7話
手紙の内容の重要なところだけ抜き出すならば、それはようするに『結婚に伴って相手に月光を紹介したい』ということだった。
初代大王の御代から始まったこの『結婚』という風習は、初代大王の故郷たる世界でそうしていた通り、指輪を贈り合ったり、式を行ったり、互いの両親にあいさつをしたりなどのイベントが挟まる。
だが両親のいない子もだいぶ多い。
冒険孤児といった名称が一般化するぐらいには『冒険者のあいだに生まれ、なんらかの事情で両親を失い、ギルドで育てられる』などした子も多かった。
アレクシアの相手もまたそんな冒険孤児らしい。
ギルドとそこに集まる冒険者を親として過ごした冒険孤児は、しかし、『実の母親』というものに対し興味があるようだった。
また、アレクシアの冒険者にはあまり見られない人柄や立ち振る舞いから、アレクシアを育てた人物への好奇心もあったのだろう。
どちらかと言えば先方が熱心に月光への対面を望んでいるようだった。
「うーむ……」
もう長いこと隠れ家としている、港町を少し外れたところに隠すように立てられた小屋の中で、月光はうなるしかなかった。
月光は歳をとらない。
月光はしっぽがたくさんある。
月光は獣人だ。
アレクシアは人間だ。
絶対にどういうことか聞かれる。
まあ、相手が人間、あるいは魔族であれば、獣人の子に人間が生まれることはある。
まあ、まあ、別に、アレクシアの相手は、事情があったってかまうような、育ちのいいお坊ちゃんではなかろうが……
実は。
月光は、アレクシアが捨て子だったことを告げてない。
これが本当に『さっさと言えば……』という話でしかないのだけれど、言うタイミングを逸してしまっていて、言えなかったのだった。
月光には嘘がつけないところがあるので、アレクシアの出生について聞かれれば、それはもちろん、言ってしまうだろう。
その時にアレクシアに血のつながりがないのがバレるのはイヤだった。
気にしない感じもするが、イヤだったのだ。
断ろうと思った。
月光は理由を捻出するのが得意だった。言い訳が得意とも言う。
口八丁なら右に出る者がいないというのは、あらゆる能力と才覚に恵まれなかった月光が、唯一他人に誇れるところでもあった。
つかみどころのない会話をのらりくらりとするうちに、なんとなく自分の要求が通る雰囲気にしてしまうという独特の会話術。
これは月光の性格に基づいたものであり、他人に受け継がせられるようなものでもなかった。きっとこれからも継承者は一人も現れないことだろう。
そんなわけで手紙の文言を考えていると、隠れ家のドアがノックされた。
行商人だろうか。
彼らは一定の周期で来て、そしてその周期はまだ少し先のはずだった。
とはいえ仕入れた商品や商機などによってその足が遅れることも、また、早まることもある。
強盗などだったらノックはしないだろうし、月光は仮に山賊や強盗に襲われても『死んで遠くの死体に憑依して復活すればいい』という自己防衛の手段もあった。
だから特に警戒心もなく、「入れ」と大きめな声で告げる。
月光の数多い悪癖の一つ。油断である。
そこにいたのは――
「ただいま、お母さん」
――居所を教えていないはずの、娘アレクシアの姿であった。




