選抜
※こちらは、一般人による完全オリジナルシリーズです。
文脈がおかしい部分もあるかと思います。ご了承いただける方のみ、この世界をお楽しみください。
それでは、行こう、観測者。
蒼穹の空を、ともに見届けて欲しい。
春、蒼穹軍にて、最初の部隊内編成の日だった。
まず、総指揮官が率いる、各部隊の切り込み隊を選抜する。
Ω(オメガ)・ノワールでは特に、異質な能力を持った兵士の集う部隊。よって、選抜もより1層力を入れて行われている。
蒼穹軍基地、訓練エリア・シミュレーションルーム。
基本の選抜方法は、それぞれの部隊員のステータス、そして核能力のコントロール能力などの戦闘データを、シミュレーションにて計測し、能力値によってA〜Fまでのランク分けをする。
その中で、最も優れた能力値を持つ者、5〜8名程が編成される事になる。
霧桜「まずは、僕が受けよう。」
その言葉に、周囲の教官達が声をあげて驚いた。
教官「えっ!?そ、総指揮官が!?」
かつて聞いた事のない言葉に目を見開く教官に霧桜は続けた。
霧桜「ああ。部隊を編成するなら、僕も1度、皆の前で受けた方がいいと思うんだ。どうだろうか。」
教官「ま、まぁ…総指揮官がそう仰るなら…。」
霧桜「ありがとう。」
そう言うや否や、迷わずシミュレーションルームに入った。
一瞬、時間が止まったように空気が固まる。
その場にいる全員が少しざわついて、やがて口を閉じた。
霧桜「この編成テストは、3人の部隊で行う。教官、君たちの中で、戦闘部門、支援部門の者2人、僕についてくれないだろうか。」
教官「は。では、私アルマと、スィフが部隊に加入します。」
臨時で教官の戦闘兵と支援兵が部隊に入った。シミュレーションが始まる。
教官「シミュレーション開始まで、3…2…1…」
-シミュレーション 開始-
前方に現れるのは、ホロエネミー、前衛に小型が2機、後衛に中型が3機。
霧桜「ZERO・セーフティ、シミュレート…オン。 」
前にかざした手に、大剣が顕現した。
カチャリとそれを掴む。
ガシャン!
地に突き刺し、前を鋭く見据えた。
霧桜「バフエリア、展開。」
突き刺した大剣、ZEROから霧桜の足元へ。
蒼い光が流れ、霧桜の瞳に蒼いリング模様が浮かび上がる。
足元の光はフィールド上に広がり、2人は身体が軽くなる感覚に包まれた。
霧桜「行動──」
戦闘兵・アルマ/支援兵・スィフ「──開始!」
アルマが前線を切り裂くように駆け抜ける。
そのスピードは、霧桜のバフエリアによって強化され、人並みを超えた速さで距離を詰める。
アルマ「せいっ!!」
構えた剣を大きく振り、小型1機を一刀両断。
そして素早く身を捻り、もう1機を薙ぎ払う。
小型エネミーの形が崩れ、光となって消えた。
霧桜「下がれ、右から来るぞ!」
アルマ「了解!」
ガキィン!!
正面の敵の攻撃を弾き、下がると同時に、右から鋭く飛んでくる敵の攻撃を受け流した。
スィフ「支援砲撃、いつでも行けます!」
霧桜「了解。合図と共に砲撃を開始する。アルマ、砲撃終了後、一気に切り込むぞ。」
アルマ「はっ!いつでもどうぞ!!」
スィフ「砲撃まで、3…2…1…!」
霧桜「──ハイヤ!」
ドガガガッ!!
合図と同時に放たれる砲撃は、突進する中型に命中し、怯ませた。
すかさずアルマは刃を振るい、バランスを崩し身体が傾くエネミーへ切り込んだ。
スィフ「援護、行きます!」
たたっ!とアルマの後ろに走り、ばっ!と手を重ねた後、大きく腕を広げると、網状の赤いレーザーが指から伸びる。
スィフ「はぁっ!!!」
腕を振り、放たれたレーザーは大きく、そして勢いを増し、エネミーの体を引き裂いた。
スィフ「…っ!?」
驚いたような表情をしながらも、引き続き戦闘を続ける。
残り1体。
冷静に状況を確認する。
(…2人の核消費が激しいな。)
息を吸い、ふっ…と短く吐いた。
霧桜「…アンロック。シミュレート。」
ZEROを地から抜き、構えた。
刀身に巡る蒼い光は、輝く金色に変わっていく。
霧桜「下がれ。僕が切り込む。その後、追撃し、確実に撃破せよ。」
瞳に映るリングが金色に輝き、鋭く敵を射抜いた。
霧桜「アタックエリア…!」
ヴン…!!
ZEROから低く唸る起動音。
ドッ…!と地面を踏みしめる衝撃と共に、霧桜の身体は勢いよく前進する。
風を切るような速さでエネミーに接近し、ガチャン…!剣を振りかざす。そして、
霧桜「はぁっ!!」
ガァァァン!!!
勢いよく叩きつけた。
鈍い金属音。エネミーの体勢が崩れる。
アルマ/スィフ「追撃!入ります!!」
その声が耳に届いた瞬間、瞬時に距離を取った。
そして、レーザーが霧桜の攻撃した部位を切り裂き、刃が貫いた。
最後のエネミーが消えていく。
-シミュレーション、完了。-
教官「お疲れ様でした。タイムは1:08、戦闘データの計測結果、ランクは…A。現行基準において最高評価。お見事です、総指揮官。」
教官の言葉に周囲がざわめいた。
ZEROを納め、皆に向き直って口を開く。
霧桜「…シミュレーションの流れは、このようなものだ。皆の健闘を期待している。」
そして、編成テストが開始した。
順調に進んでいくシミュレーション。
それぞれの実際の戦闘を見て、データを確認する。
教官「B、C、C、D、C…ふむ…なるほど。皆、素晴らしい結果を残していますね。」
霧桜「ああ。ここにいる者達は、予想以上の精鋭のようだ。」
データを眺める。
(…皆、D以上の戦闘データを保持している。本当にすぐに越えられてしまいそうだ…。僕も精進しなければ。)
そんなことを考えていた、次のシミュレーションの事だった。
教官「次、入れ。」
そこに入ってきた人物に、周囲や教官達がざわつき始める。
兵士「あれって…、」
兵士「あぁ、間違いねぇよ…。」
…戦翼だ。
フードを深く被った彼はただ何も言わず、静かに佇んで開始を待つ。
霧桜(戦翼…彼が…。)
その異名は、霧桜も耳にしていた。
並外れた身体能力で閃光のように駆け抜ける、言葉の通り、逸脱した兵士。
戦場でその姿を見た誰かが言った言葉。
︎───人が空を飛んでいた。
彼の戦闘を実際に見るのは、霧桜も初めてである。
思わず、息を飲んだ。
教官「…シミュレーション、開始まで、3…2…1…」
-シミュレーション、開始。-
開始の放送と共に、戦翼は姿勢を低くする。刹那、
ドン…ッ!
と低い衝撃音と共に、フィールドを一気に駆け抜けた。
教官「は…速…っ!?」
その動きは、ギリギリ目で追えるスピード。
皆が目を見張って、戦翼の戦闘に釘付けになった。
注目するのはその速さだけではない。
洗練された格闘術。短剣から織り成す、見事な剣技。
兵士「すげぇ…っ!」
兵士「あいつ…人間なのか…!?」
教官「これが…戦翼…。」
共にシミュレーションをしている指揮官と支援兵も必死に食らいつく。
指揮官「リートム、両側から来るぞ!1度下がれ!」
指示通りに前線から後退する。
支援兵「援護射撃、いつでも行けます!」
指揮官「よし、小型の掃討にあたれ!リートムは中型に集中攻撃を!」
戦翼「了解。」そう返答するなり、戦場を駆け抜けた。
────
教官「シミュレーション、終了。タイムは1:34。戦闘データ…こ、この結果は……!?」
教官が戦闘データを見てぎょっ!?と驚き、慌てて1度咳払いをする。
結果は、
指揮官、評価 B。
支援兵、評価 C。
戦闘兵リートム・リシッツァ、評価 A。
霧桜(…流石だ。あの戦闘を見た後だからこそ、納得という言葉しか出てこない。)
それぞれ教官達が見ては驚くその戦闘データを確認する。
(スピード、全体平均の2.6秒に対し、彼は…1.3秒。もはや半分だ。戦術、状況判断の評価も共にA…)
結果を見ていくと、はた…と止まる。
そして、考え込むように口元に手を当てて、リトに目を向けた。
何事もなかったかのように、ストレッチをしている。
その彼の周囲は、少し距離を取っているように見えた。
そしてその後も編成テストは順調に進み、無事に終了した。
解散後のシミュレーションルーム。
女教官「戦翼…話には聞いていましたが、あれ程の戦闘技術を持っているとは…。」
男教官「あぁ。あんな戦闘…初めて見た。彼は確実に編成されるだろうな。総指揮官はどうお考えで?」
霧桜「…彼は、素晴らしい兵士だ。戦闘面において、改善のひとつも必要ない程にな。」
やっぱりなぁ。教官達のそんな声が聞こえる。
素晴らしい、そう口にした霧桜の表情は、なにやら曇っていた。
昼下がり。
会議が終わり、指揮官室へ戻る通路の途中。
(1度、彼と話が出来れば…。)
そんな事を考えながら歩く。
シミュレーションルームの前を通りかかると、端末の使用状況に、1部屋だけ使用中と表記されていた。
(自主訓練…?誰だろう。)
気になって、使用中のシミュレーションルームに足を運んだ。
ぷしゅー…
扉が開く。金属の音や衝撃に震えるガラス。凄まじい戦闘音。
(部隊で訓練でもしているのだろうか…?)
ガラス越しにフィールドを覗いた。そこには、1人の兵士が佇んでいる。
霧桜「…リートム…リシッツァ…?」
そこには、戦翼と呼ばれている背中が一つだけ。
フィールドに表示されているエネミーの数は、およそでも10機を超えている。
霧桜(部隊対処レベルのエネミー数…。)
しかし、霧桜を驚かせたのはエネミーの数だけではなかった。
シミュレーションが始まる。
そのスピード、戦術、判断能力は、編成テストで見たものとは比べ物にならなかった。
言葉通り、閃光そのもの。
エネミーの数をもろともせず、鋭い刃が走り、唸る足技が繰り出され、見事な戦術によりエネミーが次々と撃破されていく。
-シミュレーション、完了。-
クリアタイム、0:48。
部隊、最低でも5名程の戦力で戦闘するシミュレーションを相手に、一人で、かつて見た事のないタイムが叩き出された。
霧桜「…これが……彼の本領…?」
フィールドが収束していく。戦闘が終了した彼は、軽くストレッチをして、休憩スペースであるこちらに歩いてきた。
────
扉が開き、ふぅ…と一息つきながら入る。
リト「…?」
視線を感じる…?思わず顔を上げた。
そこには、白銀の髪…蒼いラインの入ったコート………。
霧桜「…。」
総 指 揮 官 ! ?
リト「…………。」その場で固まった。
霧桜「…お疲れ様。」
わなわなと震えながら口を開く。
リト「…な…なんでここに!?」
霧桜「シミュレーションルームが1つ使用中となっていたのでな、少し気になって足を運んだのだが…すまない、邪魔をするつもりはなかったんだ。」
リト「い、いや…別に邪魔とかそんなんじゃねぇけど…」
ぽりぽりと頬をかいて気まずさを紛らわす戦翼。
霧桜「戦闘を拝見した。素晴らしい身のこなし、見事だった。」
リト「お…おう…。 」
沈黙が流れる。
やがて、霧桜は1度俯き。…そして、彼を見て口を開いた。
霧桜「だが…それは君の本領なのだろうか。」
リト「っ…!? 」
霧桜の言葉に、動揺を見せた。
そんな姿に、霧桜は言葉を続ける。
霧桜「編成テストでの君の結果は、戦術、ステータスにおいて、全て高い評価が記録されている。」
霧桜「しかし…1つだけ、測定不能の項目があった。」
まっすぐと戦翼を見つめて告げる。
霧桜「核コントロール評価。それだけが、君の結果には記されていなかったんだ。」
核コントロール。つまり、核能力の制御効率。
この能力が高いほど、己の力を理解し、洗練されていると評価される。
霧桜「少しでも核能力を発動する兆候が見られれば必ず評価が記される。だが、その項目が評価されない理由があるとするなら…」
核能力を、一度も使用していなかったことになる。
リト「…。 」言葉を詰まらせた。俯いて、顔を逸らす。
霧桜は、握りしめる戦翼の拳を見て、再び口を開いた。
霧桜「…だが、何故だろうか。僕にはそれが、手を抜いているようには見えなかった。」
はっと顔を上げた。困惑。顔は見えなくとも、そんな表情が伺える。
霧桜「何か訳があって、そうせざるを得なかった。僕にはそう見えたが、違うだろうか。」
その瞳には、確かに目の前の彼を映していた。
リト「な…なんでそんなこと…っ、言えんだよ、1度見ただけで…っ」
分かっているような、見透かされているような感覚に、ぎりっ…と歯を食いしばる。
霧桜「あぁ、そうだ。君とは出会ったばかりで、君のことはまだ何も分からない。それでも僕は、君を見てこう思ったんだ。」
霧桜「君は…本来の力を隠していて、今はそれを、表に出すことが出来ないのだと。」
辺りは、沈黙に包まれた。
シミュレーションルームの機械音と換気の音だけが響く休憩スペース。
戦翼は、立ち尽くして俯いていた。
霧桜「…すまない、責めているつもりはないんだ。ただ──」
リト「悪りぃ、ちょっと…1人にしてくれ。」
それだけ言って、シミュレーションルームを出ていった。
霧桜「……。 」
静かに、その扉を見つめる。
(…追い詰めてしまっただろうか。)
少し考え込むように俯いて、そして、シミュレーションルームを後にした。
軍 基地、通路。
?「…おや、随分浮かない顔をしてるね?新部隊、Ω(オメガ)・ノワール総指揮官殿。」
そんなおどけたような声が聞こえた。
振り返ると、胸元まで長いパーチメントの髪。
中世を漂わせるシャツを着た細身の青年が、手をヒラヒラさせて霧桜に挨拶をする。
霧桜「…ウィードか。」
ウィード「ご名答、蒼穹きっての記録者、ウィード・クロニカだよっ。」ふふん、とおどけた調子で名乗る。
ウィード・クロニカ。上層部所属の記録者であり、蒼穹の全ての情報を管理する部門の監督を務めている。
霧桜「珍しいな、君が自ら業務へ出向くとは。」
ウィード「そうだよねぇ。普段は通信1本で情報はすぐに伝わるし。ただ…」
ウィードは、手に持っていた金色の懐中時計を弄りながら続ける。
ウィード「上層連絡部に、少し複雑な内容が入ってね…。ちょうど今、上層に直接報告してきたところさ。」
上層連絡部。上層部への報告や情報整理などを行う。ウィードはその統括を担っている。
霧桜「…なるほど。」
ウィード「うん。僕の予想だと、近々…君たちにも話が回ると思うよ。…それで、今日は部隊内編成の選抜だったんだろ?僕も戦闘データを見た。なにか気がかりな事でもあるんじゃないかい?例えば…"戦翼"、とか。」
驚いたように目を見開いた。
霧桜「…なぜ分かる。」
ウィード「うーん…記録者だから、さ。」
一拍
ウィード「…なんて言ったら納得してくれる?」
霧桜「……。」
たはは…と決まりが悪そうに笑い、こほん…と咳払いをして続ける。
ウィード「核コントロール…測定不能。これまでには無い、異例のデータ。過去の彼の戦闘データを確認したけど、去年の選抜までは少なくとも、評価は出ていたみたいだね。君はこれについてどう思う?総指揮官。」
霧桜「…恐らく、彼の意志のある行動だ。だが、それなりの理由があると、僕は考える。」
ウィード「…ふーん、ただ手を抜いただけじゃない、と。実際、彼の普段の戦闘を目にした君だからこそ、出せる答えだね。」
目を伏せて、そして再び口を開く。
ウィード「ただ、君は少し疑う事を学んだ方がいい。」
空気が張った。
霧桜「…どういう事だ。」
ウィード「…蒼穹最強と呼ばれる程の実力であるにも関わらず、Ω(オメガ)・ノワールに配属されたんだよ、彼は。」
ウィード「おかしいと思わないかい?何故…戦場の最前線を走るA・ロアではなく、特異部隊のΩ(オメガ)・ノワールへ来たのか。」
とん、と壁に背をもたれて続ける。
ウィード「だから調べてみたんだ。そして、彼は過去に…味方に刃を向けている。それも2度、ね。」
霧桜「…っ!?」
沈黙が流れる。
霧桜「…それは、記録上の事実か。」
ウィード「うん、改竄はない。両方とも任務中に起こった事実だ。」
白から黒へ落ちる瞳で霧桜を見つめる。
ウィード「…君は、"彼に理由がある"と言ったね。」
身体を起こして霧桜へ向き直る。
ウィード「なら、その理由が"正義"か、はたまた"衝動"だとしたら、君はどちらでも彼を部隊へ迎えるかい?」
霧桜の瞳が揺らいだ。その様子にウィードは目を細める。
ウィード「…霧桜、強すぎる力というものはね、」
⎯⎯ 制御を失ってしまえば、"光"にも、"災厄"にもなってしまうものなんだよ。
懐中時計を閉じる。
ウィード「どちらを信じるか。君の選択は、部隊の在り方だ。」
…全くもってその通りだ。ぐうの音も出ないほどの正論。
(光か…災厄か…。)
彼の去り際の表情を思い出す。
(…選択には必ず、リスクがある。)
それなのに…それだけではまるで…────
ぐっ…と拳を握る
霧桜「…制御が出来ない、というのなら──」
揺るぎない瞳が真っ直ぐとウィードを射抜く。
霧桜「──僕が支える。」
ウィード「…っ!」
霧桜「疑う前に、彼と並ぶ。そして、僕自身で彼を知っていく。」
ウィード「ちょ、き…君っ、自分が何を言ってるのか分かってるのか…!?それがどれだけのリスクがあると…っ──」
霧桜「これまでのように、リスクを回避するだけでは…Ω(オメガ)・ノワールの理念に反するからだ。」
ウィードは口を噤んだ。
霧桜「光であろうと、災厄であろうと、僕の部隊へ足を踏み入れたのなら…──」
1歩近づいた。
霧桜「僕は決して、彼を1人で戦わせたりはしない。」一瞬、瞳に青いリングが宿ったような気がした。
目を見開いて霧桜を見つめていたウィードは、俯いて、肩を震わせる。
ウィード「…ふふ、あははっ!全く、流石…特異部隊の総指揮官、と言ったところかな!」
満足そうにしながら、よしっと霧桜へ向き直る。
ウィード「君がそう言うなら、僕はその言葉を信じてみよう。」
くる、と背を向けて歩き出した。
ウィード「もう迷っていないね。今、凄くいい顔してるよ。ちゃんと前を向いてる。」
その言葉に、霧桜はふっと微笑む。
霧桜「…感謝する、ウィード。」
ウィード「僕は何もしていないよ。」
…蒼穹は今日も、進んでいるね。
霧桜「ん…何か言ったか?」
ウィード「…いや、ただの独り言さ。それじゃ、僕はこれで。」
そして、コツコツと歩き去っていった。
その背中を見届けて、彼もまた歩き出す。
「──勝手なこと言ってんなよ。」
その声に、足が止まった。
通路の影から、装飾の鎖がチャリ…と音を立ててこちらへ歩いてくる、戦翼の姿。
フードから覗く瞳が、心做しか苦しそうにこちらを射抜く。
「そんな事…頼んだつもりねぇよ。誰かの支えが無くても俺は戦える。だからもう、放っててくれよ…っ。」
「あんたは総指揮官なんだろ…!こんな兵士1人にかまってる暇なんかねぇだろ…っ、俺は1人でやれんだよ…!」
ぎり…っと拳を握る。
その姿に霧桜は目を伏せて、そして再び彼を見据える。
霧桜「…そうだな。君の実力なら、僕の支えがなくても十分だろう。」
1歩近づく。
「だがな、僕がそれを許したくないんだ。自分で言っておいて、言葉の幼稚さに呆れてしまう程に。」
更に1歩近づく。
「君は強い、誰よりも。きっとこの先も、君の手によって救われるものは無数にあるのだろうな。」
彼の前で止まって、問う。
「なら、君が窮地に陥った時、誰が君へ救いの手を伸ばすんだ?」
戦翼「…っ!」言葉が詰まる。
苦しそうに歯を食いしばって、背を向けた。
その背中から目を逸らさずに口を開く。
霧桜「逃げてもいい。だが…」
ふ、と微笑んだ。
霧桜「…僕は、君を追い続ける。」
びくっと肩を震わせてばっ!と振り向いた。
「…はっ…はぁあ…!?お、お前…今言って…っ!」
ばつが悪そうに手の行き場を迷わせ、乱暴にポケットへ押し込む。
「勝手にしてろっ…!」そう言うなり、足早に去っていった。
霧桜「…あぁ、勝手にするさ。」
その背中を見届けた後、霧桜もまた、迷いのない1歩を踏み出す。
その後、部隊が選抜、編成され、霧桜を含めたΩ(オメガ)・ノワールの代表、切り込み部隊が発足した。
指揮官、指揮部門-Command-霧桜。
確定編成兵。
支援部門-Aid-ノディオン・エル。
戦闘部門-Gladius-リートム・リシッツァ。
他部隊員は、必要に応じて編成する。
霧桜「よろしく頼む、リートム。」
手を差し出す。戦翼は首に手を当てながら呟いた。
「…リトでいいよ。」
霧桜は思わず目を丸くする。
リト「っ…なんだよその目…!同僚にそう呼ばれてたってだけだからな!」
取り繕うように言って、狼狽える。
あー!とフード越しに頭をがしがしして、差し出された霧桜の手を掴んだ。
リト「…こちらこそ…、よろしく頼む…指揮官…っ。」
ぶっきらぼうな声。顔を逸らしながら呟く。
霧桜「…あぁ、頼りにしている、リト。」
そう言って、掴まれた手の力を強くした。
──────────
リト「…やっぱ他と違ぇわ、指揮官。」
そう言うなり、目の前の食事を1口頬張り、もぐもぐと咀嚼する。
霧桜「褒め言葉として受け取っておこう。」
ふっと微笑んで、自分も手を合わせて食事を始めた。
午後の蒼穹は、いつもより少し穏やかだった。




