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18:のんびりライフ?

「さて……いったいどうなるか」


 俺はポーションをぶちまけた地面を見て、小さく呟く。

 本の通りであるならば、魔王が育ち、誕生するはずだ。逆にあの本がまったくの嘘であれば、単に実が育ち切るだけだろう。


 立ち上がったゴブリンが俺の下へ来て、一緒に地面を見下ろした。


『……自分は、どうしても魔王様にお会いしたかったです』


 だから、薬草が大量に必要だった。


「でもさ、一言相談くらいしてくれてもよかっただろ? ……薬草は、何も言わなかったのか?」


 俺とゴブリンは、薬草と会話することができた。

 葉を摘んだのであれば、薬草が拒否するかなんらかのリアクションを起こしたと思う。とはいっても、自分で動くことはできないからどうしようもないけれど……。


 でも、薬草が大声で叫んだらさすがの俺も起きると思うんだけどなぁ。

 それほどに疲れていただろうかと、首を傾げる。

 おかしいなあと思った俺への答えは、ゴブリンが知っていた。


『いえ。薬草は、〝いいよ〟と……返事をしてくれました』

「……まじか」

『はい』


 だったら、嫌がる声が俺に届かないはずだ。

 ゴブリンがあまりにも必死だったから、薬草は了承した?


 意志を持っているとはいえ、薬草。

 回復薬になり、誰かのためになるならよしと考えたのだろうか。俺が考えてもわからないが、薬草は自分のすべてを犠牲にするだろうか。

 少し、もやっとする。


『あ……っ!』


 唸るように理由を考えていると、地面を見ていたゴブリンが声をあげた。

 すぐに俺も下を見ると、わさわさと雑草含め体力草などがにょきにょき育ち始めた。もしかして、そう思い目を凝らしてよく見るが――薬草は生えてこない。


 やっぱり、全部摘んだら復活はしないのか。

 せめて根が残っていたら話は別だったかもしれないけれど、あいにく根っこもこの部屋に落ちている。ゴブリンがすべてを材料にしてポーションを作ったということだ。


「薬草……」


 もしかしたら、もしかしたら――ポーションで薬草が復活するんじゃないかなんて。そんな淡い期待を抱いていた。でも、現実は上手くいかない。


 そもそも、日本に帰れない時点で俺の現実は上手くいっていない。

 自分の運が悪しぎて、驚くほどだな。


「魔王の実は、どうかな……?」


 周りの草が成長し、魔王の銀色の実は――よりいっそう輝いた。まぶしくて、目を細める。

 何かが起こるということが、嫌でもわかる。


 あふれる光のなかで、木のみが割れ――なかから、小さな子供が姿を現した。

 艶やかな黄緑色の髪、ピンクの瞳。そして花をアクセサリーみたいに、身にまとっている。まるで女神が生まれ落ちたような、そんな光景だった。


「……」

『――……』


 俺もゴブリンも、地上で起こっていることに息を呑む。


 本当は、変な魔王が出てきたら生まれた瞬間に攻撃をして、倒しちゃおうかな……なんて思っていた。でも、その必要はまったくなさそう。

 ――というか、魅入られる。


「全然、魔王っぽくねぇ……」


 俺が倒した魔王は、もっと違う……性別で言えば男。わりとガタイのいい、そんな外見の魔王だった。


 それなのに!

 新しく誕生した魔王の可愛さはなんなのか。


 とういうか、幼い。


 人間でいうところ、6歳くらいだろうか。

 ぱっちりした目は大きく、庇護欲を掻き立てられる。


「どうすっかね……」


 薬草を栄養に育った魔王……か。

 なんともいえない、不思議な感じ。


 魔王は周りを見回して、自分の体を見て、飛んだり跳ねたりしている。くるっと一回転して、コケた。


『な、なにをしているんでしょう……?』

「おおかた、体に馴染もうとしてるんじゃないか?」


 いくら魔王といえど、生まれたばかり。そう簡単に体を動かすことはできないのだろう。

 とりあえず、地上に降りよう。

 そう思った矢先――こちらを見た魔王と、目があった。


「!」


 思わず警戒から、体がこわばる。

 でも、それは俺だけだったようだ。


 魔王は一瞬で花のほころんだような笑顔になり、「コーキ!」と、俺の名前を呼んだのだから。



 ………………ん?


「なんで、俺の名前を知ってるんだ?」

『??? 魔王様と、お知合いですか?』

「いや……」


 知り合いと言うか、仇と言うか。

 でも、魔王は俺を〝コーキ〟だとは知らない。


 というかあの声。


「薬草か?」

「そうだよ~!」

「どうなってんだよ……」


 魔王かとおもいきや、どうやら中身が薬草らしい。意味が分からない。

 俺はゴブリンを掴んで、そのまま窓から飛び降りた。

 ふわっと体が浮く感覚と、響くゴブリンの悲鳴。


『ぎゃああああぁぁぁぁお、お、落ちてるううああぁぁっcqsぇdv!?』

「喋ると舌噛むぞって、遅かったか」


 元勇者なので、魔王城のてっぺんから飛び降りるくらいどおってことはない。

 俺が綺麗に着地すると、にぱっと笑った薬草が飛びついて来た。


「やったぁ、見て見てコーキ、私人間になったよ!」

「人間……なのか?」


 お前、植物から生まれたよな? そういうニュアンスで聞くと、薬草がハッとして、「確かに!」と声をあげる。


「うぅん、じゃあ、魔王もどき?」

「てか、やっぱり魔王なのか?」

「というか、体をのっと……借りたっていうか」

「…………」


 え、今この薬草……乗っ取ったって言った? 言ったよね?

 実は薬草のくせにとてつもなく強いんじゃないだろうか。さすがに俺より強くはないと思うけど、エリクサーの材料になる薬草だったわけだし、秘めている力は巨大かもしれない。


『ま、魔王様……?』

「「……ハッ!」」


 飛び降りた衝撃から立ち直ったゴブリンが、キラキラした目で薬草を見つめる。完全に、魔王が復活したと思っているらしい。

 どうするのだろうかと様子を見ていると、薬草は大きく頷き肯定した。


 ……えっ?

 自分が魔王だって名乗るのかよ!!


「よく私を復活させてくれましたね、ゴブリン! あなたには私の話し相手という役職を授けましょう!」『あ、ありがたき幸せ……っ!!』

「…………」


 それって前と何にも変わってないんじゃないだろうか。

 ゴブリンが頷いたのを見て、薬草は満足そうに笑う。


 そして俺に向かって、今度は「ご飯」と告げる。


「私もハヤシライスを食べたい~!」

「はいはい……」


 ライスはないけどな。

 どうやら、しばらくは薬草に振り回される生活になりそうだなと思うのだった……。

これにて完結です!

ありがとうございました~!


いつか続きを書くのも楽しそうだなと思いつつ、ひとまず。


感想やブックマーク、評価などなどとても励みになりました。

薬草の名前を「ラスト・エリー・クサー」って感想に書いてくれた人がいて、すごくいい名前だと思いつつ名前を付けないまま終わってしまいました。

なおゴブリンは雄です。

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