第二十夜 高い塀の家 ⇆ 遊園血11
え……?
聞き返そうとしたその時、ガコン……と機械の駆動部が動く振動が伝わった。
嘘臭い明るさを全開に振りまくメロディーがけたたましく狂気を煽り立てる。
その時だった。
強烈な悪寒が全身を駆け抜け、菖蒲は一真の方を振り返る。
「一真さん……‼」
思わず悲鳴にも声が出た。
一真はチラ……とこちらを見ただけで、すぐに無表情のまま体を締め付ける鉄の拘束具に視線を落とした。
ガッチリと身体に、四肢に食い込む鉄のベルト。
クルクルと回るコーヒーカップの動きに合わせて首を振って、菖蒲は一真の行方を追った。
そして息を呑み、血の気が引く。
コーヒーカップの真ん中にあるハンドルが見えてしまったから。
それは血で汚れたプロペラのような刃だった。
上下に何段も重ねられた刃が、残酷な音を立てて回転し始める。
「はっ……いい趣味してるぜ……」
一真が小さく吐いた言葉が、喧騒に混じってすれ違いざまの菖蒲の耳に届く。
ぶじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅっ……‼
一真の方に振り返った菖蒲の頬に鮮血が飛んだ。
世界が赤く染まる。
歓声が上がる。
「さあ~! もっともぉ~っと早くしちゃうよ? 振り落とされないように気を付けてぇ~! あ⁉ でもおマヌケさんはシートベルトがあるから落ちないね⁉ あはは~?」
白々しい……何も可笑しくない……
それなのに、子どもたちは割れんばかりの声を上げてアナウンスに迎合する。
じっと声を噛み殺していた一真の口元が歪んだ。
ごふっ……と血を吐いたのを皮切りに、苦悶の声が漏れ始める。
悪趣味な刃は僅かずつ、傷を傷で上書きするように、深紅の刺青を重ねていくように、何度も何度も細かく傷を掻きむしっていく。
やがて痛みに耐えかねた一真の口から絶叫が響き始めた。
獣のような咆哮ならまだいい。
恥も外聞もなく、まるで押せば鳴る玩具の様に、無様で生々しい悲鳴と絶叫が涎と涙と血を撒き散らしながら赤錆びの空を濃く染め上げていく。
「あははははぁ~。醜くて惨めで、情けなくて僕は興奮を抑えきれないよ⁉ ああ……タマラナイねええ⁉でもぉ……」
ゲラゲラと嗤う子どもたちの声が最後の言葉でピタリと止まる。
子どもたちは怯えた顔で固まり、次のアナウンスを待っていた。
『不幸がおいでになります♪』
頭の中で声がする。
気が付くと子どもたちはじっとこちらを睨んでいる。
「興奮してお仕置きしたくなっちゃったなぁ~? 誰か立候補してくれるおマヌケさんはいないかなぁ? それとも賢い皆は、生贄を捧げるのかなぁ~?」
「さくりふぁいすさくりふぁいすさくりふぁいすさくりふぁいすさくりふぁいす」
子どもたちが声を揃えて叫ぶ。
すると安藤茉莉亜がニタァと笑って、菖蒲の腕にしがみついた。
「ぐるぐるぐるぐる~回転スピードアーップ……!」
アナウンスと同時に、先ほどまでとは比べ物にならない遠心力が体を襲う。
カップの摘みにしがみつくので精一杯なほどの回転に菖蒲は思わず悲鳴を上げた。
「お姉ちゃんすごーい! じゃあ、これは?」
嫌な予感しかしない。
そしてそういう予感は的中するものだ。
「ダメ……!」
そう叫ぶより早く、安藤茉莉亜は摘みから足を外し、菖蒲の重りとして腕にぶら下がった。
「きゃははははははっはははっはははは……!!」
狂気の哄笑が響き渡り、菖蒲をカップから引きはがさんと遠心力が牙を剥く。
「どうする? 殺すかい?」
ずっと黙っていた蒼馬が優雅に口を開いた。
「だ、ダメ……そんなことしたら……約束を守れなくなっちゃう……」
必死に耐えながら言う菖蒲を蒼馬は観察する。
やがて何かを見極めたような顔で笑みを浮かべると、ナイフを取り出しその刃を菖蒲の手に当てた。
「じゃあ、ヒツジさんの手を切れば、この子を殺さず君も自分を誇れるよね?」
どくん……
血の流れる感触が菖蒲の全身に響きわたった。




