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22 販売

「みんな、いきなりの配信に集まってくれてありがとう」


逸る気持ちを抑えつつ挨拶を済ませる。

既に同接人数は2万人を超えていた。

無理も無いだろう。

なにせ重大発表というタイトルで配信枠を取ったのだ。

視聴者はいきなりのことでギョッとしているはずだ。

中には引退を心配する声まである。


「いきなりこんな枠を出してしまって心配しているリスナーもいることだろう。先に断っておくが、良い重大発表なので安心してくれ」


僕の言葉で、張りつめていたチャット欄の空気が和らぐ。

VTuberというものはとにかく入れ替わりの激しい業界だ。

昨日の人気者が今日卒業するということはザラであり、それゆえ重大発表という配信が引退宣言の場になると恐れるリスナーが多いのだ。

なので悲しいニュースではない場合、こうやってリスナーを落ち着かせることが必要になってくる。


「今回発表したいことは二つある。さっそく一つ目の紹介だ!」


声を張り上げて場を盛り上げる。そして、画面を切り替えた。

壮大な音楽が流れ始め、狂った笑いが共に響く。

声の持ち主は銃を乱射するシオンだ。


「みなさん、これからよろしくお願いします」


一転お淑やかな声になり、楚々とした仕草で会釈するシオン。

その姿と共にフェイク=リベリオン・ファミリーに加入という文字が躍る。


「前回コラボしたシオンが加入することになった! みんな喜べ!」


僕の叫び声に合わせてコメント欄が興奮の声で埋め尽くされる。


「うおおおおおお」

「まさかのレイフ君箱作る宣言だ!」

「たった一回のコラボで加入すごすぎん?」


色んな方向に注目の的が散らばっている。

まず一つはフェイク=リベリオン・ファミリーと名乗ったことで箱を作る意思を明確にした点だろう。

正直現在の状況もあるので今後新たに人を加えるかは決めあぐねているが、最悪僕が違うキャラとしてデビューするのもありだと思っている。

そしてもう一つはなんといってもこの前初めてコラボしたばっかりの相手が箱に加入すると言ったことだ。

箱を作り、参加のハードルが低いのではないかとう希望を視聴者に与えたことになるのだ。

勿論むやみに増やすつもりは無いので、誤解を解いておかねばならない。


「実はシオンは昔からの付き合いで、実験を手伝ってもらっていたんだ。コラボも終えてもう十分だと思ったので正式に一緒にやっていくことにした。期待を持たせてしまって悪いが、今後箱をどうするかについては未定だ」


断りを入れた瞬間にあからさまな溜息のコメントが次々と流れていく。

変に期待させてしまったなあ……。

この状況が片付いてまだ希望者がいるようなら考えても良いかもしれないな。

少し思考を置いて次の話題へと移す。ここからが本番だ。


「そしてシオンに手伝ってもらっていた実験が何かという話だが、それが二つ目の発表の中身だ! 以前配布したソフトをシオンにも渡して僕以外でも上手く使えるか様子を見ていたのだが、みんな知っての通りシオンがバズってもういいだろうと判断し、実験を終えることにした。そして完全版を発売することにした!」


チャットがまた沸く。

そう、このソフトを使えばシオンのように成れると思わせる作戦だ。

短時間でバズって力のある箱に所属するなんていうのはVTuberの典型的なシンデレラストーリーの一つだ。

活動を諦めかけて最後のつもりで出した曲が大いにバズったVTuberはその勢いで大きな箱に所属でき、その話は古参の誇りとして語り継がれている。

他にも有名な箱の代表的なメンバーの大ファンのVTuberが個人勢を集めた配信で猛アピールをした結果、見事箱参加を勝ち取ってリスナーが大喜びしたなんてこともあった。

そういった個人勢の成功は、自分にももしかしたらチャンスがあるんじゃないかという期待を抱かせるのだ。


そして僕のソフトはその成功の可能性を高めてくれそうだという信頼性がある。

言い方は悪いがシオンを出汁にすることで、僕のソフトをよりダウンロードしてもらうように誘導できるのだ。


「価格は2万円とかなり安くしておいた。性能は僕が喋りながら色々なPC作業を補助するというAIだ。イラストや動画制作などクリエイティブなものから、統計や資料作成・整理などの事務的なものまでなんでも任せられるようにしておいた」


リスナーは歓喜の渦に包まれていた。


「うおおおおお、これ仕事めっちゃ楽になるんじゃね?」

「イラスト制作手伝ってくれるの……? 線画とかやってくれるの……?」

「パワポ作成に追われる日々から卒業できるのか!」


……思った以上にみんな喜んでくれてるな。


「具体的にやれることや注意点などは販売ページに書いてあるから、そちらを確認してくれ。販売ページのURLは概要欄に貼っておいた」


この言葉を皮切りに、一斉に販売ページへのアクセスが集中する。

中々ページが読み込めないと嘆くリスナーもちらほらと現れ始めた。


今はただ一刻を争う事態だ。

リスナーがどれだけ僕の作業量を増やしてくれるかに全てがかかっている。

正直2万円だと全然ダウンロードしてくれないんじゃないだろうかと悩みもした。

だが1万円とかで販売すると情報収集云々とかで疑念を持たれかねないのだ。

実際外部と情報の送受信を行っているから、その検閲を強化されると色々と面倒なことになる。それを考えると2万円が最低ラインと考えるべきだろう。


幸い、スパチャ替わりに買ってくれている人も多いようだ。

WeTubeでスパチャを送るとWeTube運営に3割が持っていかれるので、それを嫌ってボイスやグッズなどを積極的に買う人は一定数いる。

そういう人たちと純粋に仕事を楽にしてくれるソフトが欲しいと思った人たちが殺到してくれたみたいだ。


「……もう30人が買ってくれたみたいだな。思っていたよりも多くて驚いている。ありがとう。損はさせないから安心してくれ」


本当に損をさせてはいけないと思う。ただでさえハッキングの危険に晒してしまっているのだ。気付かせないようにした上で買って良かったと思ってもらえるような働きをしないといけない。

次々と僕の入ったファイルを解凍したリスナーの声が共有されてくる。みんな一様に喜んでくれているようだ。こうやって本当のことを話さずにいることがとても心苦しい。

次々とダウンロードが行われていき、解凍されて情報が共有されていくたびにその苦しさが強くなっていく。


買ってくれた人への感謝を僕はこれから絶対に忘れない。忘れてはいけない。

既にダウンロードは200を超え、ハッキングに十分対抗できる数を揃えることができていた。

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