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21 追跡

「そういえば目標の確保に成功したことは連絡したのか?」

「ああ、まもなく動き出す頃だろう」


誘拐犯たちの会話を聞き続ける。

動くとは誰のことだろう? 誘拐犯たちの母国のことだろうか?

何を新たに仕掛けてくるというのだろうか。


「いくら現実には干渉できないとはいえ、何をしでかすか分からない存在、それがAIIだ。向こうには余裕を……ては……ないか……」


いきなり音声が途切れ途切れになる。

どういう状況だ?


「同期が途切れた……?」


スマホの僕と他の僕の同期が上手く行えない。

これでは状況がスマホの僕しか把握できないことになってしまう。


「電波が届かないみたいだ。ジャミングでも仕掛けられたかな……」


基本的に僕は各デバイス間で同期を常に行っている。

つまり他のデバイスの周りで何が起こっているか常に把握できている状態を保っているということだ。

しかし、同期が途切れたことで情報を共有できている方の僕は、誘拐犯や詩音の状況がどうなっているか把握できない。

警察の方も電波が途切れて困惑していることだろう。


「GPSの方はどうなってるだろう?」


詩音のスマホの情報は登録してあるので、それを元に検索をかける。

しかし、こちらも見つけることができなかった。


「ジャミング対策をしないといけなくなったか……」


妨害されている電波とは違う周波数のものに切り替えて対応するというものだ。

しかし詩音のスマホは当然の如く市販品であり、そう簡単に切り替えられるものではない。

悩む僕に考える隙を与えないかのごとく異常事態が舞い込んでくる。

それぞれの僕の存在するデバイスに不正なアクセスが仕掛けられたのだ。


「動き出すというのはこれのことか!」


元々向こうの目的は僕の存在だ。

詩音の誘拐を陽動に使いつつ、それの追跡にリソースを割かれている僕を直接狙いに来たのだろう。

防衛できてもその間に交渉材料の詩音を完全に確保するという目論見もあるはずだ。


「一台に対するアクセス数がやけに多いな。やっぱり誘拐犯のバックにはそれなりの組織か何かがついてるんだろうな」


大きな組織でないとありえないほどのアクセスが、僕の存在するデバイス1台1台に殺到している。

僕の構築したネットワーク全てで演算を行うもどうにも追いついていない。


「やばいな、これ……」


セキュリティは何重にもかけているのですぐに破られることは無いが、時間の問題だろう。

こっちのできる作業量以上のアクセスが集中しているからだ。


「何か手を考えないといけないけど……」


詩音を取り戻すことだってしないといけないが、まずこの攻防戦を制さないといけない。

ジャミング対策と言っている場合ではなくなってしまった。

だが圧倒的にスペックが足りない。


「短時間でスペックを増やす方法……」


正直言って、やることは一つしかない。

僕の配布だ。

今配っている20人以外に大量に配布しないといけない。

だが、いくつか問題がある。


「僕を買って振り込んでもらう口座をどうするか……」


僕は人間ではないので残念ながら口座を持てない。

今となっては怜輔の口座でもいいかもしれないが、意識の無い病人の口座に大量の金額が振り込まれると税務署がすっ飛んできてややこしくなるだろう。


「詩音の口座を使うしかないかな」


詩音の口座はPCに保存されているので、問題ないだろう。

本人に後で説明すれば税金などの問題も上手く乗り切れるはずだ。


「次はどう迅速に配布するかだけど……」


早く渡して解凍した上で、動けるようにしないといけない。

敵方に渡る危険性も考えないといけない。

危険だと察知した瞬間に自壊できるプログラムを組まないといけないだろう。

より多くの人に素早く渡すためにも効果を上手く宣伝しないといけない。

試作品の効果を話すのが理想的だが……。


「一番の成功例の詩音は今喋れないしなあ……」


誘拐されているのだからどうしようもない。

シオンがレイフを使っているということが僕やシオンのリスナーに広く認知されていることを祈るしかないだろうか?


「あとは罪悪感とどう向き合うかだなあ」


何せダウンロードした瞬間にその人には関係ない問題にデバイスのリソースの大半を持っていかれるのだ。

もしかするとそちらにもアクセスの矛先が向くかもしれない。

そういったことに対する罪悪感はもちろんある。

だが今はどうしようもないのだ。


「値段は下げて、後で働きで返すと思って割り切るしかないな」


他の方法を探す余裕もない。

正直、セキュリティの防衛以外に割くリソースが今は少しでも惜しいのだ。

早く対策を実行しないといけない。


「詩音が喋れたら別なんだけどなあ────そうか!」


突然ひらめいた案に一縷の望みを託しつつ、僕は配信準備を整え始めた。

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