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94. バイゼル領って楽しい!4

 おはようございます。

 バイゼル領都の滞在を延長して今日は五日目。

 昨日からはバイゼル領主邸に滞在している。

 今日は魔物肉をゲットするための魔物の処理の仕方について、私とお姉ちゃんがバイゼル領都軍の魔術師さんにやり方を教える事になっちゃった。

 という訳で、リリムちゃんに手伝って貰って私たちは着替えなどの準備をして、領主邸の庭に行く。

 そしてほぼ同時に、バイゼル領主のクラウス様がやってくる。


「待たせたな」

「大丈夫です。私たちも今出て来たところですので」


 実はミリアと紅茶を飲む時間があったりしたくらいゆっくりしていた。

 さて、クラウス様が連れてきたのは領都軍で魔物を倒した際に浄化と血抜きをする事の多い魔術師四名。

 中級魔術、一人は上級魔術まで使えるとの事なので、一般的な領都軍の魔術師としては十分だね。

 私とお姉ちゃんは早速自己紹介をする。


「私は蒼・リインフォースです。B級冒険者です」

「姉の雫よぅ。雫もB級冒険者。じゃあ、教えるわねぇ」


 私はかばんから、タルトが以前大量に獲って来て血抜きもまだの魔物を一体取り出す。中型のアジルシープだ。

 魔術師さんたちから「アジルシープだ……」と、どよめきが走る。


「これを教材にします。捌きやすいので。ではまず、浄化です。浄化を担当するのはどなたですか?」

「はい、私です」

「じゃ、雫が教えるわねぇ。まずは普段通りに浄化してくれるかしら?」

「はい」


 聖属性魔術師さんが魔術陣を描く。魔術語は……『聖 浄化』だね。

 あれ? これってピューリファイだったっけ?

 私が悩んでいると、お姉ちゃんが口を開く。


「もう一語足せるかしら? 『純化』を足して」

「はい」


 魔術陣に『純化』の一語が足される。あ、これがピューリファイか。


 彼女が魔術を発動すると、アジルシープが浄化されていく。

 お姉ちゃんが魔力感知で、浄化の状況を確認する。


「概ね出来ているわね。ただ、内臓と血に少し瘴気が残っているわ。でも処理すれば大丈夫ね。後、完全浄化を目指すならもう少し魔力を込めてね。浄化力が変わるから」

「はい。ありがとうございます」


 私は疑問に思った事をお姉ちゃんに尋ねる。


「最初のって『ピューリファイ』?」

「『浄化』の魔術語が入っているから、その作用をするけど弱いわね。聖属性は使い手が少なくてたまに間違って教えられたりするらしい……」

「なるほどねぇ」


 じゃ、次は血抜きか。私は前に出る。


「血抜き担当は残りの三人かな?」

「そうです」

「ならとりあえずやって貰おうかな」

「「「はい!」」」


 三人が処理を始める。まず、エアカッターを使える風属性の魔術師さんが、アジルシープの身を切り裂いて内臓を処理する。

 内臓は『エアカッター』で削ぎながら。後の二人も手伝う。

 そして、内臓を取り出した魔術師さんが風属性魔術師さんに追加で指示を出す。


「頭切ってくれる?」

「あぁ」


 風属性魔術師さんが内臓の処理を中断して、先に頭を切る。

 そして内臓の処理を終えた水属性適性を持つ残りの二人が、ウォーターフロウで血を出し始める。んー……。


「『流動』の魔術語を足す事って出来ますか? それから先程と同じく全体的に魔術陣に流す魔力を増やさないと、完全に血抜き出来ないかもしれません」

「「分かりました!」」


 うん、少し良くなったかな。魔力感知すると、端の血管に残った最後の血液まで出てる感じがする。

 そして、四人が処理した結果を、お姉ちゃんと私で確認する。


「大丈夫ね。ただ、先に切っちゃった頭と、内臓はアウトねぇ。浄化は出来ていたみたいだけど、血抜きが出来ずに再度汚染されたみたいね。一方で浄化の力が集中していて、血抜きも出来ていた身はセーフよぅ」

「魔術は教えた通り、それぞれ一語足した方がいいね。魔力は消費するけども、規定量より多く込めると威力が上がるから、やる時はなるべく魔力を込めた方がいいかもしれません」

「「はい」」


 そんな感じで、ひと段落かな。そしたら、ずっと見学していたクラウス様が私たちの顔を見て聞いてくる。


「シズクとアオイがやるとどうなるんだい?」

「……あまり参考になりませんよ?」

「興味本位で見てみたい」

「蒼ちゃん」

「分かりました」


 私はかばんから、これもタルトが狩ってきてそのままのインディゴタイラントバッファローを取り出して、『フロート』で宙に浮かせる。

 

「じゃ、これを使いますね」

「タイラントバッファロー?!」


 風魔術師のお兄さんが驚きの声をあげる。ふふ、しかもインディゴだよ。

 

「お姉ちゃん、いい?」

「いつでもいいわよぅ」


 お姉ちゃんの準備も出来たし、私は『ウィンドカッター』で頭と、腹を切って、『フロート』も駆使しながら内臓を取り出す。そして同時に、お姉ちゃんが多重詠唱の『ピューリファイ』を掛けて完全浄化する。

 最後に私がこれも多重詠唱した『ウォーターフロウ』で一気に頭と内臓も含めて血抜きする。


「どう?」

「大丈夫よぅ。浄化されてる」

「出来ました。クラウス様、お土産にどうぞ」


 という一連の流れを、彼らの十分の一以下の時間で行う。


「これはすごいな……」

「「お褒めに預かり光栄です」」

「いや失礼した。我がバイゼル領も研鑽を積もうではないか」

「リエラに言わせると、属性さえあれば魔術制御だけでどうにかなるそうですよ。だから訓練は魔力制御中心ですね」


 と言った途端、魔術師の人たちが羨望の眼差しでリエラを称え出した。


「リエラ様が?!」

「リエラ様が言うなら間違いない」

「リエラ様、我々も頑張ります」

「リエラ様、マジてぇてぇ」


 なんか最後おかしいけど、リエラはどこに行っても人気だなぁ。


「さて、雫たちは帰ろうと思います」

「そうえいばミリアに聞いたが、うちにすぐ来れるようになるみたいだね」

「はい。魔術具をエントランスに置いて貰いました」

「あぁ、いつでも気兼ねなく遊びにくるといい」


 馬車をかばんにしまい、リリムちゃんと、リリムちゃんが連れて来たロッソと合流して私たちは見送りに来てくれたバイゼル家の人たちに挨拶する。


「では、大変お世話になりました」

「また来るわねぇ」

「今度またお話ししましょうね」


 それから、バイゼル夫妻も。


「また、いらしてくださいね」

「次は我が領で獲った魔物肉を食べにくるといい。家族も連れてな」


 私とお姉ちゃんは、それぞれロッソとリリムちゃんを連れて『ワープ』する。

 いつもの浮遊感。

 こうして、バイゼル領の滞在が終わったのだった。


    ◇


 ワープの浮遊感を感じて数瞬、地に足がつく感覚。そして私は目を開ける。

 

「お、帰ったの」

「アオイ様、シズク様」


 エントランスに降り立つと、おそらく何かつまみ食いに調理場へ向かっていたであろうリエラと、それについて行くマリーさんとに丁度遭遇した。

 

「リエラ」

「リエラちゃん!」

「収穫はあったかの」


 私はドヤ顔で答える。


「そりゃもう勿論」


 お姉ちゃんと私は顔を見合わせて更に続ける。


「今夜は、パーティーだよ!!」

「今夜は、パーティーよ!!」

「何?! パーティーじゃと?!」


 最後の声の主はリエラではなく、調理場の方から聞こえてきた。そして出てきたのは、なんとウォルターお義祖父様だった。


「お義祖父様?!」

「おじいちゃん!」


 私たちに向かって手を振ってくれるお義祖父様に話を聞いてみると、たまたま必要な手続きがあってリザお義祖母様と二人で領主邸にやってきてたんだって。


「騒がしいな……お、シズク、アオイ、帰っていたのか」


 次に調理場から顔を出したのはゲルハルトお義父様。

 二人とも調理場から出てきたんだけど、もしかしてみんなでつまみ食い?


「えぇ、たった今」

「それで、首尾は?」

「今夜はお腹を空かせておいてくださいね」


 私の発言を聞いた途端に、お義父様の顔が綻んでいる。まずはその手のパンをしまいなさい!


「まぁ、シズクちゃん、アオイちゃん、今夜はパーティーですって?」

「私もお呼ばれしていいかしら?」


 次にパーラーからやって来たであろう二人はお義母様とお義祖母様だ。


「ママ! おばあちゃん! 勿論よ!」

「みなさま。お茶を用意しましたので、食堂でお話しされてはいかがでしょうか?」


 ジョセフさんの圧倒的執事力により、一同頷いて食堂へと移動する。

 あれ、そういえば一人足りない。


「ジョセフさん。お義兄様は?」

「ハインリヒ様は領都巡回に行っています。そろそろお戻りになられる頃かと」

「なるほど」


 お義兄様は毎日のように領都を見て回っているらしい。偉いよねぇ。それに比べてうちの姉ズは……。ってそうだ。

 

「お姉ちゃん、私は調理場に行くから」

「分かったわ」


 みんなが食堂に入っていくのを見送って、私だけ調理場に入る。


「おかえりなさいませ。アオイ様」


 ビルさんとトムさんに迎えられて、私は早速ストレージから魚を取り出す。


「という訳で、バイゼル領から魚を仕入れてきたよ! メインディッシュは魔魚! 魚は焼き魚、お刺身、カルパッチョ大体なんでも出来る感じで揃ってるよ!」

「オサシミ? とはなんですか?」

「私たちの故郷では、生で食べる習慣があるのです」

「そうですか、ちょっと怖いですが食べてみたいですね」

「この鮮度なら出来るよ。ストレージ通してるから毒も寄生虫も取れてるし、ちょっと出してみようか」


 私は一尾、鯛を取り出して『フロート』と『ウィンドカッター』を駆使して捌く。ビルさんが用意してくれたお皿に盛り付け、小皿に醤油を出す。


「お好みで醤油をつけて食べてみて」


 ビルさんは恐る恐るそのまま。トムさんは恐る恐る醤油をつけて……さて、どうかな。


「生魚とはこんなにうまいものなんですねぇ」

「ビル! すげえぞ! ショウユつけてみろ!」


 トムさんに言われて、ビルさんが醤油をつけて食べる。


「なんだこれは……」

「「料理の革命だ!!」」

「捌いただけなんだけどね」


 私は何尾もの魚をストレージから取り出して、足りなかったら取りに来てと言いつけて、後は丸投げしてきた。レイザーヘッドテューナだけは、柵で取り出して部位の説明をしておいた。

 そんな訳で、私も食堂に向かう。丁度帰ってきたお義兄様とドロシーさんと一緒に食堂に入って、土産話に花を咲かせるのだった。


    ◇


「いやー、おいしかったし、感動したよね! 海鮮丼」

「本当に、毎日食べたいくらいだわぁ」

「魔魚はヅケにして正解だったね。余計な脂が落ちてた」

「えぇ。後! 旬とか分からないけど、雫は鯛がとてもおいしかったわねぇ」

「明日も食べられるよ。冷蔵してきたから熟成が進むと思う」

「だからビルさんに渡してたのねぇ」

「うん」


 今は海鮮パーティーをして、諸々済ませて部屋にくつろいでいる所。

 お姉ちゃんと今日の出来事を話す。


「それじゃ明日も楽しみね。おやすみ、蒼ちゃん」

「うん、おやすみ、お姉ちゃん」


 みんなが生食に慣れてきたら、手巻き寿司もいいなとか考えながら私はシーツをかぶる。


 ……。


 ……。


 ……。


 眠れない……。


 ……。


 ……。


 ……。


 お姉ちゃんは……。すぴすぴと寝てる。


「むにゃ……蒼ちゃん、食べたい」

「いや食べたいのは海鮮丼だよね?!」


 おっと、うっかり寝言に突っ込んでしまった。

 私は今度こそ眠ろうと、シーツを口元までかぶりかけるが、その時部屋が金色に光り出す。


「この光は……」


 あれだ……。


 あの生意気な、ウサギだ!!


 キラキラとした光がベッドの足元に集まり、ウサギを形どっていく。

 そして赤と黒のベストを着た金色に光るウサギが現れ、私を見て右手を気さくにあげる。しかし表情はあの世界的なウサギと同じく変わってない。


『アイスニードル』


 私は、多重詠唱、並列詠唱、詠唱破棄を全力で使って、アイスニードルの針先がウサギから十数センチくらいの距離になるように幾重にもアイスニードルを発動させる。

 一瞬の事で驚くウサギ、しかし、身動きは取れない。


「蒼ちゃん!!」


 私の魔力流動に気付いたのか、お姉ちゃんも飛び起きる。

 そして私とウサギを見て、すぐにお姉ちゃんが口を開く。


『セイントボール』


 私がよく使っている属性ボールの聖属性版だ。ちなみに上位属性のため、初級ではなく中級魔術。

 これが、私が出したアイスニードルの隙間に無数に現れる。


「お、おちつけ……カワイイウサチャンダヨ」


 神様の声でそう言いながらウサギは、必死に僅かな可動域を使って、両手を左右にバタバタと振る。

 その仕草にイラっとしたので、私はアイスニードルを一本動かす。

 しかし、ウサギに針先が触れようかという瞬間に、アイスニードルが消失した。

 ウサギの背後から飛ばしたお姉ちゃんのセイントボールも消失したみたい。

 そして、ウサギがあの憎い神様の声で話し出す。


「何をそんなに怒っている」

「あれ、どう言う事?」

「あれ、とは?」

「魔族の事よぅ」

「こっちは死にかけたんだから!」

「とにかく落ち着け、話をしに来ただけだ」

「どうせまた魔族が来るとかそう言うのでしょ」

「そうだ」

「……蒼ちゃん、一旦落ち着きましょう。雫たちに被害を与えるつもりは無さそうだし、雫も消すわ」


 そう言ってお姉ちゃんがセイントボールをキャンセルする。

 私も一度深呼吸して、それからため息を吐いてアイスニードルをキャンセルする。


「助かる。ウサギが怯えすぎると支障が出るのでな」

「それで、今日は何の用?」


 私は物凄くトゲトゲした声で神様に尋ねる。


「おぬしら神に厳しすぎないか?」

「日頃の行いよぅ」


 ウサギがコテンと倒れたように仰向けになってポーズを作り、それから土下座する。土下座を、知っているだって……!


「まぁ顕現出来る時間も限られている。早速説明する。話した通りこの国に魔族が攻めてくる」

「攻めてきた、の間違いでしょ」

「本侵攻はこの後だ。もし戦うのなら、ぬしらはそれまでに強くなる必要がある。さもなければ、死ぬ」

「「……」」

「何で教えてくれるの?」

「転移させた責任もあるからな」

「ふーん」

「それで? 雫たちに魔族侵攻で何か話があるんでしょう?」

「あぁ、それが本題だ。もし戦うのなら、一つ頼みがある」

「頼み?」

「神様のお願いなんて、怖いわねぇ」

「大した事ではない。出来たら、アザリアを止めてくれ」


 その名前にドキリとする。アザリア、全く動けなかった、あの魔族だ。


「大した事すぎる……。後、どうしてアザリアだけ名指しなの?」

「それは説明出来ない」


 キッと私が睨むと、ウサギは焦りながら両手でバッテンを作り、口を塞ぐ。

 くっそ、今日もあざとかわいいな。


「強くなるための方法……」


 お姉ちゃんが呟く。


「あるいはスキルを教えてちょうだい。神様、頼み事をするのなら対価が必要よ。それは分かるでしょう?」

「うむ」

「神様なんだからばばんと! 絶対負けない、死なない、強いスキルをくれればいいのよ」

「アザリアに対しては、そんなスキルはない。だからぬしらが強くなる情報を渡す。それから少しだけ加護を強めておこう」

「まぁ、それで良いでしょう。蒼ちゃんも良いわよね?」

「お姉ちゃんが問題ないなら大丈夫だよ」

「意見はまとまったか?」


 するとウサギが手を高速に擦り合わせ、大きく広げてジャンプする。


「この国の図書館を探せ。ぬしらの姉が詳しいはずだ」

「へ? 図書館?」

「リエラちゃんが何か知っているのかしら」

「では、伝えたぞ」


 そういうと、ウサギに金色の光が集まり、くるくるとターンしながら消えていった。


「あぁもう! 本当にむかつく! あざとかわいいのが余計に!」

「まぁまぁ、蒼ちゃん。雫たちもちょっと伸び悩んでいたし、あれでも一応神様だから、きっと有益な情報よぅ」

「……そうだね、明日リエラに聞いてみよう」

「えぇ、寝れなかったんでしょう? 雫が一緒に寝てあげる!」

「……お願い」


 こうして、いつもながら奇妙なウサギとの邂逅は、苛立ちとモヤモヤとちょっと良い情報を残して終わるのだった。

こんばんは


海鮮丼が食べたいです。

家ではよくヅケ丼を作ります。


楽しんでいただければ幸いです。



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