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24. 武器を作ってもらおう

 アルデナ領に着いて、私とお姉ちゃんは杖を作ってもらおうってことになった。

 やっと見つけた街一番の鍛冶師である、ドワーフの! ゲルトさんの工房。

 私が工房の屋号を確認している隙に、お姉ちゃんは先行してゲルトさんの工房へ入ってしまった。虚を突かれた私は、慌ててあとを追って工房に入る。

 中に入ると、正面にカウンター、左右の壁には剣や槍などの武器が飾ってあり、隅にある樽には何本かの剣が差してあった。奥は薄暗く、熱気がここまでやってくる。今、きっとなにか打ってるんだろう金槌の音がする。


「たのもーぅ! 雫が来たわよぅ!」

「お姉ちゃん! 前にも言ったけど、そんな挨拶ないでしょ!」


 お姉ちゃんをたしなめつつ、私たちが騒がしくしていると、奥からどたどたと足音がして男性がやってきた。

 男性は、小柄で太っているが筋肉もがっしりと付いていて、灰色の短髪と同じ色の長い髭、茶色い瞳のドワーフだ。くすんだ茶色いオーバーオールを着ている。わ、ファンタジーアニメで見たドワーフそのままだ、すごいすごい!


「騒々しいな、姉ちゃんたち。殴り込みか?」

「違うわよぅ。お願いをしに来たの」

「あん? なんの用だ?」

「雫たちに武器を作ってほしいのよぅ」


 お姉ちゃんは交渉もなにもなく、ただこっちの希望を述べる。偏屈って言ってたし、そんな頼み方で聞いてくれるのかな……。


「見たところ冒険者だろ。魔術師ってところか。杖も持ってねぇ半人前じゃ支払いなんて……なんだそれ、ドラゴンか?」

「そうよぅ、タルトちゃんって言うの。可愛いでしょ」

『その表現は遺憾だね、雫。僕にもっと似合う賛辞があるはずだよ』

「ね? 可愛いでしょう?」

「喋った……契約してんのか?」


 私とお姉ちゃんは頷く。ちっと舌打ちして、後頭部を掻きながらゲルトさんは言う。


「金はあんだろうな?!」

「ないわ!」

「ちょっとお姉ちゃん! お金はあります……。換金すればですが……」

「文無しじゃねぇか。まぁいい。どんな杖が欲しい。見積もりくらいは出してやる」

「一流って聞いてたけど、これじゃ二流もいいとこね。雫がっかりだわぁ。帰るわよ、蒼ちゃん、タルトちゃん」


 お姉ちゃんが踵を返す。ちょ、ちょっとお姉ちゃん……。慌てて止めようとしたところに、怒声が飛ぶ。


「なんだと?! テメェ、俺の腕聞いて来たんなら、ちょっとは礼儀ってもんをだな」

「だって、あなたさっきからお金の話しかしないじゃない。雫が欲しいのは、一流の杖よ! そのために、一流の素材を加工できる一流の腕を持った鍛治師を探しているの。金勘定しか頭にない、あなたはお呼びじゃないわ」

「お姉ちゃん! 流石に失礼だよ!」

「冷やかしか? だったら他所を当たれ」

「違うわ、あなたがこの街で一番って聞いたから来たのよ。それなのに、出てきたのがこんなんじゃがっかりって話だわぁ」

「いい度胸だな姉ちゃん。一番ってのは間違っちゃいねぇ。ただしこの国でだ。作ってくださいって、床に頭擦り付けるなら考えてやるよ」

「違うわよ、あなたが、雫と蒼ちゃんに作らせてくださいって頼み込むのよ」

「いいだろう、話を聞いてやる。つまんねぇ話だったら二度と敷居は跨がせねぇぞ!」

「もちろんよぅ。蒼ちゃん。宝石出して」

「え、う、うん……。わかった」


 私はお姉ちゃんに言われた通り、神様に路銀としてもらった宝石袋をかばんから取り出してカウンターに置く。


「杖の属性補助にはこれらの石を使ってもらうわ。雫が聖属性、蒼ちゃんが基本四属性全部だからそれに準じた石ね」


 お姉ちゃんが、宝石袋からダイヤモンド、ペリドット、ルビー、アクアマリン、シトリンを取り出してカウンターに置く。その石をゲルトさんが手に取って、ルーペで確認していく。


「ふん、口だけじゃねぇようだな」


 五つ全て確認したゲルトさんが石を置き、だが、これくらいじゃそこらにあるな、と吐き捨ててこっちを見る。


「蒼ちゃん、次、リヒャルトの魔石」


 私はリヒャルトの魔石を取り出して、宝石と同じようにカウンターに置く。


「杖の核石はこれよぅ。大きいから二つに割って、雫と蒼ちゃんの杖にそれぞれ付けてちょうだい」


 魔石を見たゲルトさんが、さっきと同じようにルーペで確認する。


「なんだこれ、魔石か? それにしちゃ純度と色が……」

「名付きの魔族の魔石よ。浄化してあるから、臆病なあなたでも使えるわ」

「一言余計だ……くそ、悔しいがこんな純度の魔石は初めて見たな……。あとは杖の芯材だな。出せ」


 ゲルトさんが私の方を見て言う。私は喧嘩売ってないですよ! 可愛い臆病な女の子ですよ!

 

「蒼ちゃん、角お願い」

「……はぁ、わかった」


 私は一度タルトを見て、かばんからお母さんドラゴン、ホワイトドラゴンの角を取り出してカウンターに置く。カウンター幅が足りなくて横向きに置けなかったから、縦に置いた。

 それを見たゲルトさんが、瞠目するのが見えた。


「これが芯材のホワイトドラゴンの角よぅ。どうかしら?」


 お姉ちゃんがどや顔で胸を張りつつ、勝利宣言の声が工房内に高らかに響き渡る。

 ゲルトさんが、ガシガシと後頭部を掻きながら一度大きく深呼吸して叫び出す。


「くそ! 完敗だ! 悔しいがこんな素材持って来た奴は今までいねぇ! 悪かったな姉ちゃん。ちょっと国の依頼で虫の居所が悪くてな、この通りだ!」


 ゲルトさんが頭を下げる。


「いいわよぅ。それで、杖は作ってくれるかしら?」

「あぁ、いいだろう。これだけの素材を見せられちゃ仕方ねぇ。作らせてくれ!」

「あの、お姉ちゃんが本当に失礼しました。製作費は足りなかったらさっきの宝石の余りか、それを換金したものになりますが、いいですか?」

「失礼はお互い様だ。製作費はいらねぇ。ただ、研究用に角の端材を少しくれ」

「タルトちゃん、いいかしら?」

『いいよ、それで二人が強くなるなら問題ない』

「助かる。三日くれ。この国の魔術師団でもお目にかかれない杖を作ってやる」

「わかったわぁ。三日後に来るわねぇ」

「よろしくお願いします」


 お姉ちゃんの強引なお願いもなんとかなって、私はもう一度ゲルトさんに頭を下げて製作をお願いし、工房をあとにする。


「お姉ちゃん、流石にひやひやしたよ。あと、ちょっと失礼すぎるよ」

「作ってくれるんだからいいじゃない」

「そうだけどさぁ……言い方があるじゃない」

「いいの! ゲルトさんも珍しい素材だから喜んでたわぁ」

「うーん……」

『蒼、気にしちゃダメだよ』


 なんで私、タルトに慰められてるんだろう……。もう気にしても仕方ないか。作ってもらえるし。

 さて、できるまで三日空いちゃったな。


「お姉ちゃん、三日あるけどギルドで依頼する?」

「そうねぇ、ギルドに行ってみましょう」

「うん」


 私たちはすれ違った人に冒険者ギルドの場所を聞いてみる。ちょうどその人も冒険者だったらしく、親切に教えてくれた。大通りへ戻って右、つまり領主邸の方に向かえば着くらしい。私たちはお礼を言って目的地に向かう。

 冒険者ギルドはすぐに見つかった。この街の冒険者ギルドもやっぱり雰囲気が、周りの建物と違って無骨すぎる。鍛冶屋が周りにあっってなお、粗野な雰囲気は健在だ。そう言う商法なのかな……。

 そして相変わらず、冒険者ギルドに着くとお姉ちゃんが先行して入っていくので、私は後ろからついていく。


「たのもーぅ!」

「お姉ちゃん! それは違うって何回言ったらわかるの!」


 お姉ちゃんと私の声で、中にいた人たちの喧騒が止み、一斉にこっちを見てくる。これ、本当に慣れないよ……。

 再びがやがやとし出すロビーだけど、ここでも、新顔だな、とか、肩のなんだあれ、とか、ド、ドラゴン?! とか聞こえてくる。あれ、ちょっと言われる内容が変わったね。

 仕方ないと、がやがやを無視して、先に行ってしまったお姉ちゃんを追ってカウンターへ向かう。

 アルデナの冒険者ギルドは正面にカウンターが二つ、右手に打ち合わせスペースとして立ったまま囲える高いテーブル。左手に精算カウンターがあった。

 カウンターには、まだ少女の感じを残した、肩口まで薄紅色のストレートを伸ばした背の低めな、眼鏡の可愛い女の子がいた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。冒険者へのご依頼ですか?」

「雫たちが冒険者だから大丈夫よぅ、こっちにいる子は雫の可愛い可愛い妹の蒼ちゃんよぅ。よろしくね」

「失礼しました。よろしくお願いします。シズクさん、アオイさん。私はモニカです」

「よろしくお願いします、モニカさん。……お姉ちゃん、その紹介は恥ずかしいからやめて」

『タルトだよ。きゅるるん』

「タルト……なにそれ」

『雫が自己紹介はこうしろって』

「次からそんなのしなくていいよ」

『わかった。僕もイメージが違うと思ってたんだよね』


 えぇ、二人ともなんでー! と言うお姉ちゃんを無視して、私はモニカさんに話を続ける。


「私たち二人ともBランクなんです。できそうな依頼はありますか?」

「Bランクですと、今この街にある依頼は全て受けられますね」

「なるほど。三日で対応できて、かつ困ってる依頼を受けます」

「なら魔物退治ですね。ゴブリンの集団が出ていて、明日複数の冒険者パーティで組んだ討伐隊を派遣するんです。参加していただけたら助かります」

「それを受けるわぁ! 面白そう! いいわよね、蒼ちゃん」

「うん。その依頼、受けます」

「ありがとうございます。受注処理をしますので、ギルドカードをお貸しください」


 お姉ちゃんがモニカさんにギルドカードを渡す。魔術具にカードをかざすモニカさん。現れた画面を見て、あー……、顔が引き攣っちゃってる。可愛い顔が台無しですよ。笑って! って無理かぁ……。




 こうして、私たちは今回もギルマスに会うことになりました。

 ギルマスのロイさんは、マイヤギルドのガイウスさんみたいに、筋骨隆々の青年だった。焼けた肌に黒い短髪が似合っている。大剣使いらしく、執務室に綺麗な黒い両刃の大剣が飾られていた。聞いたらロイさんの持ち武器らしい。ゲルトさんの作品だって。私たちも今ちょうど杖を作ってもらってることを話したら、あの偏屈なおっさんが、って驚いていた。ロイさんも随分通って頼み込んだみたい。

 私たちの情報はこのギルドでも共有されているみたい。データベースみたいなシステムがあるのかな……すごいな冒険者ギルド。

 今、アルデナの冒険者ギルドにはCランク以下の人しかいなくて、そのCランクの人も三パーティだけだから、私たちみたいな戦力が来てくれたのは僥倖だって。

 ロイさんの話が依頼内容になる。

 どうやらゴブリンの集団が街の近くの森に現れて、集落を作っているらしい。まだ大きな被害はないけど、荷が奪われて命からがら逃げてきた人がいて、発覚したんだって。門番さんの警備が厳重だったのはこれが原因かな。

 今後も人が襲われる可能性を考えたら、予断を許さない状況かな。

 ゴブリンの規模は未確認だけど、繁殖能力が凄まじいから一匹逃したらまた同じ状況になってしまう。なので一斉に掃討する。そのため、各パーティをまとめてアライアンスを組むことになった。なったんだけど、この街の冒険者レベルがちょっと低くて、指揮や補助をどうしようか悩んでたんだって。

 そこに現れたのがBランクの私たち。

 それで、この街の冒険者のレベルを上げたいから、できれば私たちには奥の手として、最初は戦闘はせずに補佐してほしいとのこと。タルトもね。ということで私は前線のCランク以下の魔術師部隊の指揮。お姉ちゃんは回復・補助役として最前線の後衛ということになった。タルトは、最前線で危ないお姉ちゃんについて回ることになったよ。

 

「わかりました。集合は明日、二の鐘に西門でいいですか?」

「えぇ、よろしく頼みます」

「わかったわぁ。任せてちょうだい」


 私たちは執務室をあとにする。モニカさんに挨拶して冒険者ギルドを出ようとしたら、モニカさんが話しかけてきた。


「あ、あの!」

「はい?」

「どうしたの? モニカちゃん」

「お二人はソフィア先輩とお知り合いなんですか?!」

「そうよぅ。マイヤの街でとてもお世話になったの」

「はぁ〜。羨ましいですぅ。ソフィア先輩、その時のご様子はどんなでしたか? なんでもいいので教えてください! 着ていた洋服は? 最近の髪型は!? お化粧は前みたいにナチュラルメイクのままでしたか?! 相変わらず飲みっぷりはかっこいいですか?! それから……わ、私のことはなにか言っていましたか?!」

「落ち着いてちょうだい、モニカちゃん」


 おっと、まさかお姉ちゃんが勢いに負けている。いいぞもっと行け! しかし、さっきはすごいクールな印象を受けたモニカさんだけど、ソフィアさんのファンなのかな。


「順番に聞くから、ね? モニカちゃん」

「は、はい! すみません、私ったら、ソフィア先輩のことになると見境が無くなってしまって……」

「モニカさんは、ソフィアさんの後輩なの?」

「そうなんです! ソフィア先輩には研修時代に本当に、本当にお世話になって、優しくしていただいたんです! そのご恩を返したくて、いつも一緒にいたくてマイヤギルドへの異動願いを出してるんですが、全然取り合ってくれないんですぅ!!」


 ちょっと本音の欲望というノイズが入った気がするけど、気のせいかな。私は話を続ける。


「そうなんだ。私もあの美しいソフィアさんの魅力をお話しするのは吝かではないよ。でも、モニカさんまだ仕事中でしょ?」

「そうでした!」

「じゃぁ終わったら話しましょう? おいしいご飯のお店を教えてくれるかしら」

「わかりました! 仕事は五の鐘で終わりなので、その時間にここで待ち合わせでいいですか?!」

「いいよ」

「いいわよぅ」


 それじゃぁ私は仕事に戻ります! と駆けて行ったモニカさんを見送って、ロビーにポツンと残される私たち。


『忙しないね』


 タルトの突っ込みが入る。というわけで、モニカさんとご飯をすることになった。宿屋さんの夕飯はないけど、カールさんが待ってるかもしれないから、一度話に行かないといけないかな。


「お姉ちゃん、一度商会に戻ってカールさんに話をしに行こう?」

「そうねぇ、色々説明しないといけないわね」


 私たちは冒険者ギルドをあとにしてウォーカー商会へ戻ることにした。




 双子姉妹が立ち去ったあとの冒険者ギルドロビーにて、こんな会話が繰り広げられていることを、その姉妹は知る由もない。


「さっきの姉妹、聞いたか? Bランクだってよ」

「しかもギルマスに会ってたな。なんかこなれてたな」

「ギルマスに会うのをか? この街で見たことねぇぞ、あんな姉妹」

「それより俺はドラゴンを初めて見た」

「おう、白かったよな……? まさかホワイトか?」

「いやまさか……。一番弱いと言われているノアドラゴンですら大規模討伐レベルだろ。あんな可愛らしい姉妹が、上から三番目と言われるホワイトドラゴンを服従させるなんて……」

「いずれにしても、ドラゴンを服従させてる姉妹だぞ」

「あ、思い出した。俺、昨日ダチに聞いたわ」

「なにをだ?」

「ディオンの街で瘴気の塊が出たらしい。その、それがドラゴンだったんだってよ。んで、その日からドラゴンを肩に乗せた姉妹冒険者がいたってな」

「「……」」

「ドラゴンスレイヤーか……」

「俺たちにはまだまだ夢の話だな」




 冒険者ギルドを出て、私たちは中央道りを歩いてウォーカー商会アルデナ支店へ向かって歩く。戻ると、店頭でカールさんが従業員さんと商品を見栄えよく並べていた。


「カールさん、戻りました」

「お帰りなさい、シズクさん、アオイさん、タルトさん。鍛冶屋はどうでしたか?」

「作ってもらえることになったわぁ」

「おめでとうございます。それは、よかったですね」

「ただ、出来上がるのに三日待たないといけなくて、完成を待ってからリインフォース領に出発でもいいですか?」

「もちろんです。その間は、宿や街ですごしますか?」

「鍛冶屋のあとに冒険者ギルドに顔を出したら、依頼を受けることになってしまったので、それをやろうと思います」

「もしかして、ゴブリン退治ですか?」

「そうです。ご存知でしたか?」

「えぇ、従業員が話していたので知っています。荷が奪われた商人、うちにも卸してくれていた出入りの商人だったんで、見舞いやら補償やらで色々とフォローしています」

「そうなのねぇ、じゃぁがんばって掃討しないといけないわね」

「お二人とタルトさんがいれば安心でしょう。ギルドもいいタイミングだと喜んでいたのでは?」

「そうですね……。Bランクがいないようなので、僥倖だ! って言われました」


 そこでカールさんと一緒に話を聞いていた従業員さんが驚いた顔をする。ですよね、見た目小娘がBランクじゃ驚きますよね。

 それからカールさんに、ギルドの受付嬢と夕飯を食べることになったので、ご飯は別々で、ということを告げる。一緒に食べられないことを大層残念がっていたけど、また明日もあるし、道中も一緒だし今日は諦めてくださいね。

 アルデナの支店には私たちが休むスペースがないので、申し訳なくしていたカールさんに気にしないでください、と告げて広場の方へに戻ることにした。すると、移動する前にタルトが言う。


『僕、カールと一緒に先に宿に戻って休んでるよ。二人は気にせず楽しんでおいで』

「そう? わかった」

「タルトちゃん、またあとでねぇ」


 私の肩からカールさんの肩に乗り移るタルト。カールさんが、なにか神聖なものでも持っているかのようにキリッとする。ただのドラゴンですからね。普通でいいですよ。

 それから、私たちは移動を始める。さっきギルドから支店に向かう途中に四の鐘が聞こえたし、もうすぐ日の入りだから五の鐘が鳴るかな。私とお姉ちゃんはギルドに戻る。

 ギルドの前に着くとちょうどモニカさんと約束した五の鐘が鳴るのが聞こえた。よかった、遅れずに済んだ。

 ロビーに入ってすぐに、モニカさんは駆けながらやってきた。


「すみ……はぁ、はぁ……ません! 着替えで……はぁ……遅れて……はぁ……」

「雫たちも今戻って来たところだから大丈夫よぅ」

「落ち着いてね、モニカさん」


 何度か深呼吸をして落ち着きを取り戻していくモニカさん。この子、若干生き急いでるところあるよね。


「落ち着きました。お待たせしました。では、行きましょう!」


 ご飯屋さんまで先導してくれるモニカさん。モニカさんのオフの格好は……、リエラに負けず劣らずの桃色のロリータ服だった。髪型もストレートからツーサイドアップに変わっていて、結び目には服と同じ色のリボンが付いていた。とてもガーリーな可愛い印象を受ける。本格的だなぁ。


「モニカちゃん、その服とっても可愛いわねぇ」

「わかりますか?! これ、ソフィア先輩に可愛いって褒めてもらった服なんです! 今日はそんな服でソフィア先輩の話ができるので、髪も急いでセットしちゃいました!」


 ソフィア先輩に褒められた髪型なんです! 変じゃないですか? と聞いてくるモニカさんに、大丈夫よ、可愛い、と返すお姉ちゃん。筋金入りすぎる。

 

「雫も蒼ちゃんもロリータ服持ってるのよねぇ。最近着れてないけれど、お友達ができて嬉しいわ」

「そうなんですね! お二人が着た姿もきっと素敵だと思います!」

「私は可愛いの好きだけど、ここまでは恥ずかしいよ……」


 なんてガールズトークを繰り広げながら、路地を一本曲がって步いて行くと、目的のレストランへと到着したみたい。


「おすすめのお店はここです! ソフィア先輩がこの街に来た時に一緒に入って、おいしいって言ってくれたレストランなんです!」

「モニカちゃんは、ソフィアちゃんが大好きなのねぇ」

「はい! 出会いは私が研修時代の時まで遡りますが……」

「モニカさん、入ってからにしよ! まだ店先だし迷惑だから……」

「そうですね! 失礼しました! 私もお腹すいちゃってるんで入りましょう!」


 私たちはレストランに入って、ウェイトレスさんに人数を告げる。モニカさんは常連なのか、案内された席に着く前に、いつもの三つ! と頼んでいた。メニューはなにがくるかわからないけど、なんでそれを頼んだかは短い付き合いの私でもわかるようになったよ。

 座って早々、ドリンクが運ばれてくる。大ジョッキに入った……レモンのお酒? 黄色味がかかった色の液体にレモンが入って、さらにシュワシュワとしている。もしかして炭酸? 不思議に思っているとモニカさんが教えてくれた。


「これ、レモンチェッロっていうお酒です。それをこのシュワシュワする炭酸水で割ったものですね」

「このお酒もソフィアちゃんが飲んでたのかしら?」

「さすがシズクさん! ソフィア先輩がこのお店で大ジョッキを一気飲みしておいしいって言ってたんです! 私もいつも頼むのですが、ここのは自家製でとってもおいしいんです。でも、一気飲みがまだできなくて……」

「一気飲みは危ないからしなくていいと思うよ。割ってるってことは強いお酒だろうし、ソフィアさんすごい飲むし……」

「でも私、先輩に近付きたいんです!」

「近付き方が違うよ!」


 私はマイヤギルドにあったソフィアさん専用の超特大ジョッキを思い出す。ソフィアさん、あの大きさでも一気飲みしてたしなぁ……。


「とにかく乾杯しましょう。蒼ちゃんもモニカちゃんもジョッキを持つのよぅ」


 痺れを切らしたお姉ちゃんが私たちを急かしてくるので、ジョッキを持つ。


「それじゃぁ、出会いに!」

「「「かんぱーい」」」

 

 私たちはジョッキを傾ける。いただきます。私は四分の一、モニカさんは半分、お姉ちゃんはお代わりを頼んでいる。

 たしかに、レモンのさっぱりとした感じと、漬け込みに使った砂糖が溶けて、砂糖ほのかな甘さが喉を一気に通り抜けていく。それから追って来る炭酸のシュワシュワ感がなんとも言えない涼しさを体に与えてくれる。おいしい。水割りだったらごくごくと飲めちゃうな。炭酸だと、私は一気に飲むにはちょっときつい。


「えぇ! シズクさんすごいです! 一気飲みするにはどうやって飲めばいいんですか?!」

「それはね、モニカちゃん、勢いよぅ!!」

「師匠と呼ばせてください!」

「危ないから二人ともダメ! 一気飲みは禁止です」


 えぇ、蒼ちゃんそれは殺生よぅ、って言われたけど、危ないのでほんとダメです! モニカさんにも危険性を伝えておいしくゆっくり飲むように指導しました。


「代わりにソフィアさんの話してあげるから、ね?」

「わかりました! それなら我慢します!」


 それから終始ソフィアさんの話をした。ソフィアさんとモニカさんの出会いの話とか。


「その時助けてくれたソフィア先輩は、私の前に現れたエンジェルなんです……」

「でもそれ、実際はソフィアさんが上司に喧嘩売ったのが原因なんじゃ……」

「ソフィアちゃん、結構やんちゃなのねぇ」


 ……。

 ソフィアさんの昔の話とか。


「モニカさん、ソフィアさんが『姉御のソフィア』って呼ばれてたの知ってる? レベッカさんが言ってたんだけど」

「知ってますよ! 研修時代に、同期全員を妹として侍らせてたって話ですよね」

「え! ハーレムじゃない! 詳しく知りたいわぁ」


 ……。

 ソフィアさんのギルドの制服の話とか。


「アオイさんそれ詳しく!」

「見てるとギルドの標準制服と、胸元のフリル量とスカートのプリーツ数が違うんだよね」

「あぁ、ソフィア先輩のオリジナル制服のお姿、拝見したいです……」

「蒼ちゃんも、よく見てるわねぇ」


 ……。

 ソフィアさんの後輩のライラさんの話とか。


「あの子まだいたんですか、けっ」

「どうしたのモニカちゃん」

「ライラは私の同期で、私がソフィア先輩好きなの知ってて、マイヤギルドを勤務先にしたんですよ! きっと私に嫉妬したんです! ちょっと優秀だからって……ソフィア先輩と一緒! 羨ましい!」

「そんなことないと思うわぁ。ライラちゃん、実家がマイヤって言ってたし……」


 なんて話をしていたらあっという間に時間は過ぎていった。

 いつの間にやら届いた料理も食べ尽くしてしまったらしい。ごちそうさまでした。

 まだまだ話し足りないけど、お会計をしてお店を出る。モニカさんも楽しんでくれたみたいでよかった。

 

「シズクさん、アオイさん、今日はありがとうございました! ソフィア先輩のとてもいい話が聞けて嬉しかったです!」

「私も楽しかったよ。ありがとね」

「飲み足りないわぁ、また行きましょうね」


 モニカさんは居住区。私たちは宿屋さんなので中央通りでお別れだ。


「それじゃ、また明日ね」

「はい! 明日はよろしくお願いします!」

「大丈夫よぅ。蒼ちゃんは強いから」


 宿屋さんに戻って、女将さんから鍵を受け取る。カールさんの部屋を聞いて、タルトを回収する。

 タルトはご飯を食べてあとは寝ていたらしい。私たちはお礼を言って、それからあてがわれた部屋に入る。

 カールさんは、部屋にお風呂がある宿屋さんにしてくれたんだね、嬉しい。明日お礼を言おう。

 お風呂を順番に入って、それぞれ日記や訓練の日課をしてベッドに入る。

 お姉ちゃん、ベッドは別だよ!

 やっとの思いで別のベッドに放り込んで、私はベッドに入って思い出した。今度タルトに魔力制御教えてもらわないとね。

 明日はゴブリン討伐。指揮をするのは初めてだけど、がんばろう。おやすみなさい。


評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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