第二十一夜 高い塀の家 ⇆ 遊園血12
光るナイフは何も語らない。
ただ操られるままに刃に触れたものを切り取るだけ。
菖蒲の手を、関節の柔らかな軟骨を、骨と骨を繋ぐ腱を、切り開くだけ。
菖蒲がひゅ……と小さく息を吸い込むと、蒼馬の目がかっと見開かれた。
同時に、菖蒲の手から力が抜ける。
カップの外側に向けてかかった重力が消える。
「言っただろ……今日はこれ以上虐めるなと……」
声の方に目をやると、切り刻まれた一真が口から血を幾筋も流しながらこちらを、蒼馬を睨んでいた。
「か、一真さん……」
胸の傷は黒い皮の帯で幾重にも巻かれていた。
カップの中央で回っていた刃もまた、黒皮の帯を巻き込んでギチギチと鈍い軋みを上げている。
菖蒲が気づくと、それと同じ素材でできた皮の帯が自身と安藤茉莉亜をもカップの摘みに縛り付けていた。
音楽が止み、奇妙な静けさが遊具を包む。
身体を覆う拘束が音を立てて外れると、一真は「ぷっ……」と血を地面に吐き捨て口を開いた。
「悪趣味なだけのつまんねえゲームだったが、俺たちの勝ちでいいんだろう? そろそろ姿を現したらどうだ? 餓鬼相手にしか勃たない不能野郎が」
「あははは。よく回る舌だね? まずはそれから切り取るべきだったかな?」
スピーカーから声がした。
「やってみろよ? お前に出来るのか?」
一真がそう言ってのけると、スピーカー越しに歯ぎしりが聞こえた気がした。
しかし声の主は気を取り直したのか、余裕に満ちた声でこう告げる。
「いいよ。君たちがここまで辿り着けたら、その舌を直々に切り取ってあげよう。茉莉亜! 案内してあげなさい」
少女は顔色一つ変えずに「はい」とだけ答え、予想外の結末に、子どもたちはどうしていいの分からないといった様子で、不安げに成り行きを見守っている。
菖蒲はそんな子どもたちの方を向いて口を開いた。
「もう、従わなくていいんだよ? 怖い人はいなくなったから」
先ほど倒した係員の男を指さして言うと、子どもたちはスピーカーと一真を交互に見てから、その場に座り込んで動かなくなった。
「どうしたの? 逃げていいんだよ?」
菖蒲が言うと蒼馬が微笑みながら言う。
「ヒツジさん。それは無理だよ。この子たちの一番の脅威はまだ生きてるんだから」
蒼馬の細くしなやかな指は上を向き、スピーカーを指し示していた。
菖蒲はスピーカーを見つめて言う。
「一真さん……教えてください。安藤さんをどうするんですか……?」
一真は静かに目を伏せると感情の読み取れない無機質な声でこう答えた。
「殺す。って言えば、あんたは反対するんだろう?」
その言葉は血の臭いがする風にさらわれ、答えを得ぬままどこかに消えてしまった。
安藤茉莉亜が菖蒲の手を握って歩き出す。
しっかりと絡めたその指から伝わってくるものの正体を、菖蒲は掴み切ることが出来なかった。




