一幕 諸所の正義 その壱
『続いてのニュースです。広島県福山市神島町で死体が発見されました。
早朝、犬の散歩をしていた近所の住人が、人と破片と思わしきものと血だまりを発見し、警察へ通報。
状態から警察は他殺と判断して調査を開始しました。
犯人は未だ捕まっておらず、調査は続けられています。』
こうしてアナウンサーはテレビの中で今日も淡々と変わらずに、感情のない機械のように人の死を全世界へと知らせていく。
朝、学生や社会人など忙しく朝のニュースを見る暇のない人たちや、ただ習慣としてテレビを見ている人たちには、たいして印象に残らないニュース。
その時に怖いや不安、可愛そうなどの感情を抱くだろうが、一日を過ごす中で薄れていくだろう。
だが、そうでない者もいた。
このニュースを見ることによって、深く深く心に様々な感情を宿す者たちがいる。焦りや不安、興奮や熱狂などの人それぞれに多種多様な感情を。
その者達は総じて、《プレイヤー》である。
――――
朝、教室は騒音を奏でていた。
いつもガヤガヤと話声は聞こえるが、今日ほど騒然としたことはそうなかった。
耳をふさぎたくなるような、まるでナイトクラブかのようである。
「おい、遊蓮。見たか?」
今、教室に入ってきた地味目な青年、小鳥遊 遊蓮に話しかけるのは、髪をキャラメル色に染めた青年だった。
はたから見れば正反対で相容れなそうな彼らなのだが、正反対故なのか逆に一緒につるむことが多い。
「...あぁ、今朝の死体の事?」
主語のない質問だったのだが少し考えたら答えが出るほど、彼等には印象的な事件だったようだ。
答えが出てうれしかったのか、しっぽを振る子犬のように話を続ける。
「あぁ、やべぇよな!まさか学校に来る坂の下であんなのがあるなんてよ!!」
あんなの。死体について使う言葉にしてはひどいようにも思われたのだが、仕方のない事なのだろう。
何故なら、今までにない事件。しかも、舞台がここ福山と来た。興奮が彼を熱くしている。
今までにない事件というのも、死体を隠しているであろうブルーシートには膨らみがなく、点々と浮いているのだ。
それに、野次馬が付近で見つけた人の破片と思わしき指や耳といったモノの画像が、某SNSに投稿されていたのだ。ほどなくして投稿は削除されたのだが、その写真は裏サイトなどに出回りつつあった。
あまりにも不自然かつ狂気的な殺人だ。まるで人の手による犯行だとは決して思えない。
この教室といわず、それを見聞きした者を中心として、この福山の街に狂気的な殺人鬼が現れたと恐怖や不安、興奮と共に噂が広まっていった。
「うん、僕も少し見たけど、怖いね」
「あぁ、流石の俺もこの件には首は突っ込まねぇかな」
「珍しいね、清十郎が首を突っ込まないだなんて」
「今回のは俺がでしゃばっていい件じゃねぇと思ってんだよ」
キャラメル色の髪の青年、染川 清十郎は普段、街で起こる色々な事件に首を突っ込んでいる。近隣住人の浮気騒動や不良少年たちのイケナイ遊び、しいては警察の捜査やヤクザの抗争まで。
遊蓮も一度、「危ないからやめた方がいい」と忠告したのだが、清十郎は「面白いからいいんだよ。命を懸ける価値がある」と言ってその忠告をはねのけていた。
まぁ、だからなのだろう。彼は街の中じゃあ結構有名人なのである。騒ぎの中に染川あり!!と言われるほどに。
だが、そんな清十郎が、「でしゃばっていい件じゃない」と言う程なのだから、何か彼はよくないモノでも感じたのだろう。
「そっか、僕としては友人が危ないことに突っ込まなくて安心するよ」
「そこは親友って言ってほしかったな。それに、どちらにせよ俺は他のことに首を突っ込むさ」
清十郎はケロリとおどける様に言い放つ。それに遊蓮はため息をつきつつ、心から思っている短い言葉を吐く。
「死なないでね」
「あぁ、命を懸けても死ぬ気はない」
二人はいつも通りの会話にクスリと微笑む。
ここで遊蓮が、「危険なことをしないでね」や「ケガしないでね」と言わないところが、よく理解している親友の証明なのだろう。
「お前ら席に着けー。ホームルームを始めるぞー」
担任が教室に入ってきて、生徒たちは各々の席に座るのだが、先ほどの熱が冷める雰囲気は一切なかった。
誰しもが、あの事件のことについて考えを巡らせていた。
遊蓮だってその一人だ。しかし考える内容は他の人とは少しずれているのだが。
―あの死体の感じを見ると、やっぱり権能によるものとしか思えないな。
―皆はもう、動き始めたんだね。
―さぁ、僕はどうしようか?
遊蓮はただそんなことを考えながら、ぼんやりと教卓を見ていた。
これは大きな力を急に与えられた者達と街の人々が織りなす群像劇
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