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エピローグ〜戦いの果てに〜


__________特別化学適応戦闘班、通称『特化班』が、日本を奪還して約三日が経過していた。


国民は、約十六年ぶりの日本の再統一に歓喜し、連日のように戦勝記念イベントやらパレードやらで勝利の余韻に浸っていた。


日本奪還にさいし、これまでたかが「いち戦力」としてしか見られていなかった特化班の地位は急激に向上し、人々は彼らに対し、惜しみない賞賛と敬意を送っていた。


勝利の宴が終わる日は、少し先のことになりそうだ。


そんな祝賀ムードの国民とは対照的に、特別防衛庁の本部、東京スカイツリーは静寂に包まれていた。死者こそ出なかったものの、アンノーンとの激戦で、特化班の大半は入院を余儀なくされていた。無論、超高等アンノーンにトドメを刺した正希も例外ではない。


東京都は渋谷区。特化班第一部隊専属病院の個室に、正希はいた。白一色のベット。美しい花々が刺されている花瓶。窓から望む青空は、正希に落ち着きと安心感を与えていた。


__________コンコンコン。


三回のノック音が病室へと響き渡る。正希が「どうぞ」と返答すると、個室のドアがズズズと小さな音を立てて開いた。そこには、一人の少女が立っていた。


美しい金髪を靡かせる少女は、病室のドアを閉め、正希の元へと近寄ってきた。正希のベットの端にちょこんと座ると、白髪の少年に向かってにっこりと微笑んだ。彼女もまた、正希と同じく真白な病衣を身を纏っていた。


「こんにちわ、千歳。怪我の具合はどう?」

「うん。快調よ。ちゃんと医療班の治療も受けたから………お腹の傷は残っちゃったけど、ちゃんと塞がった。それよりあなたの方こそどうなのよ?アンノーンを倒した後、そのまま意識を失ってたじゃない。死にかけだって、医療班の皆が言ってたから………。それに、面会許可も今日やっと出たし…………だから、その……」


千歳はもじもじとしながら、顔を真っ赤に紅潮させて口を紡いだ。正希は小さく口元を緩める。


「心配してくれたの?」

「ばっ!ちっ、違うもん!!別に心配してきたわけじゃないし!!暇だからきただけだもん!!」

「心配してきてくれたんだ。ありがとね、千歳」

「だからちがっ!!……うう〜……」


千歳は真っ赤に染まった顔を隠すように俯いた。そんな彼女が愛らしくなったのか、正希は無意識にその頭を撫でていた。絹のように艶やかな金髪が、正希の指に絡んでいく。


「何撫でてるのよ!もうっ!!バカっ!!」

「あっ……ごめん………」


正希は慌てて手を千歳の頭から離す。しかし、実のところ、満更でも無かった千歳は、手を離されたことに、ムスッとした表情の抗議を返す。


「ごめん………そんなに嫌だった?」

「ち、ちがう……その、離したことにムスッとしたの!」

「え?…………髪触って欲しいの?」

「ち、ちがう!ばか!!」


短時間に二回も「ばか」と罵られた正希は、分かりやすく落ち込むそぶりを見せた。千歳は落ち込む正希に「ちがうからっ!」と言葉を返し、わちゃわちゃと慌てて手を振った。


「………………だから、その。ほら、アンノーンと戦う前、言ったでしょ?話があるって。だから、それをしに来たの……」

「そうだったね……まあ、僕もあるけど……その…………お先にどうぞ」


ポリポリと頬を掻き、気恥ずかしさを紛らわせる正希に、千歳は「意気地なし!」とばかりにカッと睨みを送る。しかし、話の内容を何度も何度も復唱しているうちに、その顔は徐々に赤みを増していく。


「その……私の話ってのは………その………だからっ!!」


必死に次の言葉を出そうと千歳はもがく。気恥ずかしさに負けそうになりながら、しかし、ここで言わなくては一生後悔するとの思いから、次の言葉を一生懸命に絞り出す。


「私っ、その………私ねっ!あなたのことが_________っ!!_」


そう言いかけた時、千歳の唇は正希の人差し指によって塞がれた。つまり、「それ以上は言わなくていい」との正希の暗示だった。千歳は必死に絞り出したその言葉を、ゴクリと飲み込んだ。


「ねえ、千歳」

「な、何よ………早く言いなさいよ……」


数秒間の沈黙が流れる。正希はゆっくりと口を開き、続けた。


「千歳………僕をかばってくれた時にできた傷、残っちゃったって言ったよね?」

「…………?だから、何なのよ………」


正希は再び沈黙し、次の言葉を探した。思いを伝えるのが下手くそな彼なりに、一生懸命に考え込んでいるのだ。


「その……………なんていうか、ごめん。……お嫁にいけなくなっちゃったかもしれないね……」

「は?………あなた何言ってるの?女の子にそんなこと言って、どういうつもりなの?」


やや、千歳の言葉のトーンが荒れた。正希の言葉は、二人に降り立った甘い雰囲気を損ねたと言っても過言ではない。千歳が不機嫌になるのも無理はない。


「その………ごめん。言葉下手くそで。だから、その………もう、僕のところ以外にお嫁にいけなく…………なっちゃった………ね………と…………」


「____________っ!!!」


冷めかけた顔が一転し、この上ない程に、一瞬にして赤く染く染まった。


「__________ばか!!下手くそ!!ちゃんと言いなさいよ!!」


目頭を熱く、頬を朱に染めながらも、千歳はムスッとした表情を作り、そう言った。


「これでも頑張ったんだよ?………今でもすっごく恥ずかしいし………」

「ばか!ばか!!ばか!!!ばか!!!!下手くそ!!!ちゃんと言わないとわかんな______」

「好き」

「____________っ!!」


正希ははっきりとそう言うと、千歳の体を抱きしめて、彼女の桜色の唇に、自分の唇を重ねた。


「________________!!!」


二人の接吻は、数十秒と長く続いた。病室に聞こえる音は、二人の吐息のみである。長い長い接吻の後、正希はにっこりと微笑んだ。千歳もそれに返すようににっこりと微笑み返す。そして、もじもじとしながらに、ボソリと言う。


「………………んで、好きだから、なに?その…………どうしたいの?」

「え………まだ言わせる気なの!?」

「………………言って」

「う………………そ、その……仲間としてとか、じゃなく………その……………」


頑張って言葉を絞り出そうとする正希も、それを言わせようとした千歳も、恥ずかしさのあまり蒸発しそうな気分だった。正希は再び間を置いて、今度ははっきりと、しっかりとした口調で____


「付き合ってください」


そう言って、右手を前に差し出した。


「______________っ!!」


千歳はその手を強く握り、返答した。そして湧き出る涙をどうにか堪えると、ゆっくりと目を閉じ、正希に顔を近づけて____


「へ?ちと________っ!!」


数秒のキスをお見舞いし、ベットからおもむろに立ち上がった。


「あなたの怪我が治って、休暇もらったら……その………覚悟しなさい!!いろいろ連れ回しちゃうんだからねっ!!!は、恥ずかしいからもう自分の病室に帰るから、ま、またねっ!!」


そう言って、今度は「してやったり」とばかりにニカッと無邪気に微笑むと、手を振って、千歳は病室を走り去っていった。


「……………………してやられちゃったなぁ」


正希はポツリと呟いて、窓から覗く青空をぼんやりと眺めていた。


(第一部、完)


第一部完結です!

良ければ感想等聞かせていただけたら幸いです。作者が受験生のため、第二部更新はひと月ほど空きますが、ご了承ください。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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