっちゃサスチナブル④
新聞の中見について深掘りしていく段に、ポルタシオ閣下と右大臣殿は席をたった。
話が長引いたせいで他の仕事が押しちまってるんだと。
こいつを上手い言い訳とは思わねぇでおこう。ポルタシオ閣下は知らんが、右大臣殿は本当に口惜しそうに去っていったからな。
「ミネラリア新聞をめちゃ強々コンテンツにしたくってー」
ベリルのやつ、勝手に名前つけやがった。
「ゆーて政治とか経済とかだけだと飽きちゃうじゃーん。事件もそんないっぱい起きないしー。ってなると、やっぱしファッションとかグルメとか需要あるんじゃねって思ったわけ! したら、お妃さまとお姫さまの声はマストじゃーん」
「そういうものであるか」
「であるし」
陛下の問いにベリルは断言した。
でも根拠らしい根拠なんざぁねぇんだろ、どうせ。
「ベリル嬢よ。美食や服飾ばかりを記事していては、両殿下が贅沢を好む方だと大衆に映ってしまわぬか」
これは左大臣殿からの苦言。
「ちっちっちっ。あーしがやりたいのはちょっと違くってー、みんなのお宅で再現できるレシピとか、屋台のビー級グルメリポートとかー、今年いっぱいとれたお野菜の試食みたいなのだし」
「ふむ。それならば市場についてや産地について触れることもできようて。しかし問題は文字だけでは伝え難いところじゃな」
「それなら絵ぇ描いてもらって版画にしちゃえばいーじゃん! 絵が入ってる本とかあんまないっしょ? 字ぃ読むの苦手な人でも見てて楽しいだろーし〜」
「それはいい! そこから興味を持てば文字の学びにも繋がるであろう」
左大臣殿はかなりノリ気だ。
きっといまも頭んなかでは新聞の使い道がグルングルン巡ってる。そういう前のめり感だ。
「あとあとファッションも! お妃さまとお姫さまが着てる服も特集したいけど、街中で見かけた可愛いカッコしてる子についてコメントしてもらうとか、そーゆーのもっ」
「ベリル、もしや其方……」
「ひひっ。ついでに感動のエピソードとか吟遊詩人さんの物語を載せちゃうのもありだし」
「やはりか」
一方の陛下は、いまにも眉間を揉みほぐしそうな、ため息まじり。
誰でもいい、置いてけぼりな俺にどう『やはり』なのかを説明してくれねぇかな。
「トルトゥーガよ、ベリルは教会も巻き込む気でおるぞ」
——ハア⁉︎
「ゆくゆくはねー。いわゆる、公平性の担保ための第三者機関ってやつー」
たしかに教会が協力してくるんなら、カネの流れや地域ごとの細かい出来事まで、あらゆる情報を集めやすくなるだろうさ。
だがよ、どうにも教会が新聞作りを手伝う理由がわからねぇ。
「教会が祀っているのは、秤の神を起源とする『美容・美味・美辞』の三つの美を司る女神であろう」
なるほど、そういうことか。
美味いモンの記事で美食、服装についてで美容、面白ぇ物語で美辞。ぜんぶ揃っちゃあいる、か。
「刷り上がったら女神さまに読んでもらうのもありかもねー。なんつーか、箔がつく、みたいなー。ついでに教会で売ってもらったり、読み聞かせてもらったりもイイんじゃね?」
若干こじつけにも思えちまうが、たぶん、ベリルがブチあげたみてぇに話をもっていきゃあ教会も協力を惜しまんだろう。
「左大臣。既存の所轄のどれかに任せるにしては、いささか大掛かりではないか?」
「陛下の仰るとおりでございます。さすれば新聞の発行だけでなく、手広く印刷も司る新たな部署が必要となりましょう。また教会との連携も視野に入れませんと」
「では、そのように体制を整えよ」
「承りました」
ほとんどついていけなかったけども、これでようやく話は終いだな。
まだベリルは「初回は無料でー」やら「いつか四コマを!」などなど枝葉の思いつきをぶってくが、んなことより大事なもんがあるだろうに。
「おうベリル。カネの話をしとかなくていいんかい」
「おっといけね。ねーねー左大臣さーん、印刷マッシーンと活字はどーゆー感じにしたいーん?」
「ふむ。買い取りで済ませてもらえれば、精算は楽ではあるが……」
「んん〜。活字は使いまわせてー、組んだのとっとけば何回でも刷れちゃうし」
「そうなってくると、刷るたびに費用の内訳にバラつきが出てしまうか」
これは俺にもわかる。
要するに、数を捌けるモンを刷ったら、刷っただけ一枚ごとに掛かる活字にかかる費用が薄まってくっつう話だ。
逆に数を刷らない場合、活字をバラして使いまわすときは別として、組んだまま取っておくとなると一枚ごとの負担はデカくなっちまう。
「料金が毎度異なっていては、利用する者も不便に思うであろうな。しかも役所の職員はその都度、見積もりの作業が加わり負担が増すばかり」
左大臣殿が眉を寄せるほどのややっこしい問題を前に、ベリルはムフムフしてやがる。
「ベリルよ、其方には善い案があるのであろう」
「おおーう。王様にはバレちったかー」
どっから誰が見てもテメェが勿体つけてんのは丸わかりだ。
まっ、俺ぁ事前にベリルの困りごとを知ってたんで、なんとなく想像はつくがよ。
「印刷に使う紙なんだけどー、あーしんちの紙を買ってほしーし」
ほら、思ったとおりだぜ。
「なんと! ベリル嬢の商会は紙も取り扱っておったのか」
「おったし。ゆーて最近の話なんだけどー。うちのは植林とかして環境にも配慮しちゃって、めっちゃサスチナブルだし」
「して、ベリルの商会が紙を納品することと、印刷マッシーンの値になんの関わりがあるのだ?」
手広さに呆れ半分で驚く左大臣殿と、話の繋がりが見えずな陛下。
「他所とおんなじ値段で紙買ってくれるなら、印刷マッシーンと活字のおカネいらねーし」
「「——⁉︎」」
「あと国に買ってもらうんだし、紙代は税金とかもなしにしてくれたら嬉しーかもっ」
「ふむ。その程度は構わぬが……。左大臣よ、どう考える?」
「ベリル嬢の商会、小悪魔商会はかなり安価に紙を作る方法を知っている……ということでしょうな」
左大臣殿のカマかけに、ベリルは「企業ひみつだもーん」とヘラヘラするばかりで答えない。
こんな態度を見て、まさか大量の在庫を抱えて困ってるたぁ思うまい。
実んところ、魔導ギアを作ったときみてぇに作業を分担できるだけ分担させて効率よく紙を作らせてるから、他所よりは安く大量に作れるってのも間違いではねぇ。植林の手間賃を差し引いてもな。
「確認だがベリル嬢よ、紙は一般的な値でよいのか?」
「もっちろーん」
「つまりは紙の売り上げで、印刷マッシーンや活字の代金は優に賄えると……ベリルはそう申しておるのだな」
「だいたいそんな感じでーす」
こんな具合に話はまとまった。
印刷マッシーンと活字はうちから無償で差し出す。その代わり、印刷の施設で使う紙はすべて小悪魔商会から納めるという条件で。
つまりベリルは、労せず、ある種のデカい利権を得たわけだ。
◇
スゲェしんどかったぜ。柄にもなく甘いモンが欲しくなる疲労感が、首から肩にかけてズッシリ残ってやがる。
王宮を出て少し歩いたあたりまでは我慢したが、
「ハァ〜……。くたびれたぜ」
思わずため息をこぼしちまった。
しかし違和感が残る。
今回もベリルは盛大に振りまわしてくれやがった。だが、そいつを悪びれもせずに自慢してくんのかと思えば、やたらと大人しい。
なんなら微妙に冷や汗かいてるくれぇで、なんぞブツブツ言ってんだ。
「どうした?」
「…………父ちゃん。ヤベーし。割とマジで」
俺、もう考えごとなんぞしたくねぇんだが。
「紙たぶん足んないかも。んーんー! ゼッタイ足んなくなるってっ」
「……ハァ⁇ ならどうして紙を一手に納めるなんて言ったんだよ」
「だってめちゃ儲かりそーだったんだもーん! あとあーしがやんなきゃ木ぃなくなっちゃうし、しかたないじゃーん!」
「——ああ゛もういい‼︎ まずノウロを捕まえなきゃあならんっ」
「そ、そっか。まだ王都にいるはずだもんね」
「宿は抑えてあるな?」
「たしか小悪魔ヒルズの近くだし」
ベリルを肩に担ぎ、
「しっかり掴まっとけ」
俺は陽が傾きはじめた王都を駆けた。




