25. ゴブリンを倒そう
改題をしました。
詳細は活動報告の本日の記事「「お姉ちゃんと異世界に転移したので二人旅をすることにしました。」の改題について」をご確認ください。
「お姉ちゃん、朝だよ。起きないと集合時間に遅れちゃうよ」
「んゆ……、んぁ……、蒼ちゃん、ぎゅー」
「やだよ恥ずかしい。ほら、起きて!」
「いたぁぁぃ! 蒼ちゃんがぶった……」
「お姉ちゃんが起きないからでしょ! ゴブリン討伐もあるし、早く準備して朝ご飯食べに行こ」
「うん、わかったぁ……」
『おはよう、雫』
やっとお姉ちゃんが起きたので、私は準備を手伝う。お姉ちゃんの髪を『ブラシ』で梳かしてあげるくらいだけどね。
だいぶ前に一の鐘が鳴ったから、待ち合わせの二の鐘には、ご飯を食べて西の門に行ったらぎりぎりだと思う。アライアンスでの行動だし、遅れるわけにはいかない。
お姉ちゃんの準備が終わったので、おかしいところがないか二人で確認して、タルトを肩に乗せて部屋を出る。
「蒼ちゃん、まだ眠いよぅ」
「ご飯食べたら目が覚めるから、がんばって」
お姉ちゃんの手を引いて一階の食堂へ行く。
女将さんに挨拶すると、もう他の冒険者はみんな出かけたよ、と教えてくれた。私たちも急がないと……。そうは言っても食事は大切だから、お姉ちゃんと二人で席について朝食を食べる。
今日のメニューは、フォカッチャとスープだ。メニューの数が少ない代わりに、スープが具沢山だ。フォカッチャは作り込んでいるのか、ローズマリーの香りがする。タルトにも同じメニューをもらった。いただきます。
スープは具が細かく切ってあってとても食べやすい。それに、お肉も入っていて、その出汁が出ている。野菜はじゃがいも、トマト、にんじんと玉ねぎとあとはなにかな……時間があったらゆっくり話を聞くのに! フォカッチャは固めで、中はもっちりしていた。そしてほどよい塩加減がおいしい。これを生地にしてピザを作りたいなぁ。
お姉ちゃんはフォカッチャを咀嚼して目が覚めたみたい。よかった。タルトはスープに手こずったかな? 口周りが汚れていたので拭いてあげる。三人とも食べ終わったのを確認して、ごちそうさまでした。
それから宿屋さんを出て、中央通りを歩いて西の門へ向かう。
途中、ウォーカー商会の前を通りかかると、ちょうど店先にカールさんがいたので、歩みを止めずに挨拶だけして先を急ぐ。
西の門へ着くと、多くの冒険者が待機していた。五十人くらいかな……。私たちも集団に混ざる。そこでちょうど二の鐘が鳴るのが聞こえた。よかった、ぎりぎりだけど間に合った。
数分待っていると、モニカさんと大剣を携えたロイさんが、街の方から歩いてきた。モニカさんと目があってウィンクしてくれる。こっちも手を上げて返す。
歩いてきたロイさんが、私たちの前に立つ形になった。全員が一斉にロイさんに注目する。
「おはよう諸君! よく集まってくれた! 今日はゴブリン討伐だ! 一人も欠けずに任務を完遂することを期待する!」
「「うおおおぉぉぉぉーー!!!!」」
雄叫びが聞こえる。それを鎮めてロイさんが話を続ける。
「Cランクの者をリーダーに、前衛を四チーム編成した。各チーム指示に従ってゴブリンを討伐してくれ。それから、幸いなことにBランク冒険者二人の助けを借りることができた。魔術師チームと後衛チームは二人の指示に従ってくれ。紹介する。シズク嬢とアオイ嬢の姉妹、それからドラゴンのタルト殿だ。なにか挨拶を頼む」
えぇ、聞いてないよロイさん……。恥ずかしいなぁ……。かと言って、もう周りの注目が私たちに集まっている。出ないわけにはいかない。するとお姉ちゃんがタルトを連れてロイさんの隣にどんどんと歩いて行った。私も慌ててその後ろを着いて行く。
「みんなー! 後衛の雫よぅ。怪我は雫が治すし、補助魔術もあるから安心して突っ込んでちょうだい。後衛チームも、タルトちゃんが一緒だから守ってくれるわ。安心してみんなのサポートをするわよぅ!」
「「おおおおおーーー!!! 頼むぜーー!!!」」
『騒がしいのは嫌いなんだよ、雫』
「あら、いいじゃない。楽しくて」
『やれやれだね』
「それから、魔術師チームは雫の可愛い可愛い妹の蒼ちゃんがばっちり指揮してくれるわ! 見惚れてないでちゃんと魔術を撃つのよぅ!」
「「わかったぜ!!!」」
「俺見惚れるかも知れない……!」
「可愛いから仕方がないわ!」
私は前に出て、真っ赤になった顔を隠すように、全力で頭を下げるだけで精一杯だった……。
「挨拶も済んだようだし、早速向かうとしよう」
私たちは数チームに分散して移動を開始した。
森を歩いてしばらく、レンジャーの人たちが先行してゴブリンの集団を捜索する。
すると、それらしき集団と集落を見つけたとの情報がきた。
私は魔力感知を発動すると、蠢くような大きな魔力の塊があるのがわかった。お姉ちゃんも、かなりの数の魔力の塊を見つけたらしい。間違いない、ゴブリンだ。私とお姉ちゃんはロイさんにそのことを伝える。
ロイさんの周りにいた各チームの連絡係が、一斉に散って行く。
ゴブリンに見つからないように、各方面を囲って、一気に襲いかかって掃討する作戦だ。
お姉ちゃんたち後衛チームは、戦闘が始まったら最前線で各チームを回って、治療と補助をして行くみたい。タルトがいるからできる作戦だね。これで前線は壊れることはないかな。
私たち魔術師チームは、タイミングを見計らって、要所要所で敵の塊に向けて魔術を撃つ。チーム内で事前に得意属性を聞いて、細かい組み分けも済んでいる。
やがて各方面から合図がある。あとはロイさんから突撃の合図を待つだけ……。
「よし、突撃!!!!」
「うおおおおおおーーーー!!!」
雄叫びが聞こえる。レンジャーの人たちだけにわかる合図があるらしく、各方面のチームはそれを見て判断したらしい。私のチームにはレンジャーがいないし後発だから、雄叫びを聞いてからのスタートだ。
「戦闘が始まったね。みんな、ゴブリンの集落に近づくよ! はぐれゴブリンはすぐ倒して! 一発で倒せないなら人数を集めてね!」
「「はい!」」
「突撃よぅ! まずは全員に補助魔術よ! 盾役の人への防御魔術を優先してね! それから回復は、自分の安全も確認してからよぅ」
「「わかりました!」」
「タルトちゃんは危なくなった子を守ってちょうだいね」
『わかったよ。お礼はあとでしっかりとお願いね』
「任せてぇ」
雫たちは、前衛、特に最前列の盾役に向かって、『シールド』『パワーアップ』『アジリティ』と言った補助魔術をどんどん掛けていく。
次から次へと集落からゴブリンが出てきて、怒っていることもあって打ち合いが激しくなっていくわ。
ゴブリンのシミターやナイフによる一撃を、盾役の人たちがラウンドシールドやカイトシールドで防いでいく。
攻撃を防いでゴブリンが硬直した隙、あるいは攻撃を弾いて動きに制限がついた瞬間に前衛が攻撃を仕掛けて倒す。
誰かがゴブリンから攻撃を受けてしまったら、すぐにヒールを詠唱して回復する。ゴブリンを隙間から逃さないように、散らさないように、囲い続けるのが大切ね。
でもたまに頭のいいゴブリンが、囲いから抜け出して後衛の子に襲い掛かる。
けど、タルトちゃんが魔力威圧で動きを止めて、攻撃を許さない。そのため、タルトちゃんは飛び回って大忙しだ。
タルトちゃんだけでは対応できないゴブリンは、雫の『プロテクション』と『アンチフィジカルフィールド』で対処する。事前に得意魔術を聞いておいてよかったわぁ。プロテクションが苦手な子が多いみたいだったから、防御には特に気をつける。
このまま囲いを維持して、そして狭めて、蒼ちゃんの指揮する魔術チームで一蹴ね。大丈夫。こっちは順調よ。
前衛の包囲網が維持できている。お姉ちゃんの後衛チームがしっかり支援しているみたい。もちろん、前衛チームの活躍あってだけども。
私たち魔術師チームは、途中で数体のゴブリンを倒しながら、囲いの中のゴブリンを視認できる位置に着いた。
一見散っているようだけど、魔術感知と目視を併せて見ると、いくつかゴブリンの集団ができているのがわかる。そこに向かって私たちは魔術を放つ。
チーム分けは四チーム。風火水土の基本属性ごとだ。上級属性と特殊属性持ちは一人ずついたけど、基本属性も使えるので纏まってもらった。
「打合せの通り、土チームが足止め。風、火チームで殲滅。水チームで逃げ出したゴブリンの排除ね!」
「「はい!!」」
「それじゃあ、詠唱開始!」
全員が一斉に詠唱を始める。
黄緑、赤、青、茶の属性に対応した色の魔術陣が展開される。まず始めは土属性魔術の足止めだ。
アースグラスブ、アースブロック、アースジェイル。種々の魔術を発動させる言葉が見て取れる。あれ、アースジェイルが『土 鳥籠 束縛』じゃない。どうして……って、今はそれどころじゃない。攻撃だ。
「第一チームの辺りにゴブリンの大集団! 土属性魔術撃って!」
『アースグラスブ!』『アースブロック!』『アースジェイル!』
一斉に発動する土属性魔術。ゴブリンの足元から岩の塊や格子が現れ、ゴブリンを捕らえていく。
驚くゴブリン。そして、捕えられるゴブリンを見て一旦退く第一チーム。次だ!
「次! 風属性チームと火属性チームで殲滅!」
『ウィンドカッター!』『ウィンドスラッシュ!』『ファイアボール!』
動けないゴブリンの首や胴体を刈り、体を燃やしていく。攻撃力は、なんとか足りてるかな。これ以上の集団だと手助けがいるかも知れない。
目の前の仲間の首が落ちて慌てたゴブリンのうち、土魔術の拘束から逃れたゴブリンが包囲網を抜けて逃げ出す。抑え込まなきゃ!
「水属性チーム! 逃げたゴブリンを抑えて!」
『ウォーターグラスブ!』『ウォーターボール!』
ウォーターボールで頭を狙って気絶させて、倒れたのを前衛チームが狩る。いい連携だね。
うわ、ウォーターグラスブで足じゃなくて頭を捕えて窒息させてる……。えぐい……私でもやらないよ! ……滅多に。
これで第一チーム辺りのゴブリンは概ね一掃できたかな?
「次のゴブリン集団、第三チームの前! 行くよ、詠唱開始!」
蒼ちゃんたち魔術師チームが攻撃を始めたみたいねぇ。ゴブリンの数が減ってきたわ。
こっちもやっと前衛全員に補助魔術を掛け終えたところで、とにかく数が多いゴブリンと対峙している前線の囲いは、回復で耐えながら拮抗って感じかしら。
後衛の子たちの魔力残量が気になるわねぇ。肩で息をする子が増えてきた。
でもゴブリンはまだ出てくるみたい。持久戦ね。
「魔力残量がない子は、順番に一旦後退して魔力回復してちょうだい! 手が足りないところは雫がサポートするわ!」
「あなた、魔力ポーション配ってくれるかしら?」
「は、はい!」
雫はかばんから魔力ポーションを大量に取り出して、一緒に取り出した籠もろとも補佐役の子に渡す。
それを配り始めるのを見届けて、前衛への補助の手が足りないところを見定めて魔術詠唱を始める。『聖 治癒』『聖 障壁 身辺』。あとは……『聖 暴力 自動 自律 防壁』。
『ヒール』『プロテクション』『アンチフィジカルフィールド!』
怪我をしている人にヒール。退くときに襲われそうな後衛の子にプロテクション。守りの手が足りないところに、アンチフィジカルフィールドの自動防御を張る。
「すげぇ……、ゴブリンの攻撃が防がれてる……」
雫の補助で、変わらず前線を維持できてるかしら……。手を出しちゃったけど、仕方ないわよね。
魔力を回復した子たちが前線に戻って行く。これでまた余裕が出てくるはず。
だけどそこで、背後にいた第二チームの方から叫び声が聞こえたの。
「まずい! このままじゃ第二チームが崩壊するぞ! ゴブリンチャンピオンだ!」
「ゴブリンチャンピオンが出たって?! 街が滅ぶレベルじゃない!」
私は連絡係から受けた情報に驚いて、間抜けな声を上げてしまう。
森を住処にしているゴブリンの群れだから、精々上位種のホブゴブリンくらいだと思ってた。でもそれより上のチャンピオンなんて……。C級じゃ多分無理ね……。私が戦闘に出るしかないかな。
悩んでいると、ちょうどそこへ後ろからロイさんがやってきた。
「アオイ嬢! 聞いたか?! チャンピオンだ!」
「えぇ、今聞きました。まずいですね。ここの人たちじゃ倒せないと思います」
「アオイ嬢ならいけるか?」
「ここの指揮を任せていいなら」
「……俺が代ろう。すまないが、頼む」
「わかりました」
私は前線に向けて駆け出す。引き継ぎはロイさんに丸投げだ。それより、放置しているとまずい。
第二チームのいる最前線にたどり着くと、盾役の人とお姉ちゃんとタルトがゴブリンチャンピオンの猛攻を防いで足止めしていた。
「お姉ちゃん!」
「蒼ちゃん、来てくれたのね。攻撃力が足りないのよ。このまま足止めと防御は私たちでやるから、お願いしていいかしら?」
「もちろん!」
取っておきを詠唱しようと魔術陣を展開した瞬間、まさかの身内から横槍が入った。
『蒼がやるの?』
「え? そうだよ」
『なんだ、僕たちは手を出しちゃダメなのかと思ってた。僕がやっていい? さっきから叫び声がうるさくて嫌だったんだよね』
「へ? いいけど……できるの?」
『当然だよ。蒼も雫も僕の力をみくびってないかな?』
「雫たちは、タルトちゃんがなにができるのか知らないだけなのよぅ」
『それなら、ちゃんと見ててね』
お姉ちゃんの肩から飛び上がって、ゴブリンチャンピオンの前に飛んで行くタルト。
一瞬で周囲の空気が凍りつく。これ、タルトの魔法なの? 魔術でもこんな空気、感じたことない……。突然の変化に緊張を強いられて、私の顔を冷や汗が流れる。
『ただの魔力を乗せた威圧だよ。蒼』
タルトが教えてくれる。こないだスクリームフェザントにやったようなことかな。あの時は咆哮だったけど、今日はそれもしていない。
しかし、ゴブリンチャンピオンは一瞬たじろいだものの、再び動き出してタルトに向かって大鉈を振りかぶる。
そこへ、タルトの魔力を乗せた咆哮が炸裂する。今度は先日の雉と同じように、一切身動きが取れなくなるゴブリンチャンピオン。
『ドラゴンの魔力を乗せた咆哮には、弱い相手の動きを止める働きがあるよ。覚えておいてね、二人とも』
「え、えぇ……」
「うん……」
「グガ、……、ガ、オレハ、ヨワクハ……」
『残念、弱いよ』
ゴブリンチャンピオンに向かってタルトがブレスを吐く。ブレスって火炎放射みたいなのをイメージしてたけど、光線だ……ビームだ……! SFじみたタルトの攻撃に、驚きながらもテンションが上がってしまう。
光線が消えた跡には、さっきのセリフが辞世の句になったホブゴブリンの下半身と、焦げた臭いが残るだけだった。
『僕のブレスは魔力を光に換えて集束して撃ち出すよ。雫も似たようなことができると思うんだ』
「そうね……。がんばるわ」
「す、すごいねタルト! あっという間に倒しちゃった!」
『見直した?』
「えぇ、見直したわぁ。タルトちゃん、強かったのねぇ」
呆然とした空気を通り越して、なんとかテンションを上げた私たちが、タルトを褒め称える。でも本当にすごいよ!
「これが、ドラゴン……」
お姉ちゃんと一緒にいた盾役の人が呟く。そこへロイさんが到着する。
「周りは少数の残党だけだから、任せてこっちに来た。が、必要なかったな……」
「タルトちゃんがすごいのよぅ!」
「タルトが倒しましたよ!」
『もっと褒めるといいよ。報酬はケーキがいいな』
「あ、あぁ……。街に戻ったら手配する……」
あとで詳細を聞かせてくれ、と言い残してロイさんは再び他のチームの見回りに行ってしまった。
とりあえず、大きな仕事は終わりかな。
「お疲れ様、お姉ちゃん、タルト」
「蒼ちゃん、タルトちゃん、おつかれさまぁ」
『お疲れ』
残党も残らず掃討したと連絡が来たので、全チームがゴブリンの集落の前に集合する。
お姉ちゃんは怪我をした人のヒールであちこち回っているところだ。
私は魔術師チームの無事を確認してから、ロイさんと集落の中を捜索を始める。魔力感知でもうゴブリンが残っていないのはわかるけど、中に入るのは緊張するね。
集落の奥には、ロイさんたちが想定した以上に荷物と財宝があった。それから人間の死体。
どうやら未確認だった人がいたみたいだね。
私は合掌して、お姉ちゃんに浄化を任せることにする。
こうして事後処理も終わった。後味が悪いけど、私たちの勝利だ。
ロイさんの合図で、私たちは街へ帰還の歩みを進める。
行きは緊張してて魔術師チームとあまり話せなかったけど、帰りは雑談が弾んだ。
アオイさんの指揮すごかったです! って言われたけど、私なにも仕事してないな。
ゴブリンチャンピオンもタルトに任せちゃったし。
そういえば、魔術師チームのみんなの魔術、私と言葉が違ったんだよね。聞いてみようかな。
ちょうどアースジェイルを撃った女の子がそばにいたので聞いてみる。
「ねぇ、ちょっと、アースジェイルの魔術語なんだけど、どうして『土 鳥籠 束縛』じゃなかったの?」
「え? アオイさん、アースジェイルの発動は『土 檻 捕捉』じゃないですか。学院でそう習いましたよ」
「そうなんだ。学院行ってないしなぁ……。魔力量が変わりそうだね」
「どういうことですか?」
「ん? 言葉の意味と数で、込められる魔力量が変わるでしょ? だから、威力も変わるのかなって」
「……知りませんでした」
学院でもわからないことってあるんだね。この国の魔術学院なら、私が知ってることは当然くらいなんだと思ってたけど、違うみたい。その子も不思議そうにしている。
「アオイさんは、どうしてそんなこと知ってるんですか?」
「魔術の師匠が教えてくれたんだ。だから、私の知識は全部その人の受け売りだよ」
「そんな人がいるなんて……。学院でも上級講師になれますよ! スカウトしに行きましょう!」
「頷かないんじゃないかなぁ……」
リエラ、かしこまったの嫌いだし。授業も気まぐれで模擬戦とかして混乱させそう。
結局、それを発展させるための知識が私たちには足りなくて、話は進展しないままどっちも撃ててるしいいか、となっておしまいになった。
それから、お姉ちゃんが指揮してた後衛チームが近くにいたので、歩きながらちょっと見てみると、お姉ちゃんとタルトが絶讃されている。
え、タルト……あなたそんなドヤ顔できたの? でもマスコット扱いされるのは不満みたいだね。
聖属性魔術が使える後衛ということで、聖女や聖女見習いの子が多く、その子たちからお姉ちゃんがお姉様って呼ばれてた。まんざらでもなさそうに、というか顔がものすごいにやけてるんだけど! お姉ちゃんの妹は私だよ!
あとは、Bランクということで他の冒険者の人とは私たちがやってきた依頼についての話になった。多分、登録期間から言ったら一番新参者だよって話したら驚かれたけど……。薬草取りと魔物狩りくらいしかして……あ、魔族狩りとドラゴンの浄化があったか。
それから歩いてる時に見かけた植物から、薬草とかの話になって、植物の見分け方と使い方を熱心に聞いてくれる人が多かった。怪我や病気の治療に直結したり、お金になる情報だからかな。ギルドに薬草講習とか相談したら丁寧に教えてくれそう。
ギルドといえば、モニカさんは冒険者界隈だととても一生懸命で可愛い後輩って認識らしい。確かに可愛いよね。狙ってる男性冒険者も話してる雰囲気ではいそうなんだけど、ソフィアさん一筋だしがんばってね。
なんて話をしていたらアルデナ領都に着いた。
朝集合した西門前で、ロイさんが再びみんなを集めて話出す。
「今日はみなご苦労! 一人も欠けることなく依頼を達成できて嬉しい。各パーティのリーダーは報酬の話をしたいのでこのままギルドへ頼む。あとは解散だ! ゆっくり休んでくれ!」
私たちは、多分というか間違いなくギルドでお話コースだよね。お姉ちゃんを探す。するとちょうどこっちにタルトを肩に乗せてやってきた。
「蒼ちゃん、お疲れ様。雫とタルトちゃんは宿屋さんでのんびりしたいから、蒼ちゃん、代わりにギルドに行ってくれるかしら?」
「そうさせてあげたいんだけど、多分二人とも功労者だからロイさんが話聞きたがると思うよ」
「じゃあ仕方ないわねぇ……。タルトちゃん、諦めてギルドに行きましょう」
『手を出しても面倒なんだね。人間って大変だね』
私は魔術師チームのみなに別れを告げてギルドへ向かう。
向かう途中、領主邸前の中央広場を通りかかると、露店がいくつか開いていた。もう午後なんだね。お昼食べ損っちゃったからお腹すいたな。でもギルド行かないと……。
「蒼ちゃん! チュロスを食べましょう!」
ちょうど目の前にあるチュロスの露店。油で揚げた匂いと砂糖の匂いが私の芯と決意を揺さぶってくる。が、我慢するのよ蒼……。
「お姉ちゃん! 確かにお腹はすいてるけど、ギルドに行かないと……」
「雫たちの話はどうせ最後よ。それに、雫はお腹がすいたわぁ。おじさん、チュロス三本ちょうだい!」
「はいよ!」
「蒼ちゃんは食べないの?」
「それ、一本は私の分じゃないの?」
「雫とタルトちゃんの分よ」
「おじさん! 私の分もちょうだい!!」
「待ってな!」
お姉ちゃんに二本、タルトに一本渡されるチュロス。おじさんはタルトを見てちょっと驚いてたけど、笑顔で渡していた。タルトは器用に前足でチュロスを持って食べ始める。
私の分もきた。いただきます。渡されたチュロスは麺棒のように棒状で大ぶりだ。砂糖は控えめかな? いただきます。日本では砂糖の味がすごかったけど、ここのチュロスは塩気も強くて、すいたお腹にガツンとくるのがとてもいい。
あとこのお店でも安定のスパイス、シナモンが使われてる。やっぱりスパイスの流通は安定してるんだな。帰ったらカールさんに聞いてみよう。
タルトとお姉ちゃんは口の周りに砂糖をつけて食べていたので教えてあげる。すると、私にもついてるわよってお姉ちゃんに言われた。ちょっと恥ずかしい。ごちそうさまでした。
「さてと、ギルドに向かいましょうか」
お腹も満たされたし、ここからはお話の時間かなぁ。
評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。




